1 : 以下、名... - 2016/05/21 23:13:29.93 Yty5boja0 1/397

「何言ってるんだ、アイドルになるために上京だなんて……」

「でも、自分なら必ずトップアイドルになれるって黒井社長が……」

「その黒井ってやつにもこの前会ったばかりなんだろう? そいつの口車に乗せられてるんだよ」

「お前は人一倍騙されやすいんだから」

「そ、そんなことないぞ!」

「前々から思っていたが、お前にアイドルなんて無理だ」

「アイドルスクールだって、もともとは友達に誘われて入ったようなもんだろう?」

「お前にやっていけるとは思えない」

元スレ
響兄「アイドルになりたい?」 響「うん」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1463840009/

2 : 以下、名... - 2016/05/21 23:15:06.63 Yty5boja0 2/397

あ、最初に書き忘れましたが、アイマスのゲームをしたことがないので、アニマスくらいしか知識ないです。
あとキャラ崩壊がひどいと思われます。

3 : 以下、名... - 2016/05/21 23:18:29.22 Yty5boja0 3/397

「な、なにー! 兄貴に何がわかるんだよっ! 兄貴なんかにアイドルのことが分かるはずないだろっ!」

「黒井社長は悪趣味でキザったらしいけど……でも、れっきとしたアイドル事務所の社長だぞ! そんな人が自分のことを認めてくれたんだ!」

「バカ言うんじゃない! お前も現実を見ろ! 俺は絶対に認めないからな!」

「っ! ……………いいよ、別に……」

「え……?」

「別に、兄貴に認めてもらわなくたって、黒井社長のもとで絶対にトップアイドルになってみせる!」

「兄貴のバカーッ!」 ダッ

「あっ、おい響!」

  ガララ ピシャ!

「…………響……」


4 : 以下、名... - 2016/05/21 23:24:32.37 Yty5boja0 4/397

「……」

「……ちょっとキツく言い過ぎじゃない……?」

「母さん、響はまだまだ子供だ。夢ばっかり追いかけていて、現実を知らない」

「アイドルだって、あんな表向きのキレイ事ばっかりじゃないはずだ」

「あの子だってそれくらいは分かってると思うわよ?」

「きっとそれを知った上で、それでも諦めきれないくらいの夢なんでしょう」

「たとえそうだとしても、俺には認められないよ……」

「……」

「……」

5 : 以下、名... - 2016/05/21 23:29:40.64 Yty5boja0 5/397

「……ふぅ、アンタ、お父さんに似てきたわね」

「親父に……?」

「強情で、怒りっぽくて、でも、本当はとっても優しい」

「……アンタ、響のことが心配で仕方ないんでしょう?」

「心配……? 違うよ……俺は響に、いつまでも夢見てないで身の丈に合った行動をしろって……」

「そういう素直じゃないところもお父さん似ね」

「……」

「でも少し過保護すぎない……? あの子だってもう誰かにどうこう言われなくたって考えて行動できる」

「もう少しくらい、あの子のことを信じてあげてもいいんじゃないかしら……」

「信じて送り出してやることも、私たちの仕事だと思うわよ」

6 : 以下、名... - 2016/05/21 23:32:13.74 Yty5boja0 6/397

「信じること……」

「……俺は、どうしたらいいんだろう」

「それは私に聞くより、自分で考えたほうがいいんじゃない?」

「響のためにどうするべきか、アンタ自身がどうしたいのか……」

「…………」


その後、響は家に帰ってきたが、俺とは一度も口を利くことなく、荷物をまとめて出て行ってしまった
母さんから聞いた話によると、響は当分この家に帰ってくるつもりはないらしい
黒井崇男に961プロ……資金力があり、全面的に響を売り出してくれるという話らしいが……嫌な予感がしてならない……
俺はどうするべきなんだ……どうしたらいい……

俺は……


7 : 以下、名... - 2016/05/21 23:33:19.70 Yty5boja0 7/397

「…………母さん」

「決めたんでしょう?」

「母さん、俺……」

「分かってるわ」

「……」

「響のこと、頼んだよ」

「…………ごめん……」

「いいんだよ、寂しくはなるけど……私も安心はできる」

「次に家へ帰ってくるときは、響と一緒に、仲直りして帰ってくるんだよ」

「……ありがとう……」

――――――

――――

――

9 : 以下、名... - 2016/05/21 23:36:05.33 Yty5boja0 8/397

(……………と、勢いだけで沖縄から出てきたものの……)

(どうしたもんかな……)

(高校までは行ったけど……そこからはずっと家の仕事の手伝いだったし……)

(面接とかしたことない……まず住む場所決めてない……資金もあまりない……)

(……まずいなぁ……)

(…………)

(響はたしか……961から住む場所や生活費なんかも提供されてるんだよな……)


10 : 以下、名... - 2016/05/21 23:37:57.11 Yty5boja0 9/397

「…………響に相談したら、一緒に住まわせてくれるか……?」

(いやいや……直接会ったらきっとまたケンカしてしまう)

(あくまで響にバレないように、それでいて定期的にでも様子が見られるような……)

(961プロ……)

(961の清掃員でもしてみるか……? いや、名前でバレるな……)

「はぁ……」

考えもなしに出てきたことを少し後悔した
しかし、ここで諦めるつもりはない。なんとか仕事と住む場所を確保しなければ……
母のためにも、響のためにも……

11 : 以下、名... - 2016/05/21 23:40:22.26 Yty5boja0 10/397

――

高木「うーむ……」

高木(そろそろうちの事務所も人員を増やさねばならないのだが……)

高木(しかし……なかなか人が集まらない……)

高木(まぁ、まだまだ事務所自体の名が売れているわけでもないから、しょうがないといえばしょうがないのかもしれないが……)

高木(誰かいい人材が見つからないものか……)

高木(…………ん? あそこに座っている青年……)

高木(……)

高木「!」

高木「あー、そこのベンチに腰掛けているキミ!」

「?」


12 : 以下、名... - 2016/05/21 23:42:08.02 Yty5boja0 11/397

「……」 キョロキョロ

「…………もしかして、俺ですか?」

高木「そう、キミだよキミィ! まぁ、とりあえずこっちに来なさい」

「は、はぁ……」

(何だろうこの人……)

高木「ほう、なんといい面構えだ……」

高木「ティンときた!」

「?」


13 : 以下、名... - 2016/05/21 23:43:47.11 Yty5boja0 12/397

「えーと、あなたは一体……?」

高木「おお!すまない、私としたことが少し興奮していたようだ……」

高木「私は高木、この近くの事務所の社長だ。あ、これ名刺ね」 スッ

「あ、どうも…………芸能事務所『765プロダクション』……?」

高木「そう! いや実はね、今ウチの事務所では優秀な人材を募集中なんだ」

高木「私自身、人を見る目はあると自負しているからね。こうやって歩きながら勧誘してまわっているんだよ」

「そうなんですか」



14 : 以下、名... - 2016/05/21 23:46:49.63 Yty5boja0 13/397

高木「そして今……こうしてキミを見つけた」

高木「私の目に狂いがなければ、キミは間違いなく我々が探し求めていた人材なんだ!」

高木「どうだろう、ウチで働いてみる気はないかい?」

(な、なんだかとんでもなく急な話だな…………けど、仕事のない今の俺にとってはまたとないチャンスなのかも……)

「あの、具体的にどんな仕事をするんですか?」

高木「うむ、キミにはウチに所属しているアイドルのプロデューサーをやってもらおうと思っている」

「へ……?」

「あ、アイドル……?」

高木「実はね、ウチには将来有望で個性的なアイドルがいるのだがね、彼女たちを売り出す人手が不足しているんだ」

高木「どうだい、やってみてはくれないかね?」

高木「こちらとしては是非ともキミに燻っている彼女たちを助けてやってほしいのだが……」

「……」


15 : 以下、名... - 2016/05/21 23:47:55.22 Yty5boja0 14/397

「……俺自身、アイドルや芸能界に関する知識なんてほとんどありません……」

「そんな俺でも、力になれるのなら」

高木「おお! やってくれるかね!」

「ただ少し、お願いしたいことが……」

高木「? 言ってみたまえ」

「実は……」

16 : 以下、名... - 2016/05/21 23:50:02.24 Yty5boja0 15/397

――

高木「…………なるほど」

高木「つまり、キミは961プロにスカウトされた妹、我那覇響くんには内緒でこちらにやってきた、と……」

「はい」

高木「ふむ……黒井がスカウトしたとなると、キミの妹さんは並外れたアイドルの素質を持っているということなのだろう」

「あいつがアイドルに向いているのかどうかは俺には分かりませんが……」

「ただ……あいつが家を出て、一人でやっていくと決めたのなら、今こうしてここにいる俺はあいつの決意や目指す夢の邪魔でしかないと思うんです……」


17 : 以下、名... - 2016/05/21 23:51:26.28 Yty5boja0 16/397

高木「しかし、心配でもある……」

「はい……だから、我那覇響の兄としてではなく、別の人間として雇ってほしいんです」

高木「……うむ、そういうことなら構わないよ」

高木「そのほかにも困ったことがあれば喜んで協力しよう」

「ありがとうございます!」

高木「いやぁ、にしても……」

「……?」

高木「キミたち兄弟はきっと、似た者同士なんだろうねぇ」

「? ……は、はぁ……」

高木「ハッハッハ、まぁ、これからよろしく頼むよキミィ!」

――――――

――――

――

18 : 以下、名... - 2016/05/21 23:53:15.32 Yty5boja0 17/397

(まさか俺がアイドルのプロデューサーだなんて……)

(響が知ったら、なんて思うだろうな)


 兄貴なんかにアイドルのことが分かるはずないだろっ!


(…………)

(……がんばらないとな…………)



――

(高木社長からは1時頃に事務所に来るようにと言われた)

(それまでにこっちの用事も済ませとかないと)

「とりあえず床屋にいこう」


19 : 以下、名... - 2016/05/21 23:54:09.40 Yty5boja0 18/397

「よし、そんなに切らなかったけど雰囲気は変わったかな?」

「アホ毛もなくなったし」

「次は眼鏡だが……おっ」

「あんなところによさげな店が。あそこにするか」

20 : 以下、名... - 2016/05/21 23:55:17.66 Yty5boja0 19/397

(別に目は悪くないけど……もし響に顔を見られたら大変だからな)

(とりあえず、伊達メガネを……)

(オシャレするためじゃないし、こんなのでいいかな?)

「わわっ、どいてください!」

「え?」

  どんがらがっしゃーん!


21 : 以下、名... - 2016/05/21 23:57:02.00 Yty5boja0 20/397

「いてて……」

「あぁっ! すみません、大丈夫でしたか!?」

「うん、俺は大丈夫だよ……キミのほうこそだいぶ派手に転んでたけど大丈夫?」

「はい! 私は普段から転びなれてるので大丈夫です!」

「そ、そうなんだ……」

(変わった子だなぁ……)

「あー、でもここの棚の時計がそこらへんに散らばっちゃいましたね……」

「ああ、俺も棚に戻すの手伝うよ」

「す、すいません、ありがとうございます」


22 : 以下、名... - 2016/05/22 00:00:47.89 eOO8AnLj0 21/397

「あれ…………」

「ん?」

「すいません……この時計って、時間あってますか……?」

「んー……うん、正確みたいだけど」

「」

(な、なんか分かりやすいくらい顔色が悪くなったな……)

「ど、どうしよう……!」

「どうかしたの?」

「い、いえ! ちょっと時間の待ち合わせがあって……」

「ああ、なるほどね」

「いいよ、ここは俺がかたづけとくから」

「えぇ!? で、でも悪いですよ!」

「いいって……ほら、時間に間に合わなくなっちゃうよ」

「っ! あ、ありがとうございます! 今度必ずお礼しますので!」

「はは、分かったよ。今度は転ばないよう気を付けてね」

23 : 以下、名... - 2016/05/22 00:02:13.77 eOO8AnLj0 22/397

(いやぁ、ほんとに変な子だったな)

(名前も聞いてないのに、今度必ずお礼しますって……)

(響も妹ながら変な奴だとはずっと思ってたけど、あの子もなかなか……って失礼か……)

(でも可愛い子だったな)

(見た感じたぶん歳は響と同じくらいかな?)

「……おっと、俺もそろそろ事務所に向かわないと」

(時間はまだ余裕があるけど、はっきりとした場所も分からないし早めに行っておこう)


24 : 以下、名... - 2016/05/22 00:05:21.13 eOO8AnLj0 23/397

「えー……と、地図だとこの辺だよな」

「…………」

「……それらしき建物はないけど……」

「! うまそうな匂い……」

(近くに食事処でもあるのか……そういえば昼飯はまだだったな……)

(……) キョロキョロ

(……ここか……名前は、たるき亭……)

(…………まぁ、まだ1時まで時間もあるし、さっさと済ませればいいだろう)

(ついでに店の人に765プロの場所を聞けばいいし)


25 : 以下、名... - 2016/05/22 00:06:52.75 eOO8AnLj0 24/397

  ガララ

店員「いらっしゃいませぇー」

店員「こちらがメニューになります」

(随分と可愛い声の店員さんだな……)

(…………)

(……うーん、さんま定食ってのもおいしそうだが、レバニラ定食ってのも捨てがたい……)

(いや、レバニラ定食だと結構匂いが残るかな……)

(初めて職場に行くわけだから、第一印象がニラの匂いとかまずいよなぁ)

(ここはさんまにしておくか……?)

店員「お待たせしましたぁー、サバ味噌定食です」

「うわぁ、おいしそう! いただきまーす!」

(サバ味噌定食! そういうのもあるのか)

「すいません、俺にもサバ味噌定食を」

店員「はーい、サバ味噌追加でーす」


26 : 以下、名... - 2016/05/22 00:08:33.69 eOO8AnLj0 25/397

  ガララ

(うまかった……いやホントにうまかった)

(今迄生きてきた中で一番うまいサバ味噌だった)

(また今度来よう)

「ふぅー……」

「……」

「あ、765プロの場所聞き忘れてた……」

27 : 以下、名... - 2016/05/22 00:09:17.08 eOO8AnLj0 26/397

(しまったなぁ……戻って聞けばすぐだけど……)

(そのためだけに今出てきた店の中に戻るってのも……)

(うーん……)

  ガララ

「はぁー、おいしかった。やっぱりたるき亭が一番ね」

28 : 以下、名... - 2016/05/22 00:10:49.02 eOO8AnLj0 27/397

(あ、さっきサバ味噌定食を頼んでた人だ……)

(さっきはちらっとしか見てなかったけど、随分ときれいな人だな……) ジー

「?」

「あのぉ、さっきたるき亭にいた方ですよね」

「私に何か御用ですか?」

(やべ、ジロジロ見すぎたか!?)

「あぁいや、随分ときれいな人だなぁって……ハハ……」

(ああ! ヤバい、テンパって変なこと口にしてる! これじゃナンパみたいじゃないか!)

「ピヨォッ!?」

「!?」


29 : 以下、名... - 2016/05/22 00:13:43.97 eOO8AnLj0 28/397

「どうして……いやでも……まさかこれがモテ期……? ついに私にも春が……?」 ブツブツ

(なんだこの人……突然奇声を上げたかと思ったら、なんかブツブツ独り言言ってる……)

「あ、あのー」

「……ハッ! は、はい! なんでしょうか!」

「この近くで765プロダクションって事務所の場所を知りませんか?」

「え? 765プロ?」

「765プロでしたら、このたるき亭の上ですよ」

「へ?」


30 : 以下、名... - 2016/05/22 00:15:35.58 eOO8AnLj0 29/397

「あ、ホントだ……」

(黄色いビニールテープで765って書いてある……)

(なんか思ってたイメージと違うな……)

「もしかして765プロに御用ですか?」

「あ、はい。今日、そこの社長に呼ばれてて……」

「……あっ! もしかして、新しいプロデューサーの方ですか!?」

小鳥「私、765プロの音無小鳥といいます! お話は社長の高木から伺っています!」

「765プロの……? ああ、アイドルの子か……どおりで……」

小鳥「!」

小鳥「アイ……ドル……!?」

小鳥(まさか、私のことをアイドルだと思ってる? いや、そんなまさか……いや、でも……!)

「?」

31 : 以下、名... - 2016/05/22 00:17:35.93 eOO8AnLj0 30/397

小鳥「と、とりあえず事務所までご案内しますね!」

「あ、よろしくお願いします、音無さん」

小鳥「私のことは小鳥ちゃんって呼んでください! あ、いっそのこと小鳥でも……!」

「あはは……じゃ、じゃあ小鳥ちゃんで……」

小鳥(ピヘヘヘヘ……)

  コツ コツ コツ

小鳥「……」

小鳥「そういえば、プロデューサーさんはおいくつなんですか?」

「俺ですか? 俺は19です」

小鳥「若ァッ!!!」

「!?」


32 : 以下、名... - 2016/05/22 00:20:41.35 eOO8AnLj0 31/397

  コツ コツ コツ

小鳥「すみません……ここのエレベーター壊れてて……」

「いえ、大丈夫ですよ」

(小鳥ちゃんは女の子なのに随分と体力あるんだな。やっぱりアイドルは違うな)

小鳥「はい、ここが事務所ですよ」

「ここが……」

(な、なんだか緊張してきた……)

小鳥「じゃあ、開けますよ?」

「は、はい!」

  ガチャ


33 : 以下、名... - 2016/05/22 00:22:13.96 eOO8AnLj0 32/397

  パンパパンパン!

「うわっ!」

亜美「いらっしゃーい!」

真美「765プロへようこそー!」

やよい「ようこそ~!」 パーン

「え? え?」

「あれ? 小鳥さんも一緒?」

小鳥「実はたるき亭で一緒だったのよ~」

伊織「ふーん、こいつが私たちのプロデューサーになるわけね」

雪歩「うぅ~……男の人……」

千早「歌や音楽の知識のある人だといいのだけど……」

「…………あれ?」


34 : 以下、名... - 2016/05/22 00:24:59.07 eOO8AnLj0 33/397

高木「ハッハッハ、いやぁ、よく来てくれた!」

高木「ようこそ!わが765プロへ!」

「あの、これは一体……?」

小鳥「実は今日プロデューサーさんが来るのはみんなには内緒だったんですけど……」

高木「私が今朝うっかり口を滑らせてしまってね!」

亜美「みんなで歓迎パーティしようって思ったんだけど、知ったのが今朝だったからバタバタしちゃってて……」

真美「真美たちが飾りつけをしてる間に、ジャンケンで負けたはるるんにクラッカーとかを買いに行っててもらったんだ!」

「はるるん?」

「…………ん?」

「キミは確か、雑貨屋にいた……」

「あーっ!」

35 : 以下、名... - 2016/05/22 00:26:04.68 eOO8AnLj0 34/397

「やっぱりそうだ! 眼鏡かけてるから違うかなって思ってたけど」

「あの時はどうもありがとうございました!」

千早「春香? 知り合い?」

春香「実は買い出しに行ってる時に私が転んでぶつかっちゃって……」

「春香はほんとよく転ぶよなぁ」

36 : 以下、名... - 2016/05/22 00:30:41.10 eOO8AnLj0 35/397

高木「どうやら天海君のことは知っていたようだね」

「ええ、まぁ、名前までは知りませんでしたけど……」

真美「あとここにいないのはりっちゃんとあずさお姉ちゃんだけだね」

亜美「あずさお姉ちゃんにもこまったもんですなぁ~」

伊織「噂をすれば帰ってきたみたいよ」

  ガチャッ!

律子「すみません! 遅くなりました!」

あずさ「すみません~、道に迷っちゃって」


37 : 以下、名... - 2016/05/22 00:32:55.13 eOO8AnLj0 36/397

小鳥「律子さん、あずささん、おかえりなさい」

小鳥「新しいプロデューサーさん、もう来てますよ」

律子「ええっ!? やだ、ホントだ!」

あずさ「あらあら~」

高木「よし、全員そろったようだね」

高木「じゃあまずは、アイドル諸君から自己紹介をしてもらおうかな」


38 : 以下、名... - 2016/05/22 00:36:32.94 eOO8AnLj0 37/397

春香「じゃあまずは私から!」

春香「私は天海春香です!トレードマークは頭のリボン!」

春香「家から事務所まで時間がかかるので、朝早くから遠距離通勤してます!」

春香「え~とあとは……え~……あっ、一日一回転びます!」

亜美「はるる~ん、自己紹介で話すことに困るってどうなの……?」

真美「それに転ぶことが個性って……」

春香「う、うるさいなぁ……」

「あ、あはは……」

春香「もう、プロデューサーさんまで笑わないで下さいよぉ!」


39 : 以下、名... - 2016/05/22 00:39:53.19 eOO8AnLj0 38/397

「天海さんは趣味とかあるの?」

春香「趣味ですか? 私、お菓子を作るのが好きなんです!」

春香「今度、プロデューサーさんにもお菓子作ってきて上げますね!」

「そうか、ありがとう。楽しみにしてるよ」

春香「あ、あと……」

「?」

春香「私のことは天海さんじゃなくて、春香って呼んでください!」

「うん、キミがそれでいいなら、これからは春香って呼ぶことにするよ」

春香「はい! 改めてよろしくお願いしますね!」


40 : 以下、名... - 2016/05/22 00:41:56.87 eOO8AnLj0 39/397

雪歩「えぇっと……萩原雪歩といいます……17歳です……」

雪歩「私、ひんそーで……ひんにゅーで……ちんちくりんで……」

千早「くっ……」

雪歩「犬が苦手で……その……男の人も苦手で……」

雪歩「その……その……こんなダメダメな私は、穴掘って埋まってますぅ~!」

「わぁ! ゆ、雪歩! 穴を掘るのはやめて!」

春香「プロデューサーさん! なんとか雪歩を止めてください!」

「え、えぇっ!?」


41 : 以下、名... - 2016/05/22 00:44:10.13 eOO8AnLj0 40/397

「萩原さん!」 ズィッ

雪歩「ひぃ!」

(露骨に嫌がられた……)

「は、萩原さん、自分のことっていうのは、どうしてもいいところより悪いところが目にとまっちゃうもんなんだ」

雪歩「え……?」

「でもそれは決して悪いことじゃなくて、ちゃんと自分の弱点を知ってるってことなんだ」

「今萩原さんには悪いところが際立って見えてるだけで、いいところもきっとあるはずだよ」

「だから、今度はキミのいいところを考えてみてくれないかな」

雪歩「…………私……」

42 : 以下、名... - 2016/05/22 00:46:23.61 eOO8AnLj0 41/397

雪歩「私、お茶と仕事のことは真剣なんです……!」

雪歩「それだけは……はっきり言えます……!」

「うん、なにか真剣になれることがあるのは立派なことだ」

「これからも自分のいいところを探していけるといいね」

「俺もできる限り手伝っていくからさ」

雪歩「は、はい……!」

亜美「何が嫌いかより 何が好きかで自分を語れよってやつだね!」

真美「兄ちゃんいいこと言うねー!」

伊織「そうかしら……私にはただ自分に酔ってるようにしか見えないけど」

「伊織!」

43 : 以下、名... - 2016/05/22 00:50:36.49 eOO8AnLj0 42/397

やよい「うっうー! 高槻やよいです!」

やよい「家は貧乏ですけど……それでも、元気にお仕事頑張ります!」

やよい「プロデューサー、これから一緒に頑張っていきましょうね!」

やよい「よろしくお願いしまーす!」

「ああ、こちらこそよろしく頼むよ高槻さん」

44 : 以下、名... - 2016/05/22 00:51:38.47 eOO8AnLj0 43/397

やよい「私のことはやよいでいいですよー」

「そうか? じゃあ、やよいは好きな食べ物とかあるかい?」

やよい「好きな食べ物……ですか……? う~ん……」

春香「やよいといったらもやしってイメージだけど」

やよい「もちろんもやしも好きですよー!」

「もやし?」


45 : 以下、名... - 2016/05/22 00:59:38.31 eOO8AnLj0 44/397

「もやしか……確かにおいしいよな、安いし」

やよい「プロデューサーももやし好きなんですか?」

「うん、俺の家のゴーヤーチャンプルーに入っててさ、よく食べてたよ」

「ほかにもソーキそばとかに盛ったりしてさ」

やよい「どっちもおいしそうです!」

「ああ、妹が料理得意だから、よく作ってくれてたんだ」

亜美「へー、妹がいるんだ!」

真美「確か二つとも沖縄の料理だよね? もしかして兄ちゃん、沖縄から来たの?」

「ん?あー……えっと……」

(しまった……つい口を……) チラ

高木「……」 コク

「…………まぁ、そんな感じかな……?」

亜美真美「ふーん」

46 : 以下、名... - 2016/05/22 01:18:15.14 eOO8AnLj0 45/397

伊織「水瀬伊織、15歳よ」

「……」

伊織「……」

「……」

「えっ、終わり?」


47 : 以下、名... - 2016/05/22 01:18:44.03 eOO8AnLj0 46/397

伊織「何?」

「い、いや……」

伊織「……」

伊織「知りたいことがあるんだったらアンタから質問しなさいよ」

「あ、ああ、そうだな……」

「水瀬さんの得意なことは何かな?」

伊織「何でもできるわ、仕事も受けたらなんだってこなすつもりよ」

伊織「ビジュアルだってほかのアイドルたちに引けを取ってないって自負してる」

「そ、そうか……」

(すごい自信だな……実力こそまだわからないが、彼女の言う通り確かに可愛い)

(性格は、別として……)

伊織「あと……」

「?」

48 : 以下、名... - 2016/05/22 01:19:50.59 eOO8AnLj0 47/397

伊織「水瀬さんって呼ばないで」

「え……じゃあ、伊織ちゃん?それとも伊織?」

伊織「いきなり馴れ馴れしいわね」

「えぇ……じゃあ何て呼べば……」

伊織「そうね……」

伊織「…………伊織……様、かしら」

「様ぁ!?」

伊織「冗談よ、伊織でいいわ」


49 : 以下、名... - 2016/05/22 01:20:50.10 eOO8AnLj0 48/397

千早「名前は如月千早です」

千早「アイドルに興味はありません」

春香「えぇぇっ!?」

千早「ですが、もしも歌えるチャンスがあるのなら……」

千早「クチバシだろうとなんだろうと付けてでも頑張ります」

「クチバシ……?」

亜美「前に受けた仕事にクチバシをつけて歌うっていうのがあって」

真美「やめとこうって言ったんだけど、それで歌えるのならって……」

(歌えれば何でもいいのか……?)

春香「じゃあ胸パッd……」 のヮの

伊織「やめておきなさい」

50 : 以下、名... - 2016/05/22 01:22:29.06 eOO8AnLj0 49/397

千早「やるからにはどのようなことでも全力を尽くします」

「そうか」

「なるべくキミの望む仕事が取ってこれるよう、俺も頑張るよ」

千早「はい、よろしくお願いします。プロデューサー」

「ああ、よろしくね」


51 : 以下、名... - 2016/05/22 01:23:19.94 eOO8AnLj0 50/397

「ボクの名前は菊地真といいます! ダンスが結構得意です!」

「ダンスか、確かに得意そうな見た目だね」

「……それって褒めてます?」

「も、もちろん褒め言葉で言ったつもりだよ。元気がよさそうだなぁって」

「むー……」


52 : 以下、名... - 2016/05/22 01:25:13.29 eOO8AnLj0 51/397

「あー……ところでさ、キミってすっごくモテるでしょ」

「ええ、モテますよ…………相手は全員女の子ですけどね……」

(やっぱりな。次郎にそっくりだし、そりゃモテるよ)

(次郎もモテモテだったからなぁ……)

「はぁ……白馬に乗った王子様……いないのかなぁ……」

「あはは……さすがに白馬に乗った王子様を見つけてくることはできないけど、キミの魅力を十分に発揮できるような仕事を俺が見つけてくるよ」

「そしたらきっと、キミの魅力に気付いたキミのだけの王子様も見つかるんじゃないかな」

「……ホントですか……?」

「まぁ、俺にはそれくらいしかできないから、あとはキミのがんばり次第だよ」

「そうですね……よーし!」

「これからバリバリ気合い入れて、頑張っていきましょう!」

「うん、一緒に頑張ろう、菊地さん」

「真、で大丈夫ですよ! よろしくお願いしますね、プロデューサー!」

53 : 以下、名... - 2016/05/22 01:26:23.51 eOO8AnLj0 52/397

あずさ「三浦あずさといいます。おっとりしてるといわれます」

あずさ「あと、私よく道に迷ってしまうのでみんなに迷惑をかけてしまって……」

あずさ「さっきも事務所の場所が分からなくって、律子さんに迎えに来てもらったんです」

(事務所の場所も……!?)

あずさ「プロデューサーさんにもご迷惑をおかけすることになると思います」

「ああ、いえ、そんな……そういったこともプロデューサーの仕事ですから」

(たぶん……)


54 : 以下、名... - 2016/05/22 01:28:58.35 eOO8AnLj0 53/397

あずさ「私は一応最年長ですから、もっとしっかりしなきゃって思うんですけど……」

律子「大丈夫です、私たちがみんなでカバーしていけばいいんですよ!」

春香「そうですよ! 私たちみんなで765プロなんですから!」

「俺もこれからここの一員なわけですから、どんどん頼ってくださいね」

あずさ「あらあら~、ありがとうございます、律子さんに春香ちゃん、プロデューサーさんも」

あずさ「どうぞよろしくお願いしますね」


55 : 以下、名... - 2016/05/22 01:30:57.19 eOO8AnLj0 54/397

亜美「亜美です!」

真美「真美です!」

亜美真美「二人合わせて亜美真美でーす!」

真美「少し前まで変わりばんこでアイドルしてたよ」

亜美「今は髪型がお互い違うからバレちゃうけどね」

「そ、そんなことしてたのか……」


56 : 以下、名... - 2016/05/22 01:32:52.21 eOO8AnLj0 55/397

亜美「ねぇねぇ、兄ちゃんの妹っていくつなの~?」

真美「かわいい~?」

「ぐっ、まだそれを引っ張るのか……兄の誕生日も祝ってくれないような妹だよ」

真美「へ~、仲良くないの?」

「いや……ていうか、今は双海さんたちの自己紹介の番だろ?」

亜美「ぶ~、けち!」

真美「それに双海さんじゃなくて、真美たちのことは名前で呼んでよね!」

亜美「なんていうか、たにんぎょーぎってカンジがするよね」

「わかったわかった、よろしく、亜美、それに真美」

亜美真美「よろしくゥー!」


57 : 以下、名... - 2016/05/22 01:35:10.03 eOO8AnLj0 56/397

律子「私は秋月律子です。あなたと同じくこの765プロでプロデューサーをしています」

「え? アイドルじゃあないんですか?」

律子「あ……ええ、まぁ、一時期やっていたこともありましたけど」

律子「私にはこっちのほうが向いてますから」

「そうなんですか」

(もったいない気がするけどなぁ……)

律子「……」

58 : 以下、名... - 2016/05/22 01:37:28.00 eOO8AnLj0 57/397

高木「そして私はこの765プロの社長、高木だ」

高木「もう私のことを説明する必要はないね」

高木「ああ、それとキミももう知っているかもしれないが、765プロの事務員である音無君だ」

「事務員? 小鳥ちゃんが?」

亜美「小鳥……!?」

真美「ちゃん……だと……!?」

小鳥「しまったピヨ……!」


59 : 以下、名... - 2016/05/22 01:38:22.44 eOO8AnLj0 58/397

――

高木「つまりキミは音無君のことを765プロの現役アイドルだと勘違いしていたということかね?」

「ええ、そのようですね」

小鳥「ピヨ……」

小鳥(一時の気の迷いのせいで恥かいたピヨ……)

小鳥(しかも現役アイドルたちの前でなんて……)

亜美「ぬかったな、ピヨちゃん!」

真美「こんな所で辱められる己の身を呪うがいい!」

小鳥「ピヨォ……」


60 : 以下、名... - 2016/05/22 01:43:47.31 eOO8AnLj0 59/397

高木「それじゃあ、最後に」

高木「プロデューサー君から一言、よろしく頼むよ」

「はい」

「えー、今回、この事務所に勤めさせていただくことになり、誠に……」

亜美「ちょっと兄ちゃ~ん!」

真美「全然おもしろくないよ~?」

「ぐっ……ごほん、まぁ、俺はこの業界のことはまだまだ何も知らない」

「最初のうちは頼りないかもしれないけれど、キミたちの力になれるよう、精いっぱい努力するつもりだ!」

「夢はみんなまとめてトップアイドル! よろしくお願いします!」

 ワー ワー ガンバリマショーネ! ウッウー!



伊織「…………」

伊織「……みんなまとめて……ね……」

―――――――

―――――

――


64 : 以下、名... - 2016/05/22 12:04:53.77 eOO8AnLj0 60/397

「なんでだ……」

「何がですか?」

春香「あ、プロデューサーさん、クッキー焼いてきたので食べませんか?」

亜美「わーい、クッキー!」

真美「いっただきー!」

「なぁ、今迄もこんな感じだったのか?」

「こんな感じ……?」

春香「どんな感じですか?」


65 : 以下、名... - 2016/05/22 12:06:51.81 eOO8AnLj0 61/397

「ホワイトボードだよ、ホワイトボード」

「その名のとおり真っ白だ」

「仕方ないですよ、仕事がないんですから」

「どうしてだ……何故……」

真美「オーディション、全滅だったからね~」

「何がいけなかったんだ……? 外回りだってちゃんとしてたし……」

春香「もっと別の部分に問題があるとかですかね?」

亜美「別の部分? 例えば?」

春香「例えばって聞かれるとちょっと分かんないけど……」

「別の部分……か……」

(まずいなぁ……こういう時に経験不足だと、どこから手を付ければいいか全くわからん……)

「……」

律子「ただいまぁー」 ガチャ

伊織「ただいま」

やよい「ただいま帰りましたー」


66 : 以下、名... - 2016/05/22 12:09:52.83 eOO8AnLj0 62/397

亜美「あ、りっちゃんたちおかえりー」

伊織「あれ? アンタたち何してるの?」

真美「見てのとおり仕事がないんだよぉ~」

律子「えぇ、またオーディションダメだったの?」

「申し訳ない……俺が何とかしてやんないといけないのに……」

律子「うーん……」


67 : 以下、名... - 2016/05/22 12:11:23.95 eOO8AnLj0 63/397

律子「でもこの数は異常ですね……ただの実力不足とは思えないし……」

伊織「ねぇアンタ、なにか考えはあるの?」

「えっ? ……えー……と……」

「ゴメン、ぶっちゃけどこがダメだったのかもわからなくって……」

伊織「なによ、役に立たないわね」

律子「伊織、そういう言い方はやめなさい。プロデューサーはこの前入ったばっかりなのよ?」

伊織「仕事の相手には関係ない話でしょ?」

伊織「このままじゃ本当に仕事がゼロになるわよ」

やよい「そうなったらお給料が貰えなくなっちゃいます~!」

真美「まさか、事務所がつぶれちゃう!?」

律子「まだそこまでは切羽詰まってないわよ……」

伊織「でもずっとこのままならいずれそうなるわ」



68 : 以下、名... - 2016/05/22 12:15:03.99 eOO8AnLj0 64/397

亜美「こんなときにミキミキがいればなぁ……」

「? ミキミキ……?」

律子「…………」

伊織「……」

伊織「……あんな奴に頼らなくたって私たちはやっていけるわ」

真美「でも、いなくなってから仕事がめっきり減ったよね……」

やよい「確かに美希さんはすごかったです……」

「やっぱり美希がいなきゃ……」

伊織「またアイツの話……? 言ったところで無駄でしょ」

「っ! そんな言い方ないだろ、ボクたちだって美希のおかげでここまでやってこれたんだから」

伊織「そういうことじゃないの! 今いない奴のこと言ってもしかたないでしょっ!」

伊織「アンタたちがそんなことばっかり未練がましく言ってるからダメなのよ!」

「だって本当のことだろ!」

春香「ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」

69 : 以下、名... - 2016/05/22 12:18:56.76 eOO8AnLj0 65/397

律子「そうね、ここでケンカしたってなんの解決にもならない」

律子「何が原因なのかは私たちが考えておくから」

伊織「ふん……今日はもう帰るわ」

律子「送っていきましょうか?」

伊織「いいわ、もうすぐ新堂が来ることになってるから」

律子「そう、お疲れさま」

  ガチャ バタン

「ふんだ、なんだよ伊織の奴……」


70 : 以下、名... - 2016/05/22 12:20:21.28 eOO8AnLj0 66/397

「なぁ、美希って誰だ?」

春香「え、美希ですか……?」

律子「あぁ……プロデューサーは知りませんでしたね……」

春香「えっと、元々は私たちと同じ765プロのアイドルだった娘です」

「ボクたちも嫉妬してしまうくらい歌もダンスもビジュアルもどれをとっても完璧で、天才ってこういう人を言うんだなってくらいの……」

律子「美希がこの事務所の中じゃあ一番売れてましたから、実質ここまで765プロがやっていけていたのも美希の活躍が大きいんです」

律子「美希と一緒に共演させたりすることで、ほかの娘たちのファンを少しずつ増やしていこうと思ってたんですけど……」


71 : 以下、名... - 2016/05/22 12:25:22.66 eOO8AnLj0 67/397

「今はどこにいるんだ?」

春香「……えっと……実は、別の事務所に移籍しているらしいんですけど……」

春香「ハッキリとした名前は分かってないんです……」

「……そうなのか」

(事務所の名前も分からない……アイドル活動をしてないってことか……?)

「……でもなんで……? どうして移籍なんか……」

「飽きたからだそうです」

「……飽きた……?」

72 : 以下、名... - 2016/05/22 12:32:22.01 eOO8AnLj0 68/397

『美希! 765をやめるだなんてバカ言わないで!』

『…………ミキね、もう飽きちゃった……』

『飽きた……?』

『飽きたって、アイドルに飽きたってこと……!?』

『ううん、アイドルは続けるよ? まだまだキラキラしたいもん』

『ただ、続けるのはここじゃない』

『どうして765プロじゃあダメなの? 誰一人欠けちゃいけない、私たち全員そろって765プロでしょ!?』

『私たちと一緒じゃだめなの!?』

『うん、ダメなの……今のここじゃあ』

『そんな……』

『…………あ、でも安心していいよ。別のとこで飽きたらまたすぐに帰ってくるの』

『待って美希! 今の私たちにはあなたが必要なのよ!?』

『美希!』


73 : 以下、名... - 2016/05/22 12:36:43.06 eOO8AnLj0 69/397

春香「…………」

「……そんな……」

「……」

律子「……はい、この話はおしまい」

律子「とりあえずオーディションの件は私に任せて」

律子「みんなはそれぞれ自分たちにできることを全力で取り組むこと、分かった?」


74 : 以下、名... - 2016/05/22 12:37:36.78 eOO8AnLj0 70/397

(秋月さんにもほかの仕事があるんだから本当は俺が何とかしなきゃいけないのに……)

(……でも、今の俺じゃあ……)

春香「あの、プロデューサーさん」

「! な、何?」

「ボクたち今から自主トレでもしようかなって思ってるんですけど、よければ見てもらえませんか?」

「ああ……」

(見てもらうなら秋月さんのほうがいいと思うけど……)

「……うん、俺でいいなら」

春香「よろしくお願いしますね、プロデューサーさん!」


75 : 以下、名... - 2016/05/22 12:41:16.24 eOO8AnLj0 71/397

――

春香「はぁ……はぁ……ど、どうでしたか……?」

「ん……うーん、と……そうだなぁ……」

(今まで現役アイドルのダンスなんて見たことがないからどうコメントしていいやら……)

(とりあえず正直に)

「まぁ、もう少しってとこかな……?」

「えっ」

「ボク的にはかなりいい感じだったと思うんですけど……どこら辺がダメでした?」

「え……いや、ダメっていうか……」

「…………」

「えーと……」

76 : 以下、名... - 2016/05/22 12:43:26.34 eOO8AnLj0 72/397

春香「わ、私、正直あんまり真の動きについていけてなかったから……」

「あっ、あー……確かに春香は少し動きが遅れてたね」

春香「た、体力が持たなくって……えへへ……」

「なーんだ、そういうことですね」

「春香、これから毎日ボクと体力付けるために走りに行こう!」

春香「え、えぇぇっ!?」

「あ、あはは、それはいいかもな」

「ただ、あんまり張り切りすぎて体壊したりしないように」

「はーい!」

春香「うぅ……はぁーい……」


77 : 以下、名... - 2016/05/22 12:44:38.85 eOO8AnLj0 73/397

(……)

(あんなもんなのか? アイドルのダンスって……)

(別にダメってわけじゃあなかったんだが……)

(あくまで素人目戦だけど、正直アイドルスクールに通ってた頃の響と大して変わらないような……)

(でもアイドルはダンスができればいいってもんじゃないからな、うん)

(……まぁ、それは置いといて)

(さっきみたいに、どこがいけなかったか聞かれたときにアドバイスができないっていうのは致命的だよな……)

(俺ももっと勉強しないと……)


78 : 以下、名... - 2016/05/22 12:48:43.24 eOO8AnLj0 74/397

――

小鳥「ここ二週間足らずでだいぶ仕事が増えましたよね」

律子「そうですね、ホワイトボードに文字が書いてあるってだけで安心できます」

「どうやったんですか? 秋月さん」

律子「あの後、みんなのプロフィールや情報、宣材なんかを一通り確認してみたんですよ」

律子「そしたらみんなの宣材写真が原因だってことに気が付いたんです」

「宣材写真?」

小鳥「ああ、そういえばこの前みんなの分撮り直してましたね」

「写真だけでそんなに変わるなんて……一体前の写真はどれだけひどかったんだ……」

律子「前の写真ですか? えーと……」 ガサゴソ

律子「はい、これです」 ピラ

「うわ……なんというか……随分と個性的といいますか……」

律子「実はプロデューサーがここに来る前は人手が足りなくって、仕方なく社長にも手伝ってもらってたんです」

律子「確認してなかった私も悪いんですけど……まさか社長がこんな写真でOK出してるなんて……」

小鳥「社長は人を見る目はあるんですけどねぇ……」


79 : 以下、名... - 2016/05/22 12:52:16.59 eOO8AnLj0 75/397

律子「ま、これで無事一件落着ですね」

「……本当、すみません」

律子「? 何がですか?」

「俺だってプロデューサーなのに、全然役に立てなくって……」

律子「そんなことないですよ、もしかして伊織に言われたこと気にしてるんですか?」

「いえ、別にそういうわけじゃあ……」

律子「大丈夫です、人手が一人増えただけでもこっちは大助かりなんですから」

律子「だいたい、最初から何でもできる人間なんていませんし、伊織も最近イライラしててついプロデューサーに当たってしまったんだと思います」

小鳥「伊織ちゃんはいろいろと一人でため込みやすいタイプですからね」

「そう……ですか……」


(俺も早くみんなに頼られるようにならないと……)


80 : 以下、名... - 2016/05/22 12:56:55.93 eOO8AnLj0 76/397

――

「さーて、仕事、仕事……」

「……」

「…………あれ……?」

小鳥「? どうしたんですかプロデューサーさん、ホワイトボード見て固まって」

「嘘だろ……うわぁ、これは……!」

小鳥「?」

「すみません! 俺ちょっと出てきます!」


81 : 以下、名... - 2016/05/22 12:58:58.56 eOO8AnLj0 77/397




伊織「――、それじゃあお疲れ様でしたー!」

伊織「ふぅ……」

伊織(少し疲れたわね……ま、仕事がないより全然マシだけど……)

伊織(少し早いけど帰って休みましょ)

「伊織!」

伊織「きゃっ!?」

伊織「あ、アンタ……驚かすんじゃないわよ!」

「す、スマン……」

伊織「で、なんでアンタがここにいるわけ? 迎えならいらないわよ、今日はもう直帰するから」

「い、いや、実は……って今は時間がないんだ! スマンがとりあえず来てくれ!」 ガシッ

伊織「手ぇ握らないでよ! というかまず説明しなさい!」

「説明は車の中でするから!」

伊織「ちょっ、ちょっと!」


82 : 以下、名... - 2016/05/22 13:02:40.38 eOO8AnLj0 78/397

「……くそっ、信号が……時間がないっていうのに……」

伊織「で、なんで私は車に乗せられてるわけ?」

「あ、あぁ……その……俺のミスなんだ……」

伊織「どういうこと?」

「実は俺がスケジュール調整をミスしてて、伊織に連続で仕事を入れてしまっててさ……」

伊織「は、はぁ!? この後にまた仕事が入ってるっていうの?」

伊織「時間は?」

「1時半には開始……」

伊織「1時半ってアンタ……もう5分もないじゃない!」

「わ、分かってる!」

伊織「それに私だって休憩なしじゃあキツイわ、まだ昼ごはんだって食べてないのよ?」

「すまない……そこの袋に買っといたお茶とおにぎりが入ってると思うんだが……」

伊織「これから番組の収録だっていうのに、歯にのりでも付いたらどうすんのよ!」

(えぇ……)

伊織「それと、私に飲み物を買ってくるときはオレンジジュースにしなさい! 分かった!?」

「わ、分かった……」


83 : 以下、名... - 2016/05/22 13:12:35.03 eOO8AnLj0 79/397

(な、なんとか間に合った……)

(……伊織、大丈夫かな……今は何とかやれてるみたいだが……)

(お腹が鳴ったりしないだろうか……というより、体力的に大丈夫なんだろうか……)

(…………)

(……オレンジジュースでも買ってくるか……)

84 : 以下、名... - 2016/05/22 13:13:09.21 eOO8AnLj0 80/397

――

伊織「…………」

「だ、大丈夫か伊織!」

伊織「うるさいわね……少し疲れただけよ……」

「あ、家まで送っていくよ」

伊織「いいわ、もう新堂に連絡してあるから……」

「そ、そっか……」

伊織「それよりも……これからはちゃんとスケジュールもちゃんと確認しなさい……」

伊織「それに、私たちアイドルの体調管理なんかもアンタたちプロデューサーの仕事なんだから」


85 : 以下、名... - 2016/05/22 13:16:22.75 eOO8AnLj0 81/397

伊織「それじゃ……」

「あっ、い、伊織……!」

伊織「なに?」

「あの、ありがとう……」

伊織「は?」

「今日の俺のミスのせいで無理させちゃったからさ」

「伊織が失敗もせずにやってくれたから……」

伊織「だからありがとう?」

「うん」

伊織「ふん、なに当り前のこと言ってるわけ?」

伊織「私はアイドルとして、アイドルの仕事をこなしただけ」

伊織「普通自分の仕事ぐらいきっちりとこなすのが当たり前なんじゃないの?」

「! ご、ごめん……」

伊織「一つ言っとくけど、次はないと思いなさい」

伊織「今回は何とかうまくやれたけど、次もうまくいくなんて保証はどこにもないんだから」

「わ、わかったよ……」



86 : 以下、名... - 2016/05/22 13:18:42.22 eOO8AnLj0 82/397

「……あ、そうだ……」 ガサゴソ

「はい、オレンジジュース」 スッ

伊織「……いらない」

「え?」

伊織「私、100%のしか飲まないの」

「えぇ……」

伊織「それじゃあ」 スタスタ

「……」


87 : 以下、名... - 2016/05/22 13:20:21.08 eOO8AnLj0 83/397

――

「……」 モグモグ

「……はぁ……」

「自分の仕事ぐらいきっちりとこなすのが当たり前……か」

(その通りだよな……大の大人が、子供に叱られて……恥ずかしいな……)

  グワグワ

「はは……カモはいいなぁ……楽そうで……」

「……」 モグモグ

「……」


88 : 以下、名... - 2016/05/22 13:23:28.95 eOO8AnLj0 84/397

「……」 モグモグ

「……」

「……」

「……」

(なんだろ、すごい見られてる……)

(高校生くらいか?えらく目立つ髪色だな、顔はすごくかわいいけど)

「あの……」

「……」 グゥ…

「……」

「……」


89 : 以下、名... - 2016/05/22 13:29:14.88 eOO8AnLj0 85/397

「キミ……お腹すいてるの?」

「え……」

「…………うーん……そうかも?」

「えっと……余り物のおにぎりでよかったら食べる?」

「お兄さん、もしかしてナンパ?」

「え……えぇ……?」

「あはっ、冗談なの」


90 : 以下、名... - 2016/05/22 13:30:04.93 eOO8AnLj0 86/397

「おにぎり一つ貰っていい?」

「あ、うん、おかかでいいかな?」

「うん」

「……」 モグモグ

「……」 モグモグ

「……」

(橋の上でカモを眺めながらおにぎりを貪る男と少女の図)

「なんだこれ」

「何言ってるの?」 モグモグ


91 : 以下、名... - 2016/05/22 13:31:14.66 eOO8AnLj0 87/397

「いやごめん、独り言だよ」

「悩みやストレスを抱えてる人は独り言が多いんだって」

「さっきも、カモはいいなぁとか一人でつぶやいてたの」

(た、確かに……最近独り言が増えてるかも……?)

「悩み事でもあるの?」

「悩み事……まぁ、あることにはあるかな……」

「ふーん……」

「なら、おにぎりくれたお礼にお兄さんの悩みを聞いてあげるの」

「えぇ……?」


92 : 以下、名... - 2016/05/22 13:31:51.47 eOO8AnLj0 88/397

「人に話すと楽になるっていうよ?」

「まぁ、言いたくないんなら別にいいけど」

「うーん……」

「……それじゃあ……つまんない話かもしれないけど、聞いてもらっていいかな……?」

「つまんないのは、ヤ」

(どっちだよ……)


93 : 以下、名... - 2016/05/22 13:36:16.87 eOO8AnLj0 89/397

――――

――

「―――でさ、俺がバヤリースオレンジを買っていったら今度はその子、私は100%オレンジジュースしか飲まないって言ったんだよ」

「へー」 モグモグ

「信じられるか? オレンジジュースにしろって言ったんだからオレンジジュース買ってきたのにいらないだなんてさ……ワガママもいいとこだよ」

「100%のオレンジジュースしか飲まないなんて、デコちゃんにそっくりなの」

「デコちゃん……?」

「んーと、友達……かな」

「あっちは多分、顔も見たくないって思ってるだろうけど」

「な、なんだかひどい話だな」

「ううん、仕方ないよ。先にひどいことしたのはこっちだから」

「え?」

「……それよりお兄さん、どう? 少しはすっきりした?」

「ん、ああ、そうだね……」

(すっきりした……のかな?)

(まぁ、だいぶ気分はよくなったけど)


94 : 以下、名... - 2016/05/22 13:37:45.34 eOO8AnLj0 90/397

「あふぅ、なんだか眠たくなってきたの」

「あはは、ごめんね、ずっと話聞いてもらっちゃって」

「おにぎりも貰ったし別にいいの」

 ブロロ キッ

「あ……」

「うん?」

(少し離れたところに黒塗りの高そうな車が……)

「お迎えが来たの」

「え?」

「それじゃあもう帰るね、お兄さん」

「あっ、ちょっと待ってくれ」

「どーしたの?」


95 : 以下、名... - 2016/05/22 13:39:50.16 eOO8AnLj0 91/397

「キミ、アイドルに興味ない?」

「アイドル……」

「あぁ、765プロっていうんだけど……俺、そこのプロデューサーやっててさ……」

「765プロにプロデューサー? へぇ……」

「きっとキミのビジュアルならアイドルも夢じゃあないと思うんだ」

「んー残念、実はもうアイドルやってるんだ。ほかの事務所でね」

「えっ?」

「バイバイ、またねお兄さん」

「あ、ちょっ……」

「…………行っちゃったよ……」


96 : 以下、名... - 2016/05/22 13:40:58.18 eOO8AnLj0 92/397

(あの子、現役アイドルだったのか。どうりで可愛いわけだ)

(あのビジュアルなら相当売れてそうだけど、テレビで見たことないんだよなぁ)

(こっちに来てからはちゃんとチェックしてるのに……どこの子だろう)

(あ、名前聞いておけばよかった……)

99 : 以下、名... - 2016/05/22 23:37:18.56 eOO8AnLj0 93/397

――

やよい「うっうー! お疲れ様でしたぁー!」

「お疲れやよい、今日の撮影はばっちりだったな」

やよい「はい!」

「ちょうどお昼だな、事務所に帰ってもいいがどこかで先に済ませようか」

やよい「あ……でも私、お金が……」

「ん? あぁ、大丈夫、それは俺が出すよ」

やよい「えー、悪いですよ……」

「いいっていいって、こんなとこぐらい俺にいいカッコさせてくれ」

やよい「そこまでいうなら……じゃあ、今回は甘えちゃいますね!」

「ああ、やよいは何か食べたいものあるか?」

やよい「食べたいものですか? うーん……」


100 : 以下、名... - 2016/05/22 23:38:27.46 eOO8AnLj0 94/397

やよい「うーん……うーん……」

「や、やよい……そんなに悩まなくても……」

やよい「私、普段外食なんてしないから、何を食べたらいいのかわからなくって……」

「やよいの好きなものとか食べてみたいものとか、何でもいいんだぞ?」

やよい「食べてみたいもの……」

やよい「……あっ」

「ん? なんだ?」

やよい「あの、あそこにあるラーメン屋さん、あそこがいいです!」

 ラーメン二十郎

「ラーメン? ラーメンでいいのか?」

やよい「はい! 実はラーメンをお店で食べたことってあんまりなくて……」

「そっか、じゃあそこにするか」


101 : 以下、名... - 2016/05/22 23:40:33.96 eOO8AnLj0 95/397

 ガラ

やよい「うわ~! いいにおいです~!」

「確かに食欲のそそられる匂いだ」

「ここはこの販売機で券を買って注文するみたいだな」

やよい「プロデューサーはどれにするんですか?」

「そうだなぁ、俺は豚ダブルってのにしようかな、やよいは?」

やよい「じゃあ私も同じのお願いします」

「よし分かった」


102 : 以下、名... - 2016/05/22 23:42:42.85 eOO8AnLj0 96/397

店員「ニンニク入れますか?」

「あ、お願いします」

やよい「お客さん多いですね」

「お昼ってのもあるんだろうが確かに多いな」

「隣、失礼致します」

「あ、はい、どうぞ」

やよい(ふわ、きれいな人……)

(銀髪……外人さんか……?)

 スッ

 ”豚ダブル大”

「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ」

やよい「!?」


103 : 以下、名... - 2016/05/22 23:47:15.75 eOO8AnLj0 97/397

(なんだ今の呪文……)

やよい(なんだろう……私も言ったほうがいいのかな……?)

店員「お待たせしました」

「お、きたか……って、うわ」

やよい「すごい量です……!」

(普通のラーメンの倍近くあるんじゃないか?)



104 : 以下、名... - 2016/05/22 23:49:57.61 eOO8AnLj0 98/397

 ズルズル

(うん、おいしい……おいしいが食べても減っている気がしない……)

(やよいも食べているが、あれは女の子が一人で食べるには少々きついんじゃないか?)

「やよい……大丈夫か?」

やよい「はい! おいしいです!」 ハフハフ

「そ、そっか」

(意外とやよいって食べるんだな……)

店員「お待たせしました」

「!!?」


店員の運んできたラーメンはもはや食べ物には見えなかった。
山のように盛られたもやしは、店員がただお遊びで乗せたとしか考えられない程の量だった。
先ほどまで夢中で箸を進めていたやよいも、おびただしいほどのもやしを見て放心していた。


(下のラーメンだけでも俺たちの倍以上はあるぞ……)

「ふふ、では、いただきます……」

(なっ、この量を前にして余裕の笑みを……!)

 バクバク ズルズル モグモグ

(速い! あの風貌からこのスピード! し 信じられんッ!)

(お、俺も早く食べないと麺が汁を吸ってしまう……)


105 : 以下、名... - 2016/05/22 23:52:57.42 eOO8AnLj0 99/397

「う、うーん……うぐ……ゲップ……」

やよい「けぷ……」

(な、なんとか食べきれた……)

「まこと、美味でした」

(あの量で俺たちと同時に食べ終わるのか……)

やよい「すごいです……」

「ふふふ、貴方もとても良い食べ振りでしたよ」

「では、お先に失礼いたします」


106 : 以下、名... - 2016/05/22 23:58:43.41 eOO8AnLj0 100/397

「あ~、食った~」

やよい「量はすごかったけど、とってもおいしかったです!」

「あぁ、確かにおいしかったな」

(でも、当分ラーメンはいいや……)

「にしても、隣に座ってた銀髪の女性、すごいの食べてたな。胃袋どうなってんだろ」

やよい「あの人とってもキレイでしたね!」

「うん、顔も整ってたしアイドル……というかモデルとかでやっていけそうな感じだった」

(あの上品さからは考えられないギャップ……早食いアイドル……いや、大食いアイドル……?)

(普段の美しい佇まいから垣間見られる可愛さ……ギャップ萌……これはいける!)

(いや…………いかんな、最近はなんでも仕事に結びつけようとしてる……)

やよい「プロデューサー?」

「ん?あぁ……すまない、ちょっと考え事しててな……」

「今度はみんなでどっか食べに行こうな」

やよい「はい!」


107 : 以下、名... - 2016/05/23 00:00:39.10 3uexc2jV0 101/397


――

(……)

(もうこっちに来てから3か月以上は経った……)

(765のアイドルたちともそれなりに仲良くなり、ちゃんとやって行けていると思う……だが)

(そんなにも時間がたったにもかかわらず、いまだに響を見かけたことがない……)

(テレビはおろか、ネット上にも載っていないなんて……)

(活動をしていないってことなのか?)

(…………響……)

 プルルルル プルルルル

「ん? 電話……あずささん?」

 ピッ

「もしもし」

あずさ『あっ、プロデューサーさんですか?』

「あずささん、どうかしたんですか? 今日は直帰のはずじゃあ……」

あずさ『実は、お仕事帰りにちょっと散歩に出かけたら道が分からなくなってしまって……』

「あ~、なるほど……えっと、なにか特徴的な建物とかありますか?」


108 : 以下、名... - 2016/05/23 00:06:39.56 3uexc2jV0 102/397

あずさ『え~……と、あっ、すっごくオシャレなビルがあるみたいです~』

「オシャレなビル?」

あずさ『金と赤のシマシマで、ピンクのネオンがついてます』

(その配色はオシャレなのか……?)

「わ、分かりました。こちらから迎えに行きますから、とりあえずあずささんはそこからなるべく動かないようにしてください」

あずさ『わかりました~』

 ピッ

「金と赤のシマシマのビル……」

109 : 以下、名... - 2016/05/23 00:10:32.80 3uexc2jV0 103/397

「音無さん、ちょっといいですか?」

小鳥「? どうしました、プロデューサーさん?」

「この近くに金と赤のシマシマで、ピンクのネオンのついたビルってありますか?」

小鳥「金と赤のシマシマ……」

小鳥「……」

小鳥「……この近くってわけじゃあないですけど、確かにありますよ」

「何て名前ですか?」

小鳥「えぇと……961プロダクションっていう所です……」

「! 961プロ……」


110 : 以下、名... - 2016/05/23 00:12:49.06 3uexc2jV0 104/397

小鳥「どうして961プロのことを……?」

「あずささんが帰り道で迷ってしまって、電話で場所を聞いたら近くにそのビルがあるって言ってたんです」

小鳥「あぁ、なるほど」

小鳥「それじゃあ事務所から961プロまでの地図を渡しときますね」

「ありがとうございます」


111 : 以下、名... - 2016/05/23 00:14:43.64 3uexc2jV0 105/397

 ブロロ…

(961プロ……)

(…………)

 キッ

「地図だとこの辺だけど……」

(あれか……実際見てみるとスゴイ悪趣味なビルだな)

(…………)

(……それより、あずささんはどこだろう……) キョロキョロ

(この近くにはいない……ビルの周辺を回ってみるか)


112 : 以下、名... - 2016/05/23 00:16:43.91 3uexc2jV0 106/397

――

「うーん……一通り回ったけどいないな……」

「電話してみるか」

 プルルルル プルルルル ピッ

あずさ『もしもし、プロデューサーさんですか?』

「はい、今ビルの近くにいるんですけど、どこら辺にいますか?」

あずさ『すみません、今はビルの向かいにあるコンビニの前にいます』

「分かりました、すぐに迎えに行きます」


113 : 以下、名... - 2016/05/23 00:19:22.94 3uexc2jV0 107/397

あずさ「プロデューサーさん、ここです~」

「あっ、あずささん、見つかってよかった」

あずさ「すみません、ご迷惑をおかけして……」

「いや、大丈夫ですよ。あずささんもコンビニがあるならわざわざ外で待たなくてもよかったのに……」

あずさ「え~と、実は……」

 「ヂュイ」 ヒョコ

「え? ハムスター……?」

あずさ「はい、迷っているときに偶然この子が空から降ってきたんです」

(空から!?)


114 : 以下、名... - 2016/05/23 00:21:16.52 3uexc2jV0 108/397

あずさ「そのまま放っておくこともできないですし、ずっと一緒にいたんです」

あずさ「コンビニには動物って入れてもいいのかわからなくって……」

「な、なるほど……」

 「ヂュ」

「でも、ハムスターって野良でいるんですかね?」

「飼い主から捨てられたとか……もし脱走したとかだったら飼い主が探してるかな」

あずさ「こういうのって交番にもっていったほうがいいんでしょうか?」

「そうですね、一応そうしましょう」


115 : 以下、名... - 2016/05/23 00:22:58.74 3uexc2jV0 109/397

あずさ「うふふ、可愛いわね~」

 「ヂュヂュ」

(ハムスターか……懐かしいな)

あずさ「あら?」

「ん?」

 「ヂュ」 クンクン

あずさ「どうやらプロデューサーさんのことが気になるみたいですね」

あずさ「一生懸命匂いを嗅いでますよ」

「……あずささん、ちょっとその子見せてもらっていいですか?」

あずさ「はい、どうぞ」 スッ

「ありがとうございます」

「……」

(いやまさか……ハムスターなんてこの日本中、数え切れないほどいるだろうし……)

「ハム蔵ーー!!」


116 : 以下、名... - 2016/05/23 00:25:25.93 3uexc2jV0 110/397

「!!!」

「どこ行った、ハム蔵ー!! 自分が悪かった! 帰って来い、ハム蔵ーっ!」

あずさ「あら、あの女の子……」

「……」

「自分が、キミのピーナッツを勝手に食べたのは謝る! だから帰ってきてよーっ!」

「あっ!? そこの二人!!」

あずさ「えっと、私たちのことかしら……」

「この付近でハムスターを見なかった? 脱走しちゃって、もう三時間も探してるんだ!」

あずさ「ハムスター? もしかしてその子って……」

「…………こいつか?」

「ああっ! ハム蔵! よかった、無事だったか!」

あずさ「あら~、飼い主さんが見つかってよかったわ~」

「……」


117 : 以下、名... - 2016/05/23 00:28:05.90 3uexc2jV0 111/397

「……」

「?」

「…………あの、ハム蔵を返してほしいんだけど……」

あずさ「…………プロデューサーさん?」

「……感謝の言葉もなしか?」

「……え?」

「ありがとうもなしかって聞いてるんだ」

あずさ「ぷ、プロデューサーさん……?」

「え、あ……ありがとう……ございます……」

「ふん……ホラ」

「あ……ハム蔵、よかった……大丈夫だったか?」


118 : 以下、名... - 2016/05/23 00:30:45.70 3uexc2jV0 112/397

「飼い主ならペットの面倒ぐらいちゃんと見たらどうだ?」

「なっ……!」

「そんなこともできないのなら動物なんて飼うんじゃない」

「な、なんだよ! いきなり偉そうに!」

あずさ「ど、どうしたんですか? プロデューサーさん、落ち着いてください……!」

「そのとおり、少しは落ち着いたらどうだね」


119 : 以下、名... - 2016/05/23 00:33:32.47 3uexc2jV0 113/397

「あっ、黒井社長……!」

(! こいつが……黒井崇男……)

黒井「ウィ、こんなところで声を荒げてどうしたんだね響ちゃん」

「…………な、なんでもないよ……」

黒井「私には何でもないようには見えなかったが……」

黒井「……」

黒井「そっちは弱小事務所765プロの三浦あずさ、そして……」

「……」

黒井「……ふん、高木が新しいプロデューサーを雇ったと聞いていたが……」

黒井「やはり弱小事務所、同類同士が集まるようだな」


120 : 以下、名... - 2016/05/23 00:38:17.93 3uexc2jV0 114/397

「とんだご挨拶ですね」

あずさ「ぷ、プロデューサーさん……!」 オロオロ

黒井「フッ、安い挑発にすぐに乗るとは……」

黒井(相当頭に血が上っているようだな)

黒井「……まぁいい」

黒井「もう遅い、響ちゃんももう帰りたまえ」

「わ、分かったぞ……」

「……」


122 : 以下、名... - 2016/05/23 00:40:31.42 3uexc2jV0 115/397

黒井「さて……」

黒井「貴様たちもここに用事がないのならさっさと帰るがいい」

「ええ、言われなくてもそうさせてもらいます」

「行きましょう、あずささん」

あずさ「は、はい」

黒井「……」

黒井「最後に忠告しておこう」

黒井「貴様が何者だろうか知らないが……響ちゃんはウチにとって大切な存在だ」

黒井「むやみに近づいたり、ちょっかいでも出せば、最後は貴様自身の首を絞めることになるぞ」

黒井「よく覚えておくことだ……では、アデュー」


123 : 以下、名... - 2016/05/23 00:42:34.66 3uexc2jV0 116/397

――――

――

 ブロロ

「……」

あずさ「……」

あずさ「…………」

あずさ「……あ、あの……」

「すみませんでした」

あずさ「えっ?」

「相手は大手事務所の黒井社長……」

「俺の軽率な行動のせいで、あずささんに……765プロ全体に、多大な迷惑をかけてしまうところでした」

あずさ「そ、そんなこと……」


124 : 以下、名... - 2016/05/23 00:46:22.45 3uexc2jV0 117/397

あずさ「……」

あずさ「…………ただ……」

「?」

あずさ「プロデューサーさんがあの女の子に何故あそこまで言ったのかが……分かりません……」

「それは……」

あずさ「確かに、最初にあの子はありがとうとは言っていませんでしたけど、受け取ってから言うつもりだったのかもしれませんよ?」

あずさ「それに……あんなに冷たく言わなくてもよかったと思います」

あずさ「少しだけ、大人げなかったんじゃないかなって……思いました……」

「……」

あずさ「…………すみません、私だってプロデューサーさんに迷惑かけているのに……こんな偉そうなことを……」

「いえ……あずささんの言う通りですよ……俺も、大人げなかったと思います……」

あずさ「……」

「……」



125 : 以下、名... - 2016/05/23 00:50:39.97 3uexc2jV0 118/397


――

「……ハァ」

「なにやってんだろう……」

(結局、響と会ったらケンカした……いや、俺が勝手に吹っ掛けたのか)

(俺は何がしたかったんだ……ハム蔵をすぐに渡してやれば、もっといろんな話ができたはずなのに……)

(おまけに他事務所の社長にまでケンカ吹っ掛けようとして……)

(バカみたいだ……)

(……)


126 : 以下、名... - 2016/05/23 00:52:21.47 3uexc2jV0 119/397

(俺は……何がしたいんだろう)

(元々は響を見守るだのなんだの言って、沖縄を出て)

(そのための生活をするためにプロデューサーをやっているはずなのに……)

(響の状態を知れたのがこっちに来てから3か月以上たった今日)

(この3か月、俺は何をしていた?)

(響のことを忘れて、765のプロデューサーをやっていた……)

(765プロのアイドルである、彼女たちから頼られる存在になるために)

(それ自体は悪いことじゃあない……でも)

(それは、俺がすべきことなのか……?)


127 : 以下、名... - 2016/05/23 00:56:08.87 3uexc2jV0 120/397

――

「……」

伊織「……なにをボーっとしてんのよ」

「え? あ、伊織……」

伊織「アンタ、ここの所ずっと上の空じゃない」

伊織「役に立てるようになりたいんだったら、もっと気合い入れて頑張ったらどうなの?」

「あぁ、分かってる……」

伊織「ホントに分かってんのかしら……」


128 : 以下、名... - 2016/05/23 00:59:11.33 3uexc2jV0 121/397

「なぁ、伊織……」

伊織「なによ」

「……」

「俺がこの765プロのプロデューサーをやってる意味ってあるのかな……」

伊織「ハァ?」

「……だってさ、俺なんかよりもっと仕事のできる人材なんてそこら中にいると思うんだよ」

「俺ってあんまり役に立ててないし……」

伊織「……」

「いっそのこと、俺なんか抜けたほうが……」


129 : 以下、名... - 2016/05/23 01:02:42.88 3uexc2jV0 122/397

伊織「バカじゃないの?」

「え?」

伊織「それでアンタはどういう答えを待ってるわけ?」

伊織「そんなことない、アンタは役に立ってるって言ってほしいの?」

伊織「それとも、役に立たないからやめろって言ってほしいの?」

「……」

伊織「どちらの回答だろうと、人に答えを求めるのは卑怯よ」

伊織「役に立たないからなに? 周りに自分の上がいるからなに? 要はそれを理由に逃げたいんでしょ?」

伊織「意味なんていらないのよ。アンタは今できることを頑張ってればいいの」

「……」


130 : 以下、名... - 2016/05/23 01:07:20.93 3uexc2jV0 123/397

「……お前ってホントに中学生か?」

伊織「年齢詐称してるって言いたいの?」

「いや……大人びてる……なんてもんじゃないなぁと思って」

伊織「アンタがガキっぽいのよ、理由づけてウジウジして……もっと男らしくなんなさい」

「あはは、面目ない……」

伊織「あと……」

伊織「どうあがいたってやめられないわよ」

「え」


131 : 以下、名... - 2016/05/23 01:11:31.98 3uexc2jV0 124/397

伊織「春香なら多分『誰一人欠けちゃいけない、全員そろって765プロ』って言うと思うわ」

伊織「アンタがこの765プロに入った時点で、アンタも欠けちゃいけない一つになったのよ」

伊織「だからアンタがやめようとしても、春香たちが全力で止めにかかるわよ」

「……はは……」

「なら……仕方ないかな……」

伊織「ええ、やめるなんて考えないことね」

伊織「それに、もしもやめたくなるほどつらかったら、そんときは私でも誰でもいいから言いなさい」

伊織「一人でだめでも、二人なら何とかなるから」

「……」

伊織「なによ」

「いや、伊織ってそういうことも言えるんだなぁって……」

伊織「失礼なやつね……ま、今のも春香の受け売りだけど」


132 : 以下、名... - 2016/05/23 01:15:03.88 3uexc2jV0 125/397

伊織(そう、春香は人と人とを繋ぐ、架け橋のよう)

伊織(呪いじみてすら見えるその繋がりがあるからこそ、こうして私たちはここにいる)

伊織(そして、ここにいない美希のことも……きっと春香は……)

伊織「……」

伊織「ま、つらくなったら逃げずに誰かに頼りなさいってこと」

伊織「あ、頼るのとあてにするのは違うからね、そこんところ間違えないように」

「あはは……わ、分かってるよ……」

伊織「しっかりしなさいよね、そんなんじゃアンタの夢はいつまでたっても叶えらんないわよ」

「俺の夢……?」

伊織「……みんなまとめてトップアイドルにしてくれるんでしょ?」

「あ……あー! うん、そうだ!」

伊織「アンタが忘れてどうすんのよ……」

「す、すまん……」

伊織「まったく……」

伊織「頼りにしてるわよ? プロデューサー」


133 : 以下、名... - 2016/05/23 01:17:16.53 3uexc2jV0 126/397

高木(……)

高木(ふむ、彼と水瀬くんにはいい機会になったね)

高木(お互い、一人でため込む癖があるから、なかなかどちらも自分のことを話さないけれど)

高木(彼が腹を割ったため、水瀬君も自分の本音を話せていた)

高木(まるで、彼女自身が自分に言い聞かせるように……)

高木(誰かに頼るなど普段の彼女からは考えられないことだが、彼女自身が本当はよく分かっていたんだね)

高木「いやぁ、部屋に入らずドアからコッソリ聞いていてよかった」

小鳥「社長? なにしてるんですか?」


136 : ここら辺から呼称が変わってきます - 2016/05/23 23:02:22.13 3uexc2jV0 127/397

――

 ブロロ

「久々の歌の仕事だな、緊張してるか?」

千早「少しだけ……でも、歌えるのはうれしいです」

「ごめんな、俺が仕事をもっと沢山とってこれたらいいんだけど……」

千早「そんな……プロデューサーは私たちのために頑張ってくれているじゃないですか」

千早「今日の仕事だってプロデューサーのおかげです。新曲を発表する場まで設けてもらって……」

「あはは、千早は優しいな。ありがとう」

千早「いえ……私は別に……」


137 : 以下、名... - 2016/05/23 23:06:15.42 3uexc2jV0 128/397

  キッ ガチャ

千早「案外、早めに着きましたね」

「ああ、前に時間のことで伊織に怒られたからな」

「それに余裕があったほうが千早も緊張を解きやすいかなって思ってさ」

千早「そうですね、お気遣いありがとうございます」

「よし、先に挨拶して…………ん?」

千早「? ……あの車がどうかしましたか?」

「…………」

(あの黒塗りの車……どこかで見たことあるような……)

「……いや……なんでもないよ……」

千早「?」


138 : 以下、名... - 2016/05/23 23:09:44.82 3uexc2jV0 129/397


――

  「―――では如月千早さんの新曲、歌っていただきましょう。如月さん、ステージへどうぞ」

千早「はい」

(撮影も終盤、千早は……)

(……うん、千早もちゃんと緊張が解けてるみたいだ)

 ~♪

(新曲だし、やっぱり最初の印象が大切になってくる)

(大きなインパクトがあれば、人はおのずとついてきてくれるからな)

(千早も俺が入ったころに比べればだいぶファンが増えたしいい調子だ)

千早「~♪」


139 : 以下、名... - 2016/05/23 23:17:30.20 3uexc2jV0 130/397

――――

――

 ワァアアアア

  「はい、如月千早さんの新曲――でした。ありがとうございました」

  「如月さんの歌はいつ聞いても惚れ惚れするような美しさですね。とても心惹かれる歌声です」

千早「ありがとうございます」

(よし! ばっちりだ!)




  「――さて、いつもならばここでお別れの時間ですが、実は今回、スペシャルゲストに来ていただいております」


140 : 以下、名... - 2016/05/23 23:20:15.16 3uexc2jV0 131/397

千早「?」

(ゲスト? そんなこと一言も聞いてないぞ?)

  「出てきていただきましょう、新アイドルユニット、『フェアリー』の3人です!」

千早「!」

 ワァアアアアアアアアア!

「あは! こんにちはなのー!」

「はいさーい!」

「ふふ、皆さまごきげんよう」


141 : このssではフェアリーはユニット扱いです - 2016/05/23 23:22:25.91 3uexc2jV0 132/397

千早「美希!」

美希「千早さん、お久しぶりなの」

千早「どういうこと!? どうしてここに……それにユニットって……!」

美希「うん、961プロの新アイドルユニット『フェアリー』」

千早「961……!」

千早「…………美希は765プロをやめて、961プロに移籍してたのね……」

美希「……ごめんなさいなの、黒井社長に移籍したことは黙ってるように言われてて……」

千早「……」


142 : 以下、名... - 2016/05/23 23:25:23.65 3uexc2jV0 133/397

(美希……あの金髪の子が春香たちの言っていた、星井美希だったのか)

(それにあの銀髪の女性……)

(ラーメン屋で前に会ったけど、あの人も961のアイドルだったんだな。どおりで美人だったわけだ)

(だけど問題は……)

(…………)

(響……)

(……まぁ、そろそろだろうとは分かってはいた……)

(だが、まさか……ユニットとはな……)


143 : 以下、名... - 2016/05/23 23:28:47.86 3uexc2jV0 134/397

  「今日来てくださったのは961プロダクションの新アイドルユニットメンバー、ミステリアスな雰囲気を醸し出す銀色の女王、四条貴音さん」

  「太陽のような笑顔がまぶしい沖縄育ちの元気っ娘、我那覇響さん」

  「そしてこの新ユニットのリーダー、天性のカリスマを持つビジュアルクイーン、星井美希さんの3人です」

  「ご存知の方も多いと思われますが、リーダーの星井さんは元々は如月さんの現在所属している765プロダクションに所属されていたアイドルで、絶大な人気を誇っていました」

  「一時的に活動を休止されていましたが、今こうして961プロダクションのアイドルとして活動を再開されることとなりました」

  「それでは早速一曲披露していただきましょう、961プロダクション、フェアリーの『kisS』です。どうぞ」

 ワァアアアアアア!

――――

――


144 : 以下、名... - 2016/05/23 23:32:01.10 3uexc2jV0 135/397

千早「……」

千早「美希……」

美希「……千早さん……」

千早「どうして……」

千早「どうして961プロに……」

千早「どうして765プロをやめて961プロに……?」

美希「……」

美希「……キラキラ、するためなの……」

千早「……それは765プロではダメだったの……?」

千早「私たちと一緒じゃあダメだったの?」

美希「ダメなの……だってミキが……」

美希「ミキが765にいたら……」

千早「美希……?」

美希「……ごめんなさい……」


145 : 以下、名... - 2016/05/23 23:36:59.80 3uexc2jV0 136/397

「……よう」

「あっ……」

「また会ったな」

「……そーいえば765のプロデューサーって言ってたな……」

「そう嫌そうな顔しないでくれ……この前は俺が悪かった、謝るよ」

「……」


146 : 以下、名... - 2016/05/23 23:43:52.14 3uexc2jV0 137/397

「……」 ジー

「……なんだ? 人の顔ジロジロ見て……」

「……なんでもないぞ」

(やっぱりハム蔵の勘違いだな。確かに顔は似てるけど、兄貴は眼鏡なんてかけてないし髪型だって違うぞ)

「はぁ……」

「?」


147 : 以下、名... - 2016/05/23 23:47:48.04 3uexc2jV0 138/397

黒井「今日も辛気臭い顔をしているな765の貧弱プロデューサーよ」

「黒井社長……」

貴音「……」 ニコ

「……」 ペコリ

黒井「どうだ、961プロダクションの新アイドルユニット『フェアリー』は」

黒井「どこぞの弱小事務所の小娘たちとはビジュアル、ボーカル、ダンス、全てにおいて比べ物にならんだろう?」

黒井「まぁ、どこの事務所とは言わんがなぁ、ハーッハッハッハ!」

「……」

「……そうですね……今の765プロじゃあ到底太刀打ちできないでしょう」

「!」

黒井「……」

黒井「…………貴様……」


148 : 以下、名... - 2016/05/23 23:53:23.24 3uexc2jV0 139/397

「……けど」

「今の765プロでは無理でも……765プロは……俺たちは、これからもっともっと強くなっていきます」

黒井「フン、フェアリーは今日始動したユニットだぞ?本当にこれからなのはフェアリーのほうだ」

黒井「貴様たちがいくら打倒フェアリーを目標として努力し、力をつけたところで、フェアリーの三人はその遥か上を行くだけよ!」

「いえ、俺たちの目標は打倒フェアリーではなく」

黒井「……?」

「みんなまとめて、トップアイドルです」


149 : 以下、名... - 2016/05/23 23:57:19.93 3uexc2jV0 140/397

黒井「……」

「……」

黒井「……くくっ」

黒井「ハァーッハッハッハ! ……みんなまとめてトップアイドルだと?」

黒井「面白い……」

黒井「フェアリーを倒すこと……それは、トップアイドルも同義語」

黒井「しかし、それは永遠に叶わない……なぜなら玉座はただ一つ!」

黒井「そして! その玉座は真の王者たる、我らフェアリーのものだからだァッ!」

黒井「精々足掻くがいい、貧弱プロデューサーと不愉快な仲間たちよ」

黒井「では、アデュー!」


152 : 以下、名... - 2016/05/24 00:03:27.77 BqH3O6Ju0 141/397

貴音「それでは失礼いたします……」 ペコリ

「……」 ペコ

「……」

「……またな、響」

「べー」

「……」


153 : 以下、名... - 2016/05/24 00:06:11.09 BqH3O6Ju0 142/397

(行ったか……)

(前回会った時はただいやみったらしいだけのおっさんかと思ったけど、予想以上に変な人だった)

(それよりも……フェアリー……確かにすごいユニットだ……)

(一人一人のスペックが超人的で、それが三人もいたんじゃあホントに完璧に見える)

(だが、たとえそんな相手でも超えていかなきゃトップアイドルにはなれないはずだ)

(…………そういえば黒井社長は変なこと言ってたな……)

   『フェアリーを倒すこと……それは、トップアイドルも同義語』

(フェアリーを倒すことが……トップアイドル……?)

(……まぁいいや、とりあえず今日は帰ろう)

「そういえば千早はどこにいるんだ?」


154 : 以下、名... - 2016/05/24 00:10:37.54 BqH3O6Ju0 143/397

千早「……」

「お、いたいた」

「おーい、千早」

千早「……」

「? ……千早?」

千早「え……あ、プロデューサー……」

「大丈夫か? 呼んでもぼーっとしてたけど……」

千早「すみません……少し疲れたみたいです」

「そっか、じゃあ事務所じゃなくて家に直接送ろうか?」

千早「はい、お願いします」


155 : 以下、名... - 2016/05/24 00:14:30.24 BqH3O6Ju0 144/397


 ブロロロ


「今日はよかったよ。緊張もしてなかったみたいだし、しっかりと声が出てた」

千早「ありがとうございます……」

「突然の新ユニット発表で、少しインパクトは弱まってしまったかもだけど、本来の力は出せていたからきっとファンも増えるはずだ」

千早「そう……ですか」

「……」

千早「……」

「気になるか」

千早「え?」

「星井さんのこと」

千早「……」


156 : 以下、名... - 2016/05/24 00:17:28.65 BqH3O6Ju0 145/397

千早「気にならないわけがありません……」

千早「同じ、仲間でしたから……」

千早「いえ……」

千早「今でも私は……」

「!」

千早「…………だめですね……私」

千早「自分の新曲のことよりも、他のことばかり考えてしまうなんて……」

「……」


157 : 以下、名... - 2016/05/24 00:23:24.00 BqH3O6Ju0 146/397

 キッ ガチャ

千早「ありがとうございました、プロデューサー」

「ああ、今日はしっかり休むんだぞ」

千早「はい」

「じゃあ、また明日」

 バタン ブロロ

(……)


 今でも私は……


(千早……)


158 : 以下、名... - 2016/05/24 00:31:40.61 BqH3O6Ju0 147/397

――

小鳥「それじゃあ今日はお先に失礼します、戸締りよろしくお願いしますね?」

「はい、お疲れ様でした」

 ガチャ バタン

「ふー……」 キィ

「……」 カチカチッ

 ♪~絡まる吐息 交わる視線~

(フェアリー……発表から一週間、この短期間でぐんぐんと知名度をあげ、今最も注目されているアイドルユニット)

 ♪~真っ赤なPure cherry 翔ばたく Fairy~

(響はこの卓越したユニットの中でも違和感なく、存分に力を発揮できている)

(今こうしてアイドルに携わる仕事をして分かったことだが……響は相当な逸材だったんだなと思う)

(沖縄にいたころは響の歌やダンスを見てもなんとも思わなかったもんだが……)

(……これじゃあまるで親バカ……いや、兄バカだな)


159 : 以下、名... - 2016/05/24 00:34:11.92 BqH3O6Ju0 148/397

「動画見てないで仕事しなきゃな……」 カチッ

「あー……」 コキ

「肩いてぇ……」

「誰か肩揉んでくれねぇかなぁ……」

「…………そういや肩もみっていえば……」

――――

――


160 : 以下、名... - 2016/05/24 00:38:26.79 BqH3O6Ju0 149/397

 『にぃにぃ、肩もんであげる!』

 『いや、いいよ。別に肩こってねぇし』 カチカチ

 『えー、いいじゃん、ちょっとだけでいいからぁ』

 『ちょっとだけってなんだよ。そんなに肩もみたいなら父さんの肩もんでくればいいだろ?』 ピコピコ

 『たーりーじゃなくてにぃにぃがいいの!』

 『んなこと言ったら父さんがかわいそうだろ』

 『たーりーはいっつもしてあげてるもん』

 『じゃあ母さんは?』

 『あ、あんまーは……えっと……』

 『なんだよ』


161 : 以下、名... - 2016/05/24 00:45:07.53 BqH3O6Ju0 150/397

 『うー……だからぁ……そのぉ……』

 『はぁ……俺忙しいから後にしてくれないか?』

 『! ううぅぅー……』

 『うわああぁ~! にぃにぃのばか~!』

 『えぇ……』

 『コラァー! なに響のこと泣かせてんだー!』

 『ちがっ、響が勝手に!』

――

――――


162 : 以下、名... - 2016/05/24 00:56:25.76 BqH3O6Ju0 151/397

(ははは……そんなこともあったな……)

(あの頃の響は可愛かったなぁ……)

(昔の俺と今の俺を交換して肩もんでもらいたい……)


 シーン


「…………はぁ……」

「コーヒーでも飲もう」

 カチ ボッ

(……そーいやあの日はやたらと肩もみをやりたがってたけど、なんでだっけ?)

(思い出せないな……ま、大したことじゃないだろうけど)


163 : 以下、名... - 2016/05/24 01:00:38.41 BqH3O6Ju0 152/397

――

春香「プロデューサーさん」

「ん? どうした春香」

春香「プロデューサーさん明日ってオフですよね?」

「そうだけど」

春香「じ、実は私もオフなんですよ」

「そっか、よかったな」

春香「そこでですね、い、一緒にお出かけでもどうかなぁって……」

「なんか買うものでもあるのか?」

春香「い、いえ、そういうわけじゃあないんですけど、その、遊びにでも……」

「んー……」

(春香は一応アイドルなわけだし、あんまり男性と一緒に出掛けたりするのはよくないだろう……)

「すまん、出掛けるなら他の人誘ってくれ。明日ならたしか千早も休みだろ?」

春香「え……」


164 : 以下、名... - 2016/05/24 01:07:57.41 BqH3O6Ju0 153/397

春香「あ、あはは……す、すみません、私ったら……プロデューサーさんもオフの時ぐらいゆっくりしたりしたいですよね……」

「ん、まぁそうだな」

春香「! ……そ、そうですよね…………じゃあ、プロデューサーさんの言われた通り、千早ちゃんを誘ってみることにします。それじゃあお疲れ様でした……」

「あぁ、お疲れさま」

 ガチャ バタン

「さて、俺はもう少し頑張りますか」

小鳥「ピヨ―!」 バンッ

「うわっ、いたんですか音無さん」

小鳥「ええいました、いましたとも! 先ほどの様子、しっかりと見させていただきました!」

「先ほどの様子?」

小鳥「春香ちゃんですよ春香ちゃん! 春香ちゃんとプロデューサーさんの会話です!」

「ああ、そのことですか。春香も自分がアイドルだっていう自覚が少し足りませんよね」

小鳥「ピーヨォー! プロデューサーさん! バッドですよバァッド!」

小鳥「まるで乙女心が分かってない!」

「わ、分かるはずないじゃないですか、男なんですから」

小鳥「ノンノン、そんなんじゃあいつまでたっても相手が見つかりませんよ!」

(それを音無さんに言われるのか……)

165 : 以下、名... - 2016/05/24 01:14:49.06 BqH3O6Ju0 154/397

「でも、春香は千早を誘うって言ってましたよ?」

小鳥「カァーッ! プロデューサーさんはそれでいいと思うんですか!?」

「いや、いいんじゃないですか?」

小鳥「カァーッ!」

(今日、テンション高いなぁ)

「でも、遊びに行くって言ってましたし、春香も女の子同士のほうが楽しめるんじゃないですかね」

小鳥「そういう問題じゃあないんです! 春香ちゃんは『プロデューサーさん』と遊びに行きたかったんです!」

「えぇ? 何でですか?」

小鳥「何ででもです! とりあえず春香ちゃんに明日一緒に遊びに行くよう誘ってください!」

「春香、もう帰っちゃいましたけど」

小鳥「電話でもメールでもいいから誘うんです! 分かりましたか!?」

「は、はぁ……」

166 : 以下、名... - 2016/05/24 01:28:55.60 BqH3O6Ju0 155/397


――

「んなこと言われてもなぁ……」

「……」

 カチカチカチッ


=================================
さっきはごめんな、春香。
断っといてなんだけど、後から考え直してやっぱり明日俺も遊びたくなったんだ。
もしまだ千早を誘ってなかったらでいい。
調子いいやつってカンジかもしれないけれどよかったら返信してくれ。

=================================


「……なんか変な文になったが……まぁいいか」

 ピッ

「……」

 ティロン

「返信はやっ!」


=================================
まだ千早ちゃんにはメールしてなかったので大丈夫ですよ!

それじゃあ明日、――――に一時に集合でいいですか?

=================================


「一時か、事務所の近くだし余裕だな」


=================================
分かった。
行く場所なんかは春香に任せておくよ。
明日、楽しみにしてる。

=================================


 ピッ

「送っといてなんだが、もっと気の利いた文章が書けたらいいんだがなぁ」

 ティロン


=================================
了解です!
明日、楽しみにしててくださいね!

プロデューサーさん、今日はお疲れ様でした。
また明日、おやすみなさい。

=================================


「ふむ」

「どこかに出かけるなんて久しぶりだな」

「お昼といっても明日に響いちゃまずいからな、早めに寝よう」


167 : 以下、名... - 2016/05/24 01:34:04.55 BqH3O6Ju0 156/397

――

(そろそろ着くな、まだ12時半だが……)

春香「プロデューサーさん!」

「うおっ! は、春香?」

春香「はい! みんなのアイドル春香さんです!」

「いつの間に後ろに……」

「というか随分と来るのが早いな」

春香「えへへ、今日はとっても楽しみだったので、つい早く来ちゃいました」

「そうか。そういえば今日はどこに行くんだ?」

春香「今日はですね……じゃじゃん! これです!」 バッ

「遊園地?」

春香「はい! 遊園地ですよ! 遊園地! 実は最近リニューアルオープンしたばっかりなんです!」

「へぇ、ペアで入場料半額か……」

春香「早速行きましょう!」


168 : 以下、名... - 2016/05/24 01:42:03.19 BqH3O6Ju0 157/397

「意外とでかいなぁ。遊園地なんて何年ぶりだろう……」

春香「どれから行きましょうか?」

「う~ん、俺はよくわからないから、とりあえず春香が選んでくれるか?」

春香「分かりました! じゃあアレに乗りましょう!」

「アレ?」


 キャーッ ウワーッ


「……」

春香「フリーフォールっていうアトラクションですね! とっても楽しそう!」

「ホントにあれに乗るのか……」

春香「? もしかして別のがいいですか?」

「いや、どうせ避けて通れぬ道だ……それならばいっそ……」

春香「?」


169 : 以下、名... - 2016/05/24 01:48:48.84 BqH3O6Ju0 158/397


「うぎゃああああああああああああああああああ!」

春香「きゃーっ!」

「あ゛あ゛ああああああああああああああああああ!」

春香「いやーっ!」

「あばばばばばばばばばばばばば!」

春香「あははははははは!」





春香「いやー、怖かったー!」

「」

春香「プロデューサーさん? 大丈夫ですか?」

「……ウス……」

春香「顔色がすごいことになってますけど……」

「……ダイジョウブデス……」

春香「そうですか? じゃあ次はあれに乗りましょうか!」

バイキング「よぉ」

「」

170 : 以下、名... - 2016/05/24 01:55:31.76 BqH3O6Ju0 159/397

「」 ガクガクガク

春香「ふー、バイキングも楽しかったですね!」

春香「あのフワッとした感覚がたまりません!」

「」 ガクガクガク

春香「あれ? ぷ、プロデューサーさん? 脚がガクガクなってますけど……」

「」 ガクガクガク

春香「す、少し休みましょうか?」

「」 コクコク



春香「すみませんでした、まさか絶叫系がダメだなんて……」

「いや、いいんだ……」

「ごめんな、せっかく遊園地来たってのに」

春香「い、いえ、そんな……遊園地は絶叫もの以外にもいっぱいありますから!」

春香「あ、そうだ! 私、カップケーキ作ってきたんですよ!」

「おっ、うまそうだな。食べてもいいかな?」

春香「どうぞどうぞ! あ、プロデューサーさん、飲み物頼みましょうか? 何にします?」

「ん? じゃあコーヒーで」

春香「分かりました。すみませーん!」

 「おい、バイトの鬼ヶ島君! 今、手が離せないからキミ接客行ってきてくれ!」

 「わ、分かりました! あと俺、鬼ヶ島じゃなくて天ヶ瀬です!」


171 : 以下、名... - 2016/05/24 02:03:56.13 BqH3O6Ju0 160/397

 「すいません! お待たせしました! ご注文をどうぞ!」

春香「えっと、コーヒーとカフェラテを一つずつお願いします」

 「コーヒーとカフェラテをお一つずつですね! お持ちしますので少々お待ちください!」

「うまい! 春香が作ってくるお菓子はホント美味しいな」

春香「ありがとうございます! 実はこれ豆腐を使って作ったんですよ! お砂糖も控えめだし、とってもヘルシーなんです!」

「これが豆腐? すごいな !春香はいつもお菓子とか作ってきてくれるけど、料理とかもできるの?」

春香「はい、お母さんが料理するのを手伝ったりしてたので、ある程度の物だったら作れますよ」

「へぇ、春香は何でもできるんだな」

春香「な、何でもはできませんよぅ」

「いやぁ、でもさ」

春香「はい?」

「春香って、料理ができて、気配りもできて、家庭的で、それでいて可愛いし」

「なんていうか」

「もしも春香と結婚できたら、そりゃあ幸せだろうなって」

春香「!」

春香「そ、それってもしかして――!」

 「大変お待たせしました! コーヒーとカフェラテです!」

「おっ、丁度よかった。喉乾いてたんだ」

春香「……」


172 : 以下、名... - 2016/05/24 02:08:56.48 BqH3O6Ju0 161/397

「さて、次はどうしようかな」

春香「……」

「春香?」

春香「へっ? あ、なんですか?」

「いや、次、どれにしようかって」

春香「あー、そうですね、じゃあ……」 チラ


 ゴォーッ キャーッ


春香「あれはやめましょうか」

「そうだな」

春香「そういえば、プロデューサーさんが行きたいとこってないんですか?」

「俺が? う~ん、そうだなぁ……」

「……ん! あそこはどうだ?」

春香「あそこ?」

お化け屋敷「やぁ」

春香「お、お化け屋敷……」

「季節的にはまだ少しだけ早いけど、面白そうじゃないか?」


173 : 以下、名... - 2016/05/24 02:13:53.24 BqH3O6Ju0 162/397

 「はい、じゃあこのランタンを持って進んでくださいね」

 「このランタンには心拍数を測る機能も付いています。出口で係りの者が回収し、どれだけ自分が怖がっていたのかを知ることができます」

「へぇ、最近のお化け屋敷はこんなのもあるのか」

春香「うぅ……」



「おぉ、中は結構雰囲気あるなぁ。造りも本物の病院っぽいし」

春香「ぷ、プロデューサーさん、待ってくださいよぉ」

 「バァッ!」 バンッ

春香「ヒィッ!」 ビクゥッ

「あはは、よく見ろって。作りもんだよ」

春香「あ、頭ではわかってても、怖いものはこわいんですよぉ!」

 \ うぎゃああああああああああ! /  \ めんようなー! /

「!?」

春香「いぃっ!……い、今のって……」

「今のは仕掛けじゃあないみたいだけど……」

春香「えぇ!?」

「前のほうから聞こえたし、先に入ったお客さんか?」

(でもどっかで聞いたことある声だったな……)


174 : 以下、名... - 2016/05/24 02:16:01.14 BqH3O6Ju0 163/397

春香「ひぃ……ひぃ……」

「だ、大丈夫か、春香?」

春香「うぅー……ぐすっ……」

(が、ガチ泣きしてる……)

春香「ぷ、プロデューサーさん……」

「な、なんだ?」

春香「手……握っててもらえませんか……」

「手……? こうか?」 ギュ

春香「…………ありがとうございます……」

春香「これなら……怖くても我慢できる気がするんです……」

「……」


 『にぃにぃ……!』

 『なんだよ響、こんなの全部仕掛けなんだから怖くないって。だいたい、お前が入るって言いだしたんだろ』

 『うぅー……にぃにぃ……手ぇ握ってて……』

 『手ぇ……? なんで?』

 『握っててくれたら…………怖いのも、我慢できるから……』


春香「……プロデューサーさん……?」

「! い、いや、なんでもないよ」

「さ、あと少しだろうし、出口まで頑張ろう!」

春香「は、はい!」


175 : 以下、名... - 2016/05/24 02:19:17.70 BqH3O6Ju0 164/397

春香「はぁ~……怖かったぁ……」

「うん、雰囲気もあって中々怖かったな」

春香「怖かったって言ってる割には随分と余裕そうですけど……」

「そうでもないぞ? 怖いとこはちゃんとビビってたし」

 「出てこられた方はランタンをこちらに持ってきてください」

「ランタンはあそこか。確かどれだけ怖がってたかを確認できるんだったよな」

春香「うー……知りたくない……」

 「はい、お預かりいたします。この機械に通すことでどれだけ怖がっていたのかを数値としてみることができます」

1~20  もっと怖がって、どうぞ
21~50 普通だな!
51~70 大丈夫か大丈夫か?
71~90 腰引けスギィ!
91~99 情けない格好恥ずかしくないの?

 ピピッ

 『36』

「俺は普通だな」

春香「そうですね」

 ピピッ

 『72』

「おっ、思ったより高くない。後半から持ち直したか」

春香「う~ん……あと2低かったらなぁ……」


176 : 以下、名... - 2016/05/24 02:24:12.06 BqH3O6Ju0 165/397

春香「さぁて、次はどれにしましょうか」

「何があるんだ?」

春香「そうですねー、絶叫系は……」

「……」

春香「……乗らないとして」

春香「他にはミラーハウス、コーヒーカップ、メリーゴーランド……」

「この歳でメリーゴーランドはちょっとキツイかなぁ」

春香「まぁ、まだ時間もありますし、一つずつ回っていきましょう」

「そうだな」


177 : 以下、名... - 2016/05/24 02:26:55.03 BqH3O6Ju0 166/397

――――

――

春香「う~ん! 楽しかったぁ~!」

「あぁ、遊園地なんて久しぶりだったけど、案外楽しめるもんだな」

春香「はい!」

「さ、だいぶ遊んだけど、もう帰るか?」

春香「あっ! 待ってください、もう一つだけお願いしてもいいですか?」

「ん? 何か乗りたいものでもあるのか? 言っとくが絶叫ものは勘弁だぞ」

春香「違いますよぉ。観覧車ですよ! 観覧車!」

「観覧車? そういえば確かにまだ乗ってなかったな」

春香「乗りましょう!」

「なんだ、やけに気合入ってるな」

春香「え? え~と、何と言いますか……その、言いたいことがあるっていうか……」

「言いたいこと? ここじゃダメなのか?」

春香「だ、ダメです! それを言うには雰囲気が重要なんです!」

春香「だから乗りましょう!」

「わ、わかったよ……」


178 : 以下、名... - 2016/05/24 02:29:17.23 BqH3O6Ju0 167/397

――

春香「うわぁ~! 見てくださいプロデューサーさん! とっても綺麗ですよ!」

「あぁ、夕日がきれいだな」

春香「すごいなぁ……あんなに遠くまで見える……」

「…………」

春香「……」

春香「……プロデューサーさんは」

「?」

春香「ずっと私たちの味方でいてくれますか……?」

「味方……? 急に何を言ってるんだ?」

春香「じゃあ言い方を変えます。ずっと私たちのそばにいてくれますか……?」

春香「ずっと私たちの、プロデューサーでいてくれますか……?」

「……」

「……それは……」

春香「……ふふっ、冗談です……」

春香「先のことは誰にも分りませんからね! これから先、お互いに別の道を歩んでも、私はプロデューサーさんのこと応援してますよ!」

春香「頑張ってくださいね! プロデューサーさん!」

「…………応援してくれるのはありがたいんだけど、先に頑張るのは春香たちだろ?」

「星井さんの率いる961プロのフェアリーも出てきたし……」

「そもそも、俺はお前たちをトップアイドルにするまでは当分一緒だ」

春香「た、確かにそうですね……わ、私ったら早とちりっ」 コツンッ

「……」

春香「……」 のヮの

179 : 以下、名... - 2016/05/24 02:32:17.59 BqH3O6Ju0 168/397

「……ぷっ」

「あはは! なんだその顔!」

春香「ちょ、ちょっとプロデューサーさん! いくらなんでも人の顔見て笑うのはやめてくださいよ!」

「げほっげほっ!あぁ、すまんすまん」

春香「これでも一応アイドルなんですからね?」

「ははは、もちろんわかってるって」

春香「はぁ~……雰囲気が……」

「あ、そういえば言いたいことがあるんじゃなかったのか?」

春香「いえ、やっぱりやめます」

「えぇ、なんで? 気になるんだけど……」

春香「そうですねぇ……私がトップアイドルになれたら、そのときに言います」

春香「だから、プロデューサーさん!」

春香「みんなで絶対、トップアイドルになりましょうね!」


180 : 以下、名... - 2016/05/24 02:35:49.85 BqH3O6Ju0 169/397

――

春香「今日は本当にありがとうございました」

「いや、こっちこそありがとう。遊ぶなんて久々だったから、いい休日になったよ」

春香「それはよかったです! みんなとも……いつか遊びに出かけれたらいいのになぁ」

「そうだな、俺もみんなのスケジュールを調整したりしてなんとかできるようにしてみるよ」

春香「………そう、ですね……お願いします」

春香「……」

(? 今日はやたら黙り込むな……)

「どうしたんだ……?」

春香「……美希も……一緒にできたらいいのに……なんて……」

「!」

春香「私、美希のことはまだ仲間だと思ってます……」

春香「美希はちゃんと理由も告げずに出ていってしまったから……なんだかうやむやなままなんです」

春香「でも私は、美希との関係をこのままで終わらせたくない」

春香「だって、やっぱり私たちは全員そろって765プロなんです……誰一人欠けちゃいけないんです……!」

「……あぁ、その通りだ」

春香「!」

「春香のその気持ちがある限り、星井さんとの絆は絶対に切れたりしない」

「またいつかきっと、みんなで一緒に仲直りできるさ」

春香「……はい……!」



続き
響兄「アイドルになりたい?」 響「うん」【後編】

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