1 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:07:01.37 BUNMB83OO 1/775

・貴音の一人称語り。独自設定、内容いじりあり。
・長編になりそうな予感。
・地の文・キャラ崩壊注意。

2 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:08:41.09 BUNMB83OO 2/775

冬が終わり、もうすぐ春がやって来ようかという頃。

わたくしは月を眺めるため、とある建物の屋上にいました。

3 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:09:33.82 BUNMB83OO 3/775

やはり、月を見ると落ち着きますね。

つらいことや、悲しいことがあった後でも、月を見ているとなぜか心が安らぎます……

……そう、たとえ『つらいこと』があったとしても。

4 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:10:42.54 BUNMB83OO 4/775

貴音「……わたくしはこれから、どうすれば良いのでしょうか」

ふと、わたくしの口から漏れた言葉。

それは、わたくしの今の状況を示すにはぴったりの言葉でした。

言葉とともに、涙も溢れそうになります。


その時。

5 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:19:42.33 BUNMB83OO 5/775






『君、やり直したくはないかい?』





6 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:21:28.80 BUNMB83OO 6/775

わたくし以外に誰もいないはずのこの場所に、声が……?

もしや、も、物の怪の類でしょうか……

貴音「ひっ……な、何奴!」

『そんなに怪しいものじゃないよ。安心して』

声は聞こえますが、姿は見えません。もしや、本当に物の怪なのでは……

7 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:24:11.19 BUNMB83OO 7/775

貴音「姿を現しなさい!」

『姿、かぁ……無い物は見せられないんだよなぁ、これが』





『だって僕、神様だし』





8 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:25:35.75 BUNMB83OO 8/775

貴音「……は?」

……幻聴、でしょうか。

自分で自分を神だと名乗る声が聞こえるなど、普通のことではありません。

『幻聴じゃないよ、ちゃんと僕が喋ってるんだから』

貴音「・・」

9 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:29:48.39 BUNMB83OO 9/775

心が読めるのでしょうか?まこと、面妖な……

『そりゃ僕、神様だし。心ぐらい読めるさ』

『なんなら、四条 貴音ちゃん……君がなぜここにいるのか当ててみせようか?神様はなんでも知っているんだよ?』

貴音「……」

10 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:31:47.59 BUNMB83OO 10/775

『貴音ちゃん、君は星井 美希ちゃん、そして我那覇 響ちゃんと一緒に、アイドルユニット【プロジェクト・フェアリー】として活動していた』

『その人気は凄まじく、瞬く間に君達はトップアイドルになった』

『でも、IU(アイドルアルティメイト)で765プロのアイドル、萩原 雪歩ちゃんに負けて所属していた961プロをクビになった……そうだね?』

「……その通りです」

ですが、そのようなことは多くの人が知っている事実。『自身が神様である』という証明にはなりません。

11 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:35:02.93 BUNMB83OO 11/775

『あっ、信じてないな!?』

「当然です。このような面妖なこと、信じられる訳が……」

『ふむ。じゃあ、これならどうかな?』

『765プロのプロデューサー……確か赤羽根くんって言ったっけ?』

『……僕は、君が彼のことを慕っていることも知ってるよ』

貴音「っ……///」

12 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:37:42.88 BUNMB83OO 12/775

……そう。わたくし、四条 貴音は、アイドルとして活動していました。

わたくしは『必ずアイドルになる』と心に決め、故郷……『古都』を出てこの東京までやってきました。

しかし東京に出て来たはいいものの、頼れる知人もおらず、途方に暮れていたのです。

幸いにも黒井殿にすかうとされ、アイドルになることはできたのですが、『本当にアイドルをやれるのか』という不安でいっぱいでした。

13 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:40:45.98 BUNMB83OO 13/775

あの時もわたくしは、一人で月を眺めていました……

その時わたくしに優しい言葉をかけて下さったのが、765プロのプロデューサーである、赤羽根殿だったのです。

14 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:43:05.60 BUNMB83OO 14/775

あの時は、赤羽根殿にみっともない姿を見せてしまいました……

ですがあの方は、そんなわたくしに優しい言葉をかけて下さり、さらに弱いわたくしを受け入れて下さいました。

そのような恥ずかしいところを見られたからこそ、わたくしは赤羽根殿を頼ることができたのです。



そしていつしか、あの方への信頼は、あの方をお慕いする気持ちへと変わっていき……

15 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:46:05.87 BUNMB83OO 15/775

『《慕う》って言葉、二つ意味があるよね。【尊敬する】って意味と【恋慕する】って意味』

『この場合、どっちの意味を取るべきなのかな?」

貴音「それは……言えません///」

『まあ、神様だからなんでもお見通しだけどね。貴音ちゃんは……』

貴音「言わないでくださいませ!///」

16 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:49:07.74 BUNMB83OO 16/775

……話を元に戻しましょう。

信頼できる仲間や、黒井殿が雇ったとれーなー殿によるれっすん。

そのおかげでわたくしと響、そして765プロから引き抜かれた美希と共に結成したゆにっと『プロジェクト・フェアリー』は、破竹の勢いでおーでぃしょんを勝ち進み、瞬く間にトップアイドルになることができました。


しかし……


IU本戦・決勝戦で、わたくし達は765プロのアイドルであり、わたくしの友である、萩原 雪歩殿に負けたのです。

17 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:52:11.87 BUNMB83OO 17/775

その勝負自体に悔いはありませんでした。

しかし黒井殿は、『弱者には用はない』と言ってわたくし達を解雇しました。

わたくし、そして響は、居場所を失ってしまったのです。


元々765プロ出身であった美希はそのまま765プロへ復帰しました。

ですが『古都』から出てきたわたくしは勿論、沖縄県出身の響には寄る辺もなく、アイドルとして復帰しようにもこれからどうすれば良いのかすらわかりませんでした。

18 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:55:05.30 BUNMB83OO 18/775

『響と一緒に、765プロに来ないか?』



赤羽根殿は、そんなわたくし達を765プロへ迎え入れようとして下さいました。

大変嬉しい誘いではあったのですが……これ以上赤羽根殿にご迷惑をおかけすることはできないと思い直し、わたくしはその誘いを断ったのです。

19 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 16:58:05.94 BUNMB83OO 19/775

ーーあれから数日。

わたくしは未だ、これからどうすれば良いのかを見つけておりません。

響と連絡は取れず、途方に暮れてこうして月を眺めている時に、今の面妖な状況に出くわした、という訳でございます。

20 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 17:01:05.61 BUNMB83OO 20/775

『回想、終わったみたいだね』

貴音「なんと……そこまでお見通しなのですか」

『そりゃね。僕、神様だし』

貴音「これは、信用せざるを得ませんね……」

『まあ、よく考えたらいきなり神様ですー、とか言って信用してもらえるわけないしね。分かってもらえて良かったよ』

21 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 17:04:12.03 BUNMB83OO 21/775

貴音「しかし……神様ともあろうお方が、このような所で何を?」

『最初に言ったでしょ?《やり直したくはないか》ってさ』

貴音「!!」

22 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 17:09:06.35 BUNMB83OO 22/775

『僕、君の大ファンでさ。君がアイドルやってるところを、ずっと見てきたんだ』

『本当はサインもらったりしたいんだけど、こういう思念体みたいな感じだからできなくてね』

『で、君のために何かしてあげられることはないか……って考えてたら、こんな所で貴音ちゃんが困ってるじゃないか』

『で、助けてあげたい、って思って話しかけた訳』

貴音「わたくしのふぁんだったのですね……ありがとうございます」

……しかし、《やり直す》とは、どういう意味なのでしょうか?

23 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 17:15:12.67 BUNMB83OO 23/775

『僕は、君が輝いているところをもっと見ていたい。ついでに言うと、君には幸せになってもらいたいんだ』

貴音「幸せに……?どのような意味なのでしょうか……」

『簡単なことじゃないか、貴音ちゃんが765プロのプロデューサー……赤羽根くんとくっ付いちゃえばいいんだよ』

『まあ要するに、君が胸の中に秘めているその思いを、成就させちゃえばいいって訳』

貴音「なっ!!!///」

24 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 17:20:13.75 BUNMB83OO 24/775

『あ、その顔かわいい』

顔が熱くなっていくのが分かります。今、わたくしの顔は真っ赤になっているに違いありません、恥ずかしい……

貴音「で、ですがわたくしは……」

『赤羽根くんの誘いを断った。もうあの人に頼ることはできない。……そう言いたいんだね?』

貴音「……はい」

神様は本当に何もかもお見通しなのですね……

25 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 17:25:14.37 BUNMB83OO 25/775

『それなら、無かったことにすればいいって思わない?』

貴音「そんなこと言われましても……一度言ったことは取り消せません」

『そりゃそうだ。たとえその記憶がすべての人間から消えたとしても、《事実》は変わらないからね』



『なら、その《事実》を起こさなければいい』

26 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 17:30:07.77 BUNMB83OO 26/775

貴音「もう起こってしまったからには、もう……」

『……僕は神様だよ?大抵のことはできる。流石に死者を蘇らせる、なんてことはできないけどね』

27 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 17:31:43.83 BUNMB83OO 27/775








『ーー貴音ちゃん、『タイムリープ』って知ってる?』




28 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/19 17:35:20.12 BUNMB83OO 28/775

本日の投稿は以上です。
「もし、貴音の『とっぷ・しーくれっと』がタイムリープしたことだったら?」というイメージです。


週一くらいのペースで投稿できれば、と思ってます。
それでは、また。

32 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 17:38:13.97 /OP+EhE/O 29/775

貴音「『たいむりーぷ』……?何なのでしょうか、それは」

『時間遡行、とでも言えばいいかな。君の現在の《意識》をそのまま過去の時間に……過去の貴音ちゃんの体に送る、ってことさ』

『赤羽根くんの誘いを断る前に戻せば、その事実を《無かったこと》にできる』

貴音「!?」

33 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 17:43:00.71 /OP+EhE/O 30/775

『簡単に言うと、過去に戻ってもう一度961プロに入り直すところからやり直せる、ってことだよ』

『……いや、961プロに入るよりも、君は765プロに入る方が合ってると思うなぁ』

『もしやるとすれば、貴音ちゃんが上京してきた頃まで戻すほうが無難かな?』

34 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 17:46:27.64 /OP+EhE/O 31/775

過去を変える……そのようなことが可能なのでしょうか?

そもそも、過去や未来を変えてしまっても大丈夫なのでしょうか……


『過去を変える、とか聞いて戸惑うかもしれないけど、大丈夫だよ』

『この世界の、今の時間軸はパラレルワールド……平行世界になって、修正された未来が本当の世界になるはずだから』

まこと、難しい話ですね……

しかしおぼろげながら、『もう一度』やり直すことができる可能性がある、ということは分かりました。

36 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 17:49:14.44 /OP+EhE/O 32/775

『で、どうするの?タイムリープするかい?』

貴音「それは……」

確かに、魅力的な話ではあります。

なにせ、自分の過去、過ちを変えられる、というのは素晴らしきことです。

37 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 17:52:10.41 /OP+EhE/O 33/775

ですが、本当にそれで良いのでしょうか?

未来とは自分で切り開くもの。

一度間違った道を歩んだとしても、その過去を踏まえつつ、そこからやり直すことが人生の定め……

その定めを、無理やり変えてしまっても構わないのでしょうか?

38 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 17:55:07.08 /OP+EhE/O 34/775

貴音「……申し訳ございません、少し時間を下さいませ……」

『……まあ、すぐに決めろっていうのも酷だしね。仕方ないよ』

『そうだなぁ……明日のこの時間、この場所にまた来てくれるかい?』

『その時に、どうするのか聞かせてほしい』

『君がどんな決断をしたとしても、それが君の人生だ。僕はその決断についてとやかく言うつもりはないから、しっかり考えてほしいな』

貴音「……分かりました。お気遣いありがとうございます」

39 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 17:58:34.99 /OP+EhE/O 35/775

『焦らなくてもいいからね。ゆっくり考えておいで』

貴音「はい。……では、失礼します」

そう言ってわたくしは、その場所を立ち去りました。

43 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 18:34:06.37 /OP+EhE/O 36/775

……気が付くと、もう朝になっていました。

かなりの時間が経っているようです。もう夕方すぎくらいでしょうか。


あの後何があったのかは、よく覚えておりません。

ただ分かるのは、自分が自分の部屋に帰って床に就いたこと……

その間の記憶は、全くと言っていいほどありません。


とりあえずしゃわーを浴び、食事を取ることに致しましょう。

44 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 18:37:07.21 /OP+EhE/O 37/775

わたくしは、どうするべきなのでしょうか。


『時を超える』。

そのような面妖なことを、わたくしは行うかもしれないのです。

過去を変えること、それが正しいという確証もありません……

45 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 18:40:06.46 /OP+EhE/O 38/775

こういう悩んだ時には、気分転換が必要ですね。

てれびでも見ることに致しましょう。





『今回のゲストは、今最も有名なアイドル!萩原 雪歩さんです!』

『よ、よろしくお願いしますぅ!』

46 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 18:43:06.20 /OP+EhE/O 39/775

貴音「っ……」

ちくり、と胸が痛くなりました。

目の前が真っ暗になったような、そんな感じ。

わたくしは、少しの間呆然としていました。

47 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 18:46:06.92 /OP+EhE/O 40/775

『さて、それでは聞いて頂きましょう。萩原 雪歩さんの新曲、『First stage』です!』


てれびの中の雪歩殿は、とても輝いて見えました。

かつての臆病だった彼女とは違う、『信念』を持ったその表情。

彼女の努力が垣間見える、そのぱふぉーまんす。

……今のわたくしには、眩しすぎます。

わたくしはそっと、てれびの電源を切りました。

48 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 18:49:07.27 /OP+EhE/O 41/775

かつてわたくしも、あの場所にいたのですね。

すてーじで輝く雪歩殿を見て感じるのは、あの場所で輝き続ける彼女への『羨望』。


……そして、もう一度あの舞台に立ちたいという、わたくしの『意志』。

49 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 18:52:06.20 /OP+EhE/O 42/775






『もう一度……あの場所に立ちたい』





50 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 18:54:59.31 /OP+EhE/O 43/775



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





『やあ、来たね。君の決断を聞かせてくれるかな?』

数時間後、わたくしは昨日と同じ場所に立っていました。

51 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 18:58:05.69 /OP+EhE/O 44/775

貴音「……時を巻き戻すことは……過去を変えることは、許されざる行為かもしれません」

貴音「それでもわたくしは……あの方とともに、頂点に立ちたい。まだ、あの場所にいたい」

貴音「わたくしはまだ、輝いていたいのです……!」

52 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 19:01:06.51 /OP+EhE/O 45/775

気付けばわたくしは、涙を流しておりました。



貴音「お願いします……わたくしを過去へ戻してください……」

53 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 19:04:01.40 /OP+EhE/O 46/775


『……そう、決めたんだね』

貴音「……はい」

『ほら、泣かないで。可愛い顔が台無しだ』

54 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 19:06:59.69 /OP+EhE/O 47/775

少しの時間、わたくしが泣き止むのを待って、神様は再び喋り始めました。

『落ち着いた?それじゃあ、タイムリープのルールを説明しておこうかな』

貴音「るーる、ですか……」

『うん。主なルールは三つある』


『一つは、タイムリープは一度しかできないってこと。一度やったら、もう二度とタイムリープさせてあげることはできないんだ』

失敗は許されない、ということですね……。

『二つ目は、過去の世界では僕と貴音ちゃんは接触できないってこと。一度過去に飛んだら、一人でやっていかないといけない』

55 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 19:09:58.71 /OP+EhE/O 48/775


『そして、最も大切なルール……三つ目は、《タイムリープしたことを他言してはいけない》ってこと』


貴音「誰にも言ってはならない、という訳ですね」

『そういうこと。もし、貴音ちゃんが跳んだ先の世界でこのことを話したら、貴音ちゃんの《意識》は、強制的に今の時間軸に戻されてしまうんだ』

『だいたい話し終わって一分後くらいかな?何をしようが、その時点で君の《意識》は今の時間軸に戻される』

『だから、このことは必ず誰にも言ってはいけないよ?』

貴音「……分かりました」

三つのるーる、ですか……
心に刻んでおかねばなりませんね。

56 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 19:12:59.94 /OP+EhE/O 49/775

『これ以外は、自由に行動してくれて構わないからね』

『例えば、願い通りに765プロに入ってもいいし、もう一度961プロでやり直してもいい』

『そんなことはしないとは思うけど……アイドルをやらなくても構わない』


『どう行動するかは……貴音ちゃん、君次第だ』

57 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 19:15:59.91 /OP+EhE/O 50/775

……わたくしの心は、もう決まっています。

765プロに入り、あの方とトップアイドルを目指す。



必ずや、あの方と、あの場所に。

58 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 19:19:01.06 /OP+EhE/O 51/775

『それじゃあ、行くよ』

その言葉が発されると、わたくしの体はぼんやりと光り始めました。

少しずつ、意識が遠のいていきます。

これがたいむりーぷ、なのですね……



『頑張ってね。応援してるよ、貴音ちゃん』


ーーその言葉を聞くとともに、わたくしは完全に意識を失いました……

60 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/05/26 19:23:30.74 /OP+EhE/O 52/775

ちなみに、予備知識を。
必要ないとは思いますが…。


・タイムリープ(time leap): 体ではなく、意識のみを時間遡行させること。体ごと時間遡行することは『タイムトラベル(time travel)』と呼ぶ。

66 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:08:36.66 m8lGinCnO 53/775


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……気付けば、わたくしは布団の上で眠っておりました。

貴音「夢……だったのでしょうか?」

気付けば、頬に涙を流した後が。
面妖な夢を見たものです……

67 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:11:15.27 m8lGinCnO 54/775

貴音「……はて?」

部屋を見回すと、幾つかの違和感を感じました。

部屋にあったはずの写真が……『プロジェクト・フェアリー』の皆と共に撮影したはずの写真がありません。

家に多数備蓄されていた、かっぷらぁめんもありません。

赤羽根殿に買って頂いた、わたくしの宝物……月長石の首飾りもありません。

68 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:14:08.74 m8lGinCnO 55/775

極め付けは、部屋のかれんだー。

かれんだーが示していたのは、およそ一年前の日付。

丁度わたくしが、この東京にやって来た頃の日付だったのです。

69 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:17:08.37 m8lGinCnO 56/775

貴音「なんと……!」

このような摩訶不思議な現象が、あるものなのでしょうか……?

貴音「ーー夢では、なかったのですね……」

71 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:22:08.51 m8lGinCnO 57/775

とりあえずわたくしは、目覚ましのためにしゃわーで熱いお湯を浴び、朝食を摂って一息つきます。



過去に戻ったのは、事実。

では、ここからどうすべきなのでしょうか……

72 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:25:07.75 m8lGinCnO 58/775

まずは赤羽根殿を探すべきなのでしょうか。

それとも、765プロの場所を探すのが先なのでしょうか。

それとも……

73 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:28:15.16 m8lGinCnO 59/775

ふと、響の顔が頭に浮かびました。

響は今、どうしているでしょう。

彼女もまた、この頃に沖縄から上京してきているはずですね。

彼女は今、元気にしているでしょうか。

74 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:31:08.29 m8lGinCnO 60/775

その時、わたくしは気付きました。

貴音「ーーこのままだと響は、961プロに入ってしまうのでは……!?」

……こうしてはいられません、まずは響を探さねば。


わたくしは素早く着替え、財布などといった必要最低限の物を手にして家を出ました。

75 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:34:08.83 m8lGinCnO 61/775






初めて東京に来た頃はこの人の多さに戸惑ったものですが、もう慣れてしまいました。

一年もここで過ごしたのです。当然のことと言えましょう。



さて、響はどこにいるのでしょうか?

わたくしが初めて響と出会ったのは、961プロの事務所内。手がかりは無いに等しいですね……

76 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:37:09.12 m8lGinCnO 62/775

かつて響から聞いた話によると、響が961プロに入った時期はわたくしとほぼ同じ。

この頃ならまだ、響は961プロに入ってはいないはずです。

とりあえず、ぶらぶらと色々なところを回ってみることに致しましょうか。




……はっ!


美味しそうな匂いにつられて、ついらぁめん屋さんの前に……!

こんなことではいけません。早く響を見つけなくては……

77 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:40:07.08 m8lGinCnO 63/775

ーーそういえば、響はたくさんの動物を飼っていましたね。

響は『みんな、自分の家族なんだぞ!』と言っておりました。

……何度会っても、わたくしはヘビ香殿にだけは慣れることができませんでしたが。


貴音「ならば、怪しいのは……」

78 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:43:06.86 m8lGinCnO 64/775

わたくしは、『ぺっとしょっぷ』なる場所にやって来ました。

動物を見るのならば、やはりここでしょう。

ここになら、響はいるのでは……?

79 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:44:16.69 m8lGinCnO 65/775






……すると。





80 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/02 16:47:08.15 m8lGinCnO 66/775

ちょうどそこから、一人の人物が姿を現しました。



「うう、ヒマワリの種は重いぞ……二袋も買うんじゃなかった……」

ぽにーてーるにされた長い黒髪。

浅く日に焼けた、褐色の肌。

そして、肩に乗せられたハム蔵殿。



あれは、まさしく……

84 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:32:09.41 2zCSX6h9O 67/775

貴音「ひび……」

……おっと。

今、わたくしと響は初対面のはず。ここで名前を呼んでしまうと、ややこしいことになってしまいます。

ここは……

85 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:34:09.97 2zCSX6h9O 68/775

貴音「ーーもし」

「ん?自分に何か用?」

貴音「はい。その荷物、重そうですね……お手伝い致しましょうか?」

「え、手伝ってくれるの?でも、知らない人だし……」

貴音「わたくしは怪しい者ではありません。ただ、困っている人を見過ごせなかっただけです」

86 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:36:31.22 2zCSX6h9O 69/775

「そっか、それならお願いしようかな。自分、我那覇 響だぞ!」

貴音「わたくしは四条 貴音と申します。以後、お見知り置きを」

なんとか接触を図ることができましたね。

少し人を疑う心が足りないような気もしませんが……それも響の良いところです。


ーーそれにしても、ひまわりの種とは重いのですね……

87 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:38:14.31 2zCSX6h9O 70/775

響の家にやって参りました。

何度か訪問したことがあるので、既に場所は分かっております。

……最初から響の家に向かっていれば良かった、という気もしなくはないですが。


まあ、見知らぬ人物が家の前にずっといるという状況は警察を呼ばれてもおかしくないでしょうし、これで良かったのでしょう。

いわゆる『結果おーらい』、という奴です。

88 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:40:14.91 2zCSX6h9O 71/775

「いや〜、助かったぞ。ありがとう、貴音!」

貴音「いえ、大したことでは……」

「あ、良かったら上がっていってよ!お礼もしたいしさ!」

89 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:42:08.75 2zCSX6h9O 72/775

わたくしは居間に通されました。

部屋の隅では、イヌ美殿がすやすやと眠っております。

貴音「失礼します……」

適当なところに座るよう促され、わたくしはとりあえず床に座りました。

90 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:44:13.83 2zCSX6h9O 73/775

「はい、食べて食べて!」

貴音「ありがとうございます、響殿」

「あ、呼び捨てでいいよ。なんか『殿』って付いてたら気持ち悪いしさ」

貴音「そうですか。ーーでは、『響』と呼ばせて頂きますね」


まこと、ありがたいことです。今まで呼び捨てで話していたので、こちらの方が気楽で済みます。

91 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:46:21.74 2zCSX6h9O 74/775

運ばれてきたのは、じゃすみんの香りのお茶と、甘い匂いが漂う揚げ菓子。

貴音「さーたーあんだぎーに、さんぴん茶……沖縄出身、なのですね」

「うん、そうだぞ。自分、アイドルになるために東京に来たんだ」

貴音「なんと、奇遇ですね。わたくしもアイドルを目指して、ここに来たのです」

「貴音もなの?もしかして自分たちが出会ったのって、運命なのかもね!」

貴音「ふふ、そうかもしれませんね」

92 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:48:09.82 2zCSX6h9O 75/775

ーーその運命を知っているからこそ、わたくしはここにいるのですよ、響?

……まあ、このことを口にするわけにはいかないのですが。

93 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:50:09.35 2zCSX6h9O 76/775

「それで、貴音はどうやってアイドルになるつもりなの?」

貴音「……二つほど、事務所に心当たりがあります」

「二つ?」



貴音「はい。……一つは、765プロという事務所。小さいですが、仲間との信頼を大切にする事務所だと聞いております」

貴音「もう一つは、961プロという事務所。設備が整っており、素早く成長できるらしいのですが、実力がない者はすぐに切り捨てられる事務所だと聞いております」

94 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:52:12.05 2zCSX6h9O 77/775

「へぇー、いろいろ調べてるんだね。自分さっぱりわかんなくって、困ってたんだ」

貴音「わたくしは、765プロに入りたいと思っております。仲間との団結は、大切な物だと思っておりますゆえ……」

貴音「ーー響は、どうするつもりなのですか?」

「自分か?自分は……」

95 : Zero/ ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/09 16:54:10.78 2zCSX6h9O 78/775








「今の話を聞くところだと、自分は961プロにしようかな、って思う」





99 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 16:36:11.87 CTudV5o3O 79/775

……なんと。響は961プロを志望しているのですか……。

ですが、961プロに入っては前の時間軸と同じことになってしまうでしょう。

……確かに、わたくしがとやかく言うべきことではないかもしれません。

ですがわたくしは……響と敵同士にはなりたくありません。響とともに、アイドルとしての道を歩んでいきたいのです。

響には申し訳ないですが、なんとかやめさせなければ……

100 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 16:38:16.12 CTudV5o3O 80/775

貴音「ーーなぜ、961プロに?」

「……自分、早くトップアイドルにならなくちゃいけないんだ。それが、故郷のみんなとの約束だから」

貴音「ですが、実力を示せなければ、すぐに辞めさせられてしまうのですよ?」

「もしそんなことがあったら、自分の実力はその程度だった、ってことだしね」

「しかも、そんなところで完璧な自分が負けるわけないさー」

貴音「……」

101 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 16:40:28.85 CTudV5o3O 81/775

確かに、響のダンスの能力はとても高いとは思います。

あのダンスは、765プロの菊地 真以外に匹敵する者はそういないでしょう。

……ですが、私は未来を知ってしまっているのです。

961プロに足りない物。

その『足りない物』が無ければ、到底トップアイドルの座に立ち続ける事は不可能。

102 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 16:42:13.23 CTudV5o3O 82/775

……ですが、765プロには、その『足りない物』がありました。

それは、『仲間との絆』。

つらいことや厳しいことも、仲間がいれば乗り越えられる。

そんな仲間の大切さを、765プロはわたくしに見せてくれました。

103 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 16:45:14.91 CTudV5o3O 83/775

あのトップアイドルになった雪歩殿でさえ、仲間との絆がなければあの場所にいなかった、といった言葉を言っていたことがあります。

『信頼できる仲間』が存在する765プロでなら、きっとトップアイドルも夢ではありません。



ーーそもそも、わたくしが961プロのことを出さなければ、このようなことにはならなかったのでは……。

これは失敗しましたね……困りました。

104 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 16:48:13.24 CTudV5o3O 84/775

「ーーねえ、貴音は、早くトップアイドルになりたくないの?」

「貴音だって、こっちに来た以上、結果を残さなくちゃいけないんじゃないの?」

貴音「っ、それは……」

確かに、いち早くトップアイドルにたどり着かねばならないのも事実。

961プロには、それを成し遂げるだけの実力はありました。


ですが、わたくしは……

105 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 16:50:17.19 CTudV5o3O 85/775

貴音「ーーいいえ、わたくしは961プロには入りません」

貴音「確かに765プロは小さく、事務所としては弱小かもしれません」

貴音「ですが、765プロには、961プロに無い物があります」

貴音「それは『仲間との団結』。仲間との信頼がなければ、どこかで行き詰まってしまう……わたくしはそう思うのです」

貴音「響……貴女にも分かるはずですよ。仲間と……『たくさんの家族と日々を過ごす』貴女なら」

106 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 16:52:20.61 CTudV5o3O 86/775

響は、はっとした表情を浮かべました。

仲間との絆……響の場合は家族ですが……その大切さを良く知っているはずです。

ーー特に、多くの動物たちと暮らす響なら。



貴音「それに……例え一人でトップアイドルになったとしても、そこから先に存在するのは『孤独』のみ」

貴音「支え合う仲間がいなければ、一度頂点に上り詰めても、そこで崩れてしまうでしょう」



貴音「響……『わたくしと共に』、トップアイドルを目指して頂けませんか?」

107 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 16:54:17.01 CTudV5o3O 87/775

「貴音……」

「ーー貴音の言うとおりだぞ。自分、勘違いしてた」

「自分も、765プロに行く。そして、貴音やまだ見ぬ仲間と一緒に、トップアイドル目指して頑張るぞ!」

「仲間がいれば、『なんくるないさー』!」

なんとか響を説得することができたようですね。





ーー少々、無理に言いくるめた気もしなくはないですが。

108 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 16:56:25.48 CTudV5o3O 88/775

とりあえずひと安心です。これで、おそらく響が961プロに入ることはないでしょう。

あとは、765プロに入って頂点を目指すのみ。





……赤羽根殿のことも、忘れてはいませんよ?

そもそも、わたくしが過去に戻ったのは……///

……ごほん。なんでもありません。

109 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 17:00:12.02 CTudV5o3O 89/775

とりあえず連絡先を交換し(この頃のわたくしはまだ携帯電話を所持していなかったので、家の電話番号を響に伝えました)わたくしは響の家を後にしました。

そう言えば、ハム蔵殿とイヌ美殿以外の動物を見ていませんね……どこか他の部屋にいたのでしょうか?

ヘビ香殿に遭遇しなかった事は幸いでした……かつてと同じように、腰を抜かしてしまうわけにはいきません。

110 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 17:02:41.13 CTudV5o3O 90/775


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しばらくして、わたくしは家に帰り着きました。

疲れがたまっているのか、眠気が襲ってきます。

あまり疲れるようなことはしなかったはずなのですが……時間遡行とは、疲れるものなのでしょうか?

少し仮眠をとることにいたしましょうか。

111 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 17:05:14.41 CTudV5o3O 91/775

クゥゥゥ

貴音「///」

それにしても、お腹が空きました……。つい、腹の虫が粗相を……。

そういえば、昼食を取っていませんでした。これでは眠れません。

ああ、らぁめんが食べたいです……
買い出しに行かねばなりませんね。

112 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/16 17:07:10.60 CTudV5o3O 92/775






貴音「……もしわたくしが、無事に765プロに入ることができたなら……またらぁめんを奢ってくださいね、あなた様♪」



118 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 16:46:22.43 dr3mNqIYO 93/775

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


貴音「おはようございます……」

貴音「……おや、思ったより早く起きることができましたね」

響と再会した次の日、私は朝早くに目を覚ましました。

121 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:02:11.54 dr3mNqIYO 94/775

……よく晴れた、気持ちの良い朝です。

このような朝は、散歩に行くに限りますね。

手早く朝食を摂り、しゃわーを浴びたわたくしは、下着とTしゃつ、それに臙脂色のじゃーじを身に付けて部屋を出ました。

これは961プロ時代、レッスンで使っていたものです……おそらく765プロでもこのじゃーじを使うことになるでしょう。

122 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:09:21.57 dr3mNqIYO 95/775

わたくしは近所の公園にやって参りました。

天気の良い中での散歩は、まこと良きものですね。清々しい気分が味わえます。

公園の中では走っている男性や、わたくしと同様に散歩を楽しむ女性など、様々な人がいました。

123 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:10:47.37 dr3mNqIYO 96/775

すると、どこからかわたくしを呼ぶ声が。

「貴音~!」

聞きなれた、その声の持ち主は……

124 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:14:36.23 dr3mNqIYO 97/775

貴音「おや、響ですか。ごきげんよう」

「やっぱり貴音だった!はいさい、貴音!」

水色(と言うよりは浅葱色、と表現すべきなのでしょうか?)のじゃーじを身に付け、イヌ美殿を連れた響が、わたくしの前に現れました。

125 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:17:38.70 dr3mNqIYO 98/775

……ところで響は、このような珍しい色のじゃーじをどこで手に入れたのでしょうか?

響は961プロのレッスンの時もこのじゃーじを使用しておりました。

しかし、かつて961プロにいた時に、『フェアリー』の皆と運動用品店に赴いた際、そこに浅葱色のじゃーじは置いておりませんでした。

そういえば、わたくしのものも珍しい色をしておりますね……

ーーじいやは、一体どこでこれを……?

126 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:20:55.42 dr3mNqIYO 99/775

「……貴音、どうしたの?考え事なんかして。自分で良ければ、相談に乗るぞ?」

貴音「いえ、大したことではありません。大丈夫ですよ」

貴音「それはともかく、響も散歩ですか?」

「うん、イヌ美の散歩中なんだ!貴音も一緒にどう?」

貴音「それは良き考えです。ご一緒させて頂きましょう」

わたくしは響と他愛ない話をしつつ、散歩を楽しみました。

127 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:23:30.36 dr3mNqIYO 100/775

「あ、そうだ。貴音はお昼、何か用事ある?」

貴音「ええ。今日は765プロの事務所の場所を探そうと思っています」

「やっぱり!ねぇ、一緒に行かない?」

貴音「勿論です。では十時頃、ここで集合に致しましょうか」

128 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:26:55.20 dr3mNqIYO 101/775

思ったよりすんなりと話がつきました。

わたくしは最初から響を誘って765プロを探す予定を考えていたのです。

しかし朝早くに電話をするのもどうかと思い、後回しにしたのですが……

偶然響と出会ったことにより、電話する手間が省けましたね。

129 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:29:54.22 dr3mNqIYO 102/775

響と別れ、家に帰り着きました。

軽く汗をかいてしまったので、再び浴室へ。

起床後や運動後は温かいお湯を浴びるに限ります……わたくしは本当にしゃわーが好きなのだ、とつくづく思います。


上がったらいつもの服装に着替え、ゆっくりとすることに致しましょう。

130 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:32:23.67 dr3mNqIYO 103/775






十時前。

わたくしは先ほどの公園にやってきておりました。

変装がいらない、というものは楽ですね。嬉しいようで悲しいような……そんな気が致します。

さて、響はまだでしょうか……?

131 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:35:56.22 dr3mNqIYO 104/775

「ごめんごめん、待った?」

貴音「いいえ、そうでもないですよ。では、行きましょうか」

そう言っている間に響はやって来ました。


いざ、765プロへ……!

132 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:37:41.86 dr3mNqIYO 105/775

……とは言ったものの。





「貴音~、いつになったら着くんだ……?」

貴音「さ、さあ……?」

二人とも765プロの場所を知らないため、わたくし達はあちらこちらを彷徨うばかりになっていました。

いんたーねっとなどを使うことができれば住所を調べることができるのですが、わたくしは機械に疎く……迷子になってしまいそうです。

133 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:40:23.76 dr3mNqIYO 106/775

765プロほどの有力な事務所なら、小さいながらも建物がありそうな物ですが……

「うぎゃー、どうすればいいんだ~・・」

響も響で、あたふたしてばかり。都会の人ごみにはまだ慣れていないようです。

貴音「響、携帯電話で検索したりはできないのですか?」

「自分、こっちで買おうと思ってて……まだ持ってないんだ」

貴音「むぅ……仕方ありません、もう少し探してみましょう」

134 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 17:47:27.07 dr3mNqIYO 107/775

時折甘味を食べなどしつつ、あちらこちらと探して見ましたが、なかなか見つかりません。

かれこれ二時間は探し続けているのですが、なぜ見つからないのでしょうか?

うう、お腹がすいてきてしまいました……

135 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 18:09:18.48 dr3mNqIYO 108/775

貴音「お腹が、すきました……」

わたくしの腹の虫が、粗相をしてしまいそうです……

「自分も。何か食べよっか?」

貴音「そう致しましょう……おや、『たるき亭』ですか」

「ここ、居酒屋だぞ……あ、でも定食なんかもあるみたい」

貴音「我慢できません、ここにしましょう!」

「うぎゃっ、引っ張るな~!」

136 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 18:11:07.19 dr3mNqIYO 109/775

「いらっしゃいませ~」

思ったより店内は広々としており、なにやら美味しそうな匂いが……じゅるり。



……はっ!失礼致しました。

居酒屋という形式上、昼間の客は少ないようですね。

黒い背広を着た、なにやら面妖な雰囲気を醸し出している年配の男性が一人、奥の方にいるだけです。


全身真っ黒……というわけではありませんが、背広も、革靴も、ねくたいさえ真っ黒です。面妖な……

137 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 18:13:23.17 dr3mNqIYO 110/775

奥の方の、男性から少し離れた場所に席を取ります。

少しして、名札に『小川』と書かれた女性がやって来ました。

小川「ご注文はどう致しましょう~?」

貴音「……では、日替わり定食とやらを」

「自分もそれでお願いするぞ!」

小川「畏まりました。少々お待ち下さい~」


……声が765プロの水瀬 伊織に似ているのは気のせいでしょうか?

138 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 18:15:43.69 dr3mNqIYO 111/775

小川「お待たせしました、『日替わり』です~。ごゆっくりどうぞ~」

あっという間に定食が運ばれてきました。意外と早いですね……

もう待ちきれません!

ひびたか「「いただきます!」」

139 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 18:17:40.50 dr3mNqIYO 112/775

ふむ、この生姜焼き……しっかりと味が染み込んでいます。添えられたきゃべつにたれが絡んで、まこと美味です。

……こほん、グルメレポートではありませんでしたね。


わたくし達が定食を食べ終えてすこし後、がたっ、と音がしました。

奥にいた男性が席を立ったようです。

「いやぁ、やはり昼食はたるき亭に限るねぇ。お勘定を……っ!!」

140 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 18:19:19.47 dr3mNqIYO 113/775

……視線を感じます。

先程の男性のものに違いありません。

もしや、噂に聞く『なんぱ様』なのでは……?



そう思った瞬間。

141 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/23 18:21:27.49 dr3mNqIYO 114/775








「ティン、と来た!」





149 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:03:22.50 74BnE/IyO 115/775

貴音「!?」

……何なのでしょうか?

「そこの君達、、少し時間をもらえるかな?」

「もしかして、自分たちのこと?」

「その通りだよ。いや、君たちに何か光るものを感じてね」

貴音「光るもの、ですか……もしや、噂に聞く『なんぱ様』なのですか?」

「な、ナンパ?……はは、違うよ。私はこういう者だ」

わたくし達は、名刺を渡されました。

150 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:05:21.72 74BnE/IyO 116/775






765プロ代表取締役 社長
高木 順二朗





……これは!

社長「君達にはトップアイドルになれる素質がある!ぜひ、我が765プロでアイドルをやらないかね?」

なんと、この男性は765プロの社長だったのですか!

ですが、かつての赤羽根殿の話が本当ならば、765プロの社長は『高木 順一朗』殿のはずですが……

151 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:07:15.52 74BnE/IyO 117/775

貴音「申し訳ございませんが、高木殿」

社長「おや、なんだね?」

貴音「わたくしの知る話では、765プロの社長は『高木 順一朗』殿であったはずなのですが」

社長「なんと、『先代』を知っているのかね?」

社長「君が言う『高木 順一朗』は私のいとこでね。最近社長の座を私に譲り、自分は会長として活動するようになったのだよ」

152 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:09:25.40 74BnE/IyO 118/775

これは一体……?

高木殿が言っていることは本当のようですが、(わたくしは嘘をある程度見破ることができるのです)赤羽根殿が嘘をつくとは思えません。

……もしや、わたくしが時間遡行をした影響で、歴史が食い違ってきているのでしょうか?

153 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:12:03.74 74BnE/IyO 119/775

「貴音、この人は本当に765プロの社長なのかな?」

貴音「おそらく、間違いありません。この方が嘘を言っているようには見えませんので」

わたくしと響は、こっそりと会話を交わします。

高木殿に聞かれては、失礼に値する内容ですので……。

154 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:14:13.52 74BnE/IyO 120/775

「そっか。実は自分達も、765プロに用があったんだ」

社長「おお、本当かね!では、少し事務所で話をさせてはもらえないだろうか?」

社長「美味しいお茶とお茶菓子を用意しようじゃないか」

なんと!これは魅力的です。

……あまり食いしんぼうな面を出すと、はしたないでしょうか……///

155 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:16:16.27 74BnE/IyO 121/775

社長「勘定は、私が持っておくことにしよう。事務所は上にあるから、先に上がっていてくれないかね?」

「わかったぞ!行こ、貴音!」

貴音「ええ。ありがとうございます、高木殿」

社長「ははは、構わんよ」

156 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:18:15.99 74BnE/IyO 122/775

少し急な階段を上がり、(えれべーたーがあったのですが、故障しておりました)突き当たりまで歩くと、一つの扉が。

扉には『765』の文字。わたくしが想像した事務所とは全く違うものでした。

取り敢えず、扉を開けて中に入ることに致します。

157 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:20:14.07 74BnE/IyO 123/775

そこにあったのは、961プロの事務所をぐっと縮めたかのような内装。

奥の方には事務机が三つ並んでおり、そのうちの一つに女性が座っています。

黒髪に近い、濃い深緑色の髪をして、黄色……より少し薄い(ひよこ色、と表現することに致します)色をした『かちゅーしゃ』を付けたその女性は、ゆっくりと紅茶を飲んでいました。



とても若々しい風貌をしております。もしや、765プロのアイドルなのでしょうか?

158 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:22:17.06 74BnE/IyO 124/775

その女性はちらっとこちらを見て、そのまま固まりました。

その後すぐにあたふたとし始めましたが……どうしたのでしょうか?


「ピヨッ!……気付かなくて申し訳ございません……いらっしゃいませ!」

その後、その女性は素早く紅茶のかっぷを机に置き、立ち上がってわたくし達に挨拶をしました。

159 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:24:12.91 74BnE/IyO 125/775

「ーーあの、どういったご用件でしょうか?」

「自分達、高木社長に呼ばれて来たんだ。先に上がっておいてくれって」

「もしかしてスカウトされたとか……?」

貴音「その通りです。ところで、貴女は……?」

160 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:26:20.26 74BnE/IyO 126/775

小鳥「あ、申し遅れました。私、この765プロで事務員をしております、音無 小鳥と申します!」

貴音「なんと、事務員殿だったですか!てっきり、アイドルの一人かと」

小鳥「そ、そんなとんでもない!私みたいな二十[チョメチョメ]歳のおばさんが、アイドルなんて……」


その年齢なら、まだ若いくらいかと思われるのですが……

162 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:28:27.14 74BnE/IyO 127/775

その時、事務所の扉が再び開かれました。

社長「おっと、待たせたね。じゃあ、ついて来てもらえるかな?」

小鳥「お疲れ様です、社長。私、お茶とお菓子用意してきますね♪」

社長「おお、すまないね小鳥君。頼むよ」

小鳥「はい。お任せください♪」

163 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:30:26.78 74BnE/IyO 128/775

わたくし達は応接室に通されました。

社長「では、そこにかけてくれたまえ」

貴音「失礼致します」

「し、失礼します、だぞ」

響、それは丁寧になっていないのでは……?

164 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:32:36.50 74BnE/IyO 129/775

社長「ははは、そんな硬くならなくても大丈夫だよ。別にとって食おうって訳じゃないからね」

社長「それじゃあ今から我が765プロの営業方針について説明していくから、楽にして聞いてほしい」



その後、わたくし達は事務所の方針やその他諸々のことを聞きました。

かつて赤羽根殿がおっしゃっていた内容と相違ありません。とても良き事務所です。

社長「別に今日答えを出してくれという訳じゃあないからね。ゆっくり考えてくれればいい」

高木殿はそう締めくくりました。ですが、わたくしの心はもう決まっております。

165 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:34:07.22 74BnE/IyO 130/775

貴音「高木殿……わたくしの答えはもう決まっております」

社長「……む?どういうことかね?」

「自分達、最初からここに入るつもりでいたんだ」

「だから765プロの事務所を探してたんだけど、なかなか見つからなくて。だから社長に会えてラッキーだったぞ!」

社長「ということは……」

貴音「はい。これからよろしくお願い致します、高木殿」

こうしてわたくしは、晴れて765プロの一員となることができました。

166 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/06/30 17:36:26.13 74BnE/IyO 131/775

貴音「ふぅ……」

ようやく、ここまで来たのですね……。

もう少しであなた様にお会いできると思うと、胸の高まりが止みません……///

177 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:12:21.59 hIKSGFUyO 132/775



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


社長「では明日から早速、活動を始めていくことにしよう」

社長「他の候補生の皆との顔合わせもしたいから、明日の九時頃、またここに来てくれるかね?」

昨日そう高木殿に言われ、わたくしと響は事務所を出て、その場で別れました。

今日から再び、アイドルとしての日々が始まるのですね……!

わくわくとした気持ちが止まらず、昨夜はあまりよく眠ることができませんでした。

それでは、事務所へ参りましょう。

178 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:14:14.76 hIKSGFUyO 133/775

八時半頃、わたくしは事務所に到着しました。

ここに、赤羽根殿がいるのですね……

いざ、参ります!



貴音「ーーおはようございます!」

ーー気負いすぎたあまり、わたくしらしからぬ大声で挨拶をしてしまいました……///

179 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:17:11.62 hIKSGFUyO 134/775

小鳥「おはよう、貴音ちゃん」

事務員殿が、わたくしに挨拶を返します。

貴音「おはようございます、事務員殿」

小鳥「じ、事務員殿って……なんか堅苦しいわねぇ……」

小鳥「貴音ちゃん、もう少し柔らかくしてくれないかしら?私達、もう仲間なんだから」

貴音「柔らかく、ですか……?」

180 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:18:38.90 hIKSGFUyO 135/775

小鳥「ええ。なんだか距離を感じちゃうというか……何かいい方法は……」

小鳥「ーーそうだ!貴音ちゃん、私あだ名なんかで呼ばれ慣れてるから、何かあだ名で呼んでみない?」

貴音「あだ名、ですか?」

小鳥「私とある子に、『ピヨちゃん』って呼ばれてたりするから……貴音ちゃんも、どうかなって」


貴音「ふむ……では『小鳥嬢』と呼ばせて頂きます」

小鳥「こ、『小鳥嬢』・・……いや、まだマシかも。それでいきましょう♪」

181 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:20:24.28 hIKSGFUyO 136/775

しばらく時間が経ちました。

事務所の中には、まだ小鳥嬢しかいません。妙ですね……

貴音「小鳥嬢、他の者はいないのですか?」

小鳥「ああ、みんなならどこかで一度集まってから来るはずよ。顔合わせはインパクトだ、って社長が」

貴音「……面妖な」

社長は少し、変わったことが好きなようです。

182 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:22:15.57 hIKSGFUyO 137/775

「はいさーい!」

そのような話をしていると、ちょうど響がやって来ました。

貴音「これ、響。挨拶はしっかりとせねばなりませんよ」

「うぐっ、ごめん……おはようございます!」

小鳥「おはよう、響ちゃん」

「おはよう、事務員さん!」

183 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:24:15.14 hIKSGFUyO 138/775

小鳥「うーん、やっぱりしっくり来ないわね……響ちゃん、私のこと、何かあだ名で呼んでみない?」

「えっ、あだ名?」

小鳥「そう、あだ名よ。実はかくかくぴよぴよで……」

「なるほど……うーん、そうだな……なら、『ピヨ子』って呼んでもいいかな?」

小鳥「『ピヨ子』?」


「そうだぞ。昨日初めて会った時、『ピヨッ!』て言ったでしょ?」

「名前も『小鳥』だし、ちょうどいいかなって思ってさ!」

小鳥「なるほど、面白いわね。それでいきましょう♪」

小鳥嬢は、あだ名が好きなのでしょうか……?

184 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:26:22.99 hIKSGFUyO 139/775

そうこうしている間に、九時になりました。

ふむ、なにやら騒がしいような……



社長「やあ、おはよう!」

小鳥「おはようございます、社長」

そうこうする間に、高木殿が事務所に入ってきました。

185 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:28:15.72 hIKSGFUyO 140/775

貴音「おはようございます、高木殿」

「はいさい!……じゃなかった。おはようございます!」

社長「おお。四条くんに我那覇くん、おはよう」

社長「ーーうんうん、二人とも元気そうで何よりだ。では、お待ちかねの対面式と行こうかね」

186 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:30:15.25 hIKSGFUyO 141/775

「どんな子がいるんだろ?自分、楽しみだなぁ~♪」

貴音「ふふっ、そうですね」



ーーわたくしは、もう既に全員の顔と名前が一致するのですが……。

わたくしの『とっぷ・しーくれっと』を隠すため、初対面のふりをしておきましょう。

……こう見えて、演技には自信があるのですよ?

187 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/07 16:32:15.63 hIKSGFUyO 142/775

社長「おっほん。ーーでは諸君、入ってきたまえ!」

扉が開かれ、次々と見知った顔が入ってきます。

予想以上の人数だったのか、響はあたふたとしていますね。



ーーしかし……入って来た中に、赤羽根殿はいませんでした。

192 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:00:20.31 tjYgkZ13O 143/775

社長「さあ諸君、朝礼を始めようじゃないか!」

社長「さて、まずは新人の二人の紹介と行こうかね。二人とも、自己紹介をしてくれたまえ」

「分かったぞ!……自分、我那覇 響!なんでも得意だけど、ダンスなら絶対に負けないぞ!よろしく!」

貴音「わたくし、四条 貴音と申します。皆様にお会いできて光栄です。以後、お見知り置きを」

促されるまま、わたくし達は自己紹介を行いました。


……少し堅苦しかったでしょうか?

193 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:02:20.98 tjYgkZ13O 144/775

社長「うむ、ありがとう。では諸君、二人に自己紹介を」

春香「私からでいいかな?……えーっと、天海 春香です!」

春香「趣味はお菓子作りで、えーっと……歌うことが好きで、えーっと……と、とにかくよろしくお願いします!」

千早「如月 千早です。……歌うことだけは、誰にも負けません。以上です」

春香「ち、千早ちゃん!ちょっと素っ気なさすぎじゃない?」

千早「そうは言っても……私には、歌しかないから。春香も知っているでしょう?」

194 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:04:17.61 tjYgkZ13O 145/775

「……zzz」

「こら、美希!起きなさい!」

美希「あふぅ……律子は厳しいの」

律子「律子『さん』でしょ?ほら、ちゃっちゃと自己紹介する!」

美希「むぅ……ミキの名前は星井 美希なの。おやすみ……」

律子「全く、美希は……名前も出たし、次は私ね。秋月 律子よ。アイドルと事務員を兼任してるわ。よろしくね!」

195 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:06:16.76 tjYgkZ13O 146/775

雪歩「は、萩原 雪歩ですぅ……得意なことといったらお茶を入れることくらいですけど……よ、よろしくお願いしますぅ……」

「ボクは菊地 真。響と同じで、ダンスには自信があるんだ。……男の子じゃないから、そこんとこよろしくね!」

やよい「高槻 やよいですー!元気にアイドル、やってます!よろしくおねがいしまーす!」

伊織「水瀬 伊織よ。完璧なアイドル目指してるわ。まあ、もう完璧に近いけど。よろしくね、にひひっ♪」

あずさ「三浦 あずさです〜。一応アイドルの中では最年長だから、いつでも頼ってちょうだいね~?」

196 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:08:29.48 tjYgkZ13O 147/775

「「んっふっふ~」」

亜美「亜美で→す!」

真美「真美で→す!」

亜美「我ら双子の双海姉妹を、なめてはいけませんぞ?」

真美「よろしくね、ひびきん、お姫ちん!」

貴音「お姫ちん……ですか///」

亜美「うん!」

真美「お姫様みたいな感じだから、『お姫ちん』だよ!」

197 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:10:25.44 tjYgkZ13O 148/775

社長「これで全員だね。諸君、仲良くしてくれたまえよ!」

……そこで、自己紹介は終わってしまいました。

赤羽根殿は、いらっしゃらないのでしょうか……?

貴音「ーー高木殿、少しよろしいでしょうか?」

社長「む?なんだね、四条君?」

198 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:12:17.32 tjYgkZ13O 149/775

貴音「その、『プロデューサー』はいないのですか?」

社長「ああ、君達のプロデューサーかね?」

社長「実はまだ、私のティン線……ごほん、琴線に触れるような逸材がいなくてね、まだ一人もいないのだよ」

なんと、赤羽根殿はいないのですか!?

もしや、これも時間遡行の影響なのでしょうか……困りました……。

このまま赤羽根殿がいなければ、わたくしは……!

199 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:14:17.63 tjYgkZ13O 150/775

社長「むむ……そんながっかりした顔をしないでくれたまえよ。できる限り早く、プロデューサーを迎え入れるようにはする」

社長「少しだけ、待っていてはくれないかね?」

貴音「ーー分かりました」

寂しいですが、あの方が来て下さることを信じて、待つことに致しましょう。

200 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:16:29.94 tjYgkZ13O 151/775

響は早くも、765プロの皆と馴染んでいるようです。

これも、一種の才能なのかもしれません。

春香「貴音さんも、こっちに来てくださいよー!私が作ったお菓子もありますよー!」

天海 春香の声が聞こえます。

お菓子、ですか……じゅるり。

……はっ!

ーーいえ、やはり食欲には勝てません。いざ!

201 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:22:16.44 tjYgkZ13O 152/775


ーーーーーーーーーー


貴音「……まこと、美味です!」

このくっきーといい、ぱうんどけーきといい、素晴らしき美味しさです。

それに雪歩殿のお茶がよく合い……わたくしはとても幸せです。

少し自粛しなくては、すぐに無くなってしまいそうです。それほどの美味しさなのです!

春香「えへへ、そんなに美味しそうに食べてもらえると、私まで嬉しくなっちゃいますっ!」

202 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:24:16.36 tjYgkZ13O 153/775

伊織「ほんと、春香の作るお菓子は美味しいのよね……。見習いたいもんだわ」

ぼそっと、水瀬 伊織が口を挟みます。

納得です。何度も言いますが、それほどの美味しさなのです!

思わず、わたくしの食いしんぼうな面が出てしまいます……。手が出るのを抑えられなくなりそうです。


ええい、静まりなさい……わたくしの食欲!

203 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:26:17.10 tjYgkZ13O 154/775

765プロの面々と話していると、すぐに仲良くなれそうな気がしてきます。これも765プロの特色なのでしょう。

自然とみんなが仲良くなれる……そんな雰囲気が醸し出されています。

気付けば、時間はお昼過ぎになっていました。



貴音「あの、レッスンなどは無いのでしょうか?」

律子「レッスン?……ああ、今日は全員休みよ」

律子「今日はあなた達の歓迎会なんだから、もっとゆっくりしてちょうだい」

204 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:28:23.36 tjYgkZ13O 155/775

貴音「なんと。てっきり厳しいレッスンが待っているものかと思いました」

律子「まあまあ、まずは親睦を深めましょ。レッスンは明日でもできるじゃない?」

律子「時間も時間だし……さあみんな、お昼ご飯の時間よ!」

そう言うとどこからか、律子嬢はたくさんの食べ物を持ってきました。

……思わず、わたくしの腹の虫が。

律子「ふふ、体は正直なのね。ほら、食べて食べて!」

そこまで言われては、断るのが無礼というもの……では、お言葉に甘えて。

205 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:30:16.83 tjYgkZ13O 156/775


千早「四条さん……結構食べるんですね……」

如月 千早が驚いた顔でこちらを見ています。

少し食べ過ぎてしまいました……皆に引かれてしまったでしょうか……?

春香「でも、貴音さんってとっても美味しそうに食べますよね。そこも貴音さんのいいところだって思いますよ!」

やよい「そうですよ!たくさん食べることはいいことですー!」

……そんなことはなかったようです。

206 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/14 18:32:19.21 tjYgkZ13O 157/775


わたくしが満腹になる頃、『親睦を深める会』は終わりました。

わたくしが食べる量は、一般男性が食べる量以上だと言われたことがあります。

ですがどれだけ食べたのかは、わたくし自身も見当がつきません……。


ふぅ……まこと、美味でした……ごちそうさまでした。

210 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:00:21.22 gHeK1woZO 158/775


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


765プロに入って数日。

わたくしはレッスンをこなしつつ、日々を過ごしておりました。

とは言っても、わたくし達はまだ入社したばかり。まずは基礎を作るための体力作りの鍛錬ばかりです。

この頃のわたくしの体は激しい運動に慣れていなかったので、とても助かりました……

身体能力は戻った時点のまま……これが『意識だけ』の時間遡行の弱点、と言えましょう。

211 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:02:18.02 gHeK1woZO 159/775

もっとも『意識』のみは未来のものであるため、こつは既につかめています。

そのためか、鍛錬自体はそこまで厳しいものには感じられませんでした。

ーーですが、本格的なレッスンはもう少し先のようですね……。

212 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:04:20.54 gHeK1woZO 160/775

そしてとある朝。

わたくしと響は、他愛ない話をしながら事務所へと向かっておりました。

「でさー、春香が……」

貴音「ふふ、春香らしいですね」

765プロの皆と親しくなるのに全くと言っていいほど時間がかからなかったためか、今では全員下の名前で呼ぶようになっております。

呼び捨てでなければ、なぜか違和感を感じるような……そんな気がするのです。不思議なものですね……。

213 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:08:17.34 gHeK1woZO 161/775

そしてわたくしは、いつものように事務所に到着しました。

貴音「おはようございます」

「おはようございまーす!」

小鳥「うふふ。貴音ちゃん、響ちゃん、おはよう」


おや……なにやら小鳥嬢がご機嫌に見えます。何かあったのでしょうか?

214 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:10:17.63 gHeK1woZO 162/775

貴音「小鳥嬢、なにやらご機嫌ですね。何かあったのですか?」

小鳥「うふふ、実はね……」







小鳥「この事務所に、待望のプロデューサーが来ることになったのよ!」

215 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:12:17.79 gHeK1woZO 163/775

……なんと!!!

ついに、この時が来たのですね!

貴音「なんと!どんな方なのですか?」

小鳥「私自身もまだ会ったことはないんだけど……聞いた話だと男性で、優しい誠実な方だそうよ?」

216 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:14:17.60 gHeK1woZO 164/775

「へぇ、プロデューサーかぁ……どんな人か気になるなぁ」

貴音「おや、響は嬉しくないのですか?」

「嬉しいに決まってるぞ!でも、あんまり実感が湧かなくて……」

そこまで長くアイドルとして活動していない響としては、そこまで実感が湧かないのも無理もないかもしれません。

217 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:16:20.82 gHeK1woZO 165/775

貴音「して、その方はいついらっしゃるのでしょうか?」

小鳥「今日の朝礼で顔合わせだって、社長からメールで回ってきたけど。貴音ちゃん、見てないの?」

貴音「めーる、ですか……生憎、わたくしは最近の機械に疎く、携帯電話なるものを持っておりませんゆえ」

小鳥「あ……そういえば、そうだったわね……今度、見に行きましょうか」

貴音「はい、よろしくお願い致します」

218 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:18:18.83 gHeK1woZO 166/775

まさか、携帯電話を持っていない煽りが早くも現れるとは……

やはり、持っておかねば不便なのでしょうか。



持っていたとしても、使いこなせるかどうか不安ですが……

219 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:20:18.27 gHeK1woZO 167/775



さて、朝礼の時間が近づいて参りました。

事務所には既に全員が揃っており、朝礼が始まるのを待っております。

まだ知らされていないのか、入ってくるであろうプロデューサーのことは話題に上がっておりません。

そして、階段を上ってくる音が……

220 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:22:22.93 gHeK1woZO 168/775

社長「やあ、おはよう諸君。それじゃあ、朝礼を始めようかね」

「社長、今日の朝礼、なんか早くないですか?」

社長「その通り。実は、皆に言っておかねばならないことがあるのだよ」

雪歩「言っておかないといけないこと?……もしかして、悪い話ですか?例えば、倒産とか……!?」

社長「そ、そんな縁起の悪い話はよしてくれたまえ……逆だよ、君たちにとってはいい話に違いない」

221 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:24:23.36 gHeK1woZO 169/775

社長「ついに、我が765プロにプロデューサーが来ることになったのだよ!」

その言葉が放たれた途端、事務所内がより一層騒がしくなりました。

新しいプロデューサー、その言葉は皆を大いに喜ばせる言葉だったのです。

勿論、それはわたくしにとっても嬉しい言葉に違いありません。

222 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:26:58.68 gHeK1woZO 170/775

春香「い、いったいどんな人なんですか!?」

社長「ははは、そう焦らなくてもいいじゃないか。優秀な人材であることは、私が保証するよ」

社長「では、紹介しよう。入ってきてくれたまえ!」

事務所の扉が開かれました。


そして、一人の男性が事務所に入って来ます。

黒縁の眼鏡に、ぴしっとした黒い背広。それに、青地に黒の縞模様が施されたねくたい。

優しげな表情を浮かべた、まだ二十歳くらいの男性は、皆の顔を見渡してこう言いました。

223 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/21 18:28:39.44 gHeK1woZO 171/775






「は、初めまして。ここでプロデューサーとして働く事になった、赤羽根です。よろしくお願いします!」







226 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/28 15:31:02.17 vh3T15N4O 172/775

ーーああ。

夢では、無いのですね……?

この日が来るのを、どれほど待ちわびたことでしょう。

……ようやく『再会』できましたね、あなた様。

227 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/28 15:34:14.33 vh3T15N4O 173/775

「……」チラッ

貴音「っ……///」

不意に、赤羽根殿と目が合いました。

久しぶりにお会いしたからでしょうか?目が合うだけで胸が高鳴ります。

おそらく、今のわたくしの顔は真っ赤になっていることでしょう……気付かれていなければ良いのですが。

まるで病のような、この気持ち。

わたくしは再認識しました……わたくしは、やはりこの方を好いているのだと。

228 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/28 15:36:07.10 vh3T15N4O 174/775

わたくし達の時と同様に、事務所の皆の自己紹介が終わった後、歓迎会が開かれました。

わたくしとしては、また美味しい食べ物が食べられるというだけで幸せでいっぱいです。

ましてや、赤羽根殿が近くにいて下さる……そのことも合わせると、わたくしの胸は幸せで張り裂けてしまいそうに感じます。

これから毎日このような日々が続くと思うと、嬉しくてなりません。

229 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/28 15:38:03.20 vh3T15N4O 175/775

真美「兄ちゃん、いくつなの?」

「はは、いくつに見える?」

あずさ「プロデューサーさんって、ここに来る前は何をされていたんですか?」

「大学で勉強してました。プロデューサーとしての仕事はだいたい研修で学んだので、安心して下さい」

おやおや、赤羽根殿は早速質問攻めにあっているようですね……ふふっ。

230 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/28 15:40:04.08 vh3T15N4O 176/775

やはり765プロの雰囲気がそうさせるのでしょうか、もうすっかり皆と打ち解けているように見えます。

先程までの敬語も取れ、より親しみやすい雰囲気を醸し出しておられます。



ーー出遅れてしまいました。

こうしてはいられません、わたくしも赤羽根殿とお話しせねば!

231 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/28 15:42:10.99 vh3T15N4O 177/775

貴音「……プロデューサー?」

「あっ、君は……確か、四条 貴音ちゃんだったね。改めてよろしく」

貴音「はい、よろしくお願い致します」

貴音「皆と同様に、わたくしのことは下の名前で……『貴音』と呼んで下さいませ」

「分かった。よろしく、貴音」



久しぶりにお話しすることができました。とても嬉しいです……。

少しの間、わたくしと赤羽根殿は談笑を交わしました。

232 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/28 15:44:02.58 vh3T15N4O 178/775

「……にしても貴音って、少し変わってるよなぁ」

貴音「ふふ、そうかもしれませんね。よく言われます」

「うん。なんだか個性的で、ミステリアスな感じがするよ」

貴音「ーー昔はとても気にしていて、何とか直そうとしたこともあるのですが……」

貴音「これも個性の一つとして、わたくしの武器とすることに致しております」

貴音「アイドルたるもの、何かしらの個性はあった方が良いでしょうから。ふふっ♪」

233 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/28 15:46:08.20 vh3T15N4O 179/775

「へぇ……もうそんなことまで考えてるのか。偉いなぁ」

貴音「いえ、そんなことは……」

961プロにいた頃はセルフプロデュースが基本でしたので、自分の売り出し方などは自分で知っていなくてはなりませんでした。

……ということも、誰にも話すことはできません。

うっかり喋ってしまうと、前の時間軸に強制送還させられてしまいますので……



その後もいくつか会話を交わし、赤羽根殿との会話はそこで途切れました。

234 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/28 15:50:41.67 vh3T15N4O 180/775

赤羽根殿との会話が終わった後、わたくしは皆と会話をかわしつつ、ひたすら料理を食べておりました。

あまりにも美味な料理の数々に、わたくしの箸は止まりません。ああ、幸せです……。


……まこと、美味です。……ふむ、これもまた。


ーーはしたない、と思われてしまうでしょうか?

235 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/07/28 15:54:56.39 vh3T15N4O 181/775

やがてわたくしが満腹になる頃、歓迎会は終わりました。

赤羽根殿は楽しそうに笑っておられます……まこと、良き笑顔です。

前回と同じようにレッスンは無く、そのまま解散となりました。

238 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:00:07.63 8ZSDEzmlO 182/775



「貴音!自分と一緒に帰ろうよ!」

貴音「勿論です。では、行きましょうか」

響に誘われ、わたくし達は一緒に帰ることとなりました。

事務所から外に出てみると、もうすっかり辺りは暗くなっており、少しだけ欠けた月が顔をのぞかせております。

流石に都会の中では、輝く星空を見ることは難しいですが……。

239 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:02:02.33 8ZSDEzmlO 183/775

「あれ、貴音に響じゃないか」

「あ、プロデューサー!」

ちょうどそこに、赤羽根殿が姿を見せました。

どうやら帰る時間がわたくし達と重なったようです。

貴音「プロデューサーも、今からお帰りですか?」

「ああ、そうだよ」

240 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:04:03.64 8ZSDEzmlO 184/775

「あれ?そういえばプロデューサー、仕事があるんじゃないの?」

「ああ、仕事は明日からだって社長に言われたんだよ」

「今日やったのは、みんなと喋ることで顔と名前を一致させたくらいかな」

今日のレッスンが無かったのとは違い、事務作業は毎日行われているはずです。

おそらく、『初日から作業をさせるのは酷だ』と小鳥嬢と律子嬢、それに高木殿が考えたのでしょう。

241 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:06:45.57 8ZSDEzmlO 185/775

「そうだ、家まで送って行くよ。俺、車で来てるんだ」


「えっ、いいの?」

「もちろん。こういうのもプロデューサーの仕事だと思うしさ」

「ラッキー!ありがとう、プロデューサー!」

貴音「ふふ、ありがとうございます」

「どういたしまして。じゃあ、駐車場まで行こうか」

わたくし達は、そのまま裏の駐車場に向かいました。

242 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:08:10.19 8ZSDEzmlO 186/775

駐車場には、自動車が三台。

一つはわごん車。律子嬢が使っているものです。

二つ目は普通の乗用車。おそらく、高木殿のものでしょう。

ということは、残った最後の一つが彼の自動車に違いありませんね。


案の定、赤羽殿は自動車の鍵を取り出して、その自動車の扉の鍵を外しました。

「開いたぞ。さあ、好きなところに乗ってくれ」

243 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:10:11.86 8ZSDEzmlO 187/775

響が近寄るより早く、わたくしは『助手席』の扉を開き、そこに座りました。

たとえ響といえど、この席を譲る訳には行かないのです……!

「ん?貴音、なんで助手席なんだ?」

貴音「助手席から見える景色は、まこと良きものですので。……だめ、ですか?」

「いや、別に構わないけどさ。てっきり響の隣に座るのかと思って」

単に赤羽根殿の隣に座りたかった、というのが本音なのですが……恥ずかしくて口には出せません。

244 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:12:02.38 8ZSDEzmlO 188/775

自動車はゆっくりと動き始めました。

車内では、響を交えて他愛ない会話が交わされます。





……ですが、楽しい時間というものはすぐに過ぎ去ってしまうもの。

あっという間に響の家の前まで着いてしまいました。

245 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:14:02.68 8ZSDEzmlO 189/775

「えっと、ここだったかな?」

「うん、間違いないぞ。それじゃあまた明日ね、二人とも!」

貴音「ええ。ごきげんよう、響」

「ああ、また明日」


響が降り、自動車はわたくしの家に向かって走り始めました。

246 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:16:02.83 8ZSDEzmlO 190/775

再び交わされ始める、他愛ない会話。

こうしてお話ししているだけでも、わたくしは幸せです……。

この時間が、永遠に続けばいいのに。……そう、思ってしまいます。

早く、赤羽根殿を『あなた様』とお呼びしたい。共にらぁめんを食べに行きたい。あなた様との逢瀬を楽しみたい……。

そのような思いばかり、私の頭の中に浮かんできます。

247 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:18:08.85 8ZSDEzmlO 191/775




そしてやはり、楽しい時間とは早く過ぎ去ってしまうもの。

気がつくと、わたくしが住む家の前に到着しておりました。

「ここで良かったかな?」

貴音「あ……はい。ありがとうございました」

「どういたしまして」


名残惜しいですが、時間も時間ですし……仕方ありませんね。

248 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:20:07.82 8ZSDEzmlO 192/775

貴音「……それでは、プロデューサー。ごきげんよう」

「ああ、また明日。ーー明日は、もっと色々話そうな?」

貴音「……!」

「いやぁ、もうちょっと話していたそうだったからさ」

「俺ももう少し話していたかったけど、時間も時間だし」

「だから、『また明日』」

249 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:22:14.52 8ZSDEzmlO 193/775

貴音「……くすっ。あなた様は、なんでもお見通しなのですね」

「あ、あなた様!? なんだそれ!?」

貴音「これからはあなた様を、そうお呼びさせていただくことに致します。よろしいでしょうか?」

「なんかこそばゆいけど……まあ、いいか。好きに呼んでくれ」

貴音「かしこまりました、あなた様♪」

250 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/04 18:24:24.13 8ZSDEzmlO 194/775


別れの挨拶をしたのち、赤羽根殿の自動車は、再びゆっくりと走り始めました。





今日は、本当に良き日でした。

ーーこうしてまた、あの方にお会いすることができたのですから。

早く呼びたいあまりつい、あの方を『あなた様』とお呼びしてしまいましたが、少々早すぎたでしょうか?

……まあ、前の時間軸でも会ったその日から『あなた様』とお呼びしていましたし、大丈夫でしょう。



また明日からも、よろしくお願いしますね、あなた様。

253 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:00:14.96 ryRjlskOO 195/775



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



次の日、わたくしは普段より少し早めに目を覚ましました。

何を隠そう、今日は赤羽根殿との初めてのレッスンなのです。

赤羽根殿が入社したと同時に、わたくしと響は本格的なレッスンに参加することを許されました。とても喜ばしいことです!

赤羽根殿に、少しでも良い印象を持って頂かなければ……。

254 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:02:03.03 ryRjlskOO 196/775

いつもより念入りに体を清め、しっかりと朝食を摂ります。

わたくしが出せる最大のパフォーマンスを、あの方にお見せしなければなりません!

貴音「すぅ、はぁ……よしっ」

やる気は十分。いざ、事務所へと参りましょう……!

255 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:04:02.79 ryRjlskOO 197/775



貴音「たのもう!」

「……貴音?」

貴音「あっ……///」

……少々意気込みすぎたようです。

赤羽根殿も唖然としておられます、恥ずかしい……///

顔から火が出そう、とはこのことに違いありません。

256 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:06:06.81 ryRjlskOO 198/775

貴音「お見苦しいところをお見せして、申し訳ございません……」

「いや、別に気にしてないよ。ちょっとびっくりしただけだから」


「それに、なんか可愛かったし。貴音の新しい可愛さを発見した、って感じかな?」

貴音「か、かわ!?」///

……うぅ///

みるみるうちに、自分の顔が赤くなっていくのが分かります。

お慕いする男性に『可愛い』と言われると、嬉しいですが恥ずかしいですね……

257 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:08:02.67 ryRjlskOO 199/775

「さて、今日の予定は……うん、レッスンだな」

「来たばっかりで悪いんだけど、準備してくれるか?」

貴音「わ、分かりました」

恥ずかしさのあまり、わたくしはその場からそそくさと逃げ出してしまいました……。

258 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:10:04.87 ryRjlskOO 200/775

レッスンのために借りた場所へ向かい、更衣室でじゃーじに着替えます。

765プロの事務所はそう広くないため、レッスンは基本的にどこか他の場所を借りて行われるのです。


今回は千早、春香、やよいとのボーカルレッスン。

気合を入れて臨むことに致しましょう……!

259 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:12:06.07 ryRjlskOO 201/775

「よーし、今日は俺がレッスンを見るからな」

今日はトレーナーをつけず、赤羽根殿が全てのレッスンを担当されるようですね。

「まずはみんなの歌唱レベルを知りたいし、一曲ずつ歌ってみてくれないか?」

春香「分かりました!じゃあ、私から行きますね!」

「お、まずは春香からか。頼むよ」

春香「はいっ!」

260 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:14:05.33 ryRjlskOO 202/775

……


「……うん、なんというか」

春香「す、すみません。私、歌うのは好きだけどあんまり上手じゃなくって」

「いや、悪くはないと思うよ」


この頃の春香はまだ、歌うことがあまり得意ではないようです。

すぐ横で千早が、少し険しい顔をしています。

『口出ししたいけど、できない』……そんな顔です。

261 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:16:29.06 ryRjlskOO 203/775

「そんなに上手くない、と感じるかもしれないけど、春香は楽しそうに歌えるじゃないか」

「ただ上手けりゃいい、って訳じゃないんだから、もう少し自分の歌に自信を持ってもいいと思う」

「上手さなんて、これからのレッスンで伸ばしていけばいいだけだからさ」

春香「プロデューサーさん……ありがとうございます!私、もっと頑張りますね!」



たった一回聞いただけで、春香の歌の本質を見抜くとは……赤羽根殿は只者じゃありませんね。

あの時間軸で、765プロのアイドル全員をトップアイドルにした手腕は本物のようです。

まだ新人であるにもかかわらず、その片鱗が現れているように感じます。

262 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:18:04.82 ryRjlskOO 204/775

「さ~て、次は誰の番だ?」

やよい「じゃあ、私が歌いまーす!」

赤羽根殿が話すやいなや、さっとやよいが手をあげました。

「やよいだな。よし、頼む」

やよい「うっうー!行きますよぉ~!」

263 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:20:03.78 ryRjlskOO 205/775

……


やよい「あの、プロデューサー、どうでしたか?」

「うん、なんだか元気が湧いてくる歌声だなぁ、って思ったよ」

「そうだな、『元気をくれるアイドル』として売り出していくのがいいな」

やよい「私、それくらいしかできませんから……えへへ」

やよいの歌声を聞くと、本当に元気が湧いて来る気がします。

癒されるような、元気付けられるような……うまくは言えませんが。

264 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:22:04.37 ryRjlskOO 206/775

やよい「私、あんまり歌が上手じゃないんですけど……これでいいんですか?」

「まあ、直したほうがいいところは幾つかあったかもしれない。でもな?」

やよい「ーーでも?」

「一生懸命に歌うやよいは、きっとみんなに元気を与えられるはずだ」

「春香と同じように、少しづつうまくなっていけば大丈夫だよ」

やよい「えへへ、照れちゃいます~……プロデューサー、ありがとうございます!」

265 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:24:21.99 ryRjlskOO 207/775

さて、残るはわたくしと千早の二人。

千早の後に歌うのは、少し気が引けますね……。

完成度が高い歌、千早の歌を聞いた後では、わたくしの歌はどうしても霞んで聞こえてしまうでしょうから。

ここはわたくしが、先に歌うことに致しましょう。

貴音「プロデューサー、次はわたくしが歌ってもよろしいでしょうか?」

「分かった、次は貴音だな。千早は、最後でいいか?」

千早「はい、構いません」

266 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:26:04.19 ryRjlskOO 208/775

千早「まだ聞いたことがない四条さんの歌、気になりますし……」

春香「そういえば私も、まだ貴音さんの歌聞いたことないなぁ。楽しみです!」

やよい「私もです!ワクワクしちゃいます~!」

そこまで期待されると、少々歌いづらいですね……少し緊張してしまいます。


ですが、期待には答えねばなりませんね。

貴音「ご期待に応えられるように頑張ります。それでは、聞いて下さい……」

267 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:28:08.89 ryRjlskOO 209/775

……


貴音「……ふう。いかがでしたか?」

千早「あ……」

春香「……」

やよい「……」

「……!」

皆、驚いた顔で口を開けたまま、何も喋りません。

何かまずいことでもしてしまったのでしょうか……?

268 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:30:03.59 ryRjlskOO 210/775

春香「ーー貴音さん、めちゃくちゃ上手じゃないですか!私、感動しちゃって……!」

やよい「はわぁ……びっくりしすぎて、何も喋れませんでした……」

千早「……なんて素敵な歌声……今の私じゃ、全然敵わない……!」

貴音「ーーなんと」

ーー 体は過去のものですが、技術は未来のものであることを忘れていました……。

アイドル候補生としては、やりすぎであったかもしれません。

269 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:32:03.68 ryRjlskOO 211/775

「ーーすごいじゃないか、貴音!俺も感動した!」

貴音「あ、ありがとうございます……」

「こんなにすごい歌唱力を持ってるなんて、思ってなかったよ」

「社長は本当に、金の卵を見つけてきたんだなぁ……」

……怪しまれてはいないようですね。

しかし、そんなに褒められると照れてしまいます……///

270 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:34:03.50 ryRjlskOO 212/775

「さて、最後は千早だ。今の歌の後で歌いにくいかもしれないけど、いけるか?」

千早「……はい、大丈夫です。むしろ、やる気が湧いてきました」

春香「え、なんで?」

千早「今の四条さんの歌を聞いて、正直今の自分じゃ勝てないって、そう思ったの」

千早「でも、負けていられない。こんなところで諦めるわけにはいかない」

千早「そう思ったら、なぜか頑張れる気がして……」

271 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/11 20:36:03.66 ryRjlskOO 213/775

わたくしに対する『対抗心』が、千早に火をつけたのかもしれませんね。

『765プロの歌姫』である千早なら、きっと素晴らしい歌を披露してくれるに違いありません。

わたくしも期待して聞くことに致しましょう。


「それじゃあ千早、頼む」

千早「はい……では、聞いて下さい」

275 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:00:16.15 VaRpRX/YO 214/775


……



千早「~~~♪」

貴音「……!」

……流石は千早、ですね。

周りの人々を魅了するような、素晴らしい歌声です。

ーーですが……。

276 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:02:22.13 VaRpRX/YO 215/775

「……これまたすごいな」

やよい「そうですよね!千早さんなら、貴音さんにだって負けないです!」

「ああ、そうだな。千早には『歌姫』の称号がピッタリだ」

千早「私には、歌しかありませんから」

千早「ーーですが、まだ……」

277 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:04:24.76 VaRpRX/YO 216/775

「うん。貴音も千早も、まだまだこれからだな」

春香「え?」

……やはり、赤羽根殿は見抜いておられましたか。

やよい「でも、貴音さんも千早さんも、とっても上手でしたよ?」

「それは分かってる。でも、まだ足りない部分がいくつかある、っていうことだよ」

278 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:06:04.61 VaRpRX/YO 217/775

千早「そうですね。私も、まだ私自身の歌が完璧だとは思ってませんし……」

貴音「わたくしもそう思います。まだ足りない部分がある、という点には同意せざるを得ません」

春香「えええっ!? あんなに上手だったのに?」

甘いですよ、春香。

『歌う』ということは、そんなに楽な物ではありません。

279 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:08:40.64 VaRpRX/YO 218/775

「まず一つ挙げるとすれば、貴音は途中で声を伸ばしきれてなかった」

「これは単純に、肺活量とかの問題だろうな」

「音程なんかは何の問題もなかったから、あとは細かいところを直していくだけでいいと思う」

貴音「やはり、ですか。見抜いておられたのですね」



『未来』の技術に、『過去』の体がついて行っていない、と言ったところでしょうか。

やはり、鍛え直さねばなりませんね……。

280 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:10:41.53 VaRpRX/YO 219/775

「千早は……なんと言うか、まだ表現力が足りないんじゃないかと思う」

「なんかこう……うまく言えないけど、気持ちがこもりきってないっていうかさ」

「上手いんだけど、聞いててなんだか悲しくなる……そんな歌だった」

千早「……!」

千早ははっとした表情を浮かべました。

自分の足りないものを的確に指摘された、と感じたからでしょうか?

281 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:12:30.51 VaRpRX/YO 220/775

「あと、歌ばかりやって他のレッスンが足りてないことがバレバレだぞ?」

千早「そんなことまで気が付くんですね。ですが、歌にはそんなもの必要ないですし……」

「そんなことはないよ。ビジュアルレッスンも、ダンスレッスンも」

「全く関係がなさそうなグラビア撮影やCMなんかの仕事でも、全て歌を引き立たせるための役割を担ってくれると俺は信じてる」

「食わず嫌いじゃ、何も始まらない。あらゆる経験は、きっと千早を成長させてくれると思うよ」

千早「……」

「ーーどうしても、嫌か?」

282 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:14:06.25 VaRpRX/YO 221/775

千早は返事をしません。

自分の信念は曲げたくない、でも赤羽根殿が言っていることも正しい……おそらくそう思っているのでしょう。

彼女のぷらいどが、まだ邪魔をしているのかもしれません。

283 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:16:04.99 VaRpRX/YO 222/775

千早「……プロデューサー」

しばらく時間が経ったのち、ようやく千早は口を開きました。

千早「ーー少しだけ、あなたを信じてもいいですか?」

「ああ、勿論。きっと千早を、今以上に成長させてみせるよ」

284 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:18:10.58 VaRpRX/YO 223/775

「いや、今の言葉はちょっとおかしかったな。……俺は誰一人、諦めるつもりはない」

「夢は大きく。みんなまとめて、トップアイドルにしてみせる!」

「ーーとは言っても俺、まだ新人だからなぁ」

「すぐに、って訳にはいかないかもしれないけど。ははは……」





みんなまとめて、トップアイドル。

あの時間軸で本当にそのことを実現していたのですから、きっと……。

285 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/18 18:20:05.29 VaRpRX/YO 224/775


その後、基礎的な鍛錬などをこなしてボーカルレッスンは終了。

そしてわたくしは赤羽根殿と営業周りを行い、その日の予定は終了となりました。


290 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:32:07.72 cRR+zbvUO 225/775

たか「「ただいま戻りました」」

小鳥「プロデューサーさん、貴音ちゃん、おかえりなさい♪」

ようやく事務所に帰ってきたのは、もう日も沈みかけた夕暮れ時。

赤羽根殿は自分の机の椅子に、わたくしはそふぁーに腰掛け、一息つきます。

「貴音、もう帰っても大丈夫だが……どうする?」

貴音「いえ、まだ少しやりたいことがありますので」

291 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:34:16.39 cRR+zbvUO 226/775

「そっか。帰る時は言ってくれよ?」

「ーーさて、と。俺は事務仕事をするかな」

休む暇なく、赤羽根殿はぱそこんを開き、事務作業に取り掛かります。

途中小鳥嬢の助けを借りながらも、着実に仕事をこなしているようです。

292 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:36:10.69 cRR+zbvUO 227/775

律子「ただいま戻りました~」

小鳥「あ、おかえりなさい、律子さん♪」

「おかえり、律子」

少しして、律子嬢が事務所に帰ってきました。

293 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:38:24.18 cRR+zbvUO 228/775

律子「お疲れ様です。私も手伝いますよ」

「いや、疲れてるだろ?もう少し休みなって」

律子「ですが……」

「いいからいいから。事務員兼任とはいえ、仮にも律子はアイドルなんだから。今はプロデューサーの俺に任せとけって」

律子「はぁ、じゃあお言葉に甘えます。でも、すぐに参加しますからね!」

294 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:40:18.74 cRR+zbvUO 229/775

……

「ーーうっしゃ、終わった!」

小鳥「私も終わりました……ふぅ」

律子「お疲れ様でした、プロデューサー殿。仕事、早いですね」

「一応、学んではいるからな。コツさえつかめば、なんとか」

数十分後、三人は今日の事務仕事を終わらせてしまいました。

295 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:42:19.94 cRR+zbvUO 230/775

律子「そうですか……私はもう上がりますけど、お二人はどうします?」

小鳥「私も上がろうかな。ちょっとやりたいこともあるし……」

「じゃあ、俺ももう上がるか。社長もいないんでしたっけ?」

小鳥「はい。社長なら『大きな仕事が入るかもしれない』って、朝から出張に行ってますよ?」

「そっか。みんなも直帰みたいだし、戸締りして帰るか。貴音も帰る準備しとけよ」

貴音「はい。少々お待ち下さい……」

296 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:44:08.40 cRR+zbvUO 231/775

小鳥「じゃあ、鍵は私が持っておきますね」

律子「お願いします、小鳥さん」

小鳥「はい、任されました♪」

「それじゃ、解散ですね。お疲れ様でした~」

ことりつ「お疲れ様でした~」

297 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:46:14.06 cRR+zbvUO 232/775

ーーわたくしも帰ることに致しましょう。

「貴音、お疲れさん」

貴音「はい。お疲れ様でした」

「もう遅いし、今日も送っていこうか?昨日の話の続きもしたいしさ」

貴音「良いのですか?では、お言葉に甘えて……」



昨日と同じように(昨日とは違い、響はいませんが)、わたくしは助手席に乗り込みます。

しーとべるとを締めると、自動車はゆっくりと走り始めました。

298 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:48:27.95 cRR+zbvUO 233/775

自動車はわたくしの家に向かって走り続けます。


「……そういえばさ」

貴音「はい、なんでしょう?」

「今日のレッスン、本当にすごかったよ。歌、本当に上手いんだな」

貴音「いえ、とんでもありません……わたくしなんて、まだまだです」

「そう謙遜しなくても。みんな本当に、見所のあるアイドルばっかりだよ」

299 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:50:06.21 cRR+zbvUO 234/775

「正直みんな、候補生とは思えないくらいの仕上がりだった」

貴音「……そんなに褒めても、何も出ませんよ?」

「それだけの物だった、ってことだよ」

「貴音は……千早と二人で歌姫系のユニットとして売り出したら、大ブレイク間違いなしだと思うんだけどなぁ」

300 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:52:30.07 cRR+zbvUO 235/775

貴音「デュオユニット、という訳ですか?」

「うん。そうだな……輝く感じの『星』に、売り出していくスタイルの『歌姫』を加えて、『スターライト・ディーヴァ』なんてどうだろう?」

「……なーんてな。まあ、まだ全員をきちんと見たわけじゃないからなんとも言えないけどね」

貴音「ふふ、あなた様は本当に仕事熱心なのですね」

「ははは……ずっと、こういう仕事をするのが夢だったんだ。だから色々考えちゃってさ」

「拾ってくれた高木社長には、本当に感謝してるよ」

301 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/08/25 16:53:54.88 cRR+zbvUO 236/775

……本当は、また響、美希と共に『プロジェクト・フェアリー』として活動したいのですが……。

赤羽根殿の方針もあるでしょうし、わがままは言っていられませんね。

その後もいくつか会話を交わし、わたくしは家に帰り着きました。

305 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:30:19.00 O2t0GlPWO 237/775



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



赤羽根殿が事務所にやって来てから数週間。

トレーナー殿や赤羽根殿、高木殿など様々な人々のおかげで、わたくしはデビューしてすぐに多くの人気を獲得することができました。

それは事務所の皆も同じことで、今の765プロのアイドルは全員、デビューして数週間にもかかわらず売れっ子アイドルなのです。

……仕事がうまく行った時に赤羽根殿がして下さる『なでなで』、あれは素晴らしきものです。くせになってしまいます……///

306 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:32:08.41 O2t0GlPWO 238/775

さて、今日は朝早くに事務所に集合、とのことですが……。

おっと、もう朝礼が始まるようですね。



「さて、みんな集まったな?今から重大発表をするぞ!」

赤羽根殿は全員が集合するやいなや、そうおっしゃいました。

一体何なのでしょうか?

「さて、俺からの重大発表は三つだ。よく聞いてくれよ……」

307 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:34:09.60 O2t0GlPWO 239/775

「一つ目、律子が本格的にプロデューサー業を始めることになった!」

あみまみ「「ええ〜!りっちゃんアイドル辞めちゃうの!?」」

律子「見事にハモったわね……大丈夫よ、これまで通り兼任で頑張るから」

律子「事務作業に割ける時間は少なくなるけれど、プロデューサー殿もいてくれるからね」

律子「ふふふ……新ジャンル、『プロデューサー系アイドル』の開拓よ!」

ーーふふ、律子嬢らしい考えですね。

308 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:36:08.47 O2t0GlPWO 240/775

「さて、どんどん行くぞ。二つ目!」

「……律子が早速ユニットを組んで売り出すそうだ。これから早速、メンバーの発表がある」

その言葉が発されると、場の空気が一瞬で変わりました。

ーーユニットを組むということはそれだけ売り出しやすくなり、トップアイドルに近付きやすくなるということですから。

もし、自分が選ばれたら……そう皆が考えるのも無理もありません。



「じゃあ律子、発表よろしく」

309 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:38:13.35 O2t0GlPWO 241/775

律子「分かりました。それじゃあ、発表するわよ……」

事務所には、先程以上の緊張感がな漂っていました。

どこからか『ごくり』、と息を飲む音が聞こえてくるような気も致します。


……その静寂の中、律子嬢が口を開きました。

310 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:40:07.95 O2t0GlPWO 242/775

律子「それじゃ、まずリーダーから発表するわね」

律子「リーダーは……あなたよ、伊織」

伊織「!!」

皆はどよめき、伊織に拍手が送られます。

311 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:42:06.87 O2t0GlPWO 243/775

伊織「ま……まあ、とっ、と、当然よね~♪」

伊織「このスーパーアイドル伊織ちゃんが、選ばれないわけがないわよね……!」

「おいおい、そう言う割には声が震えてるし、にやけ顔が隠せてないぞ?」

伊織「うるさいわよ、このへっぽこプロデューサー!///」

そう悪態をつきながらも、伊織はほっとした表情を浮かべています。

312 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:44:13.52 O2t0GlPWO 244/775

律子「全く、素直じゃないんだから……まあいいわ」

律子「続いて、二人目。二人目は……あずささん、お願いします」

再びどよめきが起こり、あずさに拍手が送られます。

あずさ「あ、あらあら~?」

律子「あずささん、同じく前に出て下さいね」

あずさ「わ、私なんかでいいのかしら~? 他のみんなだって、十分すごいのに……」

律子「私が選んだのはあずささんです。もっと自信を持って下さい♪」

313 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:46:20.41 O2t0GlPWO 245/775

律子「さあ、これで最後のメンバーね。三人目は……亜美、あんたよ」

亜美「ええっ!? 亜美が!?」

三たびどよめきと拍手が起こります。



……しかし、真美の表情が僅かに曇ったように見えました。

314 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:48:06.42 O2t0GlPWO 246/775

亜美「な、なんで亜美なのさ!」

亜美「こんなおっちょこちょいの亜美なんかより、真美の方が向いてるっしょ!」

真美「亜美……」

亜美は律子嬢に抗議します。何か思う節があるのでしょうか。

……いや、真美の気持ちをいち早く感じ取ったからに違いありません。

315 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:50:09.95 O2t0GlPWO 247/775

「……よし、そこは俺が説明しよう」

真美「え、兄ちゃんが……?」

「ああ。実は、このことは前から律子に相談を受けててさ。俺もユニットの編成に携わったんだよ」


赤羽根殿はそう言うと鞄から企画書を取り出します。

そして、それを磁石でほわいとぼーどに貼り付けました。

316 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:52:32.45 O2t0GlPWO 248/775

「おっと、まだユニット名を発表していなかったな。ユニット名は……『竜宮小町』」

「メンバー全員に水……海に関する文字が付いているから、そう決めたんだ」

伊織「『水』もそうだけど、『瀬』『浦』『海』の三文字ね?」

「その通り。先にメンバーを決めたから、後付けの名前なんだけどな」

317 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/01 16:54:35.22 O2t0GlPWO 249/775

貴音「……」

「そんな険しい顔してどうしたの、貴音?」

貴音「あ……いえ。なんでもありませんよ、響」

竜宮小町……前の時間軸には存在しなかったユニットです。

律子嬢がプロデューサーとして活動するという、前の時間とのずれを修正するためのものなのでしょうか?

322 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:30:09.51 ldctA6K9O 250/775

「さて、それじゃあ亜美の選考理由を発表しようかな」

……話が本題へと入り、真美の顔つきが少し強張ります。





「突然だが伊織、亜美と真美の大きな違いって分かるか?」

伊織「えっ……と、突然何なのよ?」

「まあまあ、いいから」

323 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:32:16.37 ldctA6K9O 251/775

伊織「そ、そんなこと言われても……」

真美「いおりんひどいよ→!亜美と真美の違いくらい見分けてよね!」

亜美「そうだYO!」

伊織「見分けるくらいならこの事務所の全員ができるわよ。でも、『大きな違い』って言われたら……」

亜美「……あり?そういやそだね」

真美「亜美と真美、おっきい違いなんてあるっけ?よく分かんないや」

324 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:34:07.35 ldctA6K9O 252/775

彼女達二人には、身長や体重などの違いはほとんどありません。

髪型や利き手などの一部を除けば、まるで鏡に写したかのようにそっくりなのですから。

亜美と真美の大きな違い、それは。

貴音「もしや、性格……でしょうか?」

真美「いやいや~、それはないYO、お姫ちん」

325 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:36:23.80 ldctA6K9O 253/775

「いや、正解だ」

亜美「ええっ、嘘でしょ?」

真美「亜美と真美、そんな性格に違いなんてないと思うけど……」

「いや、確かにある。ちょっと試してみようか?」

あみまみ「「 ? 」」

……試すとは、どうするのでしょうか?

326 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:38:10.81 ldctA6K9O 254/775






「亜美、真美、いつもみたいに俺に抱きついてみてくれないか?」





……一瞬で、周りの空気が凍りついたような気が致します。

伊織「この変態!ど変態!」

「プロデューサー、もしかして……」

「ま、待て!誤解だから!」

「ちゃんと俺なりの考えがあるんだって!信じてくれよ!」

327 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:40:26.64 ldctA6K9O 255/775

「別にやましい気持ちはないから、安心してくれ」

「『いつも通りに』イタズラする感じでやってくれればいいからさ」


亜美「なーんだ、イタズラなら、亜美達におまかせだよ!」

真美「えっ!ちょっと、亜美・・」

亜美は普通に赤羽根殿に抱きつきましたが、(飛びかかった、の方が正しいかもしれません)真美は少し躊躇しています。

328 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:42:08.19 ldctA6K9O 256/775




真美「……えいっ!」

少ししてから、真美も赤羽根殿に抱きつき(飛びかかり)ました。

「うぐっ……よし、降りてくれ。いてて……」

さて、これで何が分かったのでしょう?

329 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:44:46.85 ldctA6K9O 257/775

「さて、これで分かったか?」

やよい「うう~、分からないかも……」

春香「うーん……」

貴音「もしや」

千早「もしかして、抱きつく『前』の行動に意味があったのでは?」

「うん、正解」

ーーむぅ、先に答えられてしまいました……。

330 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:46:16.67 ldctA6K9O 258/775

「亜美は抱きつくのに抵抗がなかったが、真美には少し躊躇があった」

「その少しの『ためらい』の差が、選考の理由だよ」

「真美は亜美と比べて、自分の行動に躊躇が多くなり始めているからな」

331 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:48:11.76 ldctA6K9O 259/775

律子「ーー『竜宮小町』に必要だった要素は三つよ」

律子「一つ目は、『メンバーをまとめるリーダー』。これは伊織ね」

律子「二つ目は『やんわりと、かつしっかりリーダーを支えられる裏のリーダー』。これはあずささん」

律子「そして三つ目が、『ためらわずにメンバーを引っ張るムードメーカー』……これが亜美の仕事よ」


律子嬢と赤羽根殿は、それぞれの役割がきちんと決められているとおっしゃいました。

亜美が真美より優っている点を生かした結果、という訳だったようですね。

332 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:50:07.04 ldctA6K9O 260/775

「真美には、すまないことをしたと思ってる」

「でも、亜美よりも少し大人な真美なら、一人でも十分トップを目指せるって思ったんだ」

「だから真美を竜宮には入れなかった。……分かってくれるか?」

そう言って赤羽根殿は、真美に視線をやります。

真美「……」


少しの間が空いたのち、彼女は口を開きました。

333 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:52:29.07 ldctA6K9O 261/775

真美「……兄ちゃんもりっちゃんも、そんなに真美のことを考えててくれたんだね」

真美「そこまで期待されちゃ、頑張らないわけにはいきませんな!」

真美「真美、めっちゃがんばっちゃうかんね→!」


そこにあったのは、いつも通りの真美の笑顔でした。

二人の意向を汲み取り、元気を取り戻したようです……本当に良かった。

334 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:54:12.86 ldctA6K9O 262/775

「ーーさて、これで終わりじゃないぞ。三つ目の発表だ」

春香「あ……あはは、忘れてました……」

千早「もう、春香ったら……」



そういえば、まだ三つ目が残されていましたね。

最後に持ってくるあたり、重要なことである予感が致します。

335 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:56:08.75 ldctA6K9O 263/775




「三つ目は……俺もユニットを受け持つことになった、ということ」

「竜宮のメンバーは律子、それ以外のメンバーは俺が担当する」

「そこで俺に担当されるメンバーの中から、ユニットをまず一つ出そうと思うんだ」

「ユニットの内容までは、まだ決めてない。みんなで相談して決めてほしい」

336 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/08 16:58:40.82 ldctA6K9O 264/775

as「「「 …… 」」」

「そんじゃ、これで発表は終わりだ。俺は事務仕事してるから、なんかあったら声をかけてくれ」


そう言うと、赤羽根殿は自分の机に向かい、ぱそこんを立ち上げました。

……再びほんの僅かの静寂が、場を包みます。

341 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:30:10.69 98/Qh09KO 265/775


……


春香「……という訳で、誰がユニットとして活動するのかを決めようと思います!」

春香「司会は私、天海 春香でお送りします!」



千早「……誰に言ってるの、春香?」

春香「ふ、雰囲気だよ、雰囲気!」

春香が持ち前のりーだーしっぷで場をまとめます。

342 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:32:11.90 98/Qh09KO 266/775

春香「まずみんなに聞くよ。ユニットメンバーに入りたい人!」

すかさず、わたくしを除いた全員の手が上がりました。

「ユニットの方が早くトップアイドルに近づけるもんね。そりゃみんな手を挙げるか」

雪歩「わ、私だって……トップアイドル目指してるんですぅ!」

皆はそれぞれに自分の思いを語ります。

当然のことでしょう……この場にいる全員が、トップアイドルを夢見ているのですから。

343 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:34:07.84 98/Qh09KO 267/775

貴音「……」

ですが、わたくしは何も喋らずにいました。

「あれ、貴音はユニットに入りたいって思わないの?」

そんな中、響がわたくしに声をかけました。

344 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:36:07.61 98/Qh09KO 268/775

『違う時間軸で』とはいえ、わたくしは一度トップアイドルを経験した身……。

芸能界については、この場にいるアイドルの誰よりも分かっているつもりです。

わたくしにはわたくしの考えがあるのですよ、響?




貴音「確かに、ユニットとして売り出せばトップアイドルに近づきやすいでしょう……ですが」

「?」

345 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:38:07.39 98/Qh09KO 269/775

貴音「ーーですが、一度他のユニットが売れた後に出たユニットの方が、売り出しすい気もするのです」

貴音「『あの最近売れているユニット、○○と同じ765プロ発のユニット』というように、名前が知れ渡るのも早くなりそうですし、注目もされやすいでしょうから」


有名なアイドルグループの姉妹ユニットなどが比較的売れやすい、という傾向からの考えです。

売れているアイドルと同じ事務所出身、と言うことも注目を集める要素の一つではありますからね……。

346 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:40:14.71 98/Qh09KO 270/775

貴音「それにプロデューサーは、『まず一つユニットを出す』とおっしゃいました」

貴音「時間が経てば二つ目、三つ目のユニットを作るということも十分に考えられます」

貴音「同じような売り出し方さえしなければ、『二番煎じ』などと言われることもないでしょうから」

貴音「ーーこれがわたくしの考えです」

わたくしはそう、話を締めくくりました。

347 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:42:32.66 98/Qh09KO 271/775

千早「……なるほど。四条さんの意見にも一理あるかもしれないわね」

やよい「はわわ、貴音さんすごいですっ!」

やよい「まるで、ずっと前からアイドルをやってたみたいです~!」

貴音「ふふ……」





ーー否定できないのが辛いところです。

348 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:44:41.29 98/Qh09KO 272/775

雪歩「でも、そうなると私達だけで決めるのもなかなか難しいよね……」

雪歩「プロデューサーにはプロデューサーの考えがあるんじゃないかな、って思うし」

「そうだね。きっとボク達の売り出し方なんかも決まってるだろうし、勝手に決めたらまずいよ」

真美「んっふっふ~、それじゃあ兄ちゃんに突撃だ→!」

こうして話し合いの結果、結局赤羽根殿に決めて頂くことになりました。

349 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:46:28.66 98/Qh09KO 273/775




「……なるほど、それで俺に聞きに来たのか」

春香「はいっ!プロデューサーさんに決めて欲しいんです!」

「そうか……なら、俺の考えを聞いてくれるか?」

事務仕事をしていた赤羽根殿に経緯を話します。

彼はこちらに向き直ると、喋り始めました。

350 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:48:15.44 98/Qh09KO 274/775

「俺は、まず貴音を売り出していきたい」

貴音「!」

……なんと。わたくし、ですか?



「初めのレッスンの時、貴音と千早の歌声を聞いて、なんだか心に響いてくる『何か』があったんだ」


「多分社長が言う『ティンと来た』って奴なのかもしれない」


「この子達ならすぐにトップアイドルになることも夢じゃない……そう思えた」

351 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:50:08.58 98/Qh09KO 275/775

「だけど考えているうちに、千早はソロで売り出した方がいいような気がしてさ」

「それに対して貴音は、誰かと一緒にいた方が輝ける気がするんだ」

「言うなれば千早は一人でも輝ける星、貴音は他人の要素があってこそ輝ける月って感じかな」

わたくしが月、ですか。……何ともろまんちっくな例え方ですね。

352 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:52:09.72 98/Qh09KO 276/775

「もちろん、全員にトップアイドルを目指せる才能があると思う」

「みんなにもそれぞれ、光る部分を感じたからな」

「でもまず、俺は貴音のプロデュースに力を入れてみたいと思ってる」

「……どうかな、貴音」

赤羽根殿は、そうわたくし達に告げました。

そこまで期待されては、わたくしも応えないわけにはいきません。

353 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:54:07.73 98/Qh09KO 277/775

貴音「ーーあなた様、約束して頂けますか?」

「……ん?」


貴音「例えわたくしのプロデュースに力を入れるとしても、皆を見捨てたりしない」

貴音「全員を均等にプロデュースし、必ず全員をトップアイドルにする、と」

「……ああ、任せとけ。みんなまとめて、トップアイドルにしてみせる!」

354 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:56:09.68 98/Qh09KO 278/775

ーー『みんなまとめて、トップアイドル』。

それが、決して変わらぬ赤羽根殿の信念。

以前から、そして前の時間軸でもおっしゃっていたその言葉。


信じても、いいのですね……?

355 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 16:58:13.94 98/Qh09KO 279/775


貴音「分かりました、あなた様」


貴音「必ずや、あなた様の期待に応えて見せましょう……!」

356 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 17:01:24.46 98/Qh09KO 280/775

「……ありがとう」

そう言いながら、赤羽根殿は微笑みました。


背後から拍手が聞こえてきます。

本当に良き仲間を持ったものです……。私は幸せ者ですね。

357 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 17:03:25.92 98/Qh09KO 281/775

「じゃあ、早速だけど……貴音は、どんなユニットを組みたいと思ってる? 」

「もちろん、ソロとして売り出すこともできる。そこは貴音次第だ」

貴音「そう……ですね……」


あの時聞いた、赤羽根殿のゆにっと案。あれもなかなか良い案ではあります。

しかし、やはりわたくしは……

358 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 17:05:00.96 98/Qh09KO 282/775

貴音「ーー実はこうだったら、というものはあるのですが」

「!そういうのが聞きたかったんだ……で、どんなのだ?」

わたくしがユニットとして活動するなら、やはりこれしかありません。





もう一度。もう一度だけ、『あのユニット』で。

359 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/15 17:06:12.42 98/Qh09KO 283/775






貴音「わたくしと、美希。そして、響の三人で構成されるユニット」

貴音「ユニット名は……『プロジェクト・フェアリー』」

363 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 16:30:26.60 qN4mPVROO 284/775

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『プロジェクト・フェアリー』の結成から、少し経ちました。

『ボーカル』のわたくし、『ビジュアル』の美希、そして『ダンス』の響。

前の時間軸と同様に、ユニットデビューしてすぐに話題のユニットとなることができました。

わたくし達だけでなく、皆人気が出てきているのは言うまでもありません。

364 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 17:29:22.60 qN4mPVROO 285/775

共に活動し、側にいてくれる響と美希。そして、赤羽根殿。

こちらの時間軸に来る前に、わたくしが理想として思い描いていた通りです。

あまりにも嬉しくて、売れ始めた日の夜は、思わず家で涙してしまいました。


……嬉しくて涙する、ということもあるのですね。

365 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 17:31:58.98 qN4mPVROO 286/775

こんなところを『あの時間軸の』あの方が見たなら、『泣き虫だな』とわたくしをからかうのでしょうか?

『今の』あなた様が見たら、どのような反応をするのでしょう?

……いいえ、たとえ違う時間軸であったとしても、『あなた様』は『あなた様』。

わたくしが恋い慕う方であることに違いはありません。

対応の違いなど、どうでも良いことなのです……全く同じ人物なのですから。

366 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 17:34:09.55 qN4mPVROO 287/775


……


さて、今日は久しぶりの休日。

昨日、『せっかくの休みなんだから、ゆっくりしなよ』と、赤羽根殿はおっしゃいました。

ですが、あの方のことを考えてしまったからか、わたくしは赤羽根殿に会いたくて仕方なくなってしまいました……。

ああ、あなた様……わたくしはあなた様にお会いしとうございます……。



気付かぬうちにわたくしは、小鳥嬢に選んで頂いたすまーとふぉんを取り出していました。

367 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 17:36:08.57 qN4mPVROO 288/775

連絡先の『お気に入り』の項目から、赤羽根殿の番号を見つけ出して電話をかけます。

数回のこーる音ののち、通話が繋がりました。


『はい、赤羽根です』

貴音「あなた様、でーとして、くれま・す・か?」

『ぶふぉっ!』

368 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 17:38:30.80 qN4mPVROO 289/775

「ゲホッ、ゲホッ……」

貴音「だ、大丈夫ですか?」

『あ、ああ、なんとか……貴音なんだな?』

貴音「はい。その通りでございます」

『どうしたんだ?今の、真美の『Do-Dai』だろ。モノマネか?』

ーーそういえば真美の持ち歌に、このような歌詞があったような気がしますね。

369 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 17:41:23.22 qN4mPVROO 290/775

貴音「……いいえ、これはわたくしの意思」

貴音「あなた様とでーとしたい、というだけなのです」

貴音「これから苦楽を共にしていくあなた様と、少しでも親睦を深められたら、と」

『そうか……でも、俺仕事中だし……今は休憩してるけど』

370 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 17:44:20.28 qN4mPVROO 291/775

貴音「むぅ……」

「それにデートっていうのは少しまずいかもしれないしなぁ……」

ーー確かに、アイドルにすきゃんだるはご法度です。

場合によっては、アイドルを引退せざるを得ないかもしれないのですから。

引退はあくまで極論ではありますが、まいなすいめーじを生むかもしれないのは間違いありません。

371 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 17:46:10.37 qN4mPVROO 292/775

ですが、わたくしは諦めきれません。なんとか策はないでしょうか?

……そう考えているうちに、一つの考えが頭に浮かびました。



貴音「……もしもし、あなた様?」

『ん、どうした?』

372 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 17:50:13.46 qN4mPVROO 293/775

貴音「では、お食事に行くこともだめなのでしょうか?」

『うーん……それならなんとかセーフかな』

『お昼頃になったら、どっか食べに行こうか?』

ーーやりました!

貴音「ふふっ♪ では、今から事務所へ向かいますね」

『え、ちょっとまt』

わたくしは通話を切りました。

赤羽根殿が何か言おうとしていた気も致しますが……大丈夫でしょう。

373 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/22 17:52:14.25 qN4mPVROO 294/775

さて、こうしてはいられません。

あの方とお食事に行くのですから、それなりにお洒落をしていかねばなりません……!

早速、お気に入りの服を取り出してそれに身を包みます。

前の時間軸での月光石の首飾りがあれば、最高なのですが……無い物は仕方ありません。



準備は整いました。いざ、事務所へ!

380 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 16:31:18.35 5h0U/geaO 295/775

貴音「おはようございます」

十時頃、わたくしは事務所に到着しました。



小鳥「あら?おはよう、貴音ちゃん。今日はオフじゃなかった?」

貴音「はい。プロデューサーとの待ち合わせがありますので」

貴音「それに、なんとなく来たくなってしまいまして……」

小鳥「ふふっ、なるほどね。その気持ち、少し分かるかも」

383 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 16:44:24.26 5h0U/geaO 296/775

貴音「なんと……小鳥嬢もですか?」

小鳥「ええ。私もお休みの日でも、なんとなくここに来たくなることがあるもの」

小鳥「社長を除けば私が一番の古株だし……その気持ち、よく分かるわよ♪」


小鳥「あ、プロデューサーさんなら、向こうで書類整理してるわ」

貴音「そうですか。ありがとうございます」

384 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 16:46:35.51 5h0U/geaO 297/775

小鳥嬢の言葉通り、赤羽根殿は少し奥で企画書をまとめていました。

貴音「おはようございます、あなた様」

「おはよう、貴音。本当に来たんだな……」

貴音「いけませんでしたか?」

「いや、そうじゃないけどさ」

「ただせっかくの休みなのに、わざわざ来なくても、って思って」

385 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 16:49:29.19 5h0U/geaO 298/775

「事務所だったら、気が詰まって休みづらい気がするんだけどなぁ」

貴音「それは違いますよ、あなた様。事務所にいても、有意義な休みは取ることはできます」

「そうか?なら良いんだけど」


事務所にいたとしても、ゆっくりとくつろいだり、雑誌を読んだりなど、充実した休日を過ごすことができるのは事実ですから。

ーーそれに、あなた様にお会いできるだけで、わたくしは……///

386 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 16:52:11.69 5h0U/geaO 299/775

雑誌などを読んだり、赤羽根殿が作業をしているところを眺めたりしているうちに、お昼時となりました。

切りのいいところまで済んだのでしょうか、赤羽根殿は立ち上がって伸びをしています。

彼が腰をひねると、ばきばきと少々痛々しい音がなりました。

「ふう、お待たせ。それじゃあ行くか!」

貴音「はい、あなた様♪」

387 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 16:54:10.46 5h0U/geaO 300/775

「それじゃあ音無さん、少し留守を頼みます」

小鳥「はい。行ってらっしゃい、プロデューサーさん♪」

小鳥「貴音ちゃんも、楽しんできてね?」

貴音「はいっ♪」

ふふ……胸が踊りますね。

388 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 16:56:39.33 5h0U/geaO 301/775


……


お腹が、空きました……。

通りを歩いているだけで、辺りの飲食店が気になって仕方がありません。

「何を食べようかなぁ……貴音は、何か食べたいものあるのか?」

貴音「はい。今回は、わたくしのとっておきの店を紹介致しましょう」

「へぇ……そりゃ楽しみだ」

389 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 16:58:33.74 5h0U/geaO 302/775

さらに歩き続けて数分。

貴音「着きました」

「え!? ここって……」

やって来たのは、前の時間軸でよく通っていたらぁめんの店。

この店の魚介出汁のらぁめんは絶品なのです……!

390 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 17:00:41.67 5h0U/geaO 303/775

「そういえば好物の欄に書いてあったような……ちょっと意外だな」

貴音「そうかもしれませんね。ですが、わたくしはらぁめんが大好物なのです」

「そうなのか……実は俺もラーメン好きなんだ。さあ、入ろうか」

わたくしがらぁめんを好むようになった理由は、絶対に話すことはできません。

あの時間軸で、赤羽根殿に連れて行って頂いた店がこの店だということも含め、全て『とっぷ・しーくれっと』なのです。

391 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 17:02:48.32 5h0U/geaO 304/775

貴音「たのもう!」

店員「いらっしゃいませー」

いつものように店の中に入ります。

店内に入るや否や、削り節の香ばしい匂いが漂ってまいりました。

それだけで、さらに食欲が湧いて参ります。

わたくしの腹の虫が、粗相をしなければ良いのですが……。

392 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 17:06:15.41 5h0U/geaO 305/775

わたくし達は隅の方にある座席に座りました。

あまり有名な店では無いため、席を確保するのは容易です。

店員「ご注文はお決まりですか?」

貴音「わたくしは特製らぁめんを。大盛りで」

「俺は特製つけ麺かな。同じく大盛りで」

393 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 17:09:56.33 5h0U/geaO 306/775





「うまっ!貴音、いい店知ってたんだな」

貴音「お気に召して頂けましたか?」

貴音「この店は、わたくしのお気に入りの店の一つなのですよ」

「そうなのか。これはいい店を知ったな、これからも度々来よう」

あなた様に喜んで頂けて、わたくしは幸せです。

あなた様の笑顔を見ると、わたくしまで嬉しくなってきます。

394 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 17:12:56.15 5h0U/geaO 307/775


……


「ふぅ、ごちそうさまでしたっと。本当にうまかったなぁ……」

貴音「ふふっ。よろしければ、また、二人で食べに来ませんか?」

「こっちからお願いするよ。また来ような、貴音」

貴音「……はいっ♪」

395 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/09/29 17:18:42.06 5h0U/geaO 308/775

店から出ました。

事務所に帰ろうとすると、赤羽根殿はわたくしを引き止めました。



「さて、と……まあ、このまま事務所に帰るのもなんだしな」

「腹ごなしも兼ねて、ウィンドウショッピングでもしないか?」

貴音「そ、それはもしや……!」

「まあ、言い訳は立つしな。これはただの『買い出し』だ」


「……『デート』もどきでよかったら、付き合うよ」

400 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:30:16.91 Cv/loVscO 309/775

貴音「ああ、あなた様……感謝致します!」

ついに……! ついに、念願の赤羽根殿との逢瀬です!

あまりの嬉しさで、もはや何も考えられません……///

「よしっ、じゃあ行くか!」

貴音「--はいっ♪」

401 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:32:16.08 Cv/loVscO 310/775




そうしてわたくし達は、(前の時間軸で)赤羽根殿と来たことのある通りにやってきました。

洋服を売る店や、装飾品を売る店など、様々な店があるのがここの良いところです。

いつか美希も、『この通りはおすすめなの!』と言っていたような気が致します。


あの時雑誌のインタビューの回答を考えるべく、この通りで赤羽根殿と歩き回ったことは忘れられません。

402 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:34:10.14 Cv/loVscO 311/775

「よし……とりあえず歩くか」

「どこに入るかは、見ながら決めよう」

貴音「ええ、そう致しましょう」


わたくし達はぶらぶらと通りを歩き始めました。

403 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:36:29.99 Cv/loVscO 312/775

「……でさ、その時雪歩が……」

貴音「なんと、そのようなことが……おや」



しばらく歩き続けると、とある店がわたくしの目に留まりました。

……あの店は。

「ん?どうした、貴音」

忘れもしない、あの店。

ーー何を隠そう、前の時間軸で赤羽根殿にあの月光石の首飾りを買って頂いた店なのですから。

404 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:38:21.86 Cv/loVscO 313/775



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『これ?……貴音がトップアイドルになったご褒美だよ』

『まあ、事務所も違うし、俺がプロデュースした訳でもないから、変かもしれないけど』

『でも、貴音がまだアイドルとして活動する前から、俺は貴音を見てきた。貴音の努力は、人一倍知ってるつもりだから』

『……だからさ。一ファンとして、そしてプロデューサーもどきとして、これを貴音に送るよ。……貰ってくれるかな?』


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405 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:41:02.72 Cv/loVscO 314/775

そう言ってあなた様は、わたくしの首にその首飾りをかけて下さいましたね……。

あの時のお言葉……わたくしは片時も忘れたことはありませんよ、あなた様。



「この店が気になるのか?」

貴音「……はい」

「アクセサリーの店か……貴音だって女の子だもんな。それに、いろいろ使えそうなものも売ってるみたいだ」

「じゃあ、入ってみようか?」

406 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:42:59.52 Cv/loVscO 315/775


……


店内には数々の品物がありました。

ぴあすや指輪、耳飾り(耳に穴を開けなくていい物まであるそうです)などの装飾品をはじめ、時計なども置いてあります。

それにしても、この着ぐるみのようなものは、一体……面妖な。



「じゃあ、少し見てくるよ。貴音も色々見てくるといい」

貴音「そうですね。では、後ほど……」

407 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:44:33.52 Cv/loVscO 316/775

店内を歩き回っていると、わたくし はいつの間にか首飾りを置いてあるところにたどり着いていました。

貴音「!」

わたくしは、そこにあった一つに目をやります。

少し青みがかった石が使われているその首飾りは、わたくしを捉えて離しません。

ーーなぜならこれは……以前、赤羽根殿に送って頂いた品と、全く同じものなのですから。

408 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:46:34.83 Cv/loVscO 317/775

「それ、欲しいのか?」






貴音「ひゃあ!」

いつの間にか、隣には赤羽根殿が。

全く気付きませんでした……!

409 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:48:16.05 Cv/loVscO 318/775

貴音「お、お、驚かさないで下さいませ!」

「ご、ごめん。そんなに驚くとは思わなくてさ」

貴音「あなた様は、いけずです……」



いきなり隣から声がすれば、驚かない訳がありません……。

しかし本当に、いつの間に隣に現れたのでしょうか……?

410 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:50:09.98 Cv/loVscO 319/775

「ーーふーん、月長石……ムーンストーンか。貴音にぴったりだな」

貴音「わたくしは月の導きに捉われたのかもしれませんね……ふふっ♪」

「ははは、貴音らしいよ」


とっさに嘘をついてしまいました。

嘘をつくのは心苦しいですが……わたくしがここにいるためには、仕方がありません……。

411 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:52:16.12 Cv/loVscO 320/775

貴音「ところであなた様、他の場所はもうご覧になったのですか?」

「まあな。あらかた見終わって、使えそうなものはいくつか見繕ってきた」

わたくしが思っていたより、早く済んだようですね。

「で、どうするんだ、それ。買うのか?」

「買うなら、一緒に精算に持っていくけど」

412 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:56:20.94 Cv/loVscO 321/775

貴音「……」

貴音「ーーやめておきます」



ーー赤羽根殿に迷惑をかけるわけにはいきません。買って頂くなど、もっての外。

それに……あれは、赤羽根殿が送って下さったからこそ大切なのです。

自分で買ってはただの装飾品に過ぎません。わたくしがそれを持つ意味は無くなってしまうでしょう。

もう一度手元に持っていたいのは山々ですが、ここは我慢です。

413 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/06 16:58:36.97 Cv/loVscO 322/775

貴音「お時間を取らせてしまい申し訳ございません。行きましょう」

「……」

「……先に出て、ちょっと待っててくれ。清算してくるから」

貴音「はい……分かりました」

417 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:30:34.73 lX4sFAinO 323/775

店から出て、再びわたくし達は、ぶらぶらと通りを歩き始めました。

様々な店のしょーうぃんどうを眺めながら、通りをゆっくりと歩いて行くわたくし達。

何気ない時間が、本当に愛おしく感じられます。

あまり言葉を交わすようなことは致しませんでしたが……それでもわたくしの心は暖かなものでした。

お慕いする方の隣にいるということは、こんなにも心地よいものなのですね……///

418 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:32:27.41 lX4sFAinO 324/775

その後は洋服の店で衣装を見繕い、甘味を味わいなどしつつ、しばらく歩き続けました。



しかし、やはり楽しい時間は早く終わりを告げるもの。

ーー気付けばもう、事務所の前に着いていました。

419 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:34:26.29 lX4sFAinO 325/775

たか「「ただいま戻りました」」

小鳥「おかえりなさい、プロデューサーさん、貴音ちゃん。」

「遅くなりました。留守番ありがとうございます、小鳥さん」

「……危なかった、昼休憩終わりかけだ」

どうやら、昼休憩が終わる前に戻ってこられたようです。

赤羽根殿は席に着くと、少し急いで事務作業の準備に取り掛かりました。

420 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:36:19.18 lX4sFAinO 326/775

ぱそこんを起動し、手帳を確認する赤羽根殿。切り替えが早いわね、と小鳥嬢が呟いています。

「少し早いけど、始めるか。貴音は帰ったりしないのか?」

貴音「はい。そろそろ皆も帰ってくるでしょうし、このまま残ろうと思います」

「そっか。帰る時になったらいつもみたいに言ってくれよ?送っていくから」

421 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:38:37.70 lX4sFAinO 327/775

そのままわたくしは午前中と同じような行動をしたり、帰ってきた仲間と談話したりしました。

仲間たちと過ごす時間、これもまた良きものです。



気がつくと空は闇に染まり、もう夜が訪れようとしていました。

貴音「あなた様、そろそろ」

「ん、分かった。切りのいいところまで終わらすから、ちょっと待ってくれ」

422 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:40:40.24 lX4sFAinO 328/775

しばらく響き渡るかたかた、ときーぼーどを叩く音。

そしてすぐに、ぱそこんの電源は落とされました。


「よしっ……これでいい。行こうか」

貴音「はい」

423 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:42:20.54 lX4sFAinO 329/775


……


駐車場に着きました。

貴音「では、いつも通り……」

わたくしは毎回のように、助手席側の扉に手を掛けます。

しかし、赤羽根殿はそれを引き止めました。

「ちょっと待った」

貴音「?」

424 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:44:13.33 lX4sFAinO 330/775

「渡したいものがあるんだ。えっと……」

赤羽根殿は、背広のぽけっとに手をやります。

……そして、白い包装紙で包まれた、小さめの箱を取り出しました。

「はい、これ。受け取ってくれ」

貴音「これは……? 開けても、よろしいでしょうか?」

「ああ。開けてごらん」

425 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:46:21.81 lX4sFAinO 331/775

貴音「……!」

包装紙に包まれていた、しんぷるな白い箱の中から出てきたのは……すてんれす製の鎖が付いた、あの首飾りでした。

貴音「あなた様、これは!」

「いつも頑張ってる貴音に、俺からのプレゼントだよ。驚いた?」

貴音「どうして、これを……」

426 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:48:47.90 lX4sFAinO 332/775

「どうしてって……貴音、あのとき欲しそうにしてただろ?」

「店から出るときも、少し名残惜しそうにしてたし」

「ーーそれに、貴音に似合うと思ったから」




「……だからさ。一ファンとして、そしてプロデューサーとして、これを貴音に送るよ」

「……貰ってくれるかな?」

427 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:50:27.74 lX4sFAinO 333/775

貴音「あなた様っ……!」

わたくしの頬を、一筋の涙が伝いました。

ーーまた、この言葉を……あなた様の口から聞くことができる日が来るとは。

「な、なんで泣くんだ!? 嫌だったか?」

あたふたとしておられる赤羽根殿。

その様子が可笑しくて、涙を流しながらも思わず少し笑ってしまいました。

428 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:52:20.87 lX4sFAinO 334/775

貴音「ふふっ、これは違うのです……」

貴音「『嬉しくて泣く』、ということもあるのですよ?」

涙は止まりません。これでは、泣き虫と呼ばれても仕方ありませんね……。

ですが、あなた様の前でなら……わたくしは泣き虫でも構いません。





貴音「あなた様。この首飾り、あなた様の手でわたくしにつけていただけませんか?」

「もちろん、構わないよ」

429 : ◆VnQqj7hYj1Uu - 2015/10/13 16:54:45.31 lX4sFAinO 335/775



首飾りが首に掛けられた瞬間、わたくしは赤羽根殿に抱きつきました。

そのまま顔を、彼の胸元に押し付けます。

「た、貴音!?」

貴音「ーー少し、このままでもよろしいでしょうか……あなた様」

「……ああ。落ち着くまで、そのままでいいよ」

幸いにも、人の気配はありません。



もう少しだけ、このままで……。


続き
貴音 「Once @gain」【後編】

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