1 : 以下、名... - 2016/03/06 12:20:05.96 71zAMzST0 1/26


昼下がりの午後、ふらっと立ち寄ったカフェ。
ふと窓の外を眺めると、少し色付いた街路樹達が、新しい季節の始まりを教えてくれた。

運ばれて来た陶磁器のカップ。表面に描かれたリーフとハートの模様がとても可愛らしい。
キリッとしたエスプレッソと柔らかいミルクフォームのカプチーノは、ほのかに甘い味がした。

まるで初々しい二人のキスのように……。





元スレ
速水奏「10年越しのキス」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457234405/

2 : 以下、名... - 2016/03/06 12:21:22.58 71zAMzST0 2/26


「とは言っても、キスなんてした事ないんだけど」

ありす「黄昏ながら何を言い出すんですか突然」

「そういえば、ありすちゃんは何歳になったのかしら?」

ありす「橘です。今年で22歳になりますけど」

「すっかり大人っぽくなったわね」

ありす「ありがとうございます」




3 : 以下、名... - 2016/03/06 12:25:08.47 71zAMzST0 3/26


「私は今年で27歳よ?」

ありす「なんというか、年相応の見た目になりましたね」

「それなのにキスをしたことがないのよ」

ありす「あっ、店員さん。この苺のタルトをお願いします」




4 : 以下、名... - 2016/03/06 12:28:44.35 71zAMzST0 4/26


ありす「……というか、あれだけ挑発的なことを言ってたのにまだなんですか?」

「…………」

ありす「バレンタインの時とか『チョコみたいに甘いキスって……知ってる?』とか言ってましたよね? 知らないのは自分だったと」

「……ありすちゃん、今日は随分と辛辣ね」

ありす「橘です。流石に20歳を過ぎてからのちゃん付けはやめてください」




5 : 以下、名... - 2016/03/06 12:32:11.07 71zAMzST0 5/26


ありす「ということは年齢=彼氏いない歴ですか?」

「そうね。処女よ」

ありす「そこまで聞いてませんよ! 昼間からなに言ってるんですかあなたは!」

「ありすちゃん、声が大きいわ」

ありす「誰の所為ですかっ!!」



7 : 以下、名... - 2016/03/06 12:35:28.96 71zAMzST0 6/26


「そういうありすちゃんは経験あるのかしら?」

ありす「え? いや……ないですけど……」

「そうだと思ったわ」

ありす「私のことはいいんです!」

「そんなことを言っていると、あっという間よ?」

ありす「無駄に説得力がありますね……じゃなくて奏さんの話でしょう!」

「そうだったわね」




8 : 以下、名... - 2016/03/06 12:38:49.28 71zAMzST0 7/26


ありす「あれだけ恥ずかしいことを言っているなら、いっそのこと襲っちゃえばいいじゃないですか」

「とんでもないことを言い出したわね」

ありす「私ももう大人ですから」

「その割には顔が真っ赤よ?」

ありす「気のせいです」

「ふふっ、生娘じゃあるまいし」

ありす「生娘ですし、その言葉そっくりそのままお返しします」



10 : 以下、名... - 2016/03/06 13:04:38.56 71zAMzST0 8/26


「でも実際どうすればいいのかしら」

ありす「実はなんとなく原因はわかってるんですけどね」

「え?」

ありす「私たち何年の付き合いだと思ってるんですか」

「ありすちゃん……」

ありす「いいですか? 答えは簡単です。それは──」



─────
───




11 : 以下、名... - 2016/03/06 13:12:06.17 71zAMzST0 9/26


都内某所



P「奏。お疲れさま」

「お疲れさまPさん。今日の私はこの煌めく夜のように輝いていたかしら? 」

P「ああ。綺麗に輝いていたよ」

「ふふっ、ありがとう」





12 : 以下、名... - 2016/03/06 13:22:21.14 71zAMzST0 10/26


P「さて、最近は暖かくなってきたとはいえ、夜は冷えるからな。帰ろうか」

「もう。こんなに素敵な夜なのにムードがないのね。少しそこの公園でお話ししましょうよ」

P「ったく。少しだけだぞ?」



13 : 以下、名... - 2016/03/06 13:31:27.70 71zAMzST0 11/26


公園



P「缶コーヒー買ってきたけど、飲むか?」

「ありがとう。いただくわ」

P「ほい。奏はブラックだったな」

「う~ん、今日はそっちのミルク入りがいいわ」

P「お、珍しいな」

「たまには甘いものが恋しくなるのよ」




14 : 以下、名... - 2016/03/06 13:39:07.56 71zAMzST0 12/26


「ふぅ……温まるわね」

P「やっぱり寒いんじゃないか」

「ならPさんが温めてくれる? ……なーんて」

P「ははっ」



(ってこういうのが、いつものダメなパターンなのね……)




15 : 以下、名... - 2016/03/06 13:43:33.23 71zAMzST0 13/26



──



ありす『いいですか? 答えは簡単です。それは──』



ありす『ほんのちょっぴりの勇気です』




16 : 以下、名... - 2016/03/06 13:46:07.03 71zAMzST0 14/26


『勇気?』

ありす『はい。たぶん奏さんはいつも思わせぶりな態度を取っていますが、恥ずかしがって、そこから先に踏み込めていないんだと思います』

『そんな……恥ずかしがってなんかいないわよ』

ありす『恋愛映画も観れないのに、何を言ってるんですか』

『うっ……』




18 : 以下、名... - 2016/03/06 14:03:46.33 71zAMzST0 15/26


ありす『だから、あと少しだけ頑張ってみてください。そうすればいくら鈍感なプロデューサーでもきっと』

『そうね……頑張ってみるわ。というか、ありすちゃんも本当に大人になったわね』

ありす『まぁ、文香さんに借りた恋愛小説の受け売りなんですけどね』

『ふふっ』

ありす『奏さんは私よりも大人なんですから、しっかりしてください』

『はい……精進します』




19 : 以下、名... - 2016/03/06 14:07:31.35 71zAMzST0 16/26


ありす『では明日はプロデューサー同行で撮影ですよね? 頑張って決めてきてください』

『え? 随分いきなりね……』

ありす『だから、そういって10年経ってるじゃないですか』

『わ、わかったわ。頑張ります』

ありす『はい。その意気です!』




20 : 以下、名... - 2016/03/06 14:10:30.06 71zAMzST0 17/26


──




(そう。昨日ありすちゃんに言われたように、ほんのちょっぴりの勇気を……)



P「奏? どうしたんだ?」

「な、なんでもないわ」

P「そうか?」




21 : 以下、名... - 2016/03/06 14:12:47.76 71zAMzST0 18/26


「…………」

P「…………」



「ねぇ、Pさん……」

P「なんだ?」

「やっぱり……少し冷えちゃったみたい」

P「それじゃあ、そろそろ帰ろうか」




22 : 以下、名... - 2016/03/06 14:15:39.42 71zAMzST0 19/26


「……待って」

P「ん?」

「その……Pさんに温めて貰いたいな……って」

P「またそういってからかって……」

「…………」

P「……奏?」




23 : 以下、名... - 2016/03/06 14:20:56.24 71zAMzST0 20/26


「…………」

P「どうした? いつもと様子が……」



「…………」

P「奏……」




24 : 以下、名... - 2016/03/06 14:28:55.26 71zAMzST0 21/26


ギュッ



「Pさん……」

P「どうだ? あったかいか?」

「ええ……」

P「いつもは顔を真っ赤にしてはぐらかすのに、今日はどうしたんだ?」

「ほんのちょっぴり、勇気を出してみただけよ」

P「そうか」






25 : 以下、名... - 2016/03/06 14:39:53.99 71zAMzST0 22/26


「やっぱり私、いつも顔に出てたかしら?」

P「そうだな」

「だから手を出さなかったの?」

P「……俺も結構初心なんだよ」






26 : 以下、名... - 2016/03/06 14:47:32.66 71zAMzST0 23/26




「ねぇ? 唇も……少し寂しいわ……なーんて」





27 : 以下、名... - 2016/03/06 15:02:52.69 71zAMzST0 24/26


唇と唇が触れ合う。

さっきの缶コーヒーかしら?

彼の唇は少しキリッとしていて、

私の唇はミルクの柔らかさが。

それが混ざり合い、まるでカプチーノのようで。



ほのかに甘い味がした。






28 : 以下、名... - 2016/03/06 15:07:43.13 71zAMzST0 25/26


───




ありす「それで、昨日はどうだったんですか?」

「ありすちゃんのお陰でばっちりよ」

ありす「橘です。ですが、おめでとうございます」

「ありがとう。ありすちゃん」

ありす「別にいいですよ、それくらい。私もいい加減あなた達の関係には飽き飽きしていましたからね」








29 : 以下、名... - 2016/03/06 15:17:35.36 71zAMzST0 26/26


「そんなことを言っても、本当はありすちゃんが優しいのはわかってるわよ」

ありす「だから橘です」

「お礼をしないといけないわね」

ありす「見返りを求めていたわけではないですから」

「そう? せっかく苺味の──」

ありす「え?」

「苺味のキスを用意したのに♪」

ありす「ちょっと奏さん! やめてください! 私にはまだキスなんて! 奏さん!」






終わり





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