1 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:28:58.58 UQ3Vx+pro 1/64

アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。

当SSはアイドル名「ことわざ」でタイトルをつけているシリーズです。

以前のお話に戻る場合はSS wikiを通ってください。
【デレマス】ことわざシリーズ - SS-Wiki

※関連作は下記タグから
『ことわざ』シリーズ : あやめ2nd


前回
並木芽衣子「箸にも棒にも掛からない」
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1400/14005/1400596385.html
http://ayame2nd.blog.jp/archives/5201754.html

元スレ
矢口美羽「提灯に釣鐘」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401820138/

2 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:29:33.91 UQ3Vx+pro 2/64


 ─ 前回のお話 ─

・芽衣子から改めてプロポーズされる。

・Pさん大好きクラブの結束力がまた上がる。


3 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:30:43.13 UQ3Vx+pro 3/64



 ─ 事務所・事務室 ─


モバP(以下P)「・・・・・・」ズーン

小松伊吹「あれ、Pどうしたの?」

「ちょ、ちょっとね・・・」

ちひろ「今日は一睡もできなかったらしいですよ」

伊吹「へーブサイクな顔してると運が逃げていくよー?」

「ああ、うん・・・」

伊吹「どうしちゃったの?」

千川ちひろ「レンタルショップで借りた中身が書き換えられてて、それがスプラッタ映画だったそうで・・・」

伊吹「うわー、ご愁傷様。途中で止めればいいのにー」

ちひろ「本当です、なんで最後まで見ちゃったんですか?」

4 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:33:03.92 UQ3Vx+pro 4/64


「借りようとしたのがサスペンスだったんですよ・・・警察と泥棒の知恵勝負的な。それでスプラッタ映画の方でサスペンスの映画の方とそっくりの主演の方だったんですよ・・・」

ちひろ「普通区別つきませんか?」

「途中で気付いたですけど・・・怖いもの見たさってやつですかね、止められなかったんですよ・・・」

ちひろ「あ~らら・・・」

「ホテルで仲間たちを殺していく殺人鬼・・・猟奇的な空間に閉じ込められた主人公は逃げ惑う・・・!大切な恋人が失われたとき、とんでもない事が発覚する・・・!!」

ちひろ「まー、スプラッタの方もサスペンス入ってるならねぇ・・・」

伊吹「でもPって映画見るんだね」

「そこそこね。でもスプラッタやホラーは苦手なんだよね・・・。昔『ディープブルー』って映画を見てさ」

伊吹「聞いたことないなー」

「『ジョーズ』の二番煎じって言われてた作品だよ。サメの持つ成分を使って薬作ってる施設があったんだけど、色々問題が重なってなんとサメが人間よりも知能を持っちゃってね」

「超天才のサメから逃げるっていうモンスターパニック映画があるんだ」

5 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:35:38.69 UQ3Vx+pro 5/64


伊吹「ほー、それで?」

「強そうな人がいるんだけど、怖がる皆の前で色々喋ってる最中にね後ろからサメがバクッと・・・!」

ちひろ「それで水面が赤く・・・?」

「いえ、サメが一匹でその人を咥えてたんですけど、途中でもう一匹のサメがその人の残りの体・・・まぁ、体半分をね食いちぎるんだよ」

伊吹「うわっ・・・」

「人間の体ってすごくもろいんだなぁって・・・背筋が凍っちゃって、あれ以来グロいのはダメです」

伊吹「な、なんか怖いな!映画・・・映画・・・そ、そうだ!Pさ、恋愛映画見ない?」

「ん?今から見に行くのか?」

伊吹「そ、そうじゃない!!・・・デートに誘ってるわけじゃないんだけど(小声)」

ちひろ「日本語は難しいですね」ニヤニヤ

伊吹(今、大量の目線がこっちに来たなぁ・・・)

6 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:36:15.70 UQ3Vx+pro 6/64


「いぶきー?」

伊吹「そうそう!Pのオススメの恋愛映画はないかって話だよ」

「俺の?」

伊吹「うんうん!」

伊吹(コッチ見てる子増えたよね、今・・・)

「そうだな、俺のオススメねぇ・・・」

伊吹「邦画でも洋画でもいいよ!」

「恋愛系はあまり見ないけどね・・・うーん・・・『JUNO』は・・・コメディか」

伊吹「『JUNO』?」

「16歳で妊娠した女子高生が奮闘する映画だよ」

ガタガタガタガタ・・・!

伊吹(うちのアイドル妊娠願望つえー・・・!)

7 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:37:20.27 UQ3Vx+pro 7/64


「あっ、そうだ。俺のオススメはアレだ、有名だけど『LEON』」

伊吹「『LEON』?聞いたことあるなー」

ちひろ「結構有名でしたよね、でもあれ恋愛映画でしたっけ?」

「アクション映画でもありますけどね、でもあの中年男性のレオンと12歳のマチルダの関係は私の目にはほぼ恋人でした」

ちひろ「確かに女の子の『私を抱いて』ってシーンは強烈でしたね」

「ホントに12歳かよぉ!?って思ったりもしましたが、あんな危険な恋愛もしてみたいなーとも思ったり」

ちひろ「小さい子と結ばれたい?」

「あんな環境ならば、ね」

早坂美玲「ほ、本当k」ガバッ

「・・・?今誰かいたような」

伊吹「・・・あはは・・・」

8 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:37:57.38 UQ3Vx+pro 8/64



 ─ 事務所・事務室のソファの裏 ─


五十嵐響子「なに、大声出そうとしているんですかっ」コソコソ

美玲「だ、だって・・・プロデューサーは小さい子でもいいって言ったんだぞッ」コソコソ

響子「だからと言ってガツガツ押したら引かれるに決まってるよね?」コソコソ

美玲「う、うん・・・」コソコソ

響子「頑張って素敵な環境作ろ。Pさんが中学生でも高校生でも手を出してもいいと思える場を」

美玲「お、おうッ」


ブーッブーッブーッ


響子「メールですね、なになに・・・」

相原雪乃『今からPさんのおっしゃった映画を借りてきます。今度皆さんで見てみましょう』

美玲「ゆ、雪乃・・・さんは行動が早いなッ」

響子「は、早すぎです」



響子「・・・ってあれ、雪乃さん今仕事中だったような・・・」

9 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:38:49.65 UQ3Vx+pro 9/64



 ─ 事務所・事務室 ─


ちひろ「プロデューサーさん、今日のアレは忘れてませんよね?」

「当然じゃないですか・・・忘れたらちひろさんの面目丸潰れにしてしまうじゃないですか」

伊吹「何か重要な事でもあるの?」

ちひろ「私経由でひとりアイドルが応募してきたのですが・・・」

「○○プロは現在20人のアイドルを抱え持つ事が出来て、プロダクションランクが上がるまでは現状維持の方がいいんじゃないか?って意見でまとまってるんだ」

ちひろ「だけど、上に打ち勝つには30人必要、って見方もしている状態でもある」

伊吹「ん?どういうこと?」

「んーとね・・・簡単に言うと、新しいアイドルは入れるアクションしていくけど、物凄く門が狭くなっちゃったよーって状態」

伊吹「把握。それでPがさじ加減に悩んでいるんだね」

「そういう事。それにね、今日の相手はちょっとお偉いさんの所の娘さんでね・・・」

伊吹「よくそんな所から応募してきたね!でもまぁ、桃華ちゃんとか雪乃さんとか巴とかお嬢様多いし、安心できるからじゃない?」

10 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:39:41.57 UQ3Vx+pro 10/64


ちひろ「いやー・・・実はそのお偉いさんは私の先輩でして・・・」

伊吹「あー・・・」

「大学時代にお世話になった大学院の人でしたっけ」

ちひろ「そうです、8歳も離れていましたが未だお世話になっています・・・が、私事を絡んでいい事が起こるはずもないですし」

「でも入れなかったら入れなかったでどんな報復が来るかどうか・・・」

伊吹「怖い事言わないでよ・・・」

「怖い事だと認識させないでよ・・・」

ちひろ「落ち込んでる場合じゃないです・・・多分」


3人「はぁ・・・」


(あれ・・・?)

「矢口さん・・・でしたっけ?」

ちひろ「はい」

「娘さんは14歳・・・なんですよね?」

ちひろ「そうですね。年賀状持ってますけど、見ます?」

「お願いします」

11 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:41:33.76 UQ3Vx+pro 11/64


伊吹「へー、元気そうな子じゃん♪ウチならすぐ頑張れそうじゃない?」

ちひろ「美羽ちゃん、って名前なんですよ」

「・・・若いなぁ父親も母親も。最近の晩婚に比べたら遥かに・・・」

ちひろ「あーんまり言いふらすのもなんですが2人が大学生の時にその子供が産まれたらしくて」

「そりゃ若いですよ・・・」

ちひろ「私もずっと矢口さん一家を見てきたので、是非とも受かってほしいという気はなくはないんです」

伊吹「複雑だねぇ・・・Pはどう?受かってほしい?」

「俺は会ったことないから、会って決めるしかないよ」

ちひろ「プロデューサーさんお願いします!巧みな発想で美羽ちゃんの良い所、いっぱい見つけてください!」

「が、頑張ります・・・」

ちひろ「お願いしますね!」

12 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:43:01.01 UQ3Vx+pro 12/64


「・・・伊吹、胃薬持ってきてくれないか・・・?」

伊吹「うん、いいy」

響子「胃薬ならこちらに!!」

伊吹「ほわっ!?」

「あ、ありがとう・・・」

響子「~♪」

(なぜだろう・・・この胃薬で胃が荒れそうだ・・・)

13 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:43:27.97 UQ3Vx+pro 13/64


(そして矢口さんの面接の時間がやってきた。俺も仕事でどうしても時間を作ることが出来ず、今回はこちらから相手の家に訪問する形となっている)

「面接・・・これで3度目か・・・」

(イヴはほぼスカウトなので面接っぽい事をやったけどやってないようなものであったが、肇の時みたいに泣かせてしまいそうで怖い・・・)

(いや、上辺だけで決めてしまってはいけない。心を鬼にしよう・・・最悪、泣かせてしまっても仕方ないと)

14 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:46:56.19 UQ3Vx+pro 14/64



 ─ 矢口宅 ─


美羽母「あなたがPさんですね、本日は娘がお世話になります」

(深々と頭をさげられ、こちらも釣られて頭を下げる)

美羽母「こちらへ、客間で準備しております」

「ありがとうございます」

(家は榊原さんの家ほどではなかったが、それでも閑静な住宅街に住んでいた)

(ウチはお嬢様系のアイドルが増えやすい傾向にあるのか・・・?)

(・・・でもよくよく考えたらウチのスタッフ全員、パーティー好きだったわ)

(上とのコネを大事にする意識を持っていたらそりゃお嬢様系が増えるって話か・・・)

15 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:47:24.00 UQ3Vx+pro 15/64



 ─ 矢口宅・客間 ─


「は、は、は、はじめましぃてぇ!!」

(ものすごい元気な声でお辞儀される。最初のお嬢様という印象はすでにこの時点で消えた)

「初めまして♪今日はよろしくね」

矢口美羽「は、はいィ!」

(緊張で頬が震えているが、一生懸命笑おうとしている。ノリに乗ればかなり良質な子かも・・・?)

美羽母「美羽ちゃん、頑張ってね!」

美羽「う、うん!」

美羽母「では、美羽をお願いします」

「分かりました」

(母親も過干渉を行なうタイプではない。これなら矢口さんの良い所、いっぱい見つけれられるかな)

16 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:48:21.19 UQ3Vx+pro 16/64


(俺は事前に送られてきた履歴書と彼女の顔や雰囲気を見比べていく・・・)

(履歴書には気になる点がいくつかある。例えば志望理由の所が薄い・・・ここを解いてみるか)

「矢口美羽さん、でいいんですよね?」

美羽「はははははははははい!み、美羽と呼んでください!!」

「美羽さん、ね」

(・・・いや、まずは緊張を解してあげよう)

「千川さん経由で耳にしたんですが・・・美羽さんの特技は・・・」

美羽「ダジャレ・・・というよりギャグです!」

「どうしてギャグを言u」

美羽「で、では1つ!!『A型でえがった!』」

「・・・・・・」

美羽「・・・・・・」

「・・・・・・」

美羽「・・・ダメですかね?」

(めっちゃ反応に困る・・・!)

17 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:48:49.36 UQ3Vx+pro 17/64


「わ、悪くないと思うよ・・・」

(うーん、なんだろうなぁ・・・可愛い美少女であるのは間違いないんだけどなぁ・・・)

美羽「えーとえと、私、お友達から“みうさぎ”って呼ばれてるんですよ!」

「うん」

美羽「そ、それでぇ・・・」

(もしかして・・・)

美羽「えーと・・・えーっと・・・!」

(この子、勢いだけで行動している?)

(うーん、このままだと俺が彼女の世間話に付き合うだけになってしまう。多少強引に行かなくては)

「ゴホン!」

美羽「!!」

(俺の咳払いで彼女は電気が走ったかのように肩と背筋と表情を固まらせる)

18 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:50:16.26 UQ3Vx+pro 18/64


「美羽さん、アナタはなぜアイドルに応募したのですか?」

(俺の見立てだと誰か引っ張ってくれる人がいるなら輝きそうな気がする)

美羽「私は、ずっと友達を楽しませるには、と日ごろ頑張ってきました!そのためにギャグやスポーツを一生懸命やってきました!」

「うん」

美羽「それで・・・もっともっと、たくさんの人を楽しませたいと思ってアイドルに応募しました」

「なるほど、では友達を楽しませられたというエピソードをお聞かせください」

美羽「えっ、えーっと・・・」

「もしくは楽しませたいと思った原因でも構いません」

美羽「う、うんと、悲しんでる人がいるとそれだけでみんなが悲しい事を共有しちゃうんです!そんなのは辛いです!」

美羽「でも楽しい事も共有できちゃうんです・・・だから私はみんなを楽しませたい・・・んです」

19 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:51:08.94 UQ3Vx+pro 19/64


(返答としてはちょっと足りないかなー。この子のエピソードが聞きたかったが・・・でもなんか引っ掛かる・・・)

(それより、たくさんの人を楽しませたい・・・いい心がけだ)

(でも下手に長引かせるとデメリットだ、次の質問に移ろう)


「では美羽さん、私たち○○プロにはどんな印象がありますか?」

美羽「○○プロ・・・私はみんながみんな、互いをサポートしているイメージがあります。例えば、ともキュービックのライブでバックダンサーに響子ちゃ・・・さんやイヴさんが参加しているのを見たことがあります」

美羽「普通なら~・・・バックダンサーに知名度のあるアイドルを使うなんてお金とかいっぱい使うんじゃないかな、と私は思ってます・・・」

「ふむ」

(アイドルにしか興味がなくて、○○プロに興味がないってわけではないか)

「確かに我々は要求された事柄や予定していたライブなどに対し、1.5倍以上で返せる時は返しています」

「しかし、美羽さんがもし我が○○プロに入ったとしたら、何が変わりますか?」

美羽「えっ!?」

20 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:51:35.06 UQ3Vx+pro 20/64


「候補生合わせて○○プロのアイドルは20名、一人ひとり個性があります」

「その輪に美羽さんが入って、何が変わりますか?」

美羽「う、うううう・・・?」

(ちょっと難しすぎたか・・・?いや、コレに何か答えられれば、○○プロの参加を考えよう)

美羽「わ、私は・・・」

「うん」

美羽「私が入ったなら・・・!」

「うん」

美羽「も、もっと明るい空間にしてみます!!見てくれた人があそこに入りたいって思えるくらい明るく!」

21 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:52:14.93 UQ3Vx+pro 21/64



 ─ 事務所・事務室 ─


「ただいま戻りました」

ちひろ「おかえりなさい、プロデューサーさん。どうでしたか、首尾の方は」

「うーん・・・悩む」

ちひろ「美羽ちゃん、Pさんのお眼鏡にはかかりませんでしたか?」

「いや、かかってるっちゃ、かかってるんですけど・・・」

ちひろ「あの子の価値を見出せないとか?」

「まぁ・・・そんなところですか。誰が見ても美少女、魅力あり、磨けば将来性あり、でも引き出せる気がしない」

ちひろ「なぜでしょうか?」

「自分に自分がいないというか・・・浮かれているというか・・・」

ちひろ「確かに美羽ちゃんは両親や友人に背中を押されアイドルの業界を志望していると聞きましたが・・・その本質は」

「他人から見た自分を演じているだけにしか過ぎない」

ちひろ「・・・難しいですね」

「悩ましいところです、ですがこれを乗り越えれば矢口美羽さんもまたすばらしいアイドルになれると思います」

ちひろ「そうですね、是非乗り越えてほしいものです」

22 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:52:55.57 UQ3Vx+pro 22/64


ちひろ「あ、そうだ」

「?」

ちひろ「実はですね、美羽ちゃんのビデオ、あるんですよこれが」

「え?なんで?」

ちひろ「今日、美羽ちゃんのお父さんがお見えになられまして、これを手渡しされました」

「父親の立場的にどうしてもアイドルになってほしいのか」

ちひろ「それとも親バカか」

「見てみないと分かりませんね。受け取りますよ、そのビデオ」

ちひろ「はい、どうぞ」

23 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:53:23.78 UQ3Vx+pro 23/64



 ─ P宅 ─


(仕事はすべて終わり、自宅に戻ってきた。今日は朋もみちるも来ていない。今のうちにビデオを見てみよう)



『お名前を教えてください』

美羽『■■第2中学校2年の矢口美羽、14歳です!』


(再生したビデオからは緊張のきの字もないくらい元気な美羽さんの質問集のようなものが映し出された)



『趣味を教えてください』

美羽『趣味は友達とのメールです!最近だとチャットツールも使ってます!』


(父親の優しそうな声に矢口さんはニコニコと返している。録画したのは・・・今月中か)

(美羽さんの背後にはちょうど今月のカレンダーが見えていた。この部屋は今日入った部屋とは違う、おそらく美羽さんの部屋だろう)

(見よう見まねのプロモーションビデオ、親の愛情と熱意は伝わるが、まだ美羽さんのアイドルに対する思いが見えない)

24 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:54:20.77 UQ3Vx+pro 24/64


『少し踊って見てください』

美羽『はい!ちゃっちゃっちゃっ!!』

バサァッ!

美羽『ってぁ!?』

『ハハハハッ!!』

美羽『き、気合十分です!!カレンダーさんごめんね!!』


(美羽さんによって振り回された手がカレンダーを吹き飛ばし、宙へと舞う)

「って、ん?」

(俺は目に入ったモノが気になり、思わずビデオを巻き戻した)

25 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:55:02.53 UQ3Vx+pro 25/64



バサァッ!

美羽『ってぁ!?』


「・・・・・・もっかい」


バサァッ!

美羽『ってぁ!?』


「この赤い丸・・・なんだ?」

(宙に浮いたカレンダーは次の月を見せていた・・・そこにはただ1つ、赤い丸がついていた)

「この子の誕生日・・・?」

(いや、届いている履歴書と見比べても違う)

「親御さんの方は・・・?」

(父親の方は有名な人だったので何とかネットに載っていたが違った)

「だが母親の方は確認は出来ない・・・よなぁ・・・」

26 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:55:34.37 UQ3Vx+pro 26/64


ピコーン!


「もしかしたら・・・」

(俺はインターネットである事を調べた、すると俺の思惑は見事当たっていた)

「なるほどねぇ・・・これ使えるかも・・・」

(鏡を見たら恥ずかしくなるくらいの気味の悪い笑みがこぼれてしまった・・・)





(それから2日経って・・・)

27 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:56:22.32 UQ3Vx+pro 27/64



 ─ 事務所・会議室 ─


西川保奈美「Pさん、どうしたの?候補生を全員呼び出して何かやるの?」

大原みちる「フゴフゴ、ゴックン・・・ふー・・・あれじゃないですか?トレーナーさんが休みとか」

喜多見柚「ナニナニ?紅白戦でもやるの?」

「違う、ちょっと重要な話だ」

藤原肇「重要・・・?」

「ああ、みんな揃ったしさっそく始めよう。ちょっと待っててくれ、1人呼んでいる人がいるんだ」



保奈美(Pさんは小走りで事務室へ向かった後、すぐに戻ってきました)


「紹介するよ、矢口美羽さんだ」

美羽「は、初めまして!矢口美羽と申します!」

西島櫂「え?新しい候補生?」

榊原里美「ほぇぇ・・・後輩が出来ましたぁ」

28 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:56:48.59 UQ3Vx+pro 28/64


「でも、新人サンなら候補生だけじゃなくてもっと皆の前で紹介するべきだよね」

「ああ、うちらならそうやる・・・でもこの子はまだ・・・」

美羽「審査結果もらってないんです・・・」

全員「?」


「ああ、この場で発表なんだ」

保奈美「まぁ、ここまで呼んで不合格なんて事はないわね」

「そうそう、心配することないって」

美羽「そうですか!?やったぁ」

29 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:57:14.97 UQ3Vx+pro 29/64



「では・・・発表します・・・!」




「矢口美羽さんは・・・・・・」


美羽「・・・・・・」ドキドキ



「保留!」



美羽「え・・・?」

全員「ほりゅうぅぅぅ!!!?」

30 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:57:49.09 UQ3Vx+pro 30/64


みちる「保留ってどういう事ですか!?サンドイッチ作ったときに余ったパンの耳くらい気になりますよ!!」

「そうです!パンの耳は置いといて、ここまでしておいて保留なのは謎です!」

「まー、みんな落ち着いてくれ」

美羽「ぁぅ・・・」

「さすがにPサンでも悪戯が過ぎるヨ!この子が泣いたらどうするの!?」

「まぁ、悪戯が過ぎるのは分かってる。だが話を聞いてくれ」


「俺は矢口美羽さんに高い評価をしているつもりだ。元気よし、笑顔よし、アイドルとしての素質は十分ある」

「でもな・・・どーしてもひっかかるものがあったんだ」

(美羽さんがなぜアイドルを目指そうとしたのか、面談の時その理由があまりにも自分の答えに聞こえなかったからだ)

31 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 03:58:29.91 UQ3Vx+pro 31/64



美羽「も、もしかして・・・趣味がギャグってことですか?」

「・・・ふむ」

美羽「本当にそうなんですか!?」

「いや、違う。実は昨日、キミの学校でちひろさんと俺でキミの事を観察させてもらったんだ」

美羽「み、見てたんですか?」

「ああ。もちろん学校側の許可をもらっている」

美羽「うぅ・・・」

「Pさん・・・ストーカーはダメですよ?」

「・・・美羽さんの視察をやったのはちひろさんだ」

「ともかく、美羽さんの学校での生活を見ていたが、こんな事があったんだ」


『美羽ちゃーん!あれやってー!』

美羽『ここに出したるは・・・素敵なステッキ』

『ははははははっ!!!』

『美羽ちゃんうまいー!!』


保奈美「あれ、そのギャグって・・・」

32 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:00:30.08 UQ3Vx+pro 32/64


「多分知らないやつはいないだろう。Coプロの高垣楓がよく呟いているフレーズだ」

美羽「確かにそうです、楓さんのモノマネです。これをやったとき、周りのみんながすごく笑ってくれて・・・」

「俺は・・・美羽さんがアイドルの業界を目指したのは皆がアイドルやったら?と背中を押したからと見ている」

美羽「はい、その通りなんですが・・・」

「だけど、俺の感性ではあるがキミの友達は口で煽ててるだけと感じたんだ」

美羽「そんなはずは!?」

「ああ、俺の思い過ごしであるならそれがいい」

「だがこの視点なら彼らの目から見たのは未来のアイドル矢口美羽ではなく、キミがマネするアイドル・・・」

「言い換えるならキミの後ろにいる高垣楓・・・まぁもしくはPaプロのお笑い担当のアイドルを見ているだけという事になるだろう」

美羽「そ、それって・・・」

「それに・・・ちひろさんはこのモノマネをしている時のキミはぎこちなかったと言っていた」

美羽「!?」

「このままキミがアイドルになっても彼女らの二番煎じで終わってしまう、俺はそう判断する」

美羽「そんな・・・!」

「でもなんで保留なの?普通なら落とすんじゃないの?」

「よくぞ聞いてくれた」

33 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:01:08.78 UQ3Vx+pro 33/64


「この紙を見てくれ」

保奈美「■■第2中学校学園祭・・・?」

美羽「それ・・・私の中学校・・・」

全員「!?」

「ああ、来月行われる学園祭で中学校なだけあって学園祭と言うよりは発表会に近い、厳粛なものだったよ」

里美「それがどうしたんですかぁ?」


34 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:01:43.13 UQ3Vx+pro 34/64


(昨日、俺とちひろさんは美羽さんの行く中学校へと足を運んでいた・・・)


 ─ ■■第2中学校 ─


校長『ようこそ、■■第2中学校へ。校長のナカタです』

『初めまして、○○プロのPです。こちらはアシスタントの千川です』

ちひろ『初めまして』

校長『どうぞお座りください』

『ありがとうございます』

校長『朝の電話でおどろきましたよ。まさかアイドル事務所からお電話を頂くことになるとは・・・』

『いきなりのお電話とご訪問、失礼しました』

校長『いえいえ、今日はたまたま時間が空いていたのでお話だけでも聞こうかと』

35 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:04:04.22 UQ3Vx+pro 35/64


校長『それで、我が校の矢口のお話が聴きたいと』

『はい。現在、○○プロには20名のアイドルとその候補生がおり、現在、新規のアイドルを渋り始めています』

『そして先日、矢口さんの応募がありました。実際に会ってみたのですが彼女にはアイドルの素質がある』

校長『ほぅ』

『ですが、どこか後ろ髪を引かれる雰囲気があるのです。それを確かめたくこの中学校での彼女の様子を確認させてほしいのです』

校長『なるほど、いいでしょう』

『よろしいのですか?』

校長『我が校からアイドルを輩出したとなったら大きな出来事の1つになります。私欲ではありますが、お手伝いさせてもらいましょう』

『ご協力ありがとうございます』

校長『確認の方ですが、条件としてそちらの女性が広報のお手伝いする形でお願いします。プライバシーでうるさい親御さんは多々いますからね』

36 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:04:31.03 UQ3Vx+pro 36/64


ちひろ『わかりました!・・・よし、久しぶりにアシスタントらしい仕事が・・・』

『ちひろさん』ニッコリ

ちひろ『おっとすみません!顔に出てま』

『口にも出てます』

ちひろ『・・・・・・っ////』

校長『かわいい女性だ。うちの口うるさい教頭にも見習わせたい』

ちひろ『・・・はぅぅ・・・////』

『ではちひろさん、お願いしますね』

ちひろ『・・・ぁーぃ』

37 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:06:13.92 UQ3Vx+pro 37/64


『では、校長先生・・・ここからは飛び込み営業なのですが』

校長『?』

『来月、この中学校の学園祭がありますね?』

校長『はははっ、よくご存知で』

『矢口さんが楽しみにしているようでカレンダーにメモしてましてね』

校長『なるほど、それで学園祭のことでなにか?』

『我が○○プロのLIVEをやらせていただけないか、と』

校長『なんと・・・だが、そんなお金は・・・』

『今お受けしただけるならば、通常の6割引きでLIVEをやらせてもらいます』

校長『6割・・・!?』

『ええ、今回予定しているのはこちらです』

校長『エキサイトダンサーズ・・・○○プロの主力ではありませんか!?』

38 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:06:56.50 UQ3Vx+pro 38/64


『背伸びを始めるお年頃が多い中学生としては大学生ぐらいの年のアイドルは理想の女性とも言えます』

『そんな彼女らに会えるとなれば、よりこの学園祭が華やかなものになります。そうは思いませんか?』

校長『確かに。だが・・・』

『CoプロやPaプロでLIVEをやろうとするとなるとこの10倍近くの金額になりますよ?』

校長『むむむっ・・・』

『矢口さんの件を快諾してくれた大セールです。私の伝手でテレビ局のカメラも動員させましょう』

校長『・・・・・・』

『・・・せっかくです、さらにバックダンサーの方でさらにアイドルを2名追加しましょう』

校長『・・・・・・』

『いかがですか?』

校長『・・・分かりました、お受けする流れでいきましょう、経理のメンバーに伝えておきます』

39 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:07:37.81 UQ3Vx+pro 39/64


「この学園祭で○○プロからエキサイトダンサーズがライブを行うことが決定したんだ」

里美「いつの間に・・・」

「ん?でもそれと何が保留と関係あるの?」

「話を最後まで聞けい。このエキサイトダンサーズのライブの時にな、バックダンサーは雇わず○○プロから出すことになったんだ」

「それって、もしかしてあたしたちも出れるってこと!?」

「ご名答、エキサイトダンサーズのバックダンサーとして候補生組を使う」

みちる「ってことは、やっと本番のLIVEが経験できるんですね!」

保奈美(まだまだレッスン不足だと思うけどね)

「ああ、当日にはテレビ局のテレビも呼んでいる、お茶の間デビューとして十分なものになる」

全員「やったぁ!!」

40 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:08:18.77 UQ3Vx+pro 40/64


「た・だ・し!」

全員「?」

「エキサイトダンサーズのバックダンサーとして採用できるのは4人だ。ステージの広さが足りない」

保奈美「つまり・・・この中から4人・・・」

「いや、候補生の中からは2人だ。残りの2人は響子と美玲に入ってもらう事が決定している」

「この中から2人・・・?」

「そして美羽さん、キミには候補生の中に混じってレッスンを受けてもらい、この候補生組と戦ってほしい」

美羽「え!?」

「保留という名のインターンシップだと思ってほしい」

美羽「つ、つまり・・・この人たちに勝て・・・ってことですか?」

「ああ、来月までキミはこの事務所に出入りしていい。だが、バックダンサーとして採用されることが入社の試験とする」

41 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:09:08.86 UQ3Vx+pro 41/64


美羽「・・・・・・」

「ちょっと待ってください!その・・・矢口ちゃんと比べたら私たちの方が練習量が・・・!」

「その点は考慮済みさ。オーディションは来月、学園祭1週間前!審査員はちひろさんと社長で2人には何を見るかを俺から指定させてもらった」

「つまり、矢口ちゃんが指定のことを見せることが出来たら、この子が勝つこともありえると」

「そういうこと」


美羽「わ、私・・・頑張ります!合格してみせます!」

「うん、美羽さんの背中を押してくれた子らに見せてあげよう、提灯に釣鐘だぞーって」

美羽「?」

42 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:09:48.92 UQ3Vx+pro 42/64


美羽(さっそく私はその日のレッスンに合流した。だが、その内容は私の想像を超えていた)


 ─ レッスン場 ─


トレーナー「・・・ワンツースリーフォー!!」


ダンッダンッダンッダンッ!!


美羽(トレーナーさんの掛け声に合わせ、皆がリズムよくステップを踏んでいる・・・私は合わせるのが精一杯だった)

美羽「・・・はっ、はっ!はぁっ」

トレーナー「大丈夫ですか?」

美羽「まだ、もう少し・・・行けます」

トレーナー「無理しちゃダメですよ?いきなりやってうまく行く事はないです。運動は継続して行ってナンボです」

美羽「はい・・・」

43 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:10:25.31 UQ3Vx+pro 43/64


美羽(ヘトヘトになった、その一言以外はまったく出ない・・・)


美羽「疲れた・・・」

美羽(レッスンは4時間に渡って行われた。私は最初の1時間半しかもたなかったけど、他の候補生さんは皆、額に汗をかきながら最後までやりきっていた)







美羽「こんなんじゃ絶対アイドルになれない・・・?」

44 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:11:12.07 UQ3Vx+pro 44/64



 ─ 事務所・会議室前 ─


「みうさぎー、でいいんだっけ?」

美羽「あっ、うんよろしくお願いします」

「別にあたしは1歳どころか3、4歳離れてても気にしないよー。だから敬語はナシの方向で」

美羽「そ、そう?よろしくね柚ちゃん」

「ヨロシクー、お近付きの印にこれをあげよう!」

美羽「ピーチの天然水・・・」

「運動した後はやっぱり甘い物取らないとねー」

美羽「ありがとう!助かったよ!」


美羽(やっぱりこれ・・・追いつかないかな?人に親切に出来る人だっているんだし・・・)

45 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:12:09.03 UQ3Vx+pro 45/64



 ─ 事務所・会議室 ─


雪乃「うぅ・・・レオンさん・・・!」

伊吹「なんで、なんでだよ・・・」

梅木音葉「なんて・・・悲しいお話なんでしょう・・・」


「なにやってるの・・・?」


響子「映画ですぅ・・・うぅ・・・ずずっ・・・」

「泣きすぎでしょ・・・?」

美玲「最初に怖い映画見て、その後に切ない映画見てるから、それがもう・・・」

ちひろ「そうですよぉ・・・」

「あ、ちひろサンまで・・・」

46 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:13:05.31 UQ3Vx+pro 46/64


美羽「あのー、これは一体?」

雪乃「!?」シャキーン

雪乃「美羽ちゃん・・・ですね?」

美羽「あっ・・・はい」

雪乃「ここにいるアイドルたちは皆、アイドルの枠に収まらない人たちばかりです」

雪乃「今後の演技を拡げるため、既存の映画からその技術を盗もう、と」キリッ

美羽「な、なるほど・・・」


美羽(今、アイドルとして出ている人たちでも常に高みを目指している・・・)

美羽(勝つには・・・この人たちを超える勢いで行かないと・・・でも)

美羽(映画から技術を得るって事は・・・他の人たちのマネをしようとしているだけ・・・ですよね・・・?)

美羽(どういう事なんだろう・・・Pさんは・・・二番煎じって言ってたし・・・)



美羽「ってそういえば、私名前教えたっけ・・・?」

47 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:14:11.61 UQ3Vx+pro 47/64


美羽(それから・・・2週間の間、レッスンを繰り返しました)

美羽(学校と事務所の方に通い続ける)

美羽(学校では・・・また皆にモノマネとか要求されたけど、自分でも分かるくらいぎこちなくやってしまった)


『このままキミがアイドルになってもこの2人の二番煎じで終わってしまう、俺はそう判断する』


美羽「何が・・・どうすれば・・・」


雪乃「・・・・・・」



・ ・ ・ ・ ・ 。


「はぁっ・・・疲れた・・・」

美羽「そうですね・・・ぜぇ・・・はぁ・・・」

みちる「あと1週間・・・ですねっ!」


美羽(体力は付いた、でもどうしても他の候補生と見劣りしてしまう。自分の目でも分かるくらいに・・・)

48 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:14:48.70 UQ3Vx+pro 48/64


トレーナー「そういえば・・・矢口さん」

美羽「?」

トレーナー「雪乃さんが屋上に来てくださいと言ってました。今から行ってください」

美羽「雪乃さんが?」



 ─ 事務所・屋上 ─


雪乃「美羽ちゃん、お疲れの所よく来てくれましたね」

美羽「な、何か御用なのでしょうか?」

雪乃「ふふっ、緊張しなくてもいいのですよ」

美羽「で、でも・・・」

雪乃「私は偉い立場などではありませんわ・・・さぁ、お茶にしましょう?」

美羽「・・・・・・」

雪乃「ふふっ、屋上にテーブルまで用意してもらいました♪お菓子もあります♪」

美羽「雪乃さん、あの」

雪乃「どうぞ、座ってください。お話、したかったんですの」

49 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:16:08.49 UQ3Vx+pro 49/64


雪乃「『提灯に釣鐘』」

美羽「え・・・?」

雪乃「Pさんがおっしゃったそうですね」

美羽「はい、提灯に釣鐘とは言ってましたけど・・・」

雪乃「意味は形こそ似ていても釣り合いが取れていない、比較にならないという意味です」

美羽「えっと・・・その・・・何が言いたいんでしょうか?」

雪乃「Pさんはおそらく・・・アナタに乗り越えてほしいものがあるんでしょう」

雪乃「アイドルの本質は・・・笑わせればいいというものではありません」

美羽「・・・・・・」

雪乃「もちろん、悲しませるなんて事でもありません」

雪乃「アナタのおっしゃった明るい空間を作るだけでもありません」

美羽「な、なんで知ってるんですか?」

雪乃「盗ちょ・・・ごほん、Pさんから直接聞かせていただきました」

50 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:16:43.28 UQ3Vx+pro 50/64


美羽「・・・でもどうすればいいのか分からないんです・・・」

美羽「今は・・・レッスンするだけで、このままだと本当に職業体験しただけになってしまいます・・・」

雪乃「美羽ちゃん、この紅茶を飲んでください」

美羽「え・・・?」

雪乃「アールグレイですわ。香りを楽しむ事もミルクを入れて味わいを楽しむ事も出来ますわ」

美羽「はい・・・あっ、美味しい・・・」

雪乃「美羽ちゃんは私が紅茶が好きな人だと知ってますね?」

美羽「はい、テレビで何度も見たことがあります!」

雪乃「しかし、その紅茶を外したら・・・どうなると思いますか?」

美羽「えっと・・・お嬢様アイドル?」

51 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:17:33.02 UQ3Vx+pro 51/64


雪乃「そうです、ですがお嬢様なら既に何人もいますわ」

雪乃「Cuプロの涼宮星花さんに輿水幸子さん、Coプロの黒川千秋さん、それに○○プロにはもう2人お嬢様がいます」

美羽「桃華ちゃんと巴ちゃん・・・」

雪乃「ええ、どのアイドルもお嬢様アイドルです。巴ちゃんはそんなイメージは薄いですが」

雪乃「でも、みなさんは他のお嬢様アイドルに隠れず、活躍しています。なぜでしょうか?」

美羽「・・・・・・分かりません」

雪乃「ふふっ」

美羽「おかしいことなんですか・・・?私、全然分からないんです・・・Pさんが言いたい事が!アイドルに大切な事ってファンを喜ばすことじゃないんですか!?」

雪乃「間違ってはいません」

美羽「だったら・・・」

雪乃「美羽ちゃんには・・・自分がいません」

52 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:18:00.71 UQ3Vx+pro 52/64


美羽「え・・・?」

雪乃「お嬢様アイドルとして被ってるのに・・・なぜこのようにお嬢様アイドルがそれぞれ活躍出来ているのか」

雪乃「それは・・・自分に絶対的な自信があるからです」

美羽「・・・?」

雪乃「私は紅茶の知識はもちろん、○○プロのリーダーとしての責務を果たし皆の見本になるよう勤めています」

雪乃「輿水幸子さんは自分が絶対カワイイと胸を張って言い続けています」

雪乃「桃華ちゃんは決して自分の家の立場など考えずに自分の力だけでここまで上り詰めてきてます」

美羽「みんな・・・自分に・・・」

雪乃「美羽ちゃんは言いましたね、『たくさんの人を楽しませたい』って」

美羽「は、はい!」

雪乃「それでいいんです」

53 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:18:59.83 UQ3Vx+pro 53/64


美羽「え?でもPさんは・・・」

雪乃「ダジャレとかモノマネとかは過程なんです」

美羽「!?」

雪乃「一番は自分が楽しんでるかどうかです」

美羽「自分が楽しんでるかどうか・・・」

雪乃「先ほど言った5名は皆、アイドルの自分が楽しくてしょうがない人たちですわ」

美羽「・・・自分が楽しい・・・?」

雪乃「ええ、辛いだけの姿を見せても、嬉しくないでしょう?」

美羽「そう・・・ですね」

雪乃「ふふっ、別にPさんは二番煎じで終わる、なんて言いましたけど二番煎じになる事自体はダメとは言ってませんわ」

美羽「・・・・・・」

雪乃「美羽ちゃんは美羽ちゃんになればいいんです。今を楽しむ美羽ちゃんに」

美羽「・・・・・・今を楽しむ・・・自分に」

雪乃「ええ、楽しむのですわ」

54 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:19:54.98 UQ3Vx+pro 54/64


美羽(・・・そっか・・・私、周りの皆を楽しませる事ばかりで、自分が楽しんでなかった・・・のかな・・・?)

美羽(いや、そう見えてしまったんだ・・・そう見えてしまったら・・・誰にでも同じように見えちゃう・・・)

雪乃「アナタは人を楽しませる事を夢見てこのアイドル業界に志望しましたね?」

美羽「はい・・・」

雪乃「Pさんが『釣鐘に提灯』と言ったのはおそらく・・・」

美羽「・・・誰かとかぶっても」

雪乃「自分であることを忘れるな、矢口美羽を比べるものはない、というニュアンスが込められていますね」

55 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:20:21.79 UQ3Vx+pro 55/64


美羽「私が私であり続けること」

雪乃「そして自分を楽しむこと」

雪乃「それを忘れなければ、次第に道は開けます」

美羽「・・・・・・雪乃さん!ありがとうございます!」

雪乃「いえいえ」

美羽「何か目覚めた気がします!わたし、がんばりますっ!」




雪乃(後日、美羽ちゃんは物凄い勢いでメキメキと実力をつけていきました)

雪乃(トレーナーさんも目を白黒させて逐次、プロデューサーさんに報告していました。あの子の成長は凄い、と)

雪乃(それを“聞いて”私も少しうれしくなりましたわ。頑張ってね、美羽ちゃん)


56 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:21:50.19 UQ3Vx+pro 56/64




(それから・・・2週間の期日が経った・・・)



 ─ ■■第2中学校・体育館 ─


(ざわついている体育館。無理もない、この中学校は厳しめのところでアイドルが来るなんて一度もなかったようだ)

(だが、校長としては色々と催し物を出したかったらしい・・・うまく噛み合ったタイミングでよかった・・・)



ちひろ「それでは・・・エキサイトダンサーズの皆さんの登場です!皆さん、拍手でお迎えください!!」

(ステージ下でちょっと小奇麗な衣装を纏ったちひろさん)

(ちひろさんも久しぶりにアシスタントらしい仕事で張り切ってるな・・・)


(ステージの上には・・・エキサイトダンサーズが現れる)


57 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:22:23.44 UQ3Vx+pro 57/64



パチパチパチ!!


杉坂海「みんなー!!」

並木芽衣子「今日はよろしくねー!!!」



キャー!キャー!!!


「ってあれ、伊吹は?」

芽衣子「あれ、どこいったのかなー?」


あれ?あれ?


「ちょっと司会者さーん!!」

芽衣子「伊吹ちゃんどこー!!」


ちひろ「実は・・・今日は・・・伊吹ちゃんは・・・」


えー!えー!!?


58 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:22:59.08 UQ3Vx+pro 58/64


「うーん、2人じゃエキサイトダンサーズにならないよ?」

芽衣子「残念だね・・・2人でなんとかやるしか・・・」



伊吹「・・・」チラッ←顔だけ出してる


うしろー!伊吹ちゃんがうしろにー!


「え?後ろ?」

芽衣子「いないけどー?」


隠れたー!カーテンの後ろー!


「カーテン?」

芽衣子「ちょっとー伊吹ちゃーんっ!!」


ペラッ


美玲「ギャー!!見つかったッ!?」

59 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:23:46.96 UQ3Vx+pro 59/64


キャー!美玲ちゃんだー!!?

かわいいー!!


「ちょっとー、嘘つかないでよー、美玲じゃんいるのー」


美玲ちゃんだよー!?

美玲ちゃん呼んでたのー!?


美玲「アイツならあっちー!」

伊吹「・・・」チラッ←顔だけ出してる


そっちー!!あっちだー!



芽衣子「こっちかなー?」


響子「きゃー!手が抜けちゃいますー!!」

60 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:24:44.16 UQ3Vx+pro 60/64


響子ちゃん!?響子ちゃんだぁ!?

響子チャンケッコンシテクレー!

響子ちゃんカワイイー!


芽衣子「おろ?響子ちゃんも来てたのかー」

響子「伊吹さんに呼ばれて来たんですよー」

芽衣子「それで、その伊吹ちゃんはー?」



伊吹「それじゃ一曲目!行くよー!!」

(体育館にいた人全員がステージに目が奪われている内にちひろさんの所に現れる伊吹)


4人「「あーっ!!」」


(これはいつも行っている寸劇で、エキサイトダンサーズ+2人のアイドルで1曲披露)

61 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:26:17.93 UQ3Vx+pro 61/64




・ ・ ・ ・ ・ 。



ちひろ「まずは一曲目を楽しんでいただきましたかー?」


キャー!!キャー!!


伊吹「喉温まったー?」

芽衣子「もちろんっ!」

「次いけるよ!!」

伊吹「バックダンサー組も大丈夫?」

響子「もちろんです!」

美玲「いつでもこいッ!」

62 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:26:50.87 UQ3Vx+pro 62/64


伊吹「よーし!これからどんどんエキサイトしてくよ!バックダンサー追加、カモン!!」


あれって・・・!

美羽ちゃん!?2年の美羽ちゃんだよねっ!?


ちひろ「2曲目以降は○○プロメドレーとなります。これから30分間、十分に・・・いえ、二十分、いえ・・・」



ステージの皆『『百分に楽しんでいってください!!』』



キャアアアア!!!ワァアアアアアア!!!!


63 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:28:16.05 UQ3Vx+pro 63/64


(美羽さん、これはアイドルとしてのスタートであり、ゴールではない)

(アイドル矢口美羽としての価値はこれからどんどんあがっていく、それは他のアイドルと比較してはいけないんだ)

(モノマネやギャグもいいけど、まずは自分を輝かせないとね)

(ほら、美羽さんの友達はアイドル矢口美羽のファンになってくれたみたいだよ)



みうちゃーん!!!!かっこいい───!!



美羽(!)


美羽は届いた声援にこっそりサムズアップで返した・・・。



終わり

65 : ◆LhnLdWWANE - 2014/06/04 04:39:48.79 UQ3Vx+pro 64/64

以上です。読んでくれた方はありがとうございます。
意外と長くなってしまいました。前回とは打って変わってマジメな内容でした。

「提灯に釣鐘(ちょうちんにつりがね)」とは釣り合いが取れていない、比較にならないことのたとえです。
元々は男女の関係などが合ってない事を指す言葉でありましたが、今回はポジティブな捉え方しています。


さて、次回は

・成宮由愛「鳶に油揚げを攫われる」

その次の回に

・前川みく「猫も杓子も」

を予定しています。

次回のお話はタイトルこそ由愛ちゃんではありますが、内容は雪乃さんメインです。

ではまた。

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