1 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 15:53:38.85 Ahhc8lJY0 1/178

あらすじ
ここは殺人鬼が自ら演出し、主役を務める舞台です。あなたはこんな舞台に立つ役者なのですか?

前話
小室千奈美「高峯のあの事件簿・コイン、ロッカー」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484475237/
http://ayame2nd.blog.jp/archives/10885568.html

あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。

それでは、投下して行きます。


元スレ
安斎都「高峯のあの事件簿・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503557618/

2 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 15:55:16.82 Ahhc8lJY0 2/178

メインキャスト

高峯のあ
木場真奈美
佐久間まゆ

高垣楓

間中美里
大西由里子

古澤頼子
乙倉悠貴

藤居朋
杉坂海
井村雪菜

沢田麻理菜
松本沙理奈

西島櫂
愛野渚

江上椿
桐野アヤ
三好紗南
遊佐こずえ
南条光

安斎都

3 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 15:56:03.68 Ahhc8lJY0 3/178



命は何よりも尊いものだって、言う。

ならさ、その命を。

その命が自分のものになったら。

何よりも尊いものを手に入れたってことになるのかな。

そっか。

こんなにも簡単だった。

人生は舞台だって、言う。

一人一人が主役の舞台だとか。

主役だけが、舞台の幕をおろすことが出来る。

だから、主役は交代だ。

こんなに簡単に主役になれるんだ。

変われるんだ。

首を掴んだ腕に力を込める。

耳でかすかな呼吸を聞いた。

目で怯えた表情を見下ろした。

手のひらで首の脈動を感じた。

頭に血が上っていたのが嘘のように、あたしは落ち着いていた。

大丈夫、窒息させるつもりなんてないから。

息が出来なくて死ぬなんて、嫌だもんね。

安心して。

ちゃんと折るから。

折ってしまったから。

序 了

4 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 15:59:20.18 Ahhc8lJY0 4/178



7/24(金) 午後

希砂本島・フェリー乗り場

希砂本島
ジェットフェリーで約3時間。周辺の小さな島を含めて、観光地として人気。

高峯のあ「良い天気ね……」

高峯のあ
日焼けしているイメージが浮かばない銀髪の美女。職業は自営業。

木場真奈美「佐久間君、荷物を持とうか」

佐久間まゆ「いえ、大丈夫ですよぉ。よいしょ、っと」

木場真奈美
高峯家の居候。職業はボイストレーナーなど歌のお仕事。

佐久間まゆ
高峯家に居候。星輪学園高校の2年生。お料理と編み物が好きな優しい女の子。

のあ「真奈美に甘えてもバチは当たらないわよ」

真奈美「キャリーケースぐらいは持とう」

まゆ「あっ、ごめんなさい……」

真奈美「感謝の方が良い」

まゆ「そうですね、ありがとうございます。真奈美さん」

真奈美「どういたしまして」

5 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:00:16.17 Ahhc8lJY0 5/178

のあ「真奈美の荷物は少ないわね。リュックサック一つだけ」

真奈美「2泊3日ならこんなものだろう」

まゆ「まゆの半分くらいですねぇ」

真奈美「のあは珍しく大荷物だな」

まゆ「望遠鏡を持って来たんですよねぇ」

のあ「星が綺麗なそうだから」

真奈美「確かに、そんなことを言っていたな」

まゆ「留美さんが、ですかぁ?」

のあ「言っていたのは留美だけれど、そう思ってるのは留美の友人ね」

真奈美「フェリー乗り場で迎えてくれると言っていたが」

のあ「どこかしら。長身だから、目立つらしいわ」

まゆ「のあさん、あの人ですかぁ?」

のあ「写真で見た顔ね。なんで、旗を持ってるのかしら」

真奈美「気づいたみたいだな。旗を振ってくれてる」

まゆ「高峯様、歓迎って書いてありますねぇ」

真奈美「お手製のようだ」

のあ「見かけよりお茶目な性格のようね」

真奈美「さて、行くとしようか」

のあ「はじめまして。高垣楓ね」

高垣楓「ようこそ、希砂島へ!」

高垣楓
希砂本島の駐在さん。階級は巡査部長。刑事だったこともあるとか。

6 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:01:37.25 Ahhc8lJY0 6/178



希砂本島・フェリー乗り場

「はじめまして。高垣楓です」

のあ「留美から聞いてるわ。高峯よ」

真奈美「木場だ」

まゆ「佐久間まゆ、です。こんにちは……高垣さん」

「お会いできて光栄です」

真奈美「こちらこそ。おかげで良い旅行が出来そうだ」

「感謝をするのはこっちの方です」

のあ「キャンセルが出たと聞いてるわ」

「ええ。それなので、留美さんに連絡してみたのですけれど」

真奈美「忙しいと断られて、こっちに話が来た」

まゆ「普通より安かったですけど、大丈夫なんですかぁ?」

「はい、無駄にしてしまうよりはいいですから」

のあ「そう」

真奈美「和久井警部補とは同僚だったのか?」

「直接の同僚ではありませんけれど、刑事だった頃にお世話になりました」

のあ「どうして、島で駐在をしてるのかしら」

「良い所ですよ?ケータイもインターネットも通じますし、ほらコンビニもそこに」

まゆ「本当ですねぇ」

のあ「ここが不便かどうかではなく」

7 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:03:17.79 Ahhc8lJY0 7/178

「そうですね、刑事にはあまり向いてなかったのかもしれません」

まゆ「刑事さん、大変でしたか……?」

「今となってはわかりませんけれど……でも」

真奈美「でも?」

「今は、お仕事も島での生活も楽しいですよ」

のあ「そう。留美みたいな生き方が全てじゃないわ」

「留美さんの生き方も憧れますけれど……そうだ」

まゆ「これは……綺麗なビンですねぇ」

のあ「何かしら」

「本島で製造しているソーダです。このソーダは評判の良いそうだ、ふふっ」

まゆ「……良いソーダ?」

「差し上げます」

まゆ「ありがとうございます」

「お二人は、お酒はお好きですか?」

のあ「思考が鈍るものは嫌いなの」

「残念……こちらも是非と」

真奈美「日本酒か?」

「希砂島の名酒です。島のお魚とあいます」

のあ「そういえば、留美から聞いたわ。お酒好きなのね」

「ふふ……住みたくなりました?」

のあ「楽しそうで安心したわ」

真奈美「日本酒は頂いて、いいか?」

「どうぞ」

真奈美「雪乃君と飲むとしよう」

のあ「あら、雪乃はお酒を飲むの?」

真奈美「結構、いける口だぞ。のあも来るか?」

のあ「考えておくわ。クルーザーの出る時間になるわよ」

真奈美「そうだったな。ツアー会社の窓口があると聞いたが」

「あちらです。ご案内しましょうか?」

のあ「お願いするわ」

8 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:05:12.65 Ahhc8lJY0 8/178



希砂本島・フェリー乗り場

「美里ちゃん」

間中美里「楓さん、こんにちはぁ」

間中美里
希砂本島にあるツアー会社勤務。のあ達が申し込んだツアーの企画とガイドを担当する。

「ツアーの人、お連れしました」

真奈美「予約した木場だ。よろしく頼む」

美里「お待ちしておりましたぁ。木場さんですねぇ」

真奈美「それと連れの」

のあ「高峯よ。こっちは佐久間」

美里「短い間ですけどぉ、よろしくお願いしますねぇ」

まゆ「こちらこそ、よろしくお願いします」

美里「楓さんも今から希砂二島にいらっしゃいますかぁ?」

「遠慮しておきます。お約束通りに」

美里「そんなに遠慮しなくてもいいのに」

「お言葉だけいただきますね。高峯さん、私はここで」

のあ「案内ありがとう」

真奈美「話はまたの機会に聞くとしよう」

「ええ、ごゆっくり」

美里「希砂二島行きのクルーザーは準備出来てますよぉ」

真奈美「さて、ゆっくりするのは宿に着いてからするとしよう」

まゆ「はい」

美里「簡単にツアーについてご確認しますねぇ」

真奈美「ああ」

美里「ご予約は3名様、キャンセルが出て急だったのに前入金助かりましたぁ」

のあ「どういたしまして」

美里「宿泊先はここからクルーザーで30分の希砂二島ですぅ」

まゆ「そこに洋館があるんですよねぇ」

美里「はい。ケータイもインターネットもつながるので、快適ですよぉ」

真奈美「ふむ、便利な時代だな」

9 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:06:19.88 Ahhc8lJY0 9/178

美里「食料品と日用品はストックがあるので自由に使ってください。もし、コンビニで欲しい物があるなら今のうちですよぉ」

のあ「買うものはあるかしら」

真奈美「ない」

まゆ「大丈夫ですよぉ」

美里「島では私ともう一人職員がずっと、食事時間の前後はシェフとスタッフがいますので、お声がけくださいねぇ」

まゆ「はぁい」

美里「海とプールはご自由に使ってくださいねぇ。ただ、事故にはお気をつけて」

のあ「ええ。自己責任で」

美里「ライフセーバーと救命処置の資格は、私ともう一人の職員は持ってるんですよぉ」

真奈美「なかなか、がんばってるな」

美里「大変でしたぁ。急病でも本島には病院もありますしぃ、必要以上に心配しないでくださいねぇ」

のあ「ええ。もちろん、こちらでも気をつけるわ」

美里「最後ですけどぉ、ごめんなさい」

のあ「謝られるようなこと、あったかしら」

美里「私達の会社は小さい会社なのでぇ、イベント等は何もありません」

真奈美「聞いた通りだな」

美里「至らないところもありますが、2泊3日ごゆっくり」

のあ「ええ。楽しみ方ぐらいは自分で作るわ」

まゆ「何にもしないのも、素敵ですよぉ」

美里「ありがとうございますぅ。実はぁ……」

のあ「何かしら」

美里「この便で島へ向かう人は既にお揃いなんですよぉ」

真奈美「待たせてしまったかな」

美里「いえいえ、まだ時間前ですからぁ。さぁ、出発ですよぉ」

10 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:07:26.00 Ahhc8lJY0 10/178



希砂二島・船着き場

希砂二島
希砂本島から約30分。岩場と小さな砂浜しかない無人島だったが、バブル時に洋館が建った。

船着き場
希砂二島の東側。ビーチ近くの岩場と歩道までつながっている。

美里「到着~、皆様足元にお気をつけてくださいねぇ」

のあ「ふむ……良い所ね」

真奈美「ビーチの桟橋は使わないのか?」

美里「水深が足りないんですよぉ。ヨットとかに使ってくださいねぇ」

のあ「海も綺麗ね……」

美里「晴天続きでしたからねぇ」

まゆ「のあさん、上を見てください」

のあ「あら、本当に崖の上に立ってるのね」

真奈美「土台はしっかりとしていそうだな」

まゆ「眺めが良さそうですねぇ。遮るものもありません」

のあ「二回、事業者が失敗したと聞いたけれど」

美里「ありがとうございましたぁ、行ってらっしゃいませ~」

のあ「あら、クルーザーは?」

美里「夕食スタッフを呼びに行きましたぁ。さっきの話ですけど、本当ですよぉ」

まゆ「そうなんですかぁ?こんな立派な建物なのに」

のあ「立派だからでしょうね。どうやって投資費用を回収するつもりだったのかしら」

真奈美「島の改造と建物はバブル時代に」

のあ「改装とインターネットはITバブルの頃かしら」

美里「その通りですぅ」

まゆ「どうして、失敗したんですかぁ?」

美里「ここは、失敗してませんよぉ?」

のあ「失敗したのはどちらも本業の方だったらしいわ」

真奈美「行政とツアー会社に買われた。残念ながら、元の所有者の助けにはならなかった」

美里「その通りですよぉ。景観と環境の維持まで、私達の使命ですぅ」

まゆ「へぇ……ステキ」

美里「もちろん、利益は上げますよぉ」

のあ「わかってるわ。費用に見合う価値があるならば」

美里「期待していいですよぉ。でも、私からアドバイスです」

真奈美「なんだ?」

美里「今日は島の散策だけにして、明日思いっきり遊ぶのがオススメですぅ」

のあ「そうね」

真奈美「慌てることは何もないからな」

のあ「部屋に荷物を置きに行きましょう。散策はその後に」

11 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:10:25.08 Ahhc8lJY0 11/178



逢伊江館・2階・のあ達の寝室(204号室)

逢伊江館
あういえかん。希砂二島に建つ洋館。2階建ての本館、離れ、ジャグジー+プールからなる。成金趣味が隠しきれてない。

まゆ「わぁ……見てくださいっ」

真奈美「高台に建っているだけあるな。海が一望できる」

のあ「南窓と東窓、両方海が面してるのね」

まゆ「まぁ、本当ですねぇ」

真奈美「東は船着き場か」

のあ「南は砂浜の方ね。バルコニーは、部屋にはないのね」

まゆ「のあさん、星は見えそうですかぁ?」

真奈美「バルコニーは共用のものか」

のあ「そっちの方が良さそうね。担いできたから疲れたわ」

まゆ「よいっしょ、っと」

真奈美「聞いてはいたが、一番良い部屋みたいだな」

のあ「そのようね」

まゆ「お風呂も綺麗ですよぉ」

のあ「大浴場もあったわよね?」

真奈美「ああ。大浴場というよりはジャグジーだ」

まゆ「そうでしたぁ」

のあ「無駄に天然温泉よ」

まゆ「そうなんですかぁ?」

のあ「海底より下から掘り出したらしいわ」

真奈美「金はある所にはあるんだな」

のあ「あるべき所でないから、逃げて行ったのよ」

まゆ「えいっ」

真奈美「ベッドに飛び込むのはお行儀が悪いぞ」

のあ「……」

真奈美「のあも、しれっと無言で倒れこむな」

12 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:11:08.81 Ahhc8lJY0 12/178

のあ「ベッドは良いわ。真奈美、手を」

真奈美「はいはい」

のあ「まゆも立ちなさい」

まゆ「はぁい。散策ですかぁ?」

のあ「ええ。島の裏側にも行けるようだし」

真奈美「他の宿泊客にも挨拶しておくとしようか」

のあ「そうね」

まゆ「のーあさんっ」

のあ「どうしたの、手を伸ばして」

まゆ「起こしてください♪」

のあ「まだ寝転んでるのね。子供ね、ほら」

まゆ「ありがとうございます。さぁ、行きましょう」

のあ「今日は元気ね。行ってしまったわ」

真奈美「……」

のあ「真奈美、どうしたの?」

真奈美「のあと同じことしただけじゃないか?」

のあ「何のことかしら?」

真奈美「無意識か」

まゆ「のあさん、真奈美さんー」

のあ「呼んでるわよ」

真奈美「まぁ、いいか。行くとしよう」

13 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:12:37.55 Ahhc8lJY0 13/178



逢伊江館・2階・階段前

立て看板『危険だから、立ち入り禁止だじぇ』

真奈美「上には行けないのか」

まゆ「カワイイ絵が描いてありますよぉ」

のあ「手描きのようね。外からは屋上があったように見えたけれど」

美里「あらぁ、お散歩ですかぁ?」

のあ「ええ」

真奈美「屋上には行けないのか?」

美里「ごめんなさい、行けないんですよぉ」

のあ「なぜかしら」

美里「柵が低くて危ないんです。職員以外は入らないでくださいねぇ」

のあ「そういうことね」

まゆ「間中さんは、2階に何かご用ですか?」

美里「夕方にいらっしゃるお客様のために、お部屋の点検ですよぉ」

真奈美「まだ、来てないのは」

まゆ「あそこの部屋ですかぁ?」

のあ「西向きの部屋、202号室」

美里「はい。午前中は部活の練習をしてから、だそうで」

まゆ「学生さん、なんですかぁ?」

美里「そうみたいですねぇ、あっ、ヒミツですよぉ?」

のあ「それくらい自分で聞き出せるわ」

真奈美「会話をする気があるんだな」

まゆ「まぁ、珍しい」

のあ「何よ、その反応は」

美里「うふっ。私はお仕事に戻りますねぇ」

14 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:14:57.17 Ahhc8lJY0 14/178



逢伊江館・1階・玄関ホール

玄関ホール
南側に面した玄関から屋敷内へ続くホール。ガラス張りの温室に面していて、開放感がある。

のあ「さっきも気になっていたのだけど」

真奈美「あの温室に入れるのか?」

のあ「そう。玄関の隣にある、あそこ」

まゆ「職員さんがいらっしゃいますよぉ」

のあ「お聞きしたいのだけれど」

大西由里子「んー、何かあった?」

大西由里子
本ツアーのアルバイト。夏の祭典に向けての軍資金作りに加えて、長い時間が確保できる一石二鳥のバイトだじぇ、とのこと。

のあ「この温室に入っていいのかしら」

由里子「もちろんだじぇ。花屋さんのオススメだから、近くで眺めていいよ!」

まゆ「ありがとうございますぅ」

由里子「もうユリユリの時間だから、何でも言っていいじぇ」

真奈美「君の時間、か?」

由里子「語ると長くなるけど……」

のあ「なら、簡潔に」

由里子「夜勤だから?」

まゆ「なるほど」

由里子「さて、肉体にエネルギーを入れたら、心にもエネルギーを入れるじぇ!ばいばい!」

まゆ「心のエネルギー……?」

のあ「さようなら」

真奈美「ということだ。入ってみようか」

15 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:18:34.50 Ahhc8lJY0 15/178



逢伊江館・1階・温室

温室
屋敷の南側に面した温室。ガラス張りで目にも楽しく、光と温度の制御装置も完備、ただし強力なので電力過多に注意。

まゆ「赤が鮮やかですねぇ」

のあ「そうね。これは、何かしら」

真奈美「ホウセンカだ」

のあ「物知りね」

真奈美「ここに説明書きが」

のあ「あら、そこにあったのね」

まゆ「こっちは、ベルガモットみたいですよぉ」

真奈美「どちらも今が開花時期か」

のあ「季節によって変わるのかしら?」

まゆ「そうかもしれないですねぇ」

遊佐こずえ「ふわぁ……ぼうえんきょうのおねえさんだー……」

遊佐こずえ
205号室。町内会のツアーで訪れた小学生。のんびりとした性格。保護者は本島のホテルに滞在しているとのこと。

のあ「間違ってはいないわ」

まゆ「あらぁ、一人ですかぁ?」

こずえ「そう……ぼうえんきょう……」

のあ「まだ夜には早いわ」

桐野アヤ「こずえー、いたいた」

桐野アヤ
205号室。とある町の青年会員。面倒見のよい姉御肌。こずえとは仲が良いご様子。

16 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:19:18.84 Ahhc8lJY0 16/178

こずえ「あや……いっしょにおほしさまみるのー……」

アヤ「星はまだ出てないだろ。さっきから、望遠鏡を気にしてんだ」

のあ「船でもそんな話をしてたわね。いいわよ」

アヤ「何がだ?」

のあ「一緒に、星を見ましょうか」

こずえ「やったー……あやもいっしょにみるのー……」

アヤ「わかった、って。迷惑じゃないか?」

のあ「良いものは共有した方がいいわ。物証と同じよ」

真奈美「一言余計だ」

のあ「2階のバルコニー、あるでしょう?」

アヤ「ここの真上だよな?」

のあ「ええ。夕食後、20時ぐらいに来なさい。準備はしておくわ」

アヤ「ありがとな。こずえも、ほら」

こずえ「のあ……ありがとー……」

アヤ「呼び捨てにするのが治らないんだよな」

のあ「構わないわ」

まゆ「うふっ、カワイイと思いますよぉ」

アヤ「それなら、いいんだけど。ついでに平仮名みたいな発音だしさ」

真奈美「のあのことを言ってるなら、平仮名だぞ?」

こずえ「じー……」

アヤ「そんな目で見るなよ。自分の名前もカタカナだけどさ」

17 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:20:24.12 Ahhc8lJY0 17/178

まゆ「アヤさんはどうして、カタカナだと思ったんですかぁ?」

アヤ「ノアはカタカナっていう先入観があってさ。それに」

真奈美「それに?」

アヤ「なんか、カタカナっぽいし」

のあ「私、カタカナっぽいかしら」

真奈美「気分はわかる。カタカナっぽいな」

のあ「そうかしら。気にしたこともなかったわ」

こずえ「あやー……そふぁーにすわりにいくのー……」

アヤ「こら、急に走ると危ないって言ったろ。まったく……」

真奈美「気をつけるんだぞ。島内は危ないところもあるだろうからな」

アヤ「ありがと。良かったら、気にしてくれると助かる」

まゆ「わかりましたぁ」

アヤ「また、夜にな。こずえ、連れて行くから」

のあ「ええ。待ってるわ」

18 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:21:17.16 Ahhc8lJY0 18/178



逢伊江館・1階・ロビー

ロビー
天井は特徴的な形をした吹き抜けと無駄に豪華なシャンデリアが特徴的。

のあ「さっきの子が言っていたソファー、って」

真奈美「あそこだ。ホールに置いてある」

のあ「パーティやダンスのためのホールかしら」

真奈美「もともとはな。今はあの通り」

のあ「大きなテレビとソファーが置いてあるだけね」

真奈美「イベントもなく、ゆったりとした時間がコンセプトだからな」

のあ「物は言いようね」

真奈美「おや、社交場は好きだったか?」

のあ「言わなくてもわかるでしょう」

真奈美「そう言えば、掃除をしていたら、ドレス姿の女の子の写真が出てきた」

まゆ「まゆも、見せてもらいましたぁ」

のあ「……」

真奈美「満面の笑みだったな。きっと、ドレスでお出かけが嬉しかったのだろう。な、佐久間君?」

まゆ「ええ、きっとそうですよぉ」

のあ「遥か昔の話でしょう。今はキライよ」

真奈美「つれないな」

まゆ「でも、のあさんらしいです」

のあ「良い方にとっておいてちょうだい」

真奈美「食事くらいなら、いいか?」

のあ「そうね。別に人の話を聞くのがキライなわけでも、人がキライなわけでもないわ」

真奈美「なら、何がキライなんだ?」

のあ「定型文通りの会話よりも何より、立ってることね」

真奈美「……意外だ。ランニングを嗜む人物とは思えない発言だな」

のあ「人は止まるために立つ必要はないでしょう?」

真奈美「確かにその通りだが」

まゆ「ねぇ、のあさん」

のあ「どうしたのかしら」

まゆ「あの子……」

のあ「扉に入って行ったわね」

真奈美「キッチンか?」

のあ「キッチンはその隣。オヤツには遅すぎるわ」

まゆ「入っていいんでしょうか……?」

真奈美「どうだろうな。そもそも何があるんだ?」

のあ「行ってみればわかるわ」

19 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:22:57.99 Ahhc8lJY0 19/178

10

逢伊江館・地下・階段室

階段室
屋敷の東側。更に東奥に行くと物置がある。

まゆ「部屋の中にあったのは……」

のあ「地下への階段」

真奈美「そして、降りた先にも扉だ」

まゆ「階段下のお部屋は南京錠が掛かっていますねぇ」

真奈美「そして、こちらの扉には貼紙だ」

貼紙『ご自由にどうぞぉ。足元には気をつけてくださいねぇ』

のあ「入ってよさそうね」

まゆ「そういえば、娯楽室があるそうですよぉ」

真奈美「娯楽室というよりは」

のあ「心置きなく時間を無駄に出来る部屋、だとか」

真奈美「音が聞こえるな。何か、流してるのか」

まゆ「開けてみましょうかぁ」

20 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:25:07.27 Ahhc8lJY0 20/178

11

逢伊江館・地下・娯楽室

娯楽室
地下にある娯楽室。非常に広々とした部屋に偏ったラインナップを揃えている。

真奈美「どことなく暗い照明に」

のあ「ビリヤード台」

まゆ「棚もいっぱい。本とか時計とか……」

真奈美「何かと思ったら、ビデオテープが棚に並んでるのか」

まゆ「こっちの棚はゲーム機ですよぉ。あらぁ、ここのは持ちだされてますねぇ」

真奈美「ビデオは随分とジャンルが偏ってるな……」

のあ「大きなテレビが二つ。本当に大きいテレビ」

真奈美「ブラウン管の高級品だな」

のあ「昔はそうだったのでしょう。あら」

三好紗南「わっ!」

三好紗南
205号室。ゲーム以外もしなさい、と町内会のツアーに応募された。しかし、親の予想に反して、彼女は楽しそうに出かけて行った。

21 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:25:45.87 Ahhc8lJY0 21/178

のあ「ごめんなさい。物陰で見えなかったわ」

紗南「レトロゲーはやっぱりシビアだなー。お姉さん達、得意?」

のあ「得意ではないわ。真奈美、出来るかしら」

真奈美「人並みには」

紗南「なら、一緒にやろ?せっかく色々なゲームがあるから、遊びつくさなきゃ!」

まゆ「こんにちはぁ。あら、さっきの子じゃないですねぇ」

紗南「都ちゃんのことかな?」

のあ「都?」

紗南「うん、そこの倉庫じゃない方の部屋に入って行ったよ」

まゆ「倉庫は、立ち入り禁止みたいですねぇ」

紗南「カギもかかってたから、入れないよー」

真奈美「ふむ。そっちは何かあるのか?」

紗南「物置と本棚だったかな。レアアイテムは、やっぱりカギのかかった扉の先だよね」

のあ「そう。真奈美、彼女のお相手をしてあげなさい」

真奈美「ああ。何をしようか」

紗南「格ゲー見つけてきたんだ」

真奈美「ふむ……いいだろう」

紗南「負けないぞー!」

のあ「まゆ、向こうの部屋へ行ってみましょうか」

まゆ「はぁい」

22 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:28:44.56 Ahhc8lJY0 22/178

12

逢伊江館・地下・書物庫

書物庫
娯楽室の南側にある書物庫。こちらもラインナップが偏っている。

まゆ「わぁ、本がいっぱいですよぉ」

のあ「ふむ、書物庫のようね」

まゆ「でも、なんだか……見覚えがあるような……」

のあ「気のせい……でも、なさそうね」

まゆ「のあさんも、そう思いますかぁ?」

のあ「いいえ。本当に見たことがあるからよ」

まゆ「どういうことでしょうか?」

のあ「あそこの棚、よく見てみなさい」

まゆ「えーっと、あれ?」

のあ「家の書斎と同じ並びで同じ本が並んでるから、当然よね」

まゆ「なら、ここの本を集めた人は」

のあ「私と同じ悪趣味を持っているようね」

安斎都「ふふ、気が付きましたか!」

安斎都
206号室。町内会のツアー参加者の一人。虫眼鏡とショルダーバッグ、そして室内なのにハンチング帽。

まゆ「こんにちはぁ」

のあ「何に気づいたの?」

「ふっふっふ、聞きたいですか?」

のあ「ゴキゲンね。聞かせてちょうだい」

「こちらの本棚、世界で一番有名な推理小説が並んでいます」

まゆ「はい。大切にしてそうですねぇ」

「保存状態はとても良いです、しかも初版」

のあ「当然でしょう」

まゆ「当然ではないと思います……」

「隣には、サスペンスドラマのビデオテープばかり。ゲームも推理ゲームがたくさん」

まゆ「そうだったんですかぁ?」

のあ「ふむ」

「しかーし!」

23 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:30:06.47 Ahhc8lJY0 23/178

まゆ「しかし?」

「ここはどこですか?」

のあ「地下室まである洋館」

まゆ「小さな島」

のあ「電波は通じるけれど」

「思いませんか?」

まゆ「事件でも起こりそうですか?」

のあ「……」

「その通りッ……と言いたいところですが」

まゆ「違うんですかぁ……?」

「事件は起こらないので、勝手に探偵ごっごをしていたようです」

のあ「物好きね」

「それで、そこの本棚です」

のあ「本棚……」

「旅行客が自由に手を取れますが、それでも保存状態は良いと思いませんか」

まゆ「そうですねぇ……でも、これだけ汚れているような」

「はい、この中には」

のあ「あなたは見たのかしら」

「はい」

のあ「まゆ、見てみなさい」

まゆ「はぁい。えっと、中には」

のあ「まゆ、背表紙」

まゆ「あらぁ、画用紙が入ってますねぇ」

24 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:30:46.95 Ahhc8lJY0 24/178

のあ「これは、屋敷の見取り図かしら」

「はい」

まゆ「手描きですねぇ。この部屋は、ここですか?」

のあ「そのようね。隣は娯楽室、カギのかかった部屋は」

「職員の人によると、寝具を入れてる倉庫だそうです」

のあ「隠し部屋とかはないのね」

「ええ、そこまで趣味に走れなかった?」

のあ「人を迎え入れる所に、そんなものを入れる方がおかしいわ」

まゆ「でも、ロマンがありますよぉ」

「ロマンは大切ですッ!」

のあ「そうかしら」

「そう言えば、自己紹介してませんでした。206号室の安斎都です」

のあ「高峯よ。こっちは佐久間」

まゆ「3日間、よろしくお願いしますねぇ」

「はいっ!私はこの屋敷の調査を進めます、それではっ!」

まゆ「お気をつけて」

「そうだ、何か気になることがあったら教えてください。調べに行きますから!」

のあ「ええ。見つけておくわ」

25 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:32:15.82 Ahhc8lJY0 25/178

13

逢伊江館・地下・娯楽室

紗南「よしっ!」

のあ「真奈美」

真奈美「お見事だ」

紗南「あっ、さっきのお姉さん聞いてよ!」

のあ「うちの真奈美が何か粗相をしたかしら」

紗南「この人、素人じゃないね」

のあ「その通り」

まゆ「深い意味はないですよね……?」

真奈美「少しだけ自信があったが、この通り」

のあ「負けたのね」

紗南「ホントに強かったよー。でも」

まゆ「楽しそうですねぇ」

真奈美「満足してくれたなら、何よりだ。私はこれで失礼しよう」

紗南「えっと……いつでも挑戦を待ってるよ!」

26 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:34:01.04 Ahhc8lJY0 26/178

14

逢伊江館・1階・食堂

食堂
広々として清潔感のある食堂。下品な高級さを隠す工夫がされている。

真奈美「南側、東側も海が見えるのか」

まゆ「綺麗ですねぇ。水平線まで見えます」

のあ「あら、崖側の庭もあるのね」

真奈美「一段下げて、柵を隠してるのか。考えられているな」

沢田麻理菜「こんにちは。さっきのクルーザーで来た人?」

松本沙理奈「そうじゃない?銀髪の人、目立つし」

沢田麻理菜
201号室。趣味はサーフィン。希砂二島は波が高くないので、のんびり過ごすとのこと。

松本沙理奈
201号室。ほら、人が集まっちゃうでしょ?こういう所を探してたの、とのこと。

のあ「ええ、合ってるわ」

まゆ「こんにちはぁ」

麻理菜「こんにちは。3人で旅行?」

のあ「ええ。そちらは」

麻理菜「こっちも同じ。サリナが静かなところが良いって」

沙理奈「ほら、アタシ人を集めちゃうから」

麻理菜「女の人だけだものね」

沙理奈「でも、もしかしたら、オンナノコも魅了できるかも?ねぇ、一緒に遊ばない?」

まゆ「まゆ……ですか?」

麻理菜「健全な淑女になりたかったら、オススメしないわよー?」

沙理奈「ちょっと危険な方が、魅力的よ♪」

のあ「うちの子にはまだ早いわ」

沙理奈「うふっ」

麻理菜「ちょっと、気になったんだけど」

真奈美「どうした?」

麻理菜「3人で来てるの?」

のあ「そうよ」

27 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:34:47.34 Ahhc8lJY0 27/178

沙理奈「マリナが気になってるのは、そうじゃないでしょ?」

麻理菜「ええ。どんな関係なの?友達?」

まゆ「えっと……」

のあ「そちらこそ」

沙理奈「アタシ達は、そうねぇ」

麻理菜「私達は友達よ、ね?」

真奈美「どうして、疑問形なんだ?」

麻理菜「正直に言うと、会うのは2回目なのよ」

まゆ「そうなんですかぁ?見えないです」

沙理奈「なんとなく、気が合うのよね」

麻理菜「知り合いくらいかな?」

沙理奈「だから、お互いのことを話してるとこ」

のあ「そう」

沙理奈「そっちは?」

のあ「そうねぇ……」

まゆ「……」

のあ「同居人よ。私が大家」

まゆ「……そうなんですよぉ」

麻理菜「そうなの?」

真奈美「間違いはない」

沙理奈「へぇ、旅行も一緒なんて、仲が良いのね♪」

のあ「……そうね」

麻理菜「そうだ、コーヒーでもいかが?」

沙理奈「お茶菓子も自由にもらっていいのよ」

のあ「今は遠慮しておくわ。島の探索がまだなの」

沙理奈「そう?」

麻理菜「なら、夕ご飯の時にでも。またね」

28 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:36:31.94 Ahhc8lJY0 28/178

15

逢伊江館・中庭・離れ前

離れ
畳でしか眠れない人は一説には1千万人と言われる。高級リゾートこそ、和室は必須なのだ。

まゆ「大理石のお庭に」

真奈美「噴水」

のあ「彫刻」

真奈美「成金趣味をどうこう言うつもりはないが」

のあ「少なくともそこにある離れとは合わないわね」

まゆ「そうですねぇ。噴水は水も流れてないし……」

藤居朋「海ちゃん、雪菜ちゃん、行くわよ!」

井村雪菜「朋ちゃん、待ってくださいぃ~」

藤居朋
離れに宿泊。占い好きの専門学校生。今回の旅行は自分が見つけたのよ、と自慢げだったとか。

井村雪菜
離れに宿泊。メイクが得意な専門学校生。特徴的なぬいぐるみといつも一緒。

「あら、こんにちは!」

まゆ「こんにちはぁ」

のあ「あなた達は離れに泊まってるのかしら」

「そうよ。そっちは?」

真奈美「204号室だ」

雪菜「海が見える部屋でいいですねぇ」

「そうなのよ。部屋はいいけれど、眺めはね……」

杉坂海「朋、そんなに慌てるなって」

杉坂海
離れに宿泊。お裁縫が得意な専門学校生。朋は妹みたいで可愛いよ、年上だけどさ。

「海ちゃん、遅いわよっ!」

「どうして、そんなにはしゃいでるんだ?」

「……」

のあ「首を傾げたわ。まるで」

真奈美「どうしてはしゃがないのか、と言いたげだ」

「いや、ウチもテンションがあがってないわけじゃないから」

「なら、問題ないじゃない?」

「雪菜、そう思うか?」

雪菜「えっとぉ、楽しんだもの勝ちですよぉ」

「雪菜が言うなら、そうなんだろうな」

「ちょっと、あたしの時と違くない?」

「はいはい。行こっか」

のあ「どちらに?」

「砂浜よ。良い物が見られる気がするの」

のあ「そう」

「それじゃあね」

まゆ「はい。今日からよろしくお願いしますねぇ」

29 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:38:27.82 Ahhc8lJY0 29/178

16

逢伊江館・ジャグジーとプール

ジャグジーとプール
ジャグジーは天然温泉という豪華さ。温水プールは廃熱と太陽光を利用している。

のあ「こんにちは」

愛野渚「あっ、こんにちはっ!」

愛野渚
203号室。ポニーテールが似合う溌剌としたスポーツ女子。8月は合宿と練習のバスケット漬けの月になるとか。

真奈美「ここは、更衣室か」

まゆ「一つしかないんですねぇ」

「だって、男の人はいないでしょ?」

のあ「そう言えば、そうね」

「そっちはジャグジーで、結構広いよ」

まゆ「まぁ、キレイですよぉ」

「凄いよ、天然温泉だって」

のあ「向こうの扉は」

「プール、どうだった?」

西島櫂「深さが変わるプールだったよ。練習向きじゃないね」

西島櫂
203号室。渚とこの島を訪れた。水泳に打ち込んでいる。三好紗南曰く、水属性。

30 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:39:18.41 Ahhc8lJY0 30/178

「まさか、練習するつもりだったの?」

「しないよ。お休みも大切だもんね」

「そうそう。がんばり過ぎは敵だよ」

「それに、泳ぐなら海だよね。せっかく、島に来たのに」

真奈美「確かに」

のあ「なら、どうしてプールもあるのかしら」

「確か、温水プールにもなるんだよ」

まゆ「冬用ですか?」

「そうなの?」

「知らない。雨の時とか?」

真奈美「プールはともかく、ジャグジーは良さそうだ」

「うん。部屋のユニットバスじゃ、味気ないからさ」

のあ「そうね」

「そう言えば、島の裏側には行った?」

のあ「いいえ。まだよ」

「泳がない方がいいけど、裏にも砂浜があるんだ」

「良い所だったよ」

まゆ「のあさん、真奈美さん、行ってみましょう」

のあ「そうね」

真奈美「どう行くんだ?」

「この建物と離れの間の道から、道なりに行けば着くよ」

「途中で塔があった。電波塔なのかな?」

まゆ「そう言えば……見えましたねぇ」

のあ「ありがとう。行ってみましょう」

31 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:40:15.64 Ahhc8lJY0 31/178

17

希砂二島・中心部・電波塔

電波塔
島の中心にある電波塔。塔そのものは古い。

看板『高電圧注意・立ち入り禁止』

まゆ「これが、電波塔ですねぇ」

真奈美「そのようだ」

のあ「こんな大きな設備はいるのかしら」

真奈美「さぁな」

まゆ「でも、これで電波を受信してるんですよねぇ」

のあ「違うわ」

まゆ「違う?」

のあ「受信するには本土からも離れすぎてるわ。しているのは、発信」

真奈美「電話もインターネットも海底ケーブルか何かだろうな」

まゆ「それなら、要らなんですかぁ?」

のあ「ケータイが通じるのはいいことよ」

まゆ「そうですけどぉ……」

真奈美「あるいは、災害時とかに役立つかもしれない」

のあ「世界から隔離されたいと言っても、現代人は現代人」

真奈美「完全に隔離されたら、パニックだ」

まゆ「なんだが、ロマンがないです……」

のあ「人間はワガママなのよ」

まゆ「仕方ありません……ステキを探しに行きます……」

のあ「一緒に行くわ。まゆ、少しお待ちなさい」

32 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:43:20.10 Ahhc8lJY0 32/178

18

希砂二島・裏のビーチ

裏のビーチ
島の北側にある小さな砂浜。高い木に囲まれて、神秘的な雰囲気。

まゆ「のあさん、見てください」

真奈美「陽があまり当たらない砂浜の様だ」

のあ「だから、神秘的に見えるのかしら」

まゆ「うふふ……あらぁ」

のあ「どうしたの?」

まゆ「あそこの岩場、誰かいますねぇ」

江上椿「光ちゃん、はい、ポーズ♪」

南条光「こうだっ!」

江上椿
206号室。とある町の青年会員。島の景色と自然な表情を撮るつもりです、町の皆様のために。人に見せられないものは私の秘蔵コレクションにします。

南条光
206号室。町内会ツアーの参加者。どこかで見たポーズを決めている。

真奈美「のあ、特撮は?」

のあ「どういう意味かしら」

真奈美「精通しているか?」

のあ「映画などに用いられる特殊な撮影技法なら知っているわ」

まゆ「たぶん、そういうことじゃないと思います……」

のあ「妖精の写真で騙されたくないもの」

真奈美「佐久間君は、子供の頃、見ていなかったか?」

まゆ「まゆは、見てませんでしたねぇ」

真奈美「私は見ていたかな。今思えば、もう少し女の子らしいものを見ていれば良かった」

まゆ「真奈美さんは素敵ですよぉ」

真奈美「ありがとう」

椿「こんにちは」

「こんにちはっ!」

33 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:44:36.08 Ahhc8lJY0 33/178

椿「お写真を撮っていいですか?」

真奈美「ああ。たくさん撮ってくれ」

まゆ「どうぞぉ、キレイですよねぇ」

のあ「どうして、二人は下がるのかしら」

椿「ふふっ、3人で並んでくださいな」

のあ「だそうよ」

真奈美「そういうことなら」

椿「はい、チーズ」

「うんうん。今度は、こう!」

まゆ「こうですかぁ?」

椿「はい、いいですよー」

「いいよっ!」

椿「冗談はそのくらいにしておいて」

真奈美「冗談だったのか……」

椿「写真のデータ、後でお分けしますね」

まゆ「まぁ……ありがとうございます」

「そうだっ、どこかワクワクするような所を見つけなかった?」

椿「あるいは、オススメの写真スポットとか」

「ほとんど椿さんと見て回ったんだけど」

のあ「そうなると、提案は難しいわね」

「そっか」

椿「でも、場所は変わらなくても」

まゆ「人は変わりますよぉ」

「なるほど。じゃあ、屋敷に帰ろうっ」

椿「はい。もう日が傾き始めましたね」

「じゃあね、また会おうっ!」

真奈美「ああ」

のあ「私達も戻りましょうか」

まゆ「島は一通り見ましたか?」

のあ「おそらく」

真奈美「正面のビーチくらいか」

のあ「そろそろ、最後の便が来る頃ね」

真奈美「挨拶に行くとしようか」

34 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:45:38.16 Ahhc8lJY0 34/178

19

希砂二島・正面ビーチ

正面ビーチ
パラソルなどが常備されている遊泳用のビーチ。遠浅で安全に楽しめる。

真奈美「彼らが夕食のスタッフかな」

美里「みなさん、島はいかがですかぁ?」

のあ「良い所ね」

美里「ご不便があったら、何でも言ってくださいねぇ」

まゆ「はい」

美里「それでは、お夕飯の準備がありますので、失礼しますねぇ」

のあ「クーラーボックスを運んでいったわね」

まゆ「多分ですけど」

のあ「言ってみなさい」

まゆ「お料理はほとんど出来てるのかなぁ、って」

真奈美「私も佐久間君と同意見だ」

まゆ「キッチンが充実してないのかなぁ……」

真奈美「単純にガスを節約したいだけかもしれない」

のあ「ふむ。色々あるのね」

乙倉悠貴「こんにちはっ!」

乙倉悠貴
202号室。歌奈中学校で陸上に勤しんでいる。カワイイリュックサック姿。

まゆ「こんにちはぁ」

のあ「あら……?」

悠貴「皆さんもご宿泊ですかっ?」

まゆ「はい。お一人、ですかぁ?」

悠貴「違います。中学生一人だと心配ですからっ」

まゆ「中学生なんですかぁ、背が高くて羨ましい……」

悠貴「古澤さーん、こっちですっ!夕暮れがキレイですよっ!」

真奈美「おや」

古澤頼子「乙倉さん、待ってください。荷物を減らせば良かったでしょうか」

古澤頼子
202号室。市立美術館の学芸員。東郷邸の事件で、のあ達と面識がある。

35 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:46:48.96 Ahhc8lJY0 35/178

悠貴「持ちますよっ」

頼子「ありがとうございます」

まゆ「あら……お久しぶりです」

頼子「お久しぶりです。一緒のツアーだったのですね」

まゆ「……あの」

頼子「成宮さんは元気にしていますよ。作品にも精力的です、もちろん学業も」

まゆ「それは……良かったです」

頼子「お元気でしたか?」

まゆ「はい」

頼子「話は成宮さんから聞いています。お世話になっています、高峯さん、木場さん」

のあ「お久しぶり。美術館の方は」

頼子「皆様のご厚意のおかげで、来館者数も増えています」

のあ「ところで、乙倉悠貴」

悠貴「はい?呼びましたか?」

のあ「彼女とは知り合いだったのね」

悠貴「はいっ」

のあ「何時からかしら」

頼子「さて……校外学習の時だったでしょうか」

悠貴「私は小学生でしたっ。親切に教えてくれて、今もお話を聞いてもらってるんですっ」

のあ「そう」

頼子「市立美術館は乙倉さんのお家からは遠くありませんから」

悠貴「古澤さん、見てくださいっ!洋館ですよ、洋館!」

頼子「実は由緒ある洋館なのですよ」

真奈美「そうなのか?」

頼子「ええ。実際にある洋館をモチーフにしていますから」

悠貴「楽しみですっ。だって、事件が起こりそうですっ!」

頼子「ふふ……そうですね」

真奈美「今、なんて?」

悠貴「古澤さん、先に行ってますね!」

36 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:48:17.88 Ahhc8lJY0 36/178

頼子「気をつけてください。午前中に部活の練習をしていたと思えないほど、元気ですね」

のあ「あの子、事件でも起こりそうと言ったのかしら」

頼子「ドラマの見過ぎですよ。そう、モデルとなった洋館の名前を知っていますか?」

のあ「知らないわ」

頼子「ジェンセンス邸です。向こうでは首なし幽霊の館と呼ばれていますね」

まゆ「……え?」

頼子「冗談ですよ」

真奈美「君は自分の職業を自覚してくれ」

頼子「本当なのは洋館の名前だけです。しかも、日本にあります」

まゆ「まゆ、信じちゃいましたぁ……」

頼子「お騒がせしました。乙倉さん、待ってください」

まゆ「真顔で冗談を言う人だったんですねぇ……」

真奈美「前に会った時も、独特なペースで話をしていた気がするな」

のあ「彼女の知識と見方も、それを産み出す要因かしら」

真奈美「だが、夏の島に来るイメージはなかった」

まゆ「私も、です」

のあ「彼女、ミステリーも読むと言うし」

まゆ「クールに見えましたけど」

真奈美「内心、ワクワクしてるのかもな」

のあ「そうね」

真奈美「誰かさんみたいに」

のあ「誰かさん、って誰かしら」

真奈美「それは、のあに決まってるだろう」

のあ「私じゃないわよ。戻りましょうか」

真奈美「正直じゃないな」

のあ「私は二人と旅行に来れて、嬉しいだけよ」

真奈美「……」

まゆ「真奈美さん……」

真奈美「ああ、佐久間君」

のあ「どうしたのかしら。置いていくわよ」

まゆ「ストレートな言葉はドキドキします……」

真奈美「見かけと比較して、感情表現の成長が遅いからなぁ……」

37 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:50:20.17 Ahhc8lJY0 37/178

20

7/24(金) 夕食後

逢伊江館・大ホール

大ホール
屋敷の南西側にある大ホール。特にイベントもないので、大きなテレビとソファーしか置かれていない。

まゆ「のあさん」

のあ「まゆ、どうしたの?」

まゆ「間中さんからお飲み物を頂きました。いかがですかぁ?」

のあ「いただくわ。何を貰って来たのかしら」

まゆ「隣、失礼しますねぇ。のあさん、紫と黄色どちらがいいですかぁ?」

のあ「紫と黄色……美味しそうな色ね」

まゆ「黄色はバナナがメイン、紫は……ヒ・ミ・ツ、です」

のあ「なら、紫を頂くわ」

まゆ「はぁい、どうぞ」

のあ「ありがとう」

アヤ「おっ、紫の選んだんだ」

のあ「甘酸っぱくて美味しいわよ。その緑色は何かしら」

アヤ「ゴーヤ」

まゆ「ゴーヤー……」

アヤ「こずえには飲ませられないけど、ウマいぞ?」

のあ「本当かしらね……」

アヤ「その紫色の、何なんだ?」

のあ「まゆ、何かしら」

まゆ「ドラゴンフルーツだそうですよぉ」

アヤ「へぇ。そう言えば、希砂本島の売店にポスター貼ってあったな」

のあ「島の名産なのかしら」

こずえ「あやー……」トテトテトテ

アヤ「こずえ、ジュース貰ったか?」

こずえ「もらったのー……」

38 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:51:42.71 Ahhc8lJY0 38/178

アヤ「綺麗なオレンジだな。マンゴーか?」

まゆ「パパイヤだそうですよぉ」

こずえ「あたりなのー……」

アヤ「こずえ、こぼすと行けないから座るぞ」

のあ「真奈美は?」

まゆ「夜風に当たってくるそうですよぉ」

のあ「そう」

まゆ「のあさんは、何を?」

のあ「これを」

まゆ「小説ですかぁ?」

のあ「読んだことがないものを見つけたから」

まゆ「面白いですかぁ?」

のあ「いいえ。面白かった本は幾らでも下にあるわよ」

アヤ「なら、そっち読まないのか?」

こずえ「ずずー……」

アヤ「こずえ、音を立てるのはお行儀が悪いぞー」

のあ「どうして?」

アヤ「いや、こっちが聞いてんだけど」

のあ「覚えてるなら、意味ないでしょう」

アヤ「……は?」

こずえ「のあ、おなじー……」

のあ「あなたはわかるのね。そういうことよ」

アヤ「あのさ」

まゆ「私は違いますよぉ……」

アヤ「だよな。そこの妖精達が普通じゃないよな」

39 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:54:46.26 Ahhc8lJY0 39/178

21

逢伊江館・崖側の庭

崖側の庭
食堂から見える庭。東側の岸壁に面している。

真奈美「おや……階段があるのか」

雪菜「下に行くのは、危ないですよぉ」

真奈美「井村君か。君も夜風に当たりに来たのか?」

雪菜「そうですよぉ。真奈美さんもですかぁ?」

真奈美「そんなところだ。この階段、下まで行けるのか?」

雪菜「間中さんにお聞きしましたぁ。排水口があるらしいですよぉ」

真奈美「排水口?」

雪菜「プールとか屋敷とかのです。ゴミ拾いとかするそうですよぉ」

真奈美「ほう。掃除でもするのか?」

雪菜「階段は危ないので、お掃除する時は船で行くそうですよぉ」

真奈美「ふむ、現実的だな」

雪菜「星空も海もキレイですねぇ」

真奈美「のあが望遠鏡を持ってきてるんだ。深夜に来てみたまえ」

雪菜「わぁ、いいですねぇ。ぜひ」

真奈美「ああ」

雪菜「この階段……やっぱり、ロマンティックですねぇ」

真奈美「そうだな。どのあたりが?」

雪菜「人魚が泳ぎを休めて、歌っていそうですぅ」

真奈美「詩人じゃないか」

雪菜「うふふ。真奈美さんは、どこから来ましたか?」

40 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:56:01.32 Ahhc8lJY0 40/178

真奈美「どこから……君は?」

雪菜「海の向こうからです」

真奈美「なら、私もだな。とても遠くから」

雪菜「海外ですかぁ?」

真奈美「ああ。今は日本に帰って来たが」

雪菜「どうして」

真奈美「どうして、か。まぁ、目的通りだな」

雪菜「目的?」

真奈美「もともと日本で働きたかったんだ。そのためかな」

雪菜「へぇ……」

真奈美「君は、何か目標はあるか?」

雪菜「ファッション関係とかメイクさんとかになりたいですねぇ」

真奈美「専門学校生だったな」

雪菜「はい。朋ちゃんと海ちゃんと同じ学校です」

「あ、いたいた。雪菜、お風呂行こ?」

雪菜「はぁい。それじゃあ、失礼しますねぇ」

真奈美「ああ。学業も頑張りたまえ」

41 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:57:12.89 Ahhc8lJY0 41/178

22

逢伊江館・1階・キッチン

キッチン
食堂の北側。宿泊客が自由に使えるスペースがある。冷凍食品や島の名産品が入った冷蔵庫も自由に使える。

頼子「あら」

まゆ「こんばんはぁ。飲み終わったカップ、洗いましょうか?」

頼子「それでは、お願いしてもよろしいですか」

まゆ「はぁい。青色ですねぇ、何を飲んだのですかぁ?」

頼子「牛乳とブルーハワイのシロップを混ぜたものです。隠し味はレモンでした」

まゆ「ブルーハワイ……」

頼子「人工的な甘みが欲しくなる時もありますよ」

まゆ「そうですかぁ……?」

頼子「お話をしても良いですか」

まゆ「どうぞ」

頼子「お元気でしたか」

まゆ「はい。二人とも良くしてくれます」

頼子「考えることがありますか?」

まゆ「何を、ですかぁ」

頼子「自分だけ幸せでいいのか、とか」

まゆ「それなら……のあさんは言ってました」

頼子「聞かせてくれますか」

まゆ「逃げないことにしたんです」

頼子「逃げない、ですか」

まゆ「幸せになることから」

42 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:58:44.48 Ahhc8lJY0 42/178

頼子「なるほど」

まゆ「顔を下げないで、楽しく過ごすことにしました」

頼子「大切なことですね。良いと思いますよ」

まゆ「古澤さんは、楽しいですか?」

頼子「日常が、でしょうか?」

まゆ「お仕事とか」

頼子「好きなモノの近くにいられる学芸員になれました。充実していますよ」

まゆ「ご家族はいらっしゃいますか」

頼子「家族、ですか……」

まゆ「……ごめんなさい」

頼子「謝ることではありませんよ。父も母も兄弟もいませんが、人には恵まれています」

まゆ「大切な人がいるのですかぁ?」

頼子「……ええ」

まゆ「まぁ、素敵ですねぇ」

頼子「あなたもその一人になれますよ」

まゆ「うふふ……どうすればいいんですかぁ?」

頼子「素直に。自分の心が求めるように振る舞えばいいのですよ」

まゆ「素直に……?」

頼子「志向を凝らした芸術よりも、美しいものですよ」

まゆ「そうでしょうか……?」

頼子「ええ。もしも」

まゆ「もし……?」

頼子「それを阻む何かがあるのなら、助けになります」

まゆ「……」

頼子「とはいえ、私にはお話することくらいしか出来ませんけれど」

まゆ「そうですねぇ……」

頼子「深刻に思わないでくださいね。気分を変えたい時、新しい感情に触れたい時、美術館に来てください」

まゆ「はい。あの」

頼子「なんでしょうか」

まゆ「海はお好き、ですかぁ?」

頼子「いいえ。私が好きなのは」

43 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 16:59:42.11 Ahhc8lJY0 43/178

まゆ「島ですかぁ?」

頼子「人、ですよ。人の動き、人の気持ち、人の関係」

まゆ「人……」

頼子「お話できて楽しかったです。2泊3日、よろしくお願いします」

まゆ「こちらこそ、よろしくお願いします」

頼子「私は部屋に戻ります」

まゆ「あら、もうお休みするんですかぁ?」

頼子「今日は静かな夜を楽しみます。お休みなさい、佐久間さん」

44 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:00:40.74 Ahhc8lJY0 44/178

23

逢伊江館・大ホール

悠貴「よいしょっ」

「テーブルとイスを持ってきました!」

のあ「見つけるのが早いわね」

「私は屋敷の構造を把握するために、一通り回りましたから」

悠貴「私は島も屋敷も一通り走ってきましたっ」

のあ「着いたばかりなのに元気ね……」

「ということで、始めましょう!」

悠貴「はいっ」

「先ほど地下室で見つけた、地図の書かれた画用紙を持ってきました」

悠貴「屋敷の見取り図が描いてありますねっ」

のあ「不完全な部分は、追加していきましょう」

悠貴「つまりっ」

「偉大な先人に習って、探偵ごっこをします」

悠貴「なるほどっ」

のあ「まずは、屋敷の1階から」

悠貴「ここが大ホールですねっ。南西側です」

「はい。昔はもっとインテリアや美術品があったようですね」

のあ「売られてしまったのかしら。北に行きましょうか」

「ええ。大ホールの北側には執務室」

のあ「北と南で二部屋」

悠貴「北側の部屋が、由里子さんの部屋ですっ」

のあ「南側が間中美里の寝室ね」

「ええ。困りごとがあったら、二人の部屋へ」

悠貴「はいっ」

のあ「北西端はお手洗い、職員用」

「北側は階段ですね。テラスを挟んで、東と西にあります」

悠貴「テラスは、ティーテーブルが置いてありましたっ」

のあ「景色は良かったかしら?」

「一面の緑で癒される……かもしれません」

のあ「そう……話を戻しましょう」

「ロビーを挟んで、西側に大ホールと執務室は言った通りです」

悠貴「北側は階段とテラスですっ」

のあ「南側は玄関と温室ね」

「そして、東側ですね」

のあ「東側の一番北は」

「階段室ですね」

45 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:01:24.12 Ahhc8lJY0 45/178

椿「あら、何をしてるのですか?」

悠貴「探偵ごっこですっ」

椿「楽しそうです、参加していいですか?」

「ぜひ!」

のあ「続きを。階段室の南側は」

悠貴「キッチンと食堂ですねっ」

椿「お庭もあって、キレイですよ。さっき、お写真を撮ってきました」

のあ「写真データ?」

椿「皆さんにお渡ししようかと」

「これは、松本さんですね」

悠貴「わぁ!モデルさんみたいですっ!」

椿「ありがとうございます」

「小腹が空いたら、ここですね」

のあ「ええ。江上椿、写真は他にもあるの?」

椿「はい。見たかったら、言ってくださいね?」

「もちろんです」

悠貴「それじゃあ、階段室の下ですねっ」

「階段は地下室に続いていました」

悠貴「階段室がありましたっ」

「階段の真下は機械室のようです。使われていないようですが」

悠貴「大きな扉の先は」

のあ「ロビーの真下に広い娯楽室」

「玄関側にはこちらも大きな書庫です」

悠貴「さっき、入れないところを見つけたんですけど」

「そこは倉庫ですね」

悠貴「倉庫?」

椿「こちらですね。鍵は職員さんが持っているそうですよ」

のあ「位置的には従業員部屋の下なのね」

「地下室は以上ですね」

46 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:02:19.09 Ahhc8lJY0 46/178

悠貴「次は、2階ですっ」

椿「2階は客室ですね。とっても広くて解放感があります」

「部屋番号は北西側から逆時計回り」

のあ「共同トイレが西端の最北」

悠貴「201号室は、松本沙理奈さんと沢田麻里奈さんですっ」

椿「二人ともお綺麗です。水着が楽しみです」

「202号室は、古澤頼子さんと」

悠貴「私ですっ!中庭がキレイに見えるんですよっ」

「中庭には、離れ、プールとジャグジーがあります」

悠貴「排水は海に流してるんですねっ」

「温泉は海底からくみ上げているそうです」

のあ「下水管が地下に埋まってるのね」

悠貴「地下にも施設があるなんて、秘密基地みたいですっ」

「ええ。地上に話を戻しましょうか」

のあ「離れには、藤居朋、杉坂海、井村雪菜の3人が宿泊」

椿「203号室は西島櫂さんと愛野渚さんのお部屋です」

悠貴「二人ともスポーツ選手で、とっても爽やかなんですっ」

「確か、水泳とバスケットボールでした」

椿「泳げない人は教えてもらうといいかもしれませんね。泳ぎは得意ですか?」

のあ「苦手ではないわ」

「204号室は、高峯さん達のお部屋ですか?」

のあ「その通り。私、高峯のあと木場真奈美、佐久間まゆの3人で利用しているわ」

椿「あの、景色はどうですか?」

のあ「一番眺めが良い部屋ね。キャンセルが出て、幸運だったわ」

椿「後で、お部屋をお訪ねしても良いですか?」

のあ「どうぞ」

椿「ありがとうございます」

47 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:02:50.70 Ahhc8lJY0 47/178

悠貴「205号室と206号室は町内会ツアーのお部屋ですっ」

椿「はい。205号室はアヤさんが、206号室は私が保護者役です」

のあ「205号室は、桐野アヤ、三好紗南、遊佐こずえ」

「206号室は、椿さん、光ちゃん、そして私が宿泊してます」

のあ「これで全部ね。間取りは似たようなものかしら?」

椿「そうみたいです。ベッドは人数に関わらず3つ、ユニットバスも付いています」

のあ「ふむ」

悠貴「あの、屋上は行けないんですかっ?」

のあ「危ないから、立ち入り禁止だそうよ」

悠貴「そうですか。眺めが良さそうなのに……」

「忘れていましたが、203号室と204号室の間にあるスペースは」

椿「バルコニーです。海に面していて、水平線まで見えますよ」

のあ「バルコニー……」

「どうしましたか?」

のあ「星の時間ね」

悠貴「星の時間?」

のあ「ええ。良かったら、バルコニーまで来てちょうだい」

48 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:04:09.48 Ahhc8lJY0 48/178

24

逢伊江館・2階・バルコニー

真奈美「のあ、盛況か?」

のあ「それなりね」

雪菜「わっ、見てぇ!」

「流れ星!」

沙理奈「願い事よ!」

こずえ「おねがいごと、するのぉー?」

雪菜「いっちゃいました……」

「次は流れないね……」

沙理奈「流れ星が来るように、祈ってみる?」

「流れ星に?」

のあ「本末転倒ね」

こずえ「のあー……おほしさまみるのー……」

真奈美「盛況だな」

雪菜「真奈美さん、来てたんですかぁ?」

真奈美「ああ。星はキレイか?」

「凄いよ、満点の星空!」

真奈美「のあ、今夜は何が見どころだ?」

のあ「目の前に蠍座が見えるわ」

こずえ「あかいおほしさまー……」

「獅子座は見えないの?」

のあ「獅子は太陽と共に登るわ。昼が獅子の時間よ」

「そっか、そう言えば勉強したような」

49 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:06:30.87 Ahhc8lJY0 49/178

こずえ「あかいおほしさま、もっとみたいのー……」

のあ「望遠鏡は合わせたわ。覗いてみなさい」

こずえ「わー……」

雪菜「蠍座生まれの人、誰かいましたかぁ?」

真奈美「宿泊客の中に、いたか?」

のあ「間中美里。11月6日生まれ」

こずえ「すごいのー……さりなもみるのー……」

沙理奈「ありがと。わっ、凄いわね!」

「いつ調べたの?」

のあ「安斎都が教えてくれたわ」

真奈美「そう言えば、聞かれたな」

沙理奈「銀髪のお姉さん、他に見どころはあるのかしら?」

のあ「そうね。見えるかしら」

「何が?」

のあ「円環の星」

こずえ「えんかんー……?」

雪菜「わっかのある星ですかぁ?」

沙理奈「木星とか?」

「もしかして、海王星?」

のあ「正解は土星。肉眼でも見えるわ」

真奈美「どこにだ?」

のあ「蠍座の右上よ。望遠鏡を貸してちょうだい」

「あれかな?」

雪菜「あれでしょうかぁ?」

のあ「……今日はいい日ね」

こずえ「のあー……」

のあ「どうぞ、見てちょうだい」

こずえ「おほしさま、しましまー……」

のあ「土星の縞模様と環がよく見えるわ」

「こずえちゃん、見て良い?」

こずえ「いいのー……」

「本当だ、しましま」

50 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:07:18.96 Ahhc8lJY0 50/178

のあ「遠く離れていても、見える所に星はあるわ」

真奈美「どういう意味だ?」

のあ「事実を述べただけ」

真奈美「よくわからない」

「雪菜ちゃん、どうぞ」

雪菜「ありがとうございますぅ」

のあ「だけれど、時には遠い世界に目を向けるのもいいわね」

「そうかもね。海の底とか」

のあ「そうね。海の底は難しいけれど」

「今は、水面だけでいいかな。月明かりが反射して、キレイだよ」

雪菜「本当ですねぇ」

こずえ「ふわぁ……」

沙理奈「あら、こずえちゃんはおねむかしら?」

のあ「そろそろ終わりにしましょうか」

沙理奈「そうね。こずえちゃん、部屋までいこっか?」

こずえ「さりなー……だっこー……」

沙理奈「はいはい、甘えん坊さんね☆」

のあ「望遠鏡はここに置いておくわ」

真奈美「独り占めもいいかもしれないな」

「わかった」

のあ「おやすみなさい。良い夜を」

51 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:08:46.06 Ahhc8lJY0 51/178

25

7/24(金) 深夜

逢伊江館・地下・娯楽室

のあ「……誰かいるわね」

紗南「あっ、どうしたのー?」

のあ「本を探しに来たの、あと夜食も」

紗南「ポテチだ、ちょうだーい?」

のあ「一袋あげるわ。だけれど」

紗南「条件があるんだね!なに?」

のあ「少なくとも食べ終わったら、寝なさい」

紗南「えー。夜更かしが趣味なのにー」

のあ「明日、泳ぐことになるでしょう。疲れてるとケガの元よ」

紗南「うーん、でも」

のあ「私は保護者じゃないわ。だから、言うだけ。あなたが選びなさい」

紗南「むー、わかった。そうするよ」

のあ「それがいいわね。私は本を探すわ」

紗南「ポテチのお礼に、探すの手伝うよー。どんな本をお探しかな?」

のあ「読んだことがない本を」

紗南「なら、これとか?」

のあ「何かしら」

紗南「ゲームの歴史を描いた本だよ。開発者とかの話とか一杯入ってるんだ」

のあ「ふむ、それでいいかしら」

紗南「はい。お姉さんも、ゲームに興味を持ってくれたらいいな!」

のあ「検討しておくわ。ありがとう、おやすみなさい」

紗南「おやすみー」

52 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:09:41.96 Ahhc8lJY0 52/178

26

逢伊江館・2階・のあ達の寝室

のあ「ただいま」

真奈美「飲み物は見つかったか?」

のあ「サイダーを。フルーツ味みたいね」

真奈美「それはよかった」

のあ「まゆは?」

まゆ「すー……すー……」

真奈美「ぐっすりと寝てるよ」

のあ「そう……楽しんでくれてるかしら」

真奈美「そうだな。私からのアドバイスだ」

のあ「何かしら」

真奈美「自分が楽しめ。佐久間君がそれでいいと思えるように」

のあ「……そうね」

真奈美「そういうものだ」

のあ「わかったわ。全力で海に臨むわ」

真奈美「いや、そこまで気合を入れなくても」

のあ「日焼け止めを入念に塗れば……」

真奈美「のあ、人それぞれだ」

のあ「……そうね。無理する場面でもなかったわ」

真奈美「ああ。それにしても、ポテトチップスなんて食べるんだな」

のあ「旅行だもの。真奈美も食べるかしら」

真奈美「いただこう。乾杯はサイダーでいいのか?」

のあ「ええ。まゆを起こさないように、静かに」

真奈美「ああ、乾杯」

のあ「乾杯」

53 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:12:17.23 Ahhc8lJY0 53/178

27

幕間

希砂本島・港周辺

「もしもし、留美さん」

和久井留美『楓、どうしたのかしら?』

和久井留美
刑事一課和久井班班長。階級は警部補。趣味が仕事でも夏休みは取りたい。

「お時間、大丈夫ですか?」

留美『大丈夫よ。まだ職場だけれど』

「あら……事件ですか?」

留美『どざえもんが出たのよ』

「水死体……事故じゃないんですね」

留美『首の骨が人為的に折られてたら、事故で片づけるのは無理よ』

「なるほど……」

留美『それで、話はなに?』

「今日、高峯さん達が希砂島に来ましたよ」

留美『そう。仲良くしてたかしら』

「ええ、とっても」

留美『ならいいわ』

「留美さんとも、久しぶりにお会いしたいです」

留美『機会があれば、と言いたい所だけど』

「署から遠く離れられませんか?」

留美『希砂島で事件でもない限りは、避けるわ』

「残念です」

留美『逆に楓がこっちに来てくれるといいのだけれど』

「それもいいかもしれませんね」

留美『駐在だから離れたくない気持ちもわかるけれど』

「お見通しですか」

留美『楓、刑事一課に戻ってこない?』

「お仕事に不満がありますか?」

留美『いいえ。私の下についてくれる二人は若いのによくやってくれるわ』

「なら、そのお二人に期待しましょう」

留美『それでも、実力がわかってる部下が一人くらい増えてもいいかと考えてる』

「……本気ですか?」

54 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:13:10.84 Ahhc8lJY0 54/178

留美『柊課長を通せば、こっちに来れるわ』

「方法はわかっています。留美さんはどう思ってますか?」

留美『さっきのは私の個人的な事情。楓がやりたいようにすればいいわ』

「なら、答えは決まっています。この島にいます」

留美『そう』

「お邪魔しました。ちゃんと休んでくださいね?」

留美『わかってるわ。のあ達によろしく』

「はい……おやすみなさい」

留美『おやすみ』

「……曲がりませんね、留美さん」

幕間 了

55 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 17:59:17.94 Ahhc8lJY0 55/178

28

翌日

7/25(土) 午前

希砂二島・正面ビーチ

真奈美「素晴らしい天気だ」

まゆ「そうですねぇ」

真奈美「のあはまだ着替えてるのか?」

まゆ「そろそろ来ると思いますよぉ」

真奈美「確認してないが、着にくい水着だったか?」

まゆ「どんな水着なんでしょう?」

真奈美「さぁ?」

まゆ「のあさーん、こっちですよぉ」

のあ「言われなくても来てるわ」

真奈美「……上着は暑くないか?」

のあ「暑いわ」

まゆ「もしかして……とっても過激な水着なんですかぁ……?」

のあ「何を言ってるのよ」

椿「わぁ!まゆちゃん、カワイイ水着です!」

のあ「そうでしょう」

真奈美「なんで、のあが答えるんだ」

まゆ「椿さん……ありがとうございます」

椿「写真を撮らせていただいても良いですか?」

真奈美「ああ」

椿「なので、高峯さんも上着を脱いでください」

のあ「そうするわ」

まゆ「……」

真奈美「……」

椿「カッコイイです!」

のあ「そうかしら」

まゆ「……とってもカッコイイデザインの競泳水着ですね」

真奈美「デザインが凝り過ぎてる。きっとオーダーメイドだぞ、あれ」

56 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:00:02.09 Ahhc8lJY0 56/178

椿「並んでくださーい」

のあ「写真の後でいいのだけど、頼みたいことが」

真奈美「どうした?」

のあ「日焼け止めを塗ってくれないかしら」

まゆ「……手と足と顔しか出てませんよぉ?」

真奈美「自分でやれ」

椿「スマイルですよー、はい、ポーズ!」

57 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:02:35.33 Ahhc8lJY0 57/178

29

希砂二島・正面ビーチ

のあ「……」

麻理菜「あら、ここでなにしてるの?」

のあ「見ての通りよ。保護者をしてるわ」

「どっちの?」

麻理菜「ゆっくりと平泳ぎしてる方?」

「綺麗なフォームでクロールしてる方?」

のあ「両方よ。あなた達は?」

麻理菜「私はウィンドサーフィンを」

「ウチはサーフィンを」

のあ「そう。良い趣味を持ってるのね」

麻理菜「だって、この島は波が穏やかだから」

「ちょっと、刺激不足だもんねッ♪」

のあ「どういうことかしら?」

麻理菜「じゃあ、教えてね!」

「こちらこそ、先生!」

のあ「……ああ、いつもと逆なのね」

58 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:04:18.59 Ahhc8lJY0 58/178

30

希砂二島・正面ビーチ

のあ「……」

まゆ「うふ……ふふふ」

「二人は黙々と何してるの?」

のあ「見ての通り、砂の城を」

まゆ「はい、うふふ……」

のあ「そっちは?」

「こっちは……来た来た」

こずえ「さなー」

紗南「こずえちゃん、準備できた?」

こずえ「できたのー」

「櫂さん、お待たせしましたッ!」

「水泳教室だよ」

のあ「そう」

「泳ぎは得意?」

のあ「苦手ではないわ」

「連れの人は?」

まゆ「まゆは少しだけ……」

のあ「真奈美は筋力トレーニングのために泳いでるだけよ。得意なわけじゃないわ」

紗南「さっきからずっと泳いでるよね」

「へー」

紗南「たぶん、得意なのは櫂さんだけかな?」

のあ「海で波に乗ってる二人は?」

「生き延びる程度だって」

のあ「上手そうね……」

59 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:04:50.85 Ahhc8lJY0 59/178

まゆ「間中さんと大西さんは、ライフセーバーの資格を持ってるそうですよぉ」

「そう言えば、言ってたね。あたしも救命措置は定期的に習ってるよ」

紗南「でも、水属性のスピードフォルムは櫂さんだけだよ」

「櫂さんは競泳選手なんですよね?」

「うん。それに、人に泳ぎを教えるのも好きだよ」

のあ「それは良かったわ」

こずえ「およぐのー……」

「3人とも、泳ぎはどのくらい出来るの?」

「えっと、それなり?」

紗南「コントローラーが欲しい」

こずえ「たいへんなのー……」

「よし、教え甲斐がありそうだね」

紗南「よろしくお願いします!」

「それじゃあ、念入りに準備体操からね」

「はい!」

60 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:07:34.63 Ahhc8lJY0 60/178

31

希砂二島・正面ビーチ

のあ「よし、出来たわ」

まゆ「出来ましたぁ……」

のあ「でも、所詮は砂上の楼閣……」

まゆ「ええ……明日には無くなってしまう……」

真奈美「砂上の砂の楼閣だから、それは儚いものだな」

のあ「お帰りなさい、真奈美」

真奈美「ただいま。波が穏やかで、気分が良く泳げた」

まゆ「どうですかぁ?」

真奈美「立派だ。ということで、カメラに収めておこう」

椿「立派なお城ですね」

のあ「あなた、ずっと写真を撮っているの?」

椿「いいえ、こずえちゃん達と泳いだりもしてますよ」

のあ「なら、いいけれど」

椿「うんうん、愛情たっぷりなお城です」

真奈美「そうか?」

椿「はい、とって……も」

のあ「どうしたのかしら?」

沙理奈「すっかり、置いて行かれちゃったわ。マリナは楽しんでるわね」

椿「あ、あわあわ、ご立派です……」

まゆ「松本さん、こんにちはぁ」

沙理奈「良い天気ねぇ。太陽がアタシを呼んでるみたい、あなたもそう思うでしょ?」

のあ「いえ、別に……」

61 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:09:02.72 Ahhc8lJY0 61/178

椿「その通りですっ!」

のあ「……どうしたの、大声だして」

椿「お写真を、撮ってもいいでしょうか!?」

のあ「本当に、どうしたの?」

沙理奈「あらー、アタシの魅力にやられちゃった?いいわよ☆」

椿「ありがとうございます!」

沙理奈「ポーズとか、こう?」

椿「なんて、ことでしょう……セクシーがギルティですよ……私のアリスが目覚めてしまいます……」

のあ「変なこと言ってる方が、マシかしら」

椿「……」

真奈美「無言でシャッターを切る方が、むしろ怖いな」

沙理奈「はい、お・し・ま・い☆」

椿「え、ええ、そんなぁ……」

沙理奈「これから自然なショット、綺麗に撮ってよね☆バイバイ♪」

椿「は、はい……」

まゆ「投げキッス……」

椿「はぅう……キレイですぅ……ムフフ」

のあ「江上椿、こんな人だったかしら?」

まゆ「真夏の太陽と水着は人を惑わせるんですよぉ……」

真奈美「使いどころ、あってるか?」

椿「はっ!」

真奈美「正気を取り戻したか」

椿「自然なショット、そうでした。私はそういう写真が得意なのに……巨乳美人のポージングなんかに気を取られて……」

のあ「青年会のお姉さんが戻ってきたわね」

椿「あんなところやこんなところを、ゆるみきったあられもない、ハプニングショットを撮るのよ、椿……!」

のあ「気のせいだったわ」

こずえ「つばきー、ぴーす……」

椿「はーい。こずえちゃん、海は楽しいですかー?」

まゆ「えっと……」

真奈美「写真が好きなのも人が好きなのも本当の彼女だ、多分」

のあ「やっぱり、太陽が人を惑わすのよ」

真奈美「……そういうことにするとしよう」

63 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:10:34.66 Ahhc8lJY0 62/178

32

希砂二島・正面ビーチ

紗南「うぅ、ぜえぜえ……」

「はぁはぁ……」

美里「あらぁ、お疲れ様ですねぇ。お水をどうぞぉ」

紗南「ありがと……」

「ごくごく……生き返ります」

のあ「西島櫂はスパルタだった、というか」

紗南「体育会系だよ……」

「みんな、おつかれ!」

紗南「こずえちゃんはおやすみ?」

こずえ「すーすー……」

「おねむみたい。よしよし」

紗南「アヤさん、連れて来るね」

「お疲れ様でした!でも、泳ぎが上達した気がします!」

「そう、だったら午後も」

「それは、遠慮します」

「そっか、残念」

美里「西島さんもお水をどうぞぉ」

「ありがと」

美里「高峯さんはいかがですかぁ?」

のあ「私はいいわ。そろそろ、お昼でしょう?」

美里「ええ、そのためにお声がけに来たんですよぉ」

「お昼?」

美里「海といえばぁ」

「海……」

「海の家……」

64 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:11:33.86 Ahhc8lJY0 63/178

こずえ「すー……」

「砂の味がする……」

「ラーメン?」

のあ「焼きそば」

美里「カレーとラーメンですよぉ」

「へぇ。なんか以外」

美里「でも、本島のホテルシェフがレシピを提案した一品ですよぉ」

「なんと、これは調査不足でした」

美里「本島のホテルと中華料理屋さんでも取り扱ってるので、行ってみてくださいねぇ。どっちもアレンジが効いてて美味しいですよぉ」

のあ「ふむ。興味深いわね」

「こうしてはいられません、行きましょう!」

「そうだね、お腹もすいてきたし」

こずえ「こずえも……」

「起きた?一緒にご飯行こっか?」

美里「泳いだ人はちゃんとシャワーを浴びてから、食堂まで来てくださいねぇ」

のあ「ええ。私も真奈美とまゆを呼んで、行くとしましょう」

65 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:13:33.17 Ahhc8lJY0 64/178

33

7/25(土) 午後

逢伊江館・大ホール

まゆ「美味しかったですねぇ」

のあ「ええ」

まゆ「のあさんは海に行きませんか?」

のあ「少し休んでから、行くわ」

まゆ「ならぁ……まゆも休憩します」

雪菜「よいしょ」

由里子「井村ちゃん、ありがとう」

雪菜「どういたしましてぇ」

のあ「その箱は何かしら?」

由里子「ボードゲームだじぇ」

まゆ「ボードゲームですかぁ?」

雪菜「泳ぎ疲れたら、ゆっくりと遊ぶのもいいですよぉ」

由里子「その通りだじぇ!」

のあ「仕事はいいのかしら?」

由里子「ふっふっふ、これも仕事。お客様のため」

まゆ「そうなんですかぁ?」

由里子「倉庫を掘り返したお宝、遊んでくれると嬉しいじぇ」

雪菜「お二人はお好きなのはありますかぁ?」

のあ「カタン、ブロックス、モノポリー、ドミニオン、トランプ、ウノ」

まゆ「人生ゲームもありますよぉ」

由里子「景気が良い時代の、3面構成!ほぼお金を失わない、気分の良くなる人生ゲームランキング1位だじぇ!」

雪菜「あれ、真奈美さんはどちらですかぁ?」

のあ「海に行ったのかしら」

まゆ「そうみたいですねぇ」

由里子「人数が足りないなら、呼んで欲しいじぇ」

まゆ「はぁい」

雪菜「でもぉ、まだ早いですよねぇ」

まゆ「せっかく、キレイな海なんだから、楽しまないと……ですねぇ」

雪菜「お楽しみはこれからですよぉ。私は先に行ってますねぇ」

66 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:15:48.39 Ahhc8lJY0 65/178

34

希砂二島・正面ビーチ

「こうかしら?」

「違うよっ!こう!」

のあ「彼女達は、何をしてるのかしら」

真奈美「ポーズを決めてるな」

「こうね!」

「そうだっ!」

のあ「真奈美、どこに行ってたの?」

真奈美「どこにも行ってないが」

のあ「狭い島とはいえ、人間の視界には広いわ」

「あたし、ヒーローに向いてるかしら?」

「もちろんだよ!」

「そうね、名前も決めましょ!」

真奈美「林の中を見て来てみた」

のあ「探検家のようなことをしてるのね」

真奈美「何も見つからなかったが」

のあ「そもそも、そこまで深くないでしょう」

「名前か!武器とかないある?」

「武器?」

「武器は、持ってないな。特技とか?」

真奈美「ああ。宝を隠すには向いていないな」

のあ「地面も硬いものね」

「そうね、好きなのは占いね!」

「占い、ラッキー、魔法……うーん」

頼子「フォーチュンは、いかがでしょう」

「幸運を呼ぶ、ってことね。フォーチュンクッキーとかいうでしょ?」

「なるほど!それじゃあ、フォーチュン仮面とか」

「仮面はちょっと」

真奈美「フォーチュンヒーロー、とかな」

のあ「安直じゃないかしら」

「気に入ったわ!」

のあ「……」

頼子「ふふ」

67 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:19:16.26 Ahhc8lJY0 66/178

「フォーチュンヒーローは決まったところで」

のあ「どうして、こっちを見るのかしら」

「シルバークイーンね」

のあ「私は、確実に悪の幹部ね」

「メタリックウルフ」

真奈美「光栄だ」

「そして」

頼子「私、ですか?」

「浮き輪も水着もカワイイわね」

のあ「暖色の水着をチョイスするとは意外だったわ」

「うーん……」

頼子「どうぞ?」

「エレガントコマンダー?」

頼子「ありがとうございます。司令官なのは気になりますが」

「あたしの意見は違うわ!」

「どういうことだ!?」

「ムーンナイトシーフよ!」

「なんだって!」

「怪盗とか似合いそうでしょ」

「表の顔は美術館の学芸員、でも裏の顔は!」

頼子「ふふっ、それもいいかもしれませんね。それでは、海に浮かんできます」

のあ「行ってしまったわね」

真奈美「しかし、何故怪盗だと?」

「それは」

「それは?」

「なんか、モノクルが似合いそうじゃない?」

のあ「つまり、勘と」

「良いじゃないか、直感は大切だからな!」

真奈美「だそうだ。シルバークイーン、参考にするがいい」

のあ「ラジャー、メタリックウルフ」

「あんたたち、仲良いわね」

68 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:21:02.42 Ahhc8lJY0 67/178

35

希砂二島・正面ビーチ

まゆ「のあさん、あらぁ?」

のあ「まゆ、どうしたの?」

まゆ「アイスクリームを由里子さんからいただきましたぁ」

のあ「まぁ、美味しそうね。いただくわ」

まゆ「どうぞ。のあさん、その笛とバットはなんですかぁ?」

のあ「バットは使わないことになったけれど、笛を使うのを頼まれてるの」

まゆ「笛……ですかぁ?」

悠貴「準備できましたっ!」

アヤ「よーし」

「ワクワクしてきたッ!」

まゆ「ビーチフラッグですかぁ。旗は2本……」

のあ「では、位置について。レディ……」

悠貴「はいっ」

アヤ「……」

「ふー……」

ピー!

まゆ「わぁ、早い……」

アヤ「おっりゃあああ!」

「よし、決勝進出!」

悠貴「やりましたっ」

アヤ「あっちゃー、流石陸上部」

悠貴「えへへ」

アヤ「手も足も長くて、羨ましいな」

「まだ13歳なのにね。将来有望だよッ!」

アヤ「悠貴、13なのか」

悠貴「はいっ。アヤさんみたいな、カッコイイ人になりたいな」

アヤ「いやいや、カワイイ方がいいぞ?」

「決勝やろうよ!のあさん、お願いしていい?」

のあ「どうぞ。準備を」

まゆ「旗はここでいいですかぁ?」

悠貴「はいっ、渚さん、お願いしますっ」

「うん、負けないからね!」

のあ「セット。レディ……」

69 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:21:57.07 Ahhc8lJY0 68/178

悠貴「ふふっ……」

「ふー……」

ピー!

アヤ「おっ?」

のあ「……」

まゆ「二人とも飛び込みましたぁ……」

「……あー!」

アヤ「おー、悠貴、やるな!」

悠貴「えへへ、ぶいっ!」

椿「良い笑顔です」

アヤ「椿、いきなり現れないでくれよ」

椿「さっきから、ずっといましたけど?」

アヤ「気配を消すのもやめてくれ」

「スタート良かったと思ったのになァ」

のあ「スタートは良かったわ」

アヤ「さすが、バスケ選手」

のあ「でも」

まゆ「走るのがとっても早かったです……」

悠貴「練習、がんばってますからっ」

「相手は走るのが本職とはいっても、負けるのはくやしいなー」

真奈美「おや、楽しいそうなことをしてるじゃないか」

のあ「真奈美は、得意かしら」

真奈美「人並みには」

アヤ「なんとなくだけどさ、この人の人並みは人より凄そうな気がすんだよ」

まゆ「確かにその通りですねぇ……」

悠貴「木場さんもやりますかっ?」

真奈美「こういうのは人を集めるものだ。波に乗ってる人達も集めてくるとしよう」

「のあさんも選手する?なんか速そうだし」

のあ「遠慮するわ」

アヤ「運動は苦手なのか?」

のあ「そうでもないわ」

まゆ「のあさん、がんばってください」

のあ「……偶には走ろうかしら」

アヤ「よし、ならアタシも集めてくる。ガイドさん、ライフセーバーの資格あるって言ってたよな?」

悠貴「はいっ、言ってました!」

のあ「いつの間にか、人が集まって来そうね……」

まゆ「でも、楽しいですよぉ」

のあ「思ったのだけれど」

まゆ「どうしましたかぁ?」

のあ「思ったよりも体育会系が多いのね、今日は」

70 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:23:33.86 Ahhc8lJY0 69/178

36

希砂二島・正面ビーチ

まゆ「あっという間に決勝です……」

のあ「そうね」(予選敗退)

由里子「決勝進出者を紹介するじぇ!」(審判)

悠貴「おっー!」(準々決勝敗退)

美里「はぁい、まずはぁ」(準決勝敗退)

由里子「参加者最長身、スイマーは砂浜でも速かった!」

美里「最後の飛び込みで負けてしまいましたぁ」

由里子「西島、櫂!」

「櫂、がんばれー!」(予選敗退)

「はは、何か恥ずかしいな」

「慣れてるんじゃないの?」

「最近、そんな声援はご無沙汰だからさー」

由里子「意気込みを」

「えっと……頂点目指してがんばります!」

由里子「対するはー!」

美里「彼女も海と砂浜の申し子ですよぉ」

由里子「波のためなら、コンパニオンもなんのその、最年長でも手は抜かない!」

真奈美「砂の走り方で差が出てしまった」(準決勝敗退)

のあ「真奈美にも出来ないことがあるのね」

由里子「沢田ー、麻理菜!」

麻理菜「さっきの説明、褒められてる?」

沙理奈「褒められてるわよ?」

椿「はい、その通りです!」(写真担当)

麻理菜「まぁ、いっか」

由里子「美里さん、ご褒美は?」

美里「準備しましたよぉ」

「おっ?」(1回戦敗退)

美里「こちらですよぉ」

71 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:25:34.93 Ahhc8lJY0 70/178

由里子「こ、これは希砂島お土産詰め合わせグッズだじぇ!」

美里「4千円相当ですよぉ」

由里子「お買い求めはフェリー乗り場だじぇ!」

「いつのまにか、宣伝になってるわね」(予選敗退)

由里子「両者、位置に着いて!」

麻理菜「櫂ちゃん、よろしくねっ!」

「こちらこそ!」

由里子「セット、レディ」

麻理菜「ふふ……」

「ふぅ……」

ピー!

悠貴「立つまでが速いですっ」

真奈美「ふむ、砂に足を取られない走り方があるんだな」

由里子「最後のダイブだぁー!」

美里「勝者はぁ……」

「あー!」

麻理菜「やったわ!」

「くっそー、もう少しだったのに!」

美里「勝者は、沢田麻理菜さんですぅ」

麻理菜「トレーニングの成果がでたわ!」

由里子「商品贈呈だじぇ!」

沙理奈「さすが、マリナ!」

麻理菜「やるからには、勝たないとね!」

椿「ムフフ♪ツーショットは最高ですっ!」パシャパシャ

由里子「乗り過ぎたじぇ……」

美里「でも、偶にはいいですよぉ」

由里子「そう言ってくれると、助かるじぇ」

美里「そろそろ夕方ですからぁ、上がってくださいねぇ」

のあ「もうそんな時間かしら」

美里「夕焼けは、シャワーを浴びてから見るのがいいですよぉ」

真奈美「薄暗がりだと足元も危ないからな」

「麻理菜さん」

麻理菜「どうしたの?リベンジマッチ?」

「水泳対決とかは」

「負けず嫌いはいいけど、明らかな自分の分野で戦うのはやめよ?」

72 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:27:20.42 Ahhc8lJY0 71/178

37

7/25(土) 夕方

逢伊江館・ジャグジー・更衣室

まゆ「の・あ・さ・ん……♪」

のあ「……」

「どうして、そんなにゆっくりなのですか……?」

まゆ「逃がしませんよぉ……」

のあ「真奈美は……いないわね」

悠貴「事件ですかっ?」

まゆ「うふふ……」

「違うと思うのですが……まゆさんは手に何を持ってるんですか?」

まゆ「さぁ……髪の毛を梳かさせてください……!」

悠貴「違いましたっ。先に食堂に行ってますっ!」

「あ、はい」

のあ「まゆ、髪はちゃんと洗ってるわ」

まゆ「知っています……」

のあ「なら、大丈夫よ。髪もそのうち乾くわ」

「私も髪を乾かさないと、そうだ、光ちゃんも」

まゆ「それじゃ、ダメなんですよぉ!」

「……ちょっと、興味が湧いてきました。なぜ、まゆさんはそう思うのですか?」

まゆ「都ちゃん……聞いてください」

のあ「ええ、聞いてちょうだい。失礼するわ」

まゆ「お座りしてくださいねぇ……の・あ・さ・ん♪」

「私は座った方がいいと思います、悪いことが起きます」

73 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:28:07.01 Ahhc8lJY0 72/178

まゆ「のあさん、シャンプーは持ってきましたかぁ?」

のあ「いいえ。備え付きのを使ったわ」

まゆ「……優さんから貰ったシャンプーを使ってくださいねぇ、必ず」

「どういうことでしょうか?」

まゆ「こんなにキレイな髪をしてるのに……のあさんが守らないならまゆが守ってあげないと……うふふ」

のあ「……」

「つまり、まゆさんはお髪の手入れをしてくれるわけですね」

まゆ「そうですよぉ……ずっと、言ってます……」

真奈美「どうした、お叱りでも受けてるのか?」

のあ「真奈美」

まゆ「真奈美さん、のあさんの髪のお手入れをしたいんです……」

真奈美「いいじゃないか。してもらうといい」

のあ「別に、そこまで気にするものじゃないわ」

真奈美「のあ、太田君から貰ったコンディショナーは使っているか?」

のあ「そんなもの貰ったかしら?」

真奈美「佐久間君、一から聞かせてやれ」

まゆ「はぁい……真奈美さん」

のあ「安斎都」

「太田さんが誰か知りませんが」

まゆ「太田優さんは、のあさんの髪を見てくださる美容師さんですよぉ……」

「せっかく美しい髪の毛をしてるので、まゆさんの言うことを聞きましょう」

のあ「あなたは味方だと思ったのに」

まゆ「さぁ、のあさん、準備はいいですかぁ……?」

74 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:29:46.88 Ahhc8lJY0 73/178

38

夕食後

逢伊江館・1階・ロビー

美里「んー……疲れましたぁ」

のあ「お疲れ様。お見送りが終わったところなのね」

美里「あらぁ、伸びしてるところを見られちゃいましたぁ」

のあ「問題ないわ。お仕事は終わりかしら?」

美里「はい。由里子さんにお仕事はバトンタッチして、少しお休みしますねぇ」

のあ「ええ」

美里「だけど、気になったことがあったらお部屋まで来てくださいねぇ」

のあ「わかってるわ」

美里「高峯さん、良い夜を」

のあ「眠るには早いけれど、お休みなさい」

美里「あのぉ、最後に一つだけ聞いていいですかぁ?」

のあ「もちろん。なにかしら」

美里「どうして、ツインテールなんですかぁ?」

75 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:30:55.99 Ahhc8lJY0 74/178

39

逢伊江館・地下・娯楽室

頼子「こんばんは。何かお探しですか?」

のあ「私は読んだことのない本を。そちらは」

頼子「見たことがないものを探しています」

のあ「抽象的ね」

頼子「具体的に言うと、美術品です」

のあ「ふむ。期待をする気持ちはわかるわ」

頼子「しかし、目ぼしいものは見つかりませんでした」

のあ「この屋敷を手放す前に、お金に換えられるものは換えるでしょうね」

頼子「残念です。あそこの倉庫が怪しいと思うのですが」

のあ「カギがかかっているわ」

頼子「ええ。間中さんに言って無理に開けてもらうものでもありませんし」

のあ「開けたところで、何もないわ」

頼子「ええ……そうだ、これを」

のあ「それは?」

頼子「読んだことがない本をお探しということでしたので」

のあ「見たことはないわね」

頼子「当然です。自費出版の自伝ですから」

のあ「……暇な人間もいたものね」

頼子「不動産で資産を泡のように膨らませて、弾けることなど知らない人間の傲慢さを感じ取ることが出来る、名著ですよ」

のあ「少しだけ興味が出たわ。貸してくれるかしら」

頼子「どうぞ。あちらの棚に同じ本が数冊おいてあるので、返却はそちらへ」

のあ「ありがとう」

76 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:31:35.63 Ahhc8lJY0 75/178

頼子「この娯楽室を作った人物は、いつも事件が起こることを期待しながら客を招待していたそうですよ」

のあ「悪趣味ね……最初の文から吐き気がするわ」

頼子「あなたは、悪趣味な金持ちではありませんか」

のあ「さぁ。傍から見れば、同類かもしれない」

頼子「違いますよ。なぜなら、同じ人間などいないのですから」

のあ「フォローになってるかしら、それ」

頼子「解釈はご自由にどうぞ……あら、もうこんな時間ですね」

のあ「まだ夜の始まりの時間だと思うのだけど」

頼子「はい。だから、ゆっくり眠ります。おやすみなさい、高峯さん」

のあ「おやすみなさい」

頼子「そうだ、最後に一つだけ」

のあ「ツインテールはまゆにされたわ。似合ってるとは、思わないのだけれど」

頼子「あら、既に誰かに聞かれていましたか?」

のあ「ええ。屋敷の前で江上椿には写真を撮られて、一緒にいた松本沙理奈には本気かどうかわからない褒め言葉を頂いたわ」

頼子「似合ってますよ。佐久間さんと仲が良さそうで、安心しました」

のあ「ええ。問題なくやれてるわ」

頼子「……そうでなくては、面白くありませんから」

のあ「何か言ったかしら?」

頼子「何も。お楽しみはまだまだこれからです、おやすみなさい」

77 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:33:25.65 Ahhc8lJY0 76/178

40

逢伊江館・2階・のあ達の寝室(204号室)

のあ「ただいま」

まゆ「のあさん、本はみつかりましたかぁ?」

のあ「ええ。真奈美は……寝てるわね」

まゆ「ずっと泳いでましたからねぇ」

のあ「今日の夜は静かね」

まゆ「泳ぐのって疲れますから……ふわぁ」

のあ「まゆも私を待ってなくていいわ」

まゆ「そうですねぇ……でも」

のあ「でも?」

まゆ「少しお話したいかなぁ、って」

のあ「いつでもできるわ。今じゃなくても、いつでも」

まゆ「うふふ……そうでした」

のあ「そうなるように努力するわ。だから、おやすみなさい」

まゆ「……はい。信じてます」

のあ「ええ。私は髪型、ほどいていいかしら」

まゆ「はい……でも、髪の毛はこれから大切にしてくださいねぇ」

のあ「わかってるわ」

まゆ「おやすみなさい、のあさん」

79 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:53:27.35 Ahhc8lJY0 77/178

41

7/26(日) 0:25

のあ「文章力はあるわね……ゴーストライターでも雇ったのかしら」

のあ「日が変わったわね、そろそろ私も眠ろうかし……あら」

のあ「……」

のあ「どうして、圏外なのかしら」

うぎゃああああ!

のあ「大西由里子と思われる悲鳴、1階から」

真奈美「どうした!?」

のあ「あの音量で起きれるのね。動き出しも早い」

真奈美「悲鳴だった。のあ、見に行くぞ」

まゆ「……むにゃ、真奈美さん……どうしたんですかぁ……」

のあ「真奈美はまゆを見てて。私が見てくるわ」

真奈美「わかった。気をつけろ」

のあ「ケータイが圏外になってるわ、覚えておいて」

真奈美「……それは人為的なのものか」

のあ「わからない。行ってくるわ」

80 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:55:36.42 Ahhc8lJY0 78/178

42

逢伊江館・1階・ロビー

のあ「大西由里子!」

由里子「あ、あ、あれ……」

のあ「俗にいう腰が抜けてる状態ね」

紗南「どうしたの!?」

「悲鳴が聞こえたんだっ!」

のあ「二人とも地下室から来たわね。夜更かしはいけないわよ」

「何があったんだ?」

紗南「由里子さん、部屋に何かあるの?」

由里子「だ、だめだじぇ!」

のあ「三好紗南、南条光、二人はここにいて」

由里子「お願いするじぇ……」

のあ「間中美里の執務室、ね」

81 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 18:58:34.88 Ahhc8lJY0 79/178

43

逢伊江館・1階・間中美里の執務室

のあ「間中美里……」

のあ「息は……ないわね」

のあ「死因は扼殺かしら。殺されてから、時間は経っていない」

のあ「誰でも迎え入れる人物と部屋での犯行」

のあ「叫ぶ間もなかった、ようね」

のあ「問題は……」

のあ「どうやって次の犯罪を止めるか」

82 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:00:56.28 Ahhc8lJY0 80/178

44

逢伊江館・1階・ロビー

のあ「大西由里子、状況はわかったわ」

「何があったんだ!?」

のあ「結果としては最悪。間中美里が殺されたわ」

紗南「え……?」

由里子「やっぱり、死体」

のあ「確認したのかしら」

由里子「ライフセーバーの研修は受けてるし……」

紗南「ほ、本当なの?」

のあ「人の眠りを妨げてまで、ゲームに興じる趣味はないわ」

「まさか、殺人事件が起こるなんて」

のあ「大西由里子、立てるかしら」

由里子「ふー、冷静に冷静に」

のあ「間中美里の部屋に行った理由は」

由里子「ネットがつながらなくなったから……あー!?」

のあ「やっぱり。切断するような原因は屋敷内かしら」

由里子「屋敷にはケーブルを引いてるだけだから」

のあ「電波塔」

由里子「見てこないとっ!」

のあ「わかってるわ。でも、一人は危険よ」

由里子「……」

「なら、アタシが!」

のあ「大西由里子、私はあなたを信用していいかしら」

由里子「疑ってる……いや、職員失格だし……」

のあ「あなたが犯人でないならば、そうではないわ。あなたがすべきことは」

由里子「警察に連絡?」

のあ「ええ。南条光」

「どうするんだ?」

のあ「電波塔は私が見に行くわ。質問に答えて」

「なんだ?」

83 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:01:32.25 Ahhc8lJY0 81/178

のあ「三好紗南といつから娯楽室にいたかしら?」

紗南「えっと、10時にはいたと思うよ?」

「5話くらい見てたから、本当だ」

のあ「信用するわ。そもそも」

紗南「そもそも?」

のあ「あなた達の背丈では無理でしょうね。少なくとも同程度かそれ以上」

紗南「それなら犯人がわか……あれ?」

のあ「まゆと遊佐こずえ、あなた二人以外は犯人の可能性はありそうね」

「そんな……」

のあ「私はあなた達を信じるわ。絶対に二人で行動すること。いいわね?」

紗南「わ、わかった」

のあ「皆の状況を確認して。皆を守ってちょうだい」

「わかった!」

のあ「ただし、個人の部屋には入らないこと。大部屋の場合は扉を開けておくこと。いいわね?」

紗南「怖いこと言う……」

「でも、やるしかない」

のあ「お願いするわ。まずは私達の204号室へ」

「木場さんは信頼していいのか?」

のあ「ええ。アリバイは私が保障する。二人とも良く寝ていたわ」

紗南「わかった。木場さん、頼りになりそうだし」

のあ「もちろん。行きましょう、大西由里子」

84 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:03:11.57 Ahhc8lJY0 82/178

45

希砂二島・中心部・電波塔

のあ「暗いわね」

由里子「電灯があるはずなのに、消えてるし……」

のあ「電波塔は、ダメそうね」

由里子「じぇ……電源もケーブルも大元から切られてる」

のあ「人為的に破壊したのね。なら、誰かがここにいた」

由里子「ネットが切れる直前に?」

のあ「大西由里子、ネットが切れた時に何を調べたかしら?」

由里子「えっと、配線にPCに無線LANルーターに……」

のあ「そのうちに帰ってくる時間はあるわね」

由里子「ダイタンすぎるじぇ……」

のあ「単独でも犯行は可能。目的は」

由里子「ここを孤立させる、とか」

のあ「そういうこと。少なくとも一晩は犯人のための時間が確保されてしまった」

由里子「犯人は、推理小説の読み過ぎだじぇ!」

のあ「それにしても……妙ね」

由里子「妙?」

のあ「手際が良すぎるわ」

由里子「へ?」

のあ「短時間で確実に破壊してる。犯人は詳細まで知ってるわよ」

由里子「そんなことできるのは……」

のあ「間中美里かあなたくらいかしら」

由里子「違うじぇ!流石の美里さんも電子機器までは」

のあ「戻りましょう。わかったことは」

由里子「孤立した……」

のあ「その通り。孤島の屋敷で殺人事件が起こったわ」

由里子「どうすればいいんだ……」

のあ「……」

由里子「高峯さん、どうしたら……高峯さん?」

のあ「……決めたわ」

由里子「決めた……?」

のあ「戻りましょう。私は私がやるべきことをやるだけよ」

85 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:04:34.29 Ahhc8lJY0 83/178

46

逢伊江館・1階・ロビー

由里子「監視カメラの映像を調べてくるじぇ……」

のあ「待ちなさい。一人にするわけにはいかないわ」

由里子「……」

真奈美「のあ」

のあ「真奈美、まゆは」

まゆ「まゆはここですよぉ」

のあ「真奈美から離れないでちょうだい」

まゆ「わかってます。何か私にできることはありませんかぁ?」

のあ「ないわ」

真奈美「南条君に何があったかは聞いた」

のあ「彼女達は信頼できるかしら」

真奈美「嘘をついている様子はない」

のあ「そう」

真奈美「それで、状況だが」

のあ「どうだったのかしら」

真奈美「一人を除いて、部屋にいた」

「なんで、わかってくれないのさ!」

まゆ「いないのは……203号室の愛野渚さんです」

真奈美「他の宿泊客は」

のあ「食堂にいるのね。話を聞いてくるわ」

真奈美「待て」

のあ「何かしら」

真奈美「のあを一人にするわけにはいかない」

のあ「私ならヘイキよ」

真奈美「本人がヘイキだと言っても、私はのあと佐久間君を危険な目にあわせるわけにはいかないんだ」

のあ「……わかったわ」

真奈美「大西君も食堂へ。いいかな?」

由里子「わかったじぇ」

86 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:06:48.24 Ahhc8lJY0 84/178

47

逢伊江館・1階・食堂

「だから、今すぐ探しにいかないと!」

「一人にするわけにはいきませんっ!」

紗南「犯人が隠れてるかもしれないんだよ」

「隠れてるわけないじゃん!隠れる場所なんてないんだから!」

のあ「南条光」

「あっ、高峯さん!」

のあ「話は聞いたわ。ありがとう」

「でも……」

「皆部屋にいるんでしょ、なら犯人は何も出来ないよ!」

由里子「それって……」

「犯人は宿泊客のうちの誰か、に決まってる!」

のあ「……否定はしないわ」

「渚ちゃんは散歩してるだけかもしれないし、今のうちに探さないと!」

のあ「そうね。でも、一人には出来ないわ」

「また、それ……」

のあ「真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「集めた方がいいかしら」

真奈美「いいかもしれないな」

のあ「西島櫂」

「なにさ」

のあ「捜索へ行きましょう」

「アンタは信頼できるの?」

のあ「もう一人いればいいでしょう。南条光、いいかしら」

「ああ!」

のあ「真奈美」

真奈美「どうすればいい?」

のあ「大西由里子と一緒に他の宿泊客を集めて」

真奈美「了解だ」

のあ「まゆと三好紗南からも離れないように」

真奈美「わかってる」

「早く、行こう!」

のあ「わかってるわ。南条光、屋敷内は調べたかしら」

「もちろん!離れとプールも見て来た!」

のあ「不審者は」

紗南「いなかった……はず」

のあ「そうなると、外かしら」

「おそらく」

のあ「行きましょう」

87 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:08:32.37 Ahhc8lJY0 85/178

48

希砂二島・逢伊江館前

「渚ちゃーん!」

「よしっ、電灯がついた」

のあ「隠れられそうな場所はあるけれど」

「おかしいな、大声なら裏のビーチまで聞こえるはずなのに」

「渚さーん、どこだー」

のあ「ひとまず、正面ビーチへ行きましょう」

「ああ、階段を降りて……はっ!」

のあ「……何か」

「海!」

「海がどうしたの?」

「違う、ネットのところ!」

のあ「まさか」

「そんな、嘘でしょ!」

のあ「西島櫂、待ちなさい!」

88 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:09:33.71 Ahhc8lJY0 86/178

49

希砂二島・正面ビーチ

のあ「ためらわずに飛び込んだわね……」

「渚、愛野渚!答えろ!」

「叩いても反応がない……」

のあ「西島櫂、変わりなさい」

「でも!」

のあ「救命措置を出来るのにしていないのなら、わかってるということ」

「……そうだよ」

のあ「ありがとう」

「どうなんだ……?」

のあ「残念だけれど」

「溺れたのか?」

「泳げるし、それに」

のあ「泳いでいた服装ではないわね」

「それじゃあ……」

のあ「海に投げ入れられた時点で呼吸はなかったようね。死因は……」

「……ねぇ、首」

のあ「彼女も首の骨を折られてるわね」

「なんて、酷いことを……」

「殺人だって、こと!?」

「連続殺人……!」

のあ「そういうことになるわ」

「どうして、渚ちゃんが殺されないといけないのさ!」

のあ「間中美里と愛野渚の関係性は」

「ないよ、初対面……のはず」

のあ「……考えても仕方がないわ」

「……そうだね」

のあ「ここで寝かせておくわけにはいかないわ」

「夜風が、冷たいな」

「あたしが運ぶよ……いいでしょ」

のあ「お願いするわ」

「渚ちゃん、行こう。ほら」

「偽るのは辛いだけじゃないのか……」

のあ「辛くても受け入れたら立っていられないこともあるの」

「……そっか」

のあ「戻りましょう」

89 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:11:04.87 Ahhc8lJY0 87/178

50

逢伊江館・1階・間中美里の執務室

由里子「むむぅ……」

のあ「犯人は考えてるわね」

由里子「防犯カメラの記録がほとんどないじぇ……」

のあ「データは本島に保存していた。便利な時代も考えものね」

由里子「過去の映像も見れないし、お手上げ」

のあ「犯人への手掛かりはまだなし、と」

雪菜「あのぉ……」

のあ「寝かせてくれたかしら」

「はい……大変なことになりましたね」

雪菜「……寂しいかもしれませんけど、少しホールでお休みしてもらいましたぁ」

のあ「大西由里子、大ホールのカギは閉めておいて」

由里子「わかった」

のあ「他の人は食堂に揃ってるかしら」

雪菜「はい」

「でも、皆さん説明を求めています」

のあ「……説明ね」

由里子「アタシの仕事だよね」

のあ「お願いしていいかしら」

由里子「こうなったら、絶対にお守りする」

「頼もしいです、私も手伝います!」

雪菜「でもぉ……」

由里子「犯人がいるのもわかってるし……それでも」

雪菜「……はい」

「……はぁ」

のあ「落ち込むのはわかるわ」

「不謹慎かもしれませんけど、事件が起こってもワクワクしません」

雪菜「当たり前ですよぉ……探偵よりも警察が今は必要ですぅ」

「探偵って何なんでしょう」

のあ「……」

由里子「気落ちしたら、犯人の思うつぼだじぇ」

雪菜「はい」

「今は何よりも、状況をみんなで確認することが必要です」

90 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:12:32.77 Ahhc8lJY0 88/178

51

逢伊江館・1階・食堂

頼子「連続殺人……となったのですね」

沙理奈「連続殺人ねぇ……」

麻理菜「大変なことになったわ」

頼子「重要なことは」

悠貴「はいっ、えっとメモしましたっ」

「私も一応しました」

悠貴「死因は同じですっ」

「首を絞められたことだったわね」

「本島までの移動手段もない」

「そして、何よりも」

「通信手段が使えません」

悠貴「電話も」

「ケータイも」

麻理菜「無線とかないの?」

由里子「本当はあるけど……」

椿「使えない、と」

沙理奈「孤立してるということは間違いないのね」

悠貴「はいっ!」

紗南「でも!朝には人がくるんだよね!」

頼子「その通りです」

「だけど……」

麻理菜「そうはいかないわ」

沙理奈「アタシ達が出れないのだから、犯人も出れないってことでしょ?」

雪菜「今も犯人が島の中にいるってことですぅ……」

「それもあるけど……」

「島の中じゃないよ」

のあ「……」

「渚ちゃんを殺した犯人は」

悠貴「この中にいるって、ことですよねっ!」

91 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:14:08.82 Ahhc8lJY0 89/178

52

逢伊江館・1階・食堂

悠貴「あれ?」

アヤ「なんで、そんなにテンションが高いんだよ……」

「人を疑うのは良くない」

悠貴「でも、可能性が一番高いと思いますっ!」

「それは、わかってるけどさ……」

麻理菜「犯人を捕まえないと、次の事件が起こるわ」

悠貴「その通りですっ。ね、都さん?」

「え、私ですか?」

悠貴「孤島の洋館で殺人事件ですよ、殺人事件!」

真奈美「趣味が悪いぞ」

悠貴「都さん、探偵の出番ですよっ!」

真奈美「……のあ、どうする?」

のあ「……話は後で」

悠貴「ここに全員いるのだから、犯人を見つけましょうっ!」

「……」

悠貴「本物の探偵になるチャンスですよ?」

雪菜「本物ってなんでしょうかぁ……」

悠貴「あるいはヒーローになるとか?」

「へっ?」

悠貴「スクープショットがあるかも」

椿「え?」

悠貴「私も挑戦したいですっ!」

のあ「……」

頼子「乙倉さん、落ち着きましょう」

悠貴「あっ、はい、話し過ぎちゃいましたっ」

頼子「安斎さんのお話も聞いてみましょう。どう思っていますか、安斎さん?」

「あの、私は」

92 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:15:21.10 Ahhc8lJY0 90/178

頼子「正直に言ってください。この状況は危険ですよ」

「そんなに乗り気じゃありません」

頼子「あなたがやりたかったのは、所詮ごっこ遊びだったと」

「殺人を喜ぶ人になったら、終わりです」

のあ「……その通り」

「悠貴さん、やっぱりやめましょう。集まっていれば犯人も手出しできません」

のあ「ふむ……」

「みなさん、どう思いますか」

真奈美「私は賛成だ」

のあ「私もよ。犯人を捕らえるのは私達の誰の仕事でもないわ」

まゆ「……そうなんですかぁ」

「アタシは賛成だ!」

「あたしも。推理でも占いでも結果がわかることがいいことばかりじゃないもんね」

悠貴「えー」

沙理奈「犯人をこのままにしておくの?」

アヤ「一晩もか」

こずえ「ずっと、おきてるのー……?」

「そんなの……」

「でも、それが一番安全です」

「……」

「櫂ちゃんは、納得いかなそうね」

「仕方ないだろ……友達が亡くなってるんだから」

頼子「私からいいでしょうか」

「はい、どうぞ」

頼子「私はあなた方を信じることは出来ません」

93 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:16:32.56 Ahhc8lJY0 91/178

53

逢伊江館・1階・食堂

沙理奈「……」

「どういう意味でしょうか?」

頼子「ここまでを振り返ってみましょう。間中さんを殺すことができたのは」

麻理菜「少なくとも、部屋に迎えられる人」

沙理奈「……全員じゃない」

頼子「通信手段が途切れました。大西さん、あなたがやったのでは?」

由里子「なぁ!なに言って」

頼子「あなたを信頼する理由もありませんから。説明も嘘かもしれませんね」

のあ「……」

頼子「櫂さん」

「まさか……」

頼子「愛野さんを殺したのは、あなたではありませんか?」

「ふざけないでよ!」

頼子「その怒りも本当かわかりません」

のあ「古澤頼子、口が過ぎるわ」

頼子「そもそも犯人は単独犯なのですか?」

「違う、と?」

頼子「私は何も信じていません。例えば……」

「あたし達がなにか?」

頼子「共犯者がいるなら、色々と出来るでしょう」

「違う、ウチらは何もやってないからな!」

雪菜「そうですよぉ!私達は屋敷にもいないんですよぉ!」

「ちょっと!犯人呼ばわりは酷いんじゃない」

94 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:17:36.74 Ahhc8lJY0 92/178

頼子「ごめんなさい、気分を悪くするつもりはありません。私はただ可能性を述べたいと」

「可能性……」

頼子「間中さんと愛野さんに殺人に結びつく関係性は見えていません」

沙理奈「本当にただの快楽殺人犯だって、言いたいの?」

頼子「はい」

悠貴「ということは……」

頼子「犯人が、あるいは犯人達がこの場で凶行に移ったのなら」

悠貴「全員は助からないかも」

頼子「ええ。大多数は助かるかもしれません、でも誰かが殺されるかもしれません」

「そんなことはさせない!」

頼子「正義感だけでは人は救えません。あなたはただの少女なのですから」

「……」

頼子「自分をあるいは大切な人を、その誰か、にしたくないのなら」

雪菜「集まってる方が危険ってことですかぁ……」

頼子「はい。乙倉さん」

悠貴「はいっ、なんでしょう?」

頼子「私は乙倉さんが犯人でないことを知っていますから。お部屋に戻らせていただきます」

悠貴「あっ、待ってくださいっ」

頼子「みなさん、くれぐれもご自愛ください。最後に自分を守れるのは、自分だけですよ」

95 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:20:28.73 Ahhc8lJY0 93/178

54

逢伊江館・1階・食堂

まゆ「みなさん、お部屋に戻ってしまいましたねぇ……」

由里子「だじぇ……」

のあ「戻ってしまったのは」

真奈美「言い出した当人の古澤君と連れの乙倉君だ」

まゆ「沙理奈さんと麻理菜さんも」

椿「アヤさんもこずえちゃんと紗南ちゃんを連れて戻ってしまいました」

「アヤさんは、二人を守るためにそうしたんだと思う」

「おそらく、他の人も同じ考えです」

のあ「藤居朋、井村雪菜、杉坂海も戻ったわ」

「彼女達は離れですから、屋敷よりは安全だと判断したのかもしれません」

まゆ「食堂にいるのは……」

のあ「真奈美、まゆと私」

椿「私と光ちゃんと都ちゃん」

「私は戻って一人になるのは怖いからさ……」

由里子「アタシもそれは同じ」

まゆ「あの……のあさん」

のあ「何かしら」

まゆ「のあさんは、犯人を突き止めないんですかぁ?」

のあ「私は安斎都と意見は同じよ」

真奈美「そうか。なら、私はのあに従うまでだ」

椿「私はここに集まっていた方がいいと思ったので……」

「でも……」

「光ちゃん、どうしましたか」

「もし、ここに犯人がいないなら」

「いない、なら?」

「アタシ達はお互いを守れると思うんだ。だけど」

「だけど、皆は守れません」

「ああ。それじゃあ、意味がないと思うんだ」

96 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:21:02.68 Ahhc8lJY0 94/178

由里子「犯人は私達の中にいない可能性もあるし……」

のあ「そうね」

「皆の気持ちもわかる。だから、犯人を見つけないと行けないと思うんだ」

真奈美「勇敢だな」

「……」

「さっきは反論できなかったけど」

「光ちゃんの気持ち、わかりました」

由里子「うんうん、協力するじぇ!」

まゆ「私達も協力できますよ……ね?」

のあ「断る理由はないわ」

真奈美「そうだな」

のあ「だけれど、私達は私達の安全を優先するわ」

「ああ」

「この島と屋敷の構造を知っているのは」

由里子「アタシはそれなり」

「私は調べていましたから」

のあ「目的は探偵気取りだとしても」

「調べていたのは本当だもんね」

「その、間抜けなことを言うかもしれませんけれど、気分も良くないですけれど……」

「うん」

「私は、探偵になります」

97 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:23:51.05 Ahhc8lJY0 95/178

55

逢伊江館・1階・食堂

椿「わかりました。協力します、都ちゃん」

「ああ、何でも言ってくれ!」

真奈美「決意は聞いた」

のあ「それで、どうするのかしら」

「まずは……」

「……へっくし!」

まゆ「お体が冷えましたかぁ?」

「そうみたい……海に飛び込んでから着替えてないし……」

椿「体を拭く時間もありませんでしたから……」

「お風呂、入っていいかな……いや、ダメか」

まゆ「……のあさん」

のあ「大浴場の方がいいかしら」

真奈美「お湯も溜まっているからな」

「個室に籠るよりは、良いかと」

「……ごめん」

「謝らなくていいんだ。お互い様だからな」

椿「お着替えを取りに行きましょうか」

「誰か、ついてきてもらっていい?」

「わかりました。えっと」

真奈美「私と南条君で行こう」

のあ「お願いするわ」

「私達は先にスパの方に行きましょう」

まゆ「安全を確かめておきますねぇ」

98 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:24:51.09 Ahhc8lJY0 96/178

56

逢伊江館・ジャグジー・更衣室

「西島さんはシャワーを浴びていますが」

のあ「屋敷の様子はどうだったのかしら」

真奈美「異常はなかった」

「静かでした。その」

真奈美「誰も被害者にはなりたくないだろうからな」

まゆ「……」

椿「犯人は誰なんでしょうか……」

「今、どんな心境なのでしょうか」

まゆ「……わかりませんねぇ」

真奈美「目的は」

のあ「わかるわけないわ」

「動機から辿るのは、オススメしません」

「そうなのか?」

「偏見が入りますから」

まゆ「それは……正しいと思います」

「全部、ドラマの受け売りですけど」

のあ「……」

真奈美「ん……?」

「誰だっ!」

99 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:25:33.88 Ahhc8lJY0 97/178

「どうした!?入るぞっ!」

のあ「タオルを持って行きなさい」

「窓の外、人影が!」

「窓の外か!櫂さん、タオルを」

「うん」

椿「光ちゃん、危ないですよっ!」

「誰だっ!?」

まゆ「人影が……」

「追いかけるか!」

「追いかけないでくださいっ!」

のあ「真奈美」

真奈美「追うか」

のあ「戻ってくるのならば」

「もしかして……危なかった?」

「足跡は、そこまで来てますね」

「櫂さん、顔は見えましたか?」

「ううん、見てない」

「フードを被っていたように見えた」

「うん」

真奈美「逃げるには狭い島だ」

「犯人……やっぱり島のどこかにいるのかな」

のあ「隠れる場所はほとんどないわ」

「隠れられるとしたら」

まゆ「屋敷の中……とか」

「やっぱり、追うのは危険か?」

真奈美「犯人に勝てるなら」

「やめておきましょう」

「うん……わかった」

「でも、島の奥の方に逃げて行きました」

のあ「つまり」

「屋敷に戻るなら、離れの隣を通過しないといけません」

由里子「隠れる所もないじぇ」

真奈美「目撃しているなら、彼女達か」

「櫂さん、お風呂は大丈夫ですか?」

「うん、冷えは収まったかな」

「櫂さんが着替え終わったら、離れに話を聞きに行きましょう」

100 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:26:53.95 Ahhc8lJY0 98/178

57

逢伊江館・中庭・離れ

由里子「んー?」

まゆ「出ませんねぇ……」

「まさか!」

「椿さん、電気ついていますか?」

椿「ついてません。お部屋の中にいるのでしょうか」

「由里子さん、マスターキーは?」

由里子「隠してあるじぇ」

「そうなんだ」

椿「カーテンがしまっているわけではありませんから、光ちゃん、懐中電灯を」

「はい」

「誰も……いませんね」

のあ「どこに行ったのかしら」

真奈美「荒らされている様子もないな」

「屋敷にいるのでしょうか」

まゆ「でも……」

「参りましたね」

由里子「さっきの人影を見てないじぇ……」

のあ「素知らぬ顔で屋敷に戻っている可能性もあるわね」

「追った方がよかった、のか」

椿「いいえ、光ちゃんにそんな危ないことはさせられません」

まゆ「まずは、離れの3人を探しましょうか……?」

「それが良いと思います」

「その後は」

「犯行時の証言を集めましょう。必ず、答えは見つかるはずです」

101 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:28:25.42 Ahhc8lJY0 99/178

58

逢伊江館・1階・ロビー

「あれ?」

椿「何をしてるんですか、古澤さん」

頼子「実は、乙倉さんがどこかに行ってしまって」

のあ「一人になるのは危険よ」

頼子「それは、私に言っていますか」

真奈美「両方だ」

「探しに行かないといけませんね」

まゆ「はい」

「でも、一度に多くの人間が行動するのは危険ですね」

「さっきみたいに、屋敷を自由に出入りされるかもしれない」

由里子「それなら、アタシがロビーにいるじぇ」

のあ「真奈美、まゆと一緒にいてちょうだい」

真奈美「ああ。ロビーに二人、残りは食堂でいいだろう」

「名案だと思います」

「組み分けはどうするんだ?」

「櫂さん、高峯さん、私で離れの3人と乙倉さんを探しに行きましょう」

「えっ、あたし?」

「あ、嫌なら大丈夫ですよ」

「そういうわけじゃないんだけど、あたし調査とか向いてないし……」

「一緒にいてくれるだけで心強いですから」

「……わかった」

のあ「了解したわ、安斎都」

102 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:28:55.57 Ahhc8lJY0 100/178

「ロビーを見ててくれるのは」

「アタシと由里子さんがここに」

「お願いします」

真奈美「私と佐久間君は食堂に」

椿「私も食堂にいます。それと」

頼子「私、ですか……?」

「信じられない気持ちはわかりますが、一人でいない方がよいかと」

頼子「私も乙倉さんを探しに行きたいところですが……待っています、荒事に巻き込まれたらひとたまりもありませんから」

「木場さん、お願いします」

真奈美「任された」

「高峯さん、櫂さん、行きましょう」

「でも、みんなどこにいるんだろう?」

頼子「2階の自室以外には誰もいないかと」

「なら、地下でしょうか」

103 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:31:16.75 Ahhc8lJY0 101/178

59

逢伊江館・地下・娯楽室

「あら、あんた達どうしたの?」

「朋さん。雪菜さんと海さんは?」

「そこで映画を見てるけど。悠貴ちゃんもあそこで本を読んでる」

「やっぱり、何事もなかったね」

のあ「そのようね」

「ご無事で安心しました」

「その言い方……なにかあったの?」

「実は不審者が」

「不審者……」

雪菜「そんなぁ……」

「映画見てていいのに」

のあ「離れからこっちに移動したのね。杉坂海、理由は?」

「一度は離れに戻ったんだけどさ」

雪菜「ちょっと、あの……」

「あの?」

「ヒマだったのよ」

「そうですか」

「みんな、寝そうになるくらい」

「……それは、大変だ」

雪菜「だから、私の提案で移動したんですよぉ」

「理由はわかりました。移動したのは何時ですか?」

雪菜「どれくらい前だったでしょう?」

「えっと……」

「あんた達、お風呂入ってた?」

「うん。あたしがワガママ言って」

「入った後ぐらいね、こっちが移動したのは」

「フム。離れから、誰かを見ましたか?」

「外に、出てた人がいたかどうか?」

のあ「そうね」

雪菜「見てないですねぇ……」

「本当に屋敷から誰も出てないのかな」

「うーん、いないと思うわ」

104 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:32:00.56 Ahhc8lJY0 102/178

「見てないってことは」

「仮定ですが、タイミングを計っていた」

「見てた、ってことか?」

「はい。屋敷からでも人の動きは見えるはずです」

「なら……」

「狙われてた、ってことかしら?」

「そうは言いませんが」

「でも、それなら部屋が庭よりの人なんじゃないのかな」

のあ「201号室と202号室」

「松本さんと沢田さんが201号室ですね」

雪菜「そこにいる、悠貴ちゃんが202号室ですねぇ」

のあ「同室は……古澤頼子ね」

「でも、ちょっと待って」

「朋、何か言いたいの?」

「櫂ちゃんも203号室じゃないの?」

「でも、あたしは部屋にほとんどいないし」

「あ、そっか」

雪菜「あれ、お風呂に入ったんじゃないですかぁ?」

「納得しかけたわ。部屋に戻ってるじゃない」

雪菜「屋敷に戻る時は、電気がついてましたよぉ」

「電気、消し忘れたかも。カギは閉めなかった」

「なら、誰でも入れるということですね」

「なら、不審者が誰かも特定できない?」

のあ「そのようね」

「ねぇ、聞いていいかしら?」

「どうぞ」

「犯人、やっぱりこの中の誰かなの?」

「それは……断定できませんが」

「そっか……」

「ごめんね、協力できなくてさ」

雪菜「ずっと離れにいたので、状況がわからないんですぅ」

「気に病むことではありません。ご情報ありがとうございます」

「でも、これで聞いてみればいい人はわかったよね」

のあ「そうね、そこの彼女かしら」

「悠貴さんにお話を聞いてみましょう」

「櫂ちゃんは、私達といるかしら。それくらいしか協力できないし」

「そうする」

「のあさん、話を聞きに行きましょう」

のあ「ええ」

105 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:33:01.95 Ahhc8lJY0 103/178

60

逢伊江館・地下・娯楽室

「悠貴さん」

悠貴「都さんっ」

「お話を聞きたいのですが」

悠貴「もしかして、事件を解決する気になりましたかっ?」

のあ「……」

「そんなところです。どうして、単独で行動を?」

悠貴「だって、頼子さん何も話してくれなくて退屈だったんですっ」

のあ「退屈は危ないわね」

悠貴「起きてるんですけど、寝てるような、そんな感じで」

「古澤さんは言い訳になりません。危険ですよ」

悠貴「でも、犯人を見つけてしまえば安全ですっ」

「それはそうですが」

のあ「話を変えましょう。禅問答よ」

「そうですね。悠貴さん、何か気づいたことはありますか?」

悠貴「そうだ、この本見てくださいっ」

のあ「その本は、初めて見たわ」

「どこにありましたか?」

悠貴「このテーブルの上ですっ」

「意図的に出したのでしょうか」

のあ「何の本なのかしら?」

悠貴「ミステリーですっ」

のあ「もしかして、孤島の洋館が舞台かしら」

悠貴「すごいっ、どうしてわかるんですかっ?」

のあ「……悪趣味ね」

「何か、ヒントになることは」

悠貴「うーん……ぜんぜん違うお話なんです」

106 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:34:34.52 Ahhc8lJY0 104/178

のあ「ただのかく乱かしら」

「意味のないノイズ情報かもしれません」

悠貴「一応メモしておきますねっ」

「悠貴さん、屋敷の外を移動する人を見ましたか?」

悠貴「えっ、何かあったんですかっ!?」

のあ「知らなそうね」

「地下に来た時に、あちらの3人はいましたか?」

悠貴「はいっ」

「部屋から出て、すぐに地下室に?」

悠貴「食堂は誰もいなかったので、一回りしてから地下室に来ましたっ」

のあ「人の気配は」

悠貴「なかった、と思います」

「鉢合わせなくて、何よりです」

悠貴「そう言えば、気になったことがあるんですっ」

「何かあったのですか?」

悠貴「温室の電灯がチカチカしてましたっ」

「温室の電灯が、なぜでしょう」

悠貴「そうだっ、これで読みましたっ!」

のあ「何をかしら」

「あれ、ここも電灯の調子が……」

悠貴「電源に負荷をかけて、ブレーカーを落とすんですっ!」

バチンッ!

107 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:36:48.24 Ahhc8lJY0 105/178

61

逢伊江館・地下・娯楽室

雪菜「きゃあ!」

悠貴「真っ暗ですっ!」

「雪菜、落ち着いて!?」

「落ち着いてください!ただの停電です!」

のあ「ケータイくらい、持ってるでしょう」

悠貴「そうだっ、ケータイ、ケータイっと」

「雪菜、ほら、大丈夫だから」

雪菜「海ちゃん……」

「よしよし。大丈夫だから」

のあ「乙倉悠貴の話を信じるとするなら」

「ブレーカーが落ちただけですね」

悠貴「直しに行きましょうっ!」

のあ「待ちなさい……行ってしまったわ」

「追いかけましょうか」

のあ「ええ」

「みなさんは、明かりを確保して、待っていてください!」

108 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:37:50.61 Ahhc8lJY0 106/178

62

逢伊江館・1階・ロビー

悠貴「わっ!」

のあ「おっと、危ないわ」

「ひっ!」

頼子「みなさん……ご無事ですか」

のあ「……驚かせないでちょうだい」

「幽霊かと思いました……」

頼子「屋敷中、停電のようです。地下室もでしょうか」

のあ「ええ。食堂もかしら」

頼子「はい」

悠貴「頼子さん、落ち着いてますねっ」

頼子「いえ……落ち着いてきたのですよ」

「由里子さんと光さんはどちらに?」

頼子「ブレーカーを見に行きました。私はここで見張りを」

悠貴「誰か移動していました?」

頼子「いいえ」

「ブレーカーはどちらに?」

頼子「電源は屋敷の北側にあるそうですよ」

のあ「大西由里子がいるなら、時期に復旧するでしょう」

頼子「あら……復旧したようですね」

「光ちゃん、由里子さん!」

由里子「ふー、一番大きなブレーカーが落ちてただけだったじぇ」

「びっくりしたぞ!」

「由里子さん、温室の操作はわかりますか?」

由里子「温室?」

悠貴「過度に電力を使ってるみたいなんですっ」

「停電の原因はそれかっ!」

由里子「すぐに直すじぇ!操作盤は温室内だし!」

「行こうっ、由里子さん!」

頼子「停電の件は無事に解決のようですね」

「しかし、犯人は屋敷の構造を知り尽くしていますね」

悠貴「やっぱり、怪しいのは職員さんでしょうか?」

のあ「可能性としてはあるけれど」

「どこに行くのですか?」

のあ「無事の確認に。古澤頼子、ここを任せていいかしら」

頼子「もちろんです。大西さん達が戻ってくるまで、ここにいましょう、悠貴さん」

悠貴「はいっ」

のあ「食堂に戻るわ」

109 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:39:58.12 Ahhc8lJY0 107/178

63

逢伊江館・1階・食堂

まゆ「のあさん」

真奈美「のあ、無事だったか」

のあ「無事だったようね……疲れたわ」

まゆ「どうぞ、こちらへ」

のあ「座るわ……ほら、まゆ」

まゆ「わっ……どうしたんですかぁ?」

「自然と膝の上に乗せましたね……」

のあ「ちょっと緊張したわ」

まゆ「のあさん、くすぐったいですよぉ」

真奈美「停電の理由はわかったか?」

「はい」

椿「何だったのですか?」

「ブレーカーが落とされました、人為的に」

真奈美「人為的か」

のあ「温室の照明と空調を過度に動作させていたようね」

まゆ「でも……誰が」

「わかりません」

真奈美「フム……」

のあ「真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「全員の無事の確認と、証言を聞いてもらってきていいかしら」

真奈美「わかった。のあはどうする?」

のあ「ここで、まゆから癒し成分を吸収するわ」

まゆ「のあさん、髪を嗅がれるのは……恥ずかしい……」

真奈美「わかった。行ってくるとしよう」

「私も行きます」

椿「都ちゃん、私が行きましょうか?」

「いえ、探偵の務めですから」

真奈美「助手には慣れてる。行くとしよう、都君」

110 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:42:02.83 Ahhc8lJY0 108/178

64

逢伊江館・1階・食堂

頼子「みなさん」

のあ「二人は帰って来たかしら」

悠貴「はいっ」

頼子「コーヒーでもいれましょうか。インスタントしかありませんか」

まゆ「それなら、私が……」

頼子「離してくれなさそうなので、私がやりましょう」

椿「手伝います」

頼子「大丈夫ですよ。座っていてください」

悠貴「よいしょっ」

頼子「夜も更けてきました。眠気はありませんか」

悠貴「大丈夫ですっ!」

頼子「江上さんは、いかがですか」

椿「正直、疲れて眠気が……」

のあ「仕方がないわ」

悠貴「ドキドキしませんかっ?」

頼子「ドキドキは、疲れるものですよ」

のあ「まゆは、大丈夫かしら」

まゆ「大丈夫ですよぉ。のあさんは」

のあ「大丈夫よ。コーヒーは必要だけれど」

頼子「電気ケトルは便利ですね、お湯がもう沸きました」

悠貴「古澤さん、お砂糖とミルクを入れてくださいっ」

頼子「はい、どうぞ。皆さんは」

椿「どうしましょうか」

のあ「ブラックでいいわ」

まゆ「私もお砂糖とミルクを……」

椿「私もそうします」

頼子「どうぞ。インスタントですが、良い匂いがします」

悠貴「ありがとうございますっ!」

頼子「椿さんもどうぞ」

椿「ありがとうございます。頼子さんは、お疲れではないですか」

頼子「ゆっくりと休んでいますから」

のあ「それなら、いいけれど」

頼子「朝は来ます。何もなければ、それで終わりです」

のあ「……」

悠貴「静かなのはつまらないですねっ」

椿「そうですね、お話しましょうか」

111 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:43:39.06 Ahhc8lJY0 109/178

65

逢伊江館・1階・食堂

椿「まぁ、カワイイわんちゃんですね」

まゆ「下の美容室さんの愛犬なんですよぉ」

真奈美「のあ!」

のあ「真奈美、どうしたの?」

真奈美「藤居朋はいるか?」

頼子「藤居さんですか」

悠貴「いないですっ」

のあ「地下室には」

「いないんです」

「てっきり、のあさん達と一緒に探しに行ったのかと」

のあ「他の人達は」

真奈美「自室だ。部屋からは出ていないそうだ」

「アヤさんに至っては、最初はドアも開けてくれませんでした」

のあ「藤居朋は」

真奈美「2階にはいない」

「ロビーとか通ってないの?」

椿「古澤さん、見ていませんか」

頼子「いいえ」

「移動したなら、停電中でしょうか」

悠貴「探してきますっ」

頼子「乙倉さん、待って……行ってしまいました」

「追いかけてくる!」

のあ「真奈美、交替。探しに行くわ」

まゆ「なら、まゆも」

のあ「まゆはここにいなさい」

まゆ「どうして、協力させてくれないんですかぁ」

のあ「……」

「まゆさん、ここにいてください。高峯さん、行きましょう」

のあ「ええ。それにしても、どこに行ったのかしら」

112 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:45:12.33 Ahhc8lJY0 110/178

66

逢伊江館・1階・ロビー

「藤居さんもいませんが」

のあ「それ以前に、誰もいないわ」

「由里子さんと光さんも探しに行ったのでしょうか?」

のあ「乙倉悠貴と西島櫂もどこに行ったのかしら」

「2階にいた方は見ていないそうですが」

「あれ?」

「櫂さん、キッチンから出てきましたが」

「悠貴ちゃんは?」

のあ「そこにはいなかったの?」

「うん。最初に行った、地下にもいなかったけど」

「見失った、ということですね」

「そういうことみたい。しまったなぁ、朋さんがいたのは地下だから地下に行くと思ったのに」

のあ「大西由里子と南条光は見たかしら?」

「そう言えば、いなかった」

「屋敷にいないということは」

のあ「外に探しに行ったのかしら」

「でも、良かった」

「何がですか」

「一人で犯人と鉢合わせしなくて」

のあ「……」

「屋敷の外に行ってみましょうか」

のあ「ええ」

「櫂さんはどうしますか?」

「悠貴ちゃんを探したいところだけど、食堂に戻るよ」

のあ「わかったわ。私達は外へ」

「はい。行きましょうか」

113 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:46:20.11 Ahhc8lJY0 111/178

67

逢伊江館・中庭・離れ前

「うーん?」

由里子「むぅ……」

のあ「ここに居たのね」

「どうしましたか?」

「朋さんがいないことを聞いてたから、探そうと思ってたんだ」

由里子「そうしたら、離れの方から物音と明かりが」

「それで、来てみたんだけど」

由里子「これ」

「丸めたタオルが光ってますね」

「見てくれ、あそこにもあるぞ!」

「フム、島の奥の方にもありますね」

のあ「中身は、電池式の小さなライト」

由里子「誰かが落とした?」

「かもしれませんね。離れの中は?」

「誰もいない」

のあ「そうなると……」

「投げ入れた、ということでしょうか」

由里子「屋敷から?」

「明かりが見えているのは」

「沢田さんと松本さんの部屋ですが」

のあ「別に、違う部屋でもいいでしょう」

「でも、なんでここに落とすんだ?」

由里子「目的がわからないじぇ」

「あっ、電気が消えた」

「屋敷、全部……?」

のあ「……まずいわ」

「戻りますよ!」

由里子「もしかして、おびき出された?」

「そういうことだっ!」

114 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:47:55.56 Ahhc8lJY0 112/178

68

逢伊江館・1階・食堂

のあ「真奈美、まゆ!」

真奈美「のあ、無事か」

まゆ「まゆは、ここにいますよぉ」

のあ「停電はいつから」

真奈美「つい先ほどだ」

椿「突然でした。今度の原因は何でしょうか……」

のあ「二人いないわ。古澤頼子と西島櫂は?」

椿「部屋の外を見に行ったのでしょうか……」

のあ「見ていないの?」

真奈美「出て行った足音はしたが」

まゆ「追うのは危険だって」

のあ「真奈美、ありがとう」

真奈美「どういたしまして」

のあ「ブレーカーを落とした、だけかしら」

真奈美「誰が、だ?」

のあ「ここにいない誰か」

ガシャーン!

真奈美「何の音だ!?」

椿「ガラスが割れたような音がしました!」

まゆ「どこから、ですかぁ……?」

のあ「屋敷内なのは、間違いないと思うけれど」

椿「でも……なんでしょう」

のあ「何か気づいたことがあるのかしら」

椿「ガラスが割れる音以外にも何か……」

真奈美「ブレーカーは」

のあ「大西由里子達が見に行ってくれてる」

椿「時期に戻るでしょうか……」

まゆ「古澤さんと西島さんも戻って来ませんねぇ……」

真奈美「だが、動くのが得策とは思えない」

のあ「復旧まで待つしかないわ」

115 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:49:18.82 Ahhc8lJY0 113/178

69

幕間

逢伊江館・1階・キッチン

頼子「電気は戻りませんが……ここにいたのですね」

頼子「乙倉さん」

頼子「今は私一人ですよ。二人でいなさいとうるさい探偵さん達は無視しています」

頼子「あら、話すことは出来ませんか?」

頼子「死んではいませんね、呼吸もあります」

悠貴「たす……けて」

頼子「そう言えば、ライフセーバーがふたりいましたね」

悠貴「あ……」

頼子「一人は亡くなっていますが、もう一人は健在です。あなたが落としたブレーカーを見に行っていますよ」

悠貴「……」

頼子「正解のようですね。ですが、あなたは間違えました」

頼子「ここは殺人鬼が自ら演出し、主役を務める舞台です。あなたはこんな舞台に立つ役者なのですか?」

頼子「役者ではなく、観客でいれば良かったのに」

頼子「でも、特別扱いですよ。刃物が使われたのは、あなただけです」

悠貴「ふ……る……」

頼子「助けて欲しいですか」

悠貴「さ、わ……」

頼子「私は舞台を見ている観客ですから。私に、殺人鬼の舞台を捻じ曲げる力はありません」

頼子「そんな弱々しくに睨まないでくださいな。あなたはあなたの意思で舞台にあがったのです」

頼子「舞台に口を出すだなんて無粋でしょう。演者は観客のせいにせずに、自らの創作物に全ての責任を持つべきです」

悠貴「犯人……わたし……わかって…………」

頼子「待ち伏せしたのですか。私は、知っていますから言わなくて良いですよ」

頼子「パンフレットも前情報も大切な楽しみの一部ですから。少しだけ乙倉さんにもお話しました」

頼子「私は彼女の邪魔をしません。しかし、舞台に上がることは拒否します」

悠貴「ぇ……」

頼子「スポットライトはないので、主役は自分で注目しないといけませんから」

頼子「聞いてくれたのなら、教えてあげたのに」

悠貴「……」

116 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 19:50:18.15 Ahhc8lJY0 114/178

頼子「呼吸が弱くなってきましたね」

頼子「電気が復旧しましたね。時間が掛かり過ぎです、乙倉さん、やり過ぎですよ?」

頼子「さて……私にも時間が必要ですね」

頼子「連れを失った哀れな被害者にならないといけませんから」

悠貴「は……あ……」

頼子「スクラップブック、彼女に取り上げられなかったのですね」

頼子「見せてください。良く出来ていますよ」

頼子「だから、没収です。まだ、銀髪の探偵さんに私達を知られるには早いですから」

悠貴「ぁ……」

頼子「このページだけは、ポケットに入れておきますね」

頼子「目ざとい探偵さんなら、これに気づくでしょう」

頼子「私は罪人が裁かれることで、気分が軽くなる平凡で甘美な感覚を捨てきれないのです」

悠貴「……」

頼子「顔を見せてください、良い表情ですよ」

頼子「死というものは様々な感情が積み重なるもの。乙倉さんの積み重なった気持ちが見えます」

頼子「様々な感情を頂きました。でも、捨てましょう」

頼子「同行者の死体を見つけた、哀れな女性の面だけを見せましょう」

頼子「お休みなさい……乙倉悠貴」

悠貴「……」

頼子「さて」

頼子「目の前に同行者の死体があります。懐いてくれる中学生」

頼子「学芸員として働いている普通の女性。文系として生きて来た大人しいタイプ」

頼子「死体なんて見慣れているわけありません」

頼子「ならば、声をかけるでしょう。体をゆするでしょう」

頼子「手際のよい死亡確認なんて、するわけありませんね。ふふっ、反省です」

頼子「体に包丁が突き立てられていて、出血していたら、きっと悲鳴をあげて腰を抜かすでしょう」

頼子「信じられなくて、誰かに縋るでしょう」

頼子「縋るならば、誰にしましょうか。銀髪の探偵さんか助手さんにしましょうか」

頼子「そうしましょう。そうと決まったら、心をそぎ落としましょう」

頼子「それでは」

頼子「乙倉さん……こんなところで寝ていてはいけませんよ」

頼子「乙倉……さん?」

頼子「どうしたので……刺されて……血が……」

頼子「きゃあ!」

幕間 了

117 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:06:07.92 Ahhc8lJY0 115/178

70

逢伊江館・1階・食堂

椿「ひ、悲鳴です!」

まゆ「一体どこから……」

真奈美「古澤君、だろうか」

のあ「真奈美」

真奈美「わかってる。いくぞ、佐久間君」

まゆ「え……わかりましたぁ」

のあ「江上椿、ここにいる全員で様子を見に行きましょう」

椿「はい」

のあ「真奈美、行くわよ」

真奈美「了解だ」

118 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:07:55.86 Ahhc8lJY0 116/178

71

逢伊江館・1階・キッチン

のあ「何があった……のかしら」

頼子「高峯さん……あれを……」

のあ「無理に話さなくてもいいわ。真奈美、抱き付かれてしまったからお願い」

真奈美「了解した」

まゆ「……悠貴ちゃんが」

椿「……そんな」

頼子「……生きています、よね」

真奈美「残念だが、もう息はない」

頼子「そんな……私のせい、です」

のあ「そんなことは、ないわ」

頼子「一人にさせなければ、良かった。停電になる前に見つけてあげないといけなかったのに……」

のあ「……」

「どうしましたか!?」

まゆ「見ての……通りです」

「次の被害者、か」

のあ「江上椿、古澤頼子をお願いしてもいいかしら」

椿「はい。大丈夫ですか、古澤さん」

頼子「いいえ……」

椿「仕方がありません……どこかに」

「ロビーに光さんと由里子さんがいます。そこへ」

椿「そうします。頼子さん、歩けますか」

真奈美「しかし、だ」

のあ「どちらが先かしら」

まゆ「あれ……」

「割れた音はこれだったのですね」

真奈美「変だな」

のあ「荒らされているというほどではないけれど」

まゆ「散らかっていますねぇ……」

真奈美「血も散乱してる」

「どうして、犯人は刃物を」

のあ「どういうことかしら」

119 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:08:58.87 Ahhc8lJY0 117/178

「何でしょう、こだわりだと思ったのですが」

まゆ「……包丁はどこから」

真奈美「そこだ」

のあ「キッチンから。一番手に取りやすいところにあったようね」

まゆ「なんだか、行き当たりばったりのような……」

真奈美「計画性がない、その可能性は」

「む……それは難問ですね」

まゆ「悠貴ちゃんは、このまま……なんですかぁ……?」

真奈美「この様子だとあまり移動はできない」

のあ「寝方だけは変えてあげましょうか」

真奈美「そうだな」

のあ「これでいいかしら」

「少しでも、楽になってくれるといいのですが」

のあ「しかし……どうしようかしら」

「……おや、これは」

「誰かー!」

「櫂さん?」

まゆ「声は下から、ですかぁ」

真奈美「のあ、下だ。西島櫂が呼んでいる」

のあ「無事だったようね」

真奈美「いや……そうではないようだ」

まゆ「どういうことですかぁ……?」

真奈美「都君、光君と地下室の二人を呼んできてくれ」

「……わかりました」

真奈美「のあ、食堂の階段から降りていけるか」

120 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:10:23.11 Ahhc8lJY0 118/178

72

希砂二島・崖の階段下

のあ「西島櫂!」

「ごめん、また飛び込むはめになった」

のあ「そんなことはどうでもいいわ。藤居朋は」

「残念だけど……溺れたわけじゃないみたい」

のあ「……こっちは首を折られてるのね」

「こっち、って?」

のあ「乙倉悠貴が亡くなったわ」

「どこで!?」

のあ「キッチンよ」

「しまった……外じゃなかったのか」

のあ「どうやって、見つけたの?」

「割れた音もしたけど、水の音がしたから」

のあ「水の音?」

「気のせいかと思ったんだけど、崖の方を見たら」

のあ「ふむ……」

「食堂に誰もいなくてびっくりしたけど、そっちもか……」

雪菜「朋ちゃん!!」

「朋……」

雪菜「朋ちゃん、起きてください!起きてください……」

「雪菜……朋はもう……」

のあ「……」

「……殺されてる」

雪菜「そんなの、信じられないですよぉ」

「でも……」

雪菜「海ちゃんは、何とも思わないんですかぁ!」

「違う……」

雪菜「殺人犯を許せるんですか!?」

「そんなこと、言ってないだろ!」

「……」

121 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:11:25.25 Ahhc8lJY0 119/178

「ごめん、朋……」

雪菜「どうして、朋ちゃんが狙われないといけないんですかぁ!」

「雪菜、落ち着きなよ」

雪菜「いやです!殺される理由なんてないのに、それなら、私だって」

「雪菜!」

雪菜「……だって」

「ダメだって、言っちゃったら本当になる」

雪菜「……でも」

「気持ちはわかるよ……でも、今はやめよう」

のあ「……」

雪菜「……ここは涼しいですぅ」

のあ「屋敷に連れて行ってあげましょう」

「なら、私が運ぶよ。濡れてるから、大丈夫」

「お願い」

「うん」

雪菜「……」

のあ「井村雪菜、戻るわよ。足元に気をつけて」

雪菜「あの……高峯さん」

のあ「どうしたのかしら」

雪菜「どうして……ここなんですかぁ」

のあ「……」

雪菜「ごめんなさい……わからないですよねぇ」

のあ「ええ」

雪菜「戻ります……朋ちゃん、体を拭いてあげないと」

122 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:13:10.46 Ahhc8lJY0 120/178

73

逢伊江館・1階・食堂

真奈美「藤居君は、大ホールに寝かせた」

雪菜「体は拭いてあげましたぁ……タオル、ありがとうございました」

由里子「大丈夫……じゃないよね」

雪菜「……ごめんなさい」

「雪菜が謝ることじゃないよ」

雪菜「はい……悪いのは、犯人ですからぁ……」

「……」

雪菜「櫂さん、朋ちゃんを見つけてくれてありがとうございました……」

「……ううん、感謝されるようなことはしていない」

「それでも、言わせてほしいんだ」

「……そう」

まゆ「櫂さん、濡れは大丈夫ですかぁ?」

「ちゃんと拭いたから大丈夫。もう、お風呂に行くわけにはいかないし」

「しかし……これで被害者は4人になりました」

のあ「……」

真奈美「一つだけ、言っていいか」

「はい」

真奈美「おそらく、殺されたのはつい先ほどではない」

雪菜「……どういうことですかぁ」

真奈美「最初の停電か、その後には亡くなっていた」

「……そんな」

「どこかに隠していたということですか」

椿「そうだと……思います」

まゆ「さっきの割れる音も……」

「朋さんの遺体を海に落とすことを、隠そうとしていたのかもしれません」

のあ「……」

「その前に見つけられたら……冷たい思いもしなくてよかったのに」

123 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:13:37.65 Ahhc8lJY0 121/178

頼子「もう、イヤです……」

「気持ちは一緒だ」

頼子「なんですか。あなたは、友人を殺されてなどいないでしょう」

「同じ島で過ごした仲間だぞ!そんな簡単に切り捨てられるわけないじゃないか!」

椿「光さん……立派ですけれど、ここは抑えてください」

頼子「……すみません、大人気ありませんでした」

「いいや、アタシも悪かった。ごめん」

「しかし、どうしましょうか……ん?」

真奈美「どうした?」

「沢田さん、どうしました?」

麻理菜「え、ううん、何でもないから」

由里子「行ってしまったじぇ……」

「いや、様子がおかしいですね」

「一人だったな?」

まゆ「はい。目が合いましたけど……」

のあ「目が合うということは」

「誰かを探していたということでしょう」

「でも、いなかった」

「話を聞きに行きましょう。高峯さんと光ちゃん、一緒にいいですか」

「ああ!」

のあ「了解したわ」

124 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:14:46.04 Ahhc8lJY0 122/178

74

逢伊江館・2階・201号室

コンコン

「沢田さん、いらっしゃいますか」

麻理菜「いるけど、何かしら」

のあ「……」

「話を聞きに来たんだ。何かあったのか?」

麻理菜「いいえ、大丈夫だけど」

「そうは見えなかった。力になるぞ」

「松本さん、どちらにいらっしゃいますか?」

麻理菜「……」

のあ「慌てすぎよ」

「見つからないのですか」

麻理菜「……ええ、そうよ」

「相談してくれればいいのに」

麻理菜「それは、その……」

「そもそも、どうして一人で?」

のあ「……」

125 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:15:36.99 Ahhc8lJY0 123/178

「都さん、探すのが先だ」

「そうですね。行く先に心当たりはありますか」

麻理菜「プールだと思うんだけど」

「なにかありましたか」

麻理菜「入り口にカギがかかってるの」

のあ「カギ……」

「閉めたか?」

「いいえ。由里子さんが隠しているはずですが」

のあ「フム。大西由里子にカギを借りに行きましょうか」

「ええ。沢田さん、食堂にいて頂いていいですか」

麻理菜「……」

「一人は危険だぞ」

麻理菜「いいえ、断るわ」

のあ「……」

「なら、一緒に探しに行きましょう。それで、良いでしょうか」

麻理菜「……ええ」

126 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:18:17.18 Ahhc8lJY0 124/178

75

逢伊江館・ジャグジーとプール・入口

のあ「カギが閉まっている理由は?」

由里子「マスターキーは持ってかれていないし……」

「指紋認証の金庫で厳重だったな」

のあ「更に、大西由里子の執務室の床下にあったものね」

由里子「プールのカギは、これ、っと」

「他の窓も閉まり切ってます」

由里子「つまり、中で閉めたってことだじぇ」

麻理菜「サリナが、ってことかしら」

「それはわかりません」

「開いたぞ」

「明かりもつきました」

のあ「気をつけて、何者かが潜んでいるかもしれないわ」

「更衣室には誰もいない」

「ジャグジーもいないようですが」

麻理菜「……」

由里子「プールサイドは走ると危ない……あ」

のあ「松本沙理奈はいたわね……無事ではないけれど」

麻理菜「そんな……」

「プールに浮いてる……」

「密室に彼女だけ……」

由里子「あたしがプールサイドにあげるから、触らないで」

のあ「お願いするわ」

由里子「更衣室からタオル持ってきてもらっていい?」

「わかった」

麻理菜「……無事なの?」

由里子「よいしょ……待ってて」

「……」

のあ「……」

「由里子さん、タオル……どうなんだ……?」

由里子「残念だじぇ……」

麻理菜「そんな、嘘でしょ?」

由里子「首……折れてるし……」

「嘘では、ないようです」

麻理菜「私達が被害者になるなんて、そんなの聞いてないわ!」

のあ「……」

「気持ちはわかるぞ。でも、落ち着いて」

127 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:19:18.26 Ahhc8lJY0 125/178

麻理菜「落ち着いてなんか、いられないわよ!」

「沢田さん」

麻理菜「なによっ!?」

「聞いてない、とはどういうことですか?」

のあ「私には、ここに来て動揺し始めたように見えたけれど」

麻理菜「……」

由里子「何か、知ってるとか……?」

「沢田さん、このままでは被害者が増えるだけです」

のあ「おそらく、そうでしょうね」

「答えてください。なぜ、松本さんが殺されたことに対して悲しむのではなく慌てているのですか」

麻理菜「それは……」

のあ「……」

麻理菜「……」

「あなたが犯人ではないのなら、可能性は限られます。本来は犯人に殺されない立場、つまり」

麻理菜「共犯じゃないわよっ!」

「なら、なんなのですか」

麻理菜「ただ、言われたとおりにやっただけ……」

「犯人は誰なのですか」

麻理菜「知らないの!ただ、依頼されただけ!」

「人が殺されているのに、共犯じゃないと言うんですか」

麻理菜「あんたに、何が」

「何もわかりません。だから」

のあ「……」

「沢田さん、皆の前で何をやったのか教えてくれますか」

128 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:20:32.16 Ahhc8lJY0 126/178

麻理菜「……」

のあ「高みの見物は終わりよ。あなたも被害者になりうるのだから」

「お願いします」

麻理菜「……わかったわ。私も殺されたくないもの」

「あな……ごほん、ありがとうございます。由里子さん、食堂へ沢田さんを」

由里子「わかったじぇ」

「皆を食堂に集めてください」

「犯人がわかったのか?」

「いいえ。でも、わからないからです。もう逃しはしません」

のあ「その根拠はどこからくるのかしら」

「私の正義を信じます」

のあ「……それでいいわ。私に何かすることは」

「アヤさん達を呼んできてもらえますか」

のあ「わかったわ。南条光、一緒に行きましょう」

「わかった」

「それと」

のあ「それと?」

「推理で犯人を見つけます。その時に、少しだけ頭を貸してください」

129 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:21:58.14 Ahhc8lJY0 127/178

76

逢伊江館・2階・205号室

アヤ「何のようだ?」

こずえ「ふわぁ……」

紗南「アヤさん、せっかく来てくれたんだから」

アヤ「今は、そういう時じゃない」

「アヤさんの気持ちもわかるよね、のあさん」

のあ「そうね。あなた達は部屋から出たのかしら?」

紗南「ううん。一回も出てない」

のあ「停電の時もかしら」

アヤ「そうだ」

こずえ「あや、さなといっしょにだっこしてくてたのー……」

のあ「そう」

アヤ「アタシは戦えない。だから、それぐらいしかできない」

のあ「あなたは強いわね」

アヤ「それで、来たからには理由があんだろ?」

のあ「食堂に降りてきなさい」

アヤ「……」

のあ「あなた達の探偵を信じるならば」

紗南「都さん、何かわかったの?」

「違う。わかるんだ、これから」

のあ「そういうこと。あなた達の証言も欲しい」

アヤ「そうか……」

こずえ「あやー……?」

アヤ「わかったよ。紗南、自分の身は自分で守れ」

紗南「もちろん、だってアヤさんのこと守ってたもんね」

アヤ「ああ……そうだった。信じるよ」

のあ「準備は」

アヤ「大丈夫だ」

「行こう」

130 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:23:31.62 Ahhc8lJY0 128/178

77

逢伊江館・1階・食堂

まゆ「紅茶を……落ち着いてくださいねぇ」

「みなさん、集まりましたか」

のあ「ええ。まゆ、座りなさい」

まゆ「はぁい」

由里子「ホワイトボードは持って来たけど……」

「ありがとうございます」

アヤ「……寂しいな」

「だって……5人もいなくなってる」

頼子「……その通り、です」

「全員いますね?」

のあ「204号室はいるわ」

真奈美「のあ、佐久間君、それと私は無事だ」

まゆ「はい……」

椿「206号室もいます。都ちゃんと光ちゃんと私です」

アヤ「205号室もだ」

こずえ「ふぁ……」

紗南「こずえちゃん、もう少し我慢してね」

「残念ながら、他の部屋は被害者が出てしまいました……」

雪菜「……朋ちゃん、どうして」

「雪菜……」

「渚ちゃんも……」

頼子「乙倉さん、ごめんなさい……」

「松本沙理奈さんも亡くなってしまいました」

麻理菜「……」

雪菜「犯人はわかったのですんかぁ……?」

「いいえ。でも、わかります」

「……信じて良いのか」

のあ「信じるしかないでしょう」

雪菜「わかりました……」

「ありがとうございます」

真奈美「そもそもの発端は」

由里子「美里さんの死体を見つけたから……」

「その通りです。はじめましょう」

131 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:24:52.86 Ahhc8lJY0 129/178

78

逢伊江館・1階・食堂

「美里さんの遺体を発見したのは、由里子さんですね」

由里子「うん」

「発見場所は」

のあ「間中美里の部屋」

椿「時間的にはお休みの時間です」

「由里子さん、どうして間中さんの部屋に?」

由里子「それは、ネットが繋がらなくなったから」

のあ「原因は」

「島の中央にある電波塔の故障だ」

「その通りです。由里子さん、どうでしたか」

由里子「絶対によく知ってる人間の仕業だじぇ」

のあ「私の感想も同じ」

「時系列順ではありませんが、重要な点が一つ」

真奈美「それは、何だ?」

「電波塔や停電の件といい、引き起こした人物は屋敷の構造を熟知しているようです」

アヤ「全部、偶然じゃないってことか」

「はい」

アヤ「でも、知ってる人なんてほとんどいないだろう」

こずえ「ゆりこ、しってるのー……」

由里子「でも、電波塔の構造なんてしらないじぇ」

紗南「凄い電気に詳しい人がいるとか」

頼子「そうでしょうか……どんな知識も一朝一夕には身に付きません」

真奈美「その通りだ。なら、どう考える?」

「天才になる必要なんてありません」

「どういうこと?」

「事前に知らされていればいいだけです」

「知らされてる、人なんて」

麻理菜「……」

「沢田さん、何か知っていますか」

132 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:28:16.56 Ahhc8lJY0 130/178

79

逢伊江館・1階・食堂

麻理菜「……知ってるわ」

真奈美「何を、だ?」

麻理菜「電波塔を壊したのは、私と沙理奈だから」

「本当なのか……?」

麻理菜「ええ、今更嘘をついても仕方がないでしょう」

雪菜「……」

「雪菜、今は聞こう」

「どうやって、壊したのですか」

麻理菜「理屈はよくわからないけれど、言われたとおりに」

「誰に、だ」

頼子「犯人……ですか」

麻理菜「依頼主はわからない」

アヤ「わかんねぇ、って」

麻理菜「沙理奈と私に提示された条件の一つが、依頼者の情報を漏らさないこと」

のあ「個人的な興味なのだけれど、どこから依頼されたのかしら」

麻理菜「メールで来たわ。どこの人材派遣会社から漏れたかはわからない」

まゆ「沙理奈さんと前に会ったと言っていましたけれど……」

麻理菜「お仕事の時よ。その時は、コンパニオンだったわね」

のあ「依頼方法はメール」

麻理菜「それと郵便で資料が来たわ」

由里子「メールアドレスとか住所とかで追跡できないの?」

のあ「出来るかもしれないわね」

真奈美「だが、この場面で役に立てるのは難しいな」

麻理菜「さっきも言った通り、誰かはわからない」

「送られてきたのは」

麻理菜「一連の騒動の起こし方」

「それだけ、ですか」

麻理菜「それだけね。目的はわからなかった」

「殺人だとわかっていたら、引き受けなかった?」

麻理菜「……どうかしら。報酬も良かったし、少しスリリングじゃない」

雪菜「な……!」

麻理菜「……間違いだったのは、わかってるわよ」

「……」

頼子「目的が殺人だと気づいたなら、どうして、そこで止めなかったのですか」

雪菜「そうですよぉ、朋ちゃんは停電がなければ」

「犠牲にはならなかった……」

麻理菜「共犯なら、殺されない」

雪菜「自分のために、続けたんですかぁ!」

133 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:29:54.09 Ahhc8lJY0 131/178

麻理菜「ええ……殺されないためには共犯であり続けないといけなかった」

のあ「目的が殺人だとわかりながら、その判断が下せたのなら冷静ね」

真奈美「だが、それも思い込みだ」

「相手は、そんなことを気にしてはいませんでした」

麻理菜「沙理奈は殺されたわ」

「犯人と連絡は取っていたのですか」

麻理菜「いいえ。誰が犯人かも知らないのに、どうやって」

頼子「……」

椿「でも、それなら」

「犯人は沢田さん達のアクションに合わせて犯行を続けた、と」

アヤ「……ヤバイ奴じゃないか」

「殺せそうな人から……殺していった」

由里子「げぇ……」

頼子「それなら……動機が」

「ない……」

のあ「そうかもしれないとは、感じていたけれど」

「場所と状況は計画的です。でも、行動は行き当たりばったり」

真奈美「なら、可能性はある」

のあ「ええ」

「綻びは、見つかるはずです」

134 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:31:54.24 Ahhc8lJY0 132/178

80

逢伊江館・1階・食堂

「話を戻しましょう。沢田さん、電波塔を破壊したのは何時ですか」

麻理菜「ほぼ12時。由里子さんの悲鳴が聞こえた時には私は部屋にいたわ」

「誰か、美里さんの部屋に出入りした人を見ましたか?」

麻理菜「いいえ。静かだったけれど」

アヤ「大体部屋にいたんじゃないか。紗南はいなかったけどさ」

のあ「南条光と三好紗南は地下室から、悲鳴を聞いてロビーへ」

「櫂さん、渚さんはこの時にはいなかったのですか」

「……うん」

真奈美「愛野君が殺害されたのは」

「美里さんよりも前の可能性があります」

のあ「殺害の理由は」

「考えたくはありませんが、犯人と居合わせたから」

「……」

麻理菜「犯人なら、やりかねない」

真奈美「この段階では、犯人は完全に成功していいる」

「通信が出来なくなる前に、犯行も遺体も見つかっていません」

のあ「判断材料は不足」

椿「そうですね……わかっていたのなら」

雪菜「殺人は、続かなかったのに……」

由里子「監視カメラの映像もなし……」

「犯人はこの時点では、わかりません」

アヤ「……なら、どこでわかるんだ」

こずえ「おへやにもどったのー……」

アヤ「アタシはもうこれ以降のことは知らない」

紗南「古澤さんの提案で、部屋に戻ったから」

頼子「……その通りですね。良い選択ではありませんでした」

のあ「そうとも言い切れない」

真奈美「実際に、桐野君達は無事だった」

麻理菜「……私が犯人にタイミングを与えなければ」

のあ「思い切りが良すぎるわ、犯人はどんな思考をしているのかしらね……」

「今は悔やんでもしかたがありません」

「次に起こったのは……」

椿「不審者が見つかりました」

135 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:34:03.77 Ahhc8lJY0 133/178

81

逢伊江館・1階・食堂

アヤ「不審者?」

「うん、あたしがお風呂に入ってる時に」

椿「渚さんのために、海に飛び込んだので」

「今は、大丈夫なのか?」

「ちゃんと拭いたし、今は大丈夫」

雪菜「さっき、少しだけ話を聞いたんですけどぉ……」

「離れから屋敷の地下室に移動した、後なんだよね」

「そうですか、麻理菜さん」

麻理菜「どうして、私に聞くのかしら」

「あなたか松本さんである可能性が一番高いからです」

麻理菜「その通り。あの不審者は私よ」

真奈美「その答えで、別の可能性が否定された」

「島に別の犯人が潜伏しているという可能性が否定されました」

頼子「……」

「沢田さん、どうやったのですか」

麻理菜「やり方は単純。私達の部屋は中庭側でしょ」

真奈美「私達が移動しているのを見ていたのか」

麻理菜「ええ」

「ウチらも、か?」

麻理菜「正解。地下室に行ったのを確認してから、私と沙理奈は移動したわ」

椿「別行動……」

「沢田さんは、ジャグジーに変装して現れた」

麻理菜「見つかって、すぐに島の奥へ」

まゆ「もしかして、すぐに引き返してきたんですかぁ……?」

麻理菜「そうよ。離れには誰もいないし」

「待ち伏せしてれば、止められたのか」

麻理菜「止められないと思うわ」

のあ「なぜ」

麻理菜「沙理奈が上から見てるのに?」

136 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:34:49.20 Ahhc8lJY0 134/178

「ふむ。沙理奈さんがサポートしていたのですね」

麻理菜「誰もそこにいないことは、沙理奈が確認していた」

「待ってください。松本さんも移動したと言っていました」

麻理菜「行く前に、温室の細工をしたから」

雪菜「停電の原因……」

真奈美「ふむ」

「古澤さん、お聞きしたいことが」

頼子「……なんでしょう」

「悠貴さんが移動したのは海さんが移動した直後だと思うのですが」

頼子「外は見ていなかったので、時間までは」

「すぐに探しに行かなかったのですか」

頼子「戻ってくるのを待つ方がよいかと」

真奈美「だが、戻ってこなかった」

頼子「はい。なので、探しに行きました」

のあ「私達と会ったわね」

「悠貴さんが、沢田さんと松本さんを見ていた可能性は」

頼子「わかりません……」

のあ「タイミング的には、見ていない可能性が高いわ」

麻理菜「それは当然よ」

「もしかして、見ていましたか」

麻理菜「少し扉を開けただけで、充分に足音が聞こえたわ」

137 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:35:37.41 Ahhc8lJY0 135/178

まゆ「わかってたんですねぇ……」

麻理菜「そういうこと。私も沙理奈も見られていない」

椿「私達はお屋敷に戻りましたけど……」

「古澤さんとロビーで合流して、二手に分かれました」

のあ「私と、安斎都、西島櫂は地下室へ」

真奈美「残りは食堂で待機だ」

頼子「私も食堂に」

雪菜「皆さんが来た時は停電の少し前でしたぁ」

「ああ、悠貴ちゃんと雪菜とそれに」

雪菜「朋ちゃんはまだ、いましたぁ……」

「そこで、停電が起こりました。そうですね?」

麻理菜「ええ。仕掛けはわかってるかしら」

由里子「うん、温室でブレーカーを落とした」

麻理菜「その通りね」

真奈美「問題は、停電後だ」

アヤ「アタシ達は部屋から出てない」

紗南「それは本当だよ」

「朋がいなくなった……」

138 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:36:22.51 Ahhc8lJY0 136/178

82

逢伊江館・1階・食堂

「1回目の停電が起こりました」

真奈美「ああ」

「アタシと由里子さんは、ブレーカーを見に行ったんだ」

由里子「頼子さんにロビーにいてもらったじぇ」

頼子「はい」

雪菜「朋ちゃん、見ていませんかぁ……?」

頼子「いいえ。出てきたのは、高峯さん、都さん、それと……」

のあ「乙倉悠貴」

「その通りです」

「3人ともロビーですぐに合流した」

頼子「そうですね……」

「地下室はどうでしたか」

「いたのは、あたしと二人」

雪菜「海ちゃんに手を繋いでもらいましたぁ」

「雪菜、すごい混乱してたしさ……」

「だよね?」

「うん」

雪菜「朋ちゃんは着いて行ったとばかり……」

「いなくなったのは停電中ですか?」

「停電が回復した時には、地下室には3人しかいなかった」

真奈美「なら、藤居君はどこに行ったんだ?」

由里子「ロビーに出てきてない……?」

「出てない、ってどういうこと」

「部屋は、5つあります」

のあ「娯楽室、書庫、倉庫」

頼子「階段がある部屋と」

由里子「残り一つは?」

「階段下」

139 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:37:39.00 Ahhc8lJY0 137/178

由里子「機械室?隠れられなくはないけど……」

「朋さんが、倉庫のカギを持っていた可能性は?」

真奈美「カギは由里子君が隠していたはずだ」

のあ「機械室のカギは?」

椿「そう言えば、写真を撮ってました」

「南京錠があるはずです」

由里子「そもそも、機械室は違うじぇ」

「違うとは」

由里子「南京錠のカギは、会社のメンテスタッフしか持ってないはずだじぇ」

麻理菜「それって、これかしら」

由里子「え……?」

「どうして、それを」

麻理菜「一緒に送られてきてたわ」

「どこのカギが知っていましたか」

麻理菜「いいえ。入ってただけ」

雪菜「どういう意味ですかぁ」

のあ「見る限り、特殊な南京錠ではないようね」

真奈美「同じ鍵が世界中にいくらでもありそうだな」

「入れるという意思表示なのか」

「……なら、誰がカギを持ってたの?」

「犯人か」

真奈美「藤居朋のどちらか」

雪菜「朋ちゃんが、隠していたんでしょうか……」

のあ「それは、わからない」

「……」

のあ「安斎都、話を進めましょう」

「そうしましょう。朋さんがいなくなったことがわかったのは」

雪菜「真奈美さんと都ちゃんが見回りに来たからですぅ」

真奈美「ああ。全員食堂にいた」

「停電中にどこに居たかの話を聞きましたが」

麻理菜「その時は部屋にいたけれど」

アヤ「アタシも、だ」

頼子「悠貴さんと私は食堂に」

「地下室に行った時に、雪菜さんに聞かれました」

雪菜「朋ちゃん、食堂にいるんですかぁ、って」

真奈美「実際はいなかった」

140 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:38:09.18 Ahhc8lJY0 138/178

「それであたしが食堂に行ったけど、いなかった」

頼子「それで、悠貴さんが出て行ってしまいました」

「全然、追いつけなかった」

のあ「理由は」

頼子「考えたくもありませんけれど……」

椿「次の犯行を起こさせようとした……とか」

「沢田さん達の次の動きもありました」

麻理菜「タオルを巻いたライトを、落とした」

「アタシと由里子さんはつられて、外に行ってしまった」

由里子「ブレーカーを落としたのは」

麻理菜「私と沙理奈じゃないわよ」

のあ「……違う」

頼子「なら……どなたなのですか」

まゆ「……」

雪菜「あの……もしかしたら」

「気づいたことでもありますか」

雪菜「悠貴ちゃん、だったのかも……」

「それならば、合点がいきます」

真奈美「やはり、機会をうかがっていた」

頼子「犯人をおびき出す、そんな危険なことを……」

のあ「結果は失敗だった」

141 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:40:13.09 Ahhc8lJY0 139/178

「一人だけ殺害方法が違いました」

真奈美「刺殺だ」

「なんで、食堂だったんだ?」

麻理菜「食堂だったのなら、心当たりがあるわ」

「それは、排水ですか」

麻理菜「正解。落とせるのよ、人間一人くらいは海に」

雪菜「……なんて、こと」

椿「何かが落ちる音は、その音だった……」

真奈美「藤居君の遺体は、そこにあったのか」

「そのようです」

のあ「……安斎都、次の出来事は」

「櫂さんが、朋さんの遺体を見つけてくれました」

「うん、あたしも水の音を聞いたからさ」

「ですが、その前です。松本さんが殺害されたのは」

真奈美「プールに自分で移動したようだが、何時だ」

麻理菜「停電とか死体が見つかった時よ。騒ぎの隙に移動した」

のあ「誰か、見ていたとしても離れるのは簡単そうね」

「沢田さん、プールでは何を」

麻理菜「指示は、明かりをつけること、温水装置を切ること、人が来たら追い返すことだったわ」

のあ「フムン……」

「何かのアリバイ作りのように思えますが」

アヤ「……いや、どっちかをおびき寄せただけだ」

麻理菜「……殺すための指示」

由里子「で、でもカギはしまってたじぇ!」

142 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:45:31.63 Ahhc8lJY0 140/178

のあ「その通り」

由里子「こっちは正真正銘、スペアなんかないし」

「密室だった?」

雪菜「そういうことですねぇ……」

「藤居さんの遺体を櫂さんが引き上げてくれた後に、沢田さんが食堂へ来ました」

「理由は、戻ってこなかったから」

麻理菜「そう、沙理奈が時間になっても帰ってこなかった」

真奈美「まずはプールを見に行った」

麻理菜「でも、カギがかかっていて入れなかった」

「そこで、私達の所に様子を見に来ました」

のあ「その後に、私達とプールへ」

由里子「カギを開けて」

のあ「松本沙理奈の遺体を発見した」

麻理菜「……ええ」

「沢田さん達が行ったことは、これで全てですか」

麻理菜「ええ、通信を切ること、停電を起こすこと、人をおびき寄せること、プールにいること」

「その後が、今」

アヤ「そういうことだな」

椿「事件は、これで全てです」

「犯人はわかったのか」

のあ「安斎都、どうなのかしら」

「高峯さん、屋敷の見取り図を貼ってください」

のあ「わかったわ」

「直感は外れるタイプです」

まゆ「そうなんですかぁ……?」

「だから、全てを出すまでは犯人が誰かを決められませんでした」

「なら、今は……」

雪菜「朋ちゃんを誰が殺したんですかぁ!?」

「おかしくありませんか」

椿「何がでしょうか……」

143 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:46:17.03 Ahhc8lJY0 141/178

「朋さんを海に落とす必要性がわかりません」

のあ「……」

「しかも、悠貴さんがキッチンで刺殺されるような事態を招いているにも関わらず」

「必要な行動だって、ことなのか」

「はい。では、この島の地下を見てください」

「配管が通ってるのか?」

「落とした排水を海まで届ける配管があります。例えば、プールの水を抜くための」

由里子「うーん……?」

「どうして、水に遺体を浮かべていたのか。それは死亡時刻を誤魔化すためでも何でもなく」

のあ「……もう大丈夫かしら」

「逆だったんです」

頼子「……逆」

「犯人にこそ、水に濡れている理由が必要だった」

まゆ「え……」

「犯人はあなたです」

のあ「……」

「西島櫂さん」

144 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:47:38.41 Ahhc8lJY0 142/178

83

逢伊江館・1階・食堂

頼子「……」

「……本当なのか」

「ふーん。それで?」

椿「それで、って……」

「あたしが犯人だと言われただけ、探偵気取りの子供に」

「な……」

のあ「……」

真奈美「冷静に」

「ゴホン。わかりました。質問をします、いいですか」

「いいけど」

「殺人犯はあなたですか」

「最初からそう聞けばいいのに」

まゆ「なんでしょう……」

アヤ「こずえ、紗南、近くに来い」

こずえ「あやー……だっこー……」

由里子「様子がおかしいじぇ……」

「正解だよ。あたしが殺人鬼なんだ」

145 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:48:39.15 Ahhc8lJY0 143/178

雪菜「どうして、そんな軽々しく言えるんですかぁ!」

「雪菜、相手しちゃダメだ……ぜったいにおかしい」

「スコアは悪くなかったかな」

紗南「スコア、って、ゲームじゃないんだよ!?」

「そうだ、写真とか撮った?」

椿「私に言っているのですか……?」

「そうだけど。シャッターチャンスだよね?」

椿「ふざけないでくださいっ!」

雪菜「この人、どこかに縛って閉じ込めないと危険です!」

「友達が殺されたからって必死過ぎない?安心していいよ、もう生き残ったから」

まゆ「……ひどい」

「生きてるなら、死んじゃった奴より偉いに決まってるじゃん」

雪菜「なぁ……」

「ふざけるな!」

「あらら、怒鳴られた。そうだ、探偵さん」

「あなた、何を考えてるのですか」

「あたしが質問する番だから。いいよね?」

「……どうぞ」

「探偵さんは話を聞きたいでしょ?」

のあ「……」

「答えないの?」

「私は残された人達のために、聞かないといけません」

「わかった。まだ、人が来るまで時間があるし、暇つぶしが出来ないとね」

頼子「……」

アヤ「こいつ、拘束しておかないとヤバイぞ」

「やだなぁ、もう試合には負けてるんだから。大丈夫だって」

「……念のためだ」

のあ「真奈美」

真奈美「わかった。西島櫂、受け入れるか」


146 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:49:47.71 Ahhc8lJY0 144/178

「もちろん。でも、条件が一つだけ」

「……聞きましょう」

「探偵さんの推理とあたしの答え合わせを、皆で聞く。いいでしょ?」

のあ「……どうかしら」

アヤ「聞きたくもないが」

「なら、話さないだけ」

アヤ「仕方がない」

雪菜「朋ちゃんの話を……」

「聞かせてもらうから」

由里子「美里さんの仇も……」

頼子「乙倉さんについて、も」

真奈美「いいか。手を出せ」

「はい。でも、残念だったな」

「何が、ですか」

「高峯さんと木場さんがいなければ、体格差で何とかできそうだったのに」

由里子「真奈美さん、お願いするじぇ。念入りに」

真奈美「……ああ」

「あなたの夜はこれで終わりです」

「わかってるよ。そんなの、ずっと前からさ」

「真奈美さん、終わったら始めましょう。全ての話をしてもらいます」

147 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:50:56.25 Ahhc8lJY0 145/178

84

逢伊江館・1階・食堂

雪菜「大丈夫ですかぁ……?」

「うん。手も足も椅子から離れないけど、逃げようとしなければ苦しくない」

アヤ「どうして、オマエが言うんだよ……」

「それじゃどうぞ、探偵さん」

「お聞きします。まずは、沢田さんについて」

麻理菜「どうして、沙理奈を殺したの」

「たぶん、勘違いしてる」

「勘違いとは」

「だって、共犯が誰か知らなかったし」

麻理菜「知らない、ってどういうこと」

「ま、目星はついてたけど」

のあ「つまり、あなたではない」

「指示したのは、あなたではないのですか」

「あたし、そういうの考えるの苦手だし」

由里子「おかしいじぇ」

「会場を用意するのは、役者の仕事じゃないしさ」

「なら、誰なんだ」

「うーん……知らないけど、心当たりはあるよ」

頼子「……」

雪菜「……」

「間中さんじゃないのかな」

由里子「へ……?」

紗南「そんなはずないよ!」

由里子「そうだじぇ!」

「殺しちゃったから、もう何もわからないけどね」

のあ「可能性は、否定できないけれど」

椿「屋敷のことも知ってて……」

真奈美「状況も操作できる」

「だから、彼女を殺したのですか」

まゆ「自分が疑われないために……?」

「心当たりはさっき、思いついただけ」

のあ「ということは、理由はもっと単純なのね」

「せっかくの、なんだっけ密室だったかな」

頼子「クローズドサークル、ですか」

「それそれ。せっかくのお楽しみは長く楽しまないとね」

アヤ「……」

148 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:52:16.20 Ahhc8lJY0 146/178

「単純に殺しやすかったのもあるけど」

「どういうこと、ですか」

「執務室に来たら、拒むわけにはいかないでしょ」

雪菜「……そうですけどぉ」

「もしも、だ。それを見られてたらどうしたんだ?」

「あたしのスコアは2で終わっただけ」

のあ「2?」

「思い出した、さっきの推理当たってたよ」

真奈美「順番の話か」

「そう。最初は渚ちゃんだよ」

149 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:53:57.06 Ahhc8lJY0 147/178

85

逢伊江館・1階・食堂

「……最初に連れを殺したのか」

雪菜「何を考えて……」

真奈美「殺害場所は」

「砂浜。そうじゃないと海に運べないし」

「動機は何なのですか」

「動機?」

「はい。友人を殺す理由を教えてください」

「……」

雪菜「上手くいかないことがあったとか……」

「ふっ、あはは」

椿「何かおかしいことを、言いましたか?」

「そんなことない。良い友達だった。辛いことも楽しいことも共有できた」

「それなら、なんで……」

「その質問がおかしいよね」

こずえ「みんな、いっしょなのー……?」

「こずえちゃんの言う通り、命は平等なんだよ。あたしが差別するわけないじゃない」

由里子「眩暈がしてくるじぇ……」

「だから、命を奪うか否かの判断材料にはならない」

真奈美「大層なことを言っているようだが」

のあ「……ただの快楽殺人犯」

「それなら」

「なに?」

「いえ、今はやめておきましょう。あなたの行動について聞かせてください」

150 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:56:18.70 Ahhc8lJY0 148/178

86

逢伊江館・1階・食堂

まゆ「あの……」

「どうしましたか」

まゆ「気になったことがあって……」

のあ「ジャグジーでの不審者についてかしら」

まゆ「はい」

「私も気になっていました。ですが、あなたが犯人ならば合点がいきます」

「例えば?」

まゆ「全部、あなたが仕組んだこと……」

「そもそもお風呂場に移動したのは」

「あたしのためだからね」

麻理菜「自分で、移動したの?」

「感謝して……いや、あたしがするほうか」

麻理菜「言っている意味がわからない」

「早めに見つけてあげて、逃げる隙をあげた。着替えで時間を稼いだ」

「そうか、自分で見つけたのか」

「でも、よく考えたら逆だよね」

麻理菜「私が捕まったら、終わりだから」

のあ「結果的に、次の犯行は起こったわ」

「屋敷から連れ出すことが成功したから」

「停電が引き起こされた」

「思い出しましたが、地下へ行くときに妙な反応をしていました」

「あたしが?」

のあ「……」

「少し驚いたような反応をしていました」

「皆に着いて行かない方が自由に動けそうだったからね」

「ですが、地下室に来ました」

「あの状況で、残るのは不自然でしょ」

のあ「……そうね」

151 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:56:53.63 Ahhc8lJY0 149/178

「停電は地下にいる時に起こっちゃったし、悠貴ちゃんがすぐにタネ明かしするし、失敗だったかな」

「でも、朋は」

「うん。チャンスは生かさないとね」

雪菜「朋ちゃんは、どうしたんですかぁ……」

「あたしとのあさんに着いて行った。でも、階段の下まで」

真奈美「そこで、何をした」

「気絶させて、階段室の倉庫に閉じ込めた。ああ、カギはあたしも持ってるよ」

「その後に、素知らぬふりをして地下に戻ったのですか」

「うん。二人はこっちを気にしてる余裕なんてなかったし」

「朋さんをその後、どうしたのですか」

「隙を見て、キッチンに運んだ。殺したのは、2回目の停電の時かな」

「待って、なら……」

雪菜「朋ちゃんは、まだ生きてたんですかぁ……?」

「そうだよ。運んでる時に見つかって、死んでたら言い訳できないでしょ」

雪菜「そんな……だったら」

「殺される前に見つけられたら良かったのにね」

「どうして、そんなに他人事なんだよ!」

「他人だから。そこまで思い入れがないんだ」

雪菜「あなた、って、人は……なんて、ことを」

のあ「……次へ」

152 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 20:57:47.86 Ahhc8lJY0 150/178

「あなたも島の構造を知っていたのですが」

「島の構造については、多分麻理菜さんと同じ人にあたしも聞いてた」

「朋さんをキッチンに運び、下に落としたのと」

「沙理奈さんを殺して、海から出てきたのは探偵さんが言った通りだよ。正解」

「聞いていいか」

「いいよ」

「朋を殺した理由は、朋にないんだな」

「もちろん。強いていうなら、あたしの近くにいたから」

雪菜「そんなぁ……」

アヤ「……まだ、動機があった方が良い」

「でも、配慮はしたよ」

由里子「配慮……」

「苦しませないから。首を折って終わりにしてる」

雪菜「……そんなので、納得するわけないじゃないですかぁ」

頼子「違います……」

「何が?」

頼子「乙倉さんは、なぜ刺し殺されているのですか」

「……」

「犯行の全貌はわかりました。西島櫂さん、あなたが犯人です」

真奈美「状況と彼女の証言も一致した」

「そもそも、警察が来たら確実にわかるでしょ」

のあ「ええ、そうでしょうね」

「なぜ、殺人を犯したのか」

「さぁ、なんでだろう」

「乙倉さんに、何か言われましたか」

「……」

まゆ「どうして、それは答えられないんですかぁ」

「もう一歩だけ踏み込みます。いいですか」

のあ「ええ」

「あなたが殺人に至った動機を、引き出します」

153 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:00:06.42 Ahhc8lJY0 151/178

87

逢伊江館・1階・食堂

「そんな理由を聞いてどうするのさ」

「古澤さんが言った通り、乙倉さんだけ殺害方法が違います」

真奈美「凶器は包丁だ」

のあ「キッチンにあったもの」

「計画的に準備した凶器ではありませんでした」

「なんか、おかしいぞ」

「あなたの目的が快楽殺人であるなら」

「そうだね」

真奈美「先ほどの発言は、なんだ」

「配慮と言っていました」

「それが?」

「あなたの美学を覆す理由があったのですか」

「……」

「ふー……よし」

のあ「……」

「西島櫂さん、質問をしています。答えてください」

「答えない」

まゆ「あれ……?」

「そんなことを答える義務がどこにあるのさ」

「理由が快楽殺人でないから、ですか」

「……」

「あの、高峯さん」

のあ「何かしら」

「ひとつ、お聞きしていいでしょうか」

のあ「どうぞ」

「彼女の、この殺人は初めてだと思いますか」

頼子「へぇ……」

のあ「私はただの物好きだから、半信半疑で聞いてちょうだい」

「はい」

のあ「初犯ではないわ」

真奈美「私は、そんな物好きの意見に同意だ」

のあ「殺人を犯しているわ、おそらく同一の、首を絞めることで」

「答えてください、どちらですか」

154 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:01:03.16 Ahhc8lJY0 152/178

「そうだよ。はじめてじゃない」

真奈美「だから、行動に迷いがない」

「ま、そういうこと。経験が力になるのは、どんなことにも共通してるから」

「どなたですか」

「知り合いだよ。水泳の」

のあ「そちらで捕まるのも時間の問題」

雪菜「だから……事件を起こした」

「思ったよりも、やってみたら楽しかった」

まゆ「……」

「質問をします」

「あたしに?」

「あなたは嘘をつきました」

「あたしは正直なつもりだけど」

「自分の気持ちを嘘で塗り固めれば、正直な気分になれます」

「……何が言いたいのさ」

「これを、乙倉さんが持っていました」

頼子「乙倉さんのメモ帳……ですか」

「その切れ端のようです」

麻理菜「何か、書いてあるの」

「西島櫂さんと沢田麻理菜さんのことが書いてあります。この様子だと他の人のことも書いてあったページもあるでしょう」

「……」

「私が皆さんからお聞きしたことのような簡単なプロフィールと」

のあ「他には」

「大会の成績と所属していたクラブ名」

麻理菜「私のことは」

「派遣会社や参加されたイベントの名前が書いてあります」

真奈美「ネットで調べられそうなことだな」

麻理菜「そうね、心当たりがあるわ」

「あたし、それなりに有名選手だったから」

「あなたの成績が落ちていた、と書いてあります」

「……それが」

「乙倉さんに藤居さんの遺体を発見され、待ち伏せされました」

「そうみたい」

雪菜「朋ちゃん、見つかってたんですかぁ……」

頼子「……ごめんなさい」

155 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:03:03.92 Ahhc8lJY0 153/178

「何か言われましたか」

「……」

「例えば、殺人の動機について」

「何が、言いたいのさ」

「乙倉さんはこの状況すら楽しんでいるようでした」

雪菜「……」

「あなたが犯人だとわかっていたから、動機について推測していた」

のあ「……」

「ただ無邪気に、自分の危険も顧みずに、あなたの本当を言い当てた」

「本当、って何さ」

「彼女もスポーツ選手でした」

「……」

「年齢はずっと下。あなたにもそんな年齢があった」

「……」

「だから、わかるけれどわからなかった」

「……」

「あなたは、快楽殺人犯なんかではありません」

「……」

「衝動殺人を嘘で塗りつぶした、ただの弱い人間です」

真奈美「……」

「なにが……」

のあ「……」

「お前にあたしの何がわかるっていうんだよ!」

156 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:05:03.92 Ahhc8lJY0 154/178

88

逢伊江館・1階・食堂

雪菜「ひぃ!」

「雪菜、大丈夫だ」

雪菜「海ちゃん……」

「なんだ、なんだよ、あたしのことをわかったふりしてさ!」

真奈美「残念だが」

のあ「声を荒げた今のあなたが」

「本物のあなたです」

まゆ「……」

「だから!」

真奈美「君は殺人を嗜好する異常者ではない」

「全ては嘘です。事実を積み重ねても、あなたは変わりません」

「わかったふりしないでよ!あたしにはそれだけじゃないんだ」

頼子「……それ」

「違うって言ってるじゃないか!」

由里子「話を聞いてなくない……?」

椿「そのようですね」

「あたしだって、まだ変わるチャンスがあるんだって!」

のあ「……」

「あたしは、進むんだ!挫折も執着も否定も殴り倒して、次へ進むんだ!」

雪菜「……」

「なのに!どうして、わかったふりをするんだよ!」

「あなたは、血も涙もない殺人鬼ではありません」

「諦めなければ叶う時期は、あたしにはもう過ぎたのに、何がわかるのさ!」

「……そうなら、殺人を犯してもいいのか」

「あたしは変わらないといけないんだ。執着を捨てられるなら、殺人鬼だっていい」

157 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:07:21.03 Ahhc8lJY0 155/178

紗南「……本当に?」

「……何が」

紗南「本当に、捨ててよかったの?」

「……」

紗南「だって、泳いでる時は」

「うるさい!あたしが何者だろうが、今の状況は変わんないだろ!」

紗南「……」

158 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:09:05.77 Ahhc8lJY0 156/178

アヤ「紗南、今は聞こえない」

紗南「……うん」

「あたしは最初の殺人を犯した時から、こうなるしかないんだ!もう、これしかないんだよ!」

まゆ「……でも、事件は終わりました」

「終わってない、終わらせない。あたしは、あたしなんだから」

のあ「彼女が認めないなら、ずっとこのままよ」

まゆ「……でも」

のあ「西島櫂、あなたは罪を償う気持ちはあるのかしら」

「あたしはもう罰を受けてる。気が狂うほどに」

のあ「だめそうね。法にのっとった罰を受けなさい」

真奈美「それが人の掟だ」

「最初の殺人は衝動でした」

アヤ「だけど、それが間違いだ。何があっても、耐えないといけなかった」

頼子「乙倉さんと……被害者を重ねたのですか」

「そのようです。そして、他の殺人は」

真奈美「自身の変化を肯定するための行為だ」

「あなたは乗ってしまった。この場を用意した者に」

由里子「辞めるタイミングだって、いくらでもあったはずだじぇ」

紗南「……」

「でも、人はそんなに強くない」

「でも、集まれば強くなれます」

「スイマーは孤独なんだ」

紗南「違うよ。勘違いしてる」

「……そうかもね」

「反省は」

「ないよ。どうして、なのさ。この気持ちになる状況が悪いんだ」

雪菜「どうして……どうしてですか!」

「雪菜、すわり……」

雪菜「いいんですか!?」

麻理菜「……」

由里子「……」

159 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:10:29.51 Ahhc8lJY0 157/178

雪菜「この人、ずっとこのままですよぉ!間違ったのに何も変わらない、変わる気もない、それじゃあ、それじゃあ……グス……だって……」

「……」

雪菜「朋ちゃんが……報われない……大切な友達が、いなくなったのを……認められない……」

まゆ「……」

「だから、他人の事情なんて知らないよ。あたしの事情も、わかんなくていい」

「……雪菜」

雪菜「朋ちゃん……朋ちゃん……」

「部屋に戻るよ。雪菜がこんなんだから」

「はい。ありがとうございました」

のあ「朝になれば、人がくるわ」

真奈美「その朝も、もうすぐだ」

「ありがと。じゃあね」

頼子「ふぅん……」

「事件の顛末は以上です」

「凄かったぞ!」

「褒められてもあまりうれしくありません」

のあ「そういうものよ」

「そういうもの、ですよね」

由里子「ここで、あたしが見てるじぇ。皆は休んで」

真奈美「お言葉に甘えることにしよう」

「はい。おやすみなさい」

「……」

のあ「おやすみなさい」

「……」

160 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:10:58.94 Ahhc8lJY0 158/178

椿「都さん、皆さん行ってしまいました。由里子さんに任せて帰りましょう」

「あの、聞いていいですか」

「……あたしか」

「水泳を教えることは好きですか」

「好きだよ。だから、さ」

「本当は、慰めが欲しかったわけではないのですね」

「わからない。でも、もうお前は選手としてはダメだって言われてたら」

「……」

「今のあたしがあたしの全て。だから、そんなイフはないんだ」

「由里子さん、お任せします」

由里子「名探偵、お疲れ様だじぇ」

161 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:12:50.73 Ahhc8lJY0 159/178

89

翌朝

希砂二島・船着き場

のあ「……明るいわね」

真奈美「目に痛い」

のあ「来たわ」

真奈美「おや」

「おはようございます。お散歩ですか?」

のあ「違うわ。あなたこそ、どうしたのかしら」

「時々来るようにツアー会社からお願いされているので。安心と防犯のためですよ」

真奈美「今日来ることは決まってたのか」

「そうですけれど……」

のあ「……」

「何か、ありましたか」

のあ「留美の同僚なだけあるわね。隠しきれなかったわ」

真奈美「隠すつもりもないが」

「まず、すべきことは」

真奈美「人を動かすことだ」

のあ「一緒に来た職員は、このまま本島に戻った方がいいわ」

「はい」

真奈美「6人くらいは乗れるか?」

「大丈夫です」

のあ「子供と保護者は先に本島に戻してあげたいの。いいかしら」

「わかりました。お伝えしておきます」

真奈美「江上君と桐野君を呼んでくる」

のあ「お願い」

「了解してもらいました。高峯さん、案内をお願いできますか」

のあ「ええ。話は屋敷に向かいながら」

「はい」

162 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:14:01.11 Ahhc8lJY0 160/178

90

逢伊江館・玄関ホール

アヤ「おはよ」

椿「おはようございます」

のあ「おはよう。寝れたかしら」

アヤ「向こうで寝なおす」

のあ「説明が大変そうだけれど」

椿「それは、大人の仕事ですから」

アヤ「少なくともあいつらよりは大人だからな」

のあ「……そうね」

「しばらく本島にいらっしゃいますか」

アヤ「ああ」

「おそらく、私ではありませんが警察にご協力を」

椿「わかっています」

「お願いします」

「椿さん、お待たせしました」

紗南「アヤさん、こずえちゃん連れて来たよ」

こずえ「あやー……」

アヤ「よし。こずえ、紗南、行くぞ」

「アタシは残っても大丈夫だぞ」

のあ「任せなさい。任せるのも勇気の資格よ」

「わかった。頼む」

椿「そうかもしれません。すみませんが、お先に失礼します」

「はい。お疲れ様でした」

「あの、のあさん」

のあ「何かしら」

「本島にいますので、帰る前に会えますか」

のあ「ええ。新しいことがあったら教えるわ」

「ありがとうございます。お願いします」

のあ「また」

「はい」

「行ってしまいましたけど、いいのですか」

のあ「ええ」

「彼女が事件を解決してくれたと、先ほど言っていましたが」

のあ「事実よ」

「あなたではなく」

のあ「私ではないわ」

「……」

のあ「犯人と遺体のどちらから、見るかしら」

「ご遺体の方へ。よろしいでしょうか」

のあ「わかったわ。大ホールへ」

163 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:15:27.04 Ahhc8lJY0 161/178

91

逢伊江館・1階・大ホール

「……」

真奈美「ここにいたのか」

のあ「真奈美」

真奈美「警察への連絡と本島に戻れるようにお願いはしておいた」

のあ「ありがとう」

真奈美「高垣巡査部長、様子は」

「私は遺体を見るプロではありませんが」

のあ「感想は」

「犯人は殺し屋にでもなるつもり、だったのですか」

真奈美「……」

「首を折ることに美学を持った、殺し屋に」

のあ「……私にはわからない」

「……失礼しました。状況は確認しました」

真奈美「元刑事とはいえ、突然の事態だ」

のあ「理解は追いついているかしら」

「問題ありません。先輩から、心構えだけは教わりました」

のあ「そう」

「事件が起こってからしか来れないことが多いのが、警察です」

のあ「……そうね」

「スーパーヒーローじゃないのだから、絶対に間に合わない。なら、慌てる理由なんてないと」

のあ「留美らしい、割り切り方ね」

「……こうやって行動には移せますけど」

真奈美「気持ちは割り切れないか」

「はい……平穏を守っている方がきっと私には向いています」

のあ「……」

164 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:17:25.96 Ahhc8lJY0 162/178

雪菜「あれぇ……開いてます」

のあ「井村雪菜」

雪菜「真奈美さん、おはようございますぅ」

真奈美「おはよう。少しは眠れたか」

雪菜「はい……朋ちゃん、見て良いですか」

「……」

のあ「構わないわ」

雪菜「ありがとうございますぅ……朋ちゃん、犯人捕まったから、安心してねぇ……」

真奈美「……」

「西島櫂さんとお会いします。良いでしょうか」

のあ「ええ」

「小さいですが、留置場も本島にはあります。そちらへ」

雪菜「あの……」

「どうしましたか」

雪菜「海ちゃんを探しに屋敷に来たんです、見かけませんでしたかぁ?」

のあ「杉坂海?」

真奈美「見かけてはいないが」

雪菜「どこに行ったんでしょうかぁ……」

真奈美「キッチンは入りたくないだろう、そうなると」

のあ「誰かに会いに行ってるのかしら」

真奈美「会うとしたら」

のあ「西島櫂くらいしかいないと思うわ」

雪菜「……あまり、会いたくないです」

「私が話をしますので、安心してください」

のあ「食堂へ行きま……」

な、なにやってるんだ!

雪菜「由里子……さん?」

のあ「食堂から」

「急ぎましょう」

165 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:20:11.59 Ahhc8lJY0 163/178

92

幕間

逢伊江館・1階・食堂

由里子「うー……ねむい……」

頼子「由里子さん、お茶はいかがですか」

由里子「おっ、ありがと」

頼子「朝で気温が下がりましたし、温かいお茶にしました」

由里子「ふぅ……落ちつくじぇ」

頼子「湯呑は熱いので気をつけてください。西島さんは……」

「……すぅ」

由里子「この通り、ウトウトしてるじぇ」

「……呼んだ?」

頼子「何か、飲まれますか」

「いらない」

頼子「そうですか」

「おはよ」

由里子「海ちゃん、どうしたの?」

「……」

頼子「海さんにもお飲み物を……」

「ごめん」

由里子「ごめん?」

頼子「……」

「アンタ、言い分は変わった?」

「何を今更変えるのさ。あたしはこのあたしのままだよ。逆に聞くけど、変わったなんて言って信じるの?」

「信じない」

「なら、答えは出てるんでしょ」

「出てる」

頼子「海さん、お茶はいかがです……」

「どいて」

166 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:21:26.64 Ahhc8lJY0 164/178

頼子「……お邪魔のようでしたね」

由里子「へ…」

「そっか。もう、あたしはあたしの話ですら主役じゃないのか」

由里子「な、なにやってるんだ!」

頼子「……悪は砕けました。報いは必然ですよ」

幕間 了

167 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:22:07.12 Ahhc8lJY0 165/178

93

逢伊江館・1階・食堂

「由里子さん!」

由里子「駐在さん、あ、あれ……」

「は、はぁ……あぁ……」

「真奈美さん、彼女をお願いします」

真奈美「了解した。杉坂海、そのバットを渡せ」

「……ほら」

「凶器は金属のバット……傷は頭部と首。由里子さん」

由里子「……」

「由里子さん、処置を」

由里子「あ、うん、やるじぇ!」

のあ「古澤頼子、何があったのかしら」

頼子「……」

のあ「古澤頼子、聞きなさい」

頼子「……あ、高峯、さん……」

のあ「外へ出ていなさい。話は後で聞くわ」

「杉坂さん、でしたか」

「……そうだけど」

由里子「楓さん……その」

「わかっています。もう、息はありません」

「……」

のあ「行動の結果で顔を青ざめさせるようなら、なぜそんなことを」

雪菜「あれ……海、ちゃん……?」

真奈美「井村君、入ってこない方がいい」

雪菜「え……なに……?」

「雪菜……ごめん」

のあ「真奈美、彼女を外へ」

真奈美「わかった」

雪菜「海ちゃん……殺しちゃったの……?」

「……」

168 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:24:27.84 Ahhc8lJY0 166/178

真奈美「井村君、ここは出てくれ」

雪菜「海ちゃん、何をやってるんですかぁ!」

「……復讐かな」

雪菜「そんなの、朋ちゃんも望んでませんよぉ!」

「……」

「わかってるさ。けど」

雪菜「けど、じゃないですよぉ!海ちゃんだって、家族がいるのに!」

「雪菜だって、聞いただろ」

雪菜「……」

「どうやっても、コイツは然るべき報いは受けないよ」

「違います。彼女は法により裁かれるはずでした」

「そんなの、知ってるから。誰でも知ってる。だから」

のあ「……」

雪菜「だから、海ちゃんが、やった……の?」

「……」

雪菜「そんな必要ないのに……私だってそんなこと思ってない……」

「わかってるよ。昨日の言ってたことも混乱してたからだって、わかってる」

雪菜「なら……やめて、言ってくれたら……絶対にそんなことさせなかったよぉ……」

「雪菜、ごめん、二人も友達をいなくさせた」

雪菜「うぅ……ぐすん……」

「のあさん、真奈美さん、雪菜お願い出来るかな」

真奈美「……ああ」

のあ「……」

「お巡りさん、連れてって」

「……わかりました」

由里子「この事件の終わりが、これ……」

雪菜「……ぐすっ」

のあ「杉坂海が終わらせた。許されるべき方法ではないけど、それは事実よ」

真奈美「終わりにしよう。後は、警察の仕事だ」

のあ「……ええ」

169 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:26:17.20 Ahhc8lJY0 167/178

94

7月26日(日) 午後

希砂本島・フェリー乗り場・休憩室

真奈美「ただいま」

まゆ「真奈美さん、お帰りなさい」

のあ「状況は」

真奈美「取り調べは終わりだ。自由にしていいそうだ」

のあ「……そう」

まゆ「長かったですねぇ……」

真奈美「遺体と沢田麻理菜、それと杉坂海は本土の船の中だ」

のあ「希砂島で今日やらないといけないことは、ないわけね」

真奈美「そういうことだ」

まゆ「まゆ……疲れちゃいました」

のあ「私もよ」

真奈美「帰るとしようか」

のあ「そうね。真奈美、フェリーの時間は」

真奈美「次のフェリーには間に合わないな」

のあ「次は」

真奈美「1時間後」

のあ「わかったわ。少し、出てくるわ」

まゆ「どこに行かれるんですかぁ?」

のあ「安斎都に会ってくるわ。喫茶店でお茶でもしてなさい」

真奈美「わかった。佐久間君、行こうか」

まゆ「はぁい。のあさん、気をつけてくださいねぇ」

170 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:27:16.52 Ahhc8lJY0 168/178

95

希砂本島・船着き場

のあ「安斎都」

「のあさん、お疲れ様です」

のあ「お疲れ様。江上椿達は」

「取り調べも終わりました。ホテルでゆっくりしてます」

のあ「そう。帰りは何時かしら」

「予定通りに夕方です。のあさん達は」

のあ「1時間後に島を出るわ。お別れね」

「ええ。お聞きしていいですか」

のあ「何をかしら」

「探偵なのですか?」

のあ「知っていたのね」

「いえ、さっきネットで調べました。オシャレなホームページがありましたよ」

のあ「黒川千秋に言われたから、変えたのを見たのね。真奈美のセンスで外注したわ」

「さすが、真奈美さんですね」

のあ「ええ。自慢できるわ」

「でも、私に仕事は譲りました」

のあ「別にあなたに譲ったつもりはないわ」

「なら、どうして探偵をしなかったのですか」

のあ「依頼を受けていないから、加えて朝に警察が来れば解決だから、かしら」

「違います。それだけではありません」

のあ「その通り。私は探偵業よりも優先するべきことがあった」

「はい」

のあ「真奈美とまゆを危険にさらさないこと」

171 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:28:09.00 Ahhc8lJY0 169/178

「やっぱり、そうでしたか」

のあ「桐野アヤのようにすべきだったかしら」

「部屋に押し入るのは時間の問題だったと思います」

のあ「考えたくないけれど、そうね」

「事件は解決しました」

のあ「でも、被害者は出たわ。探偵は、ほとんど事件が起こってからしか出番がない」

「事件が進んでいく辛さも、この身をもって感じました」

のあ「探偵はそんな仕事よ。名声なんてあげられない、ただ待つだけの仕事なの」

「わかっています」

のあ「人間も世の中も、悪い所ばかりが見えるの」

「そうかもしれません」

のあ「警察でもない。法の後ろ盾もない」

「はい。それでも、私にはあります」

のあ「なにが」

「私の信じる正義があります」

のあ「それを持ち続けなければ探偵としてはいられない。それでも、探偵でいるのかしら」

「はい。私の憧れですから」

のあ「物好きね」

「そちらこそ」

172 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:28:51.86 Ahhc8lJY0 170/178

のあ「先輩として忠告しておくけれど、儲からないわよ」

「そうなのですか」

のあ「資産家の道楽なのよ」

「黙ってもらえてたら、夢を見続けられたのに」

のあ「殺人事件に遭遇して、気分が上がらないあなたなら現実も見えるわ」

「褒め言葉です、よね?」

のあ「受け取り方はあなたに任せるわ」

「そういうことにします」

のあ「今度はうちに遊びにいらっしゃい。推理小説はいくらでもあるわ」

「ぜひ」

のあ「私の家族を助けてくれてありがとう、探偵さん」

「こちらこそありがとうございました、探偵高峯のあ」

のあ「握手を」

「はい。これからの検討を祈って」

エンディングテーマ

The brightNess

歌 高峯のあ&木場真奈美

173 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:30:21.70 Ahhc8lJY0 171/178

エピローグ

幕間

その人は洗面台で泣いていました。

同行者は殺人の被害者と加害者となり、彼女は一人です。

とめどない涙を流しきるように、顔を洗っていました。

洗い流せば、別の顔が見えてきます。

ぴたりとすすり泣きは止まり、彼女は顔をあげました。

頼子「こんにちは、化粧師」

赤みのがかった髪を取り出したクリームで黒に塗りつぶしていきます。

雪菜「私は井村雪菜ですよぉ」

黒くなった髪を後ろで結びました。ウェーブのかかっていた赤髪はもうありません。

頼子「あなたと名前を結びつける術を私は持っていません」

雪菜「本当に井村雪菜ですよぉ。ほら」

専門学校の学生証が私の足元に滑ってきました。それを拾い上げます。

頼子「本当に在籍しているのですか」

雪菜「堂々としていれば気づかれないものですよぉ」

頼子「偽物ですね」

雪菜「差し上げますよぉ。いらなければ捨ててくださいねぇ」

手慣れた様子で、彼女の仮面が変わっていきます。

頼子「どうやったのですか」

雪菜「沢田さん、西島さん、杉坂さんのどなたですか」

頼子「沢田さんは聞く必要はありません」

雪菜「西島さんですか」

頼子「本人から十分に聞きました」

雪菜「彼女の気持ちは面白かったですかぁ?」

実年齢に似合わないほどの厚化粧を施しています。

頼子「とっても」

雪菜「良かったぁ」

随分と年上になったようです。毒々しい赤いルージュが素顔の美しさを消しました。

174 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:32:20.60 Ahhc8lJY0 172/178

雪菜「一緒にいた女の子、死んでしまいましたね」

頼子「舞台にあがるなら、それ相応の覚悟をしなければなりません」

雪菜「あなたも死ねば良かったのに」

そう思ってくれなければ面白くありませんね。

頼子「もとより、その覚悟ですよ」

雪菜「もしも、あなたが死んだのなら」

大きめのサングラスに、大きめのストローハット、化粧と不釣り合いな白いワンピース。

雪菜「私があなたになりますよ」

頼子「私の代わりに続けるものなんて、ありませんよ」

雪菜「あなたが見ている風景を、私が見てみたいだけです」

頼子「化粧師である方が、きっと楽しいと思います」

雪菜「キャリーケースを使う?いらないから、捨てちゃおうと思ってぇ」

頼子「いりません」

彼女の手には大きめのハンドバッグだけ。愛用の化粧ポーチはそこにしまいました。

雪菜「それじゃ、ここに置いておくけど黙っておいて。いいでしょ?」

口調も変わりました。すれ違うだけの人々に、井村雪菜と見分けられる人はいないでしょう。

頼子「その代わりに、質問をしていいでしょうか」

175 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:34:19.79 Ahhc8lJY0 173/178

雪菜「なんか、聞きたいことでもあるの?」

頼子「杉坂海を犯行に走らせましたが」

雪菜「家族思い、友達思いのお姉さんをあの状況で狂わせるのはカンタン」

頼子「楽しかったですか」

化粧師は少しだけ驚いたようでした。その際に現れた年相応さをかき消して、言いました。

雪菜「ええ、とっても」

頼子「ふふ……それならば良いです」

雪菜「アンタともあの人とも久しぶりに会えてよかったわ」

頼子「さようなら、化粧師。市立美術館でいつでもお待ちしています」

雪菜「ばいばーい」

不格好に腰をくねらせて、井村雪菜はどこかへ行ってしまいました。

私も少し神妙な顔しながら、帰宅することにしましょう。

学芸員さんに戻らないといけませんから。

幕間 了


製作 tv○sahi

176 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:36:37.37 Ahhc8lJY0 174/178

次回予告

本日の気温33℃。室温10℃。今日はクリスマス。

第6話
イヴ・サンタクロース「高峯のあの事件簿・プレゼント/フォー/ユー」
に続く

177 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:37:51.36 Ahhc8lJY0 175/178

オマケ

撮影中の相談事

悠貴「頼子さん、頼子さん」

頼子「悠貴ちゃん、どうしました?」

悠貴「役について質問していいですか?」

頼子「ええ、どうぞ」

悠貴「いつものままでいいと言われたんです」

頼子「私もそう思います」

悠貴「そうですか?もっと悪い顔してると思うんですっ」

頼子「それは悪いことだとわかっているから、ですよ」

悠貴「えっと、どういうことですかっ?」

頼子「彼女は純粋に楽しんでるだけなんですよ。悪いことを悪い顔でしてるわけではありません」

悠貴「なるほど?」

頼子「リラックスしましょう。何も考えずに、お芝居を楽しみましょう。ね?」

悠貴「はいっ」

178 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:39:31.17 Ahhc8lJY0 176/178

P達の視聴後

PaP「なぁ」

CoP「どうしましたか」

PaP「これまでがんばってきたもの、諦めるのは大変か?」

CuP「えっ、Paさん、プロデューサー辞めるんすか?」

PaP「アホか。今更、辞めるわけないだろ」

CoP「突然辞めたら、路頭に迷うだけです」

CuP「他の仕事できなそうっすもんね」

PaP「お前は口を慎め。だが、質問の答えはわかった」

CoP「それなら、いいです」

CuP「そんじゃあ、今日も輝く日のためにがんばりましょー」

179 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:42:57.69 Ahhc8lJY0 177/178

あとがき

だいぶお待たせしました。

西島櫂は、出会いによって人生が変わってしまうキャラクター。誰に出会わせるかで、色々な物語が広がる。

書いてみてわかったけど、都の口調が硬めで探偵もの向きね。みんな、書くと良いよ。

次回は、
イヴ・サンタクロース「高峯のあの事件簿・プレゼント/フォー/ユー」
です。

それでは。

180 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2017/08/24 21:44:14.94 Ahhc8lJY0 178/178

高峯のあの事件簿

第1話・ユメの芸術
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472563544/
http://ayame2nd.blog.jp/archives/6023201.html

第2話・毒花
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475582733/
http://ayame2nd.blog.jp/archives/7072227.html

第3話・爆弾魔の本心
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480507649/
http://ayame2nd.blog.jp/archives/8870595.html

第4話・コイン、ロッカー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484475237/
http://ayame2nd.blog.jp/archives/10885568.html

第5話・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503557618/
(今作)

第6話・プレゼント/フォー/ユー
第7話・都心迷宮
第8話・佐久間まゆの殺人
第9話・高峯のあの失踪
第10話・星とアネモネ
最終話・銀弾の射手(完)

更新情報は、ツイッター@AtarukaPで。

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