1 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:19:00.98 Y92MKskE0 1/99

このSSはシンデレラガールズの二次創作です

登場人物:高森藍子 , プロデューサー , 他

元スレ
藍子「山での遭難と、『幸せを拾う冒険』」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454555940/

2 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:19:25.61 Y92MKskE0 2/99


「大変なことになった」

「まさか・・・・」









「山の真ん中で遭難しちゃうなんて」

藍子「ど、どうしましょう、プロデューサーさん」アタフタ

「・・・・藍子と二人で」

3 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:20:07.48 Y92MKskE0 3/99

―――数日前・事務所にて―――

ちひろ『△△日、プロデューサーさんと藍子ちゃんには』

ちひろ『京都でお仕事してもらいます』

藍子『わかりましたっ』

『わかってます』

莉嘉『えー! Pくん京都いくの!?』ササッ

『莉嘉? うん、そうだけど』

莉嘉『じゃあじゃあ~! 八つ橋、お願いね☆』

『八つ橋? もちろん、いいけど』

莉嘉『ワーイ☆』

アーズルーイ!

ワイワイ…アタシモー…

『わかった、わかった。メモとるから順番に頼むよー』

4 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:20:36.58 Y92MKskE0 4/99

ガヤガヤ…

ちひろ『プロデューサーさん、大忙しですね~』

藍子『お土産買うときは、私もお手伝いします』

ちひろ『藍子ちゃんは自分用のお土産とか決めてるんですか?』

藍子『えーっと』

藍子『・・・・』

藍子『そのときに、見て決めますっ』フフッ

ちひろ『私のお土産もよろしくお願いしますね』フフッ

……

…………

5 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:21:16.73 Y92MKskE0 5/99

「京都に着き、お仕事も無事に終わって、」

「一泊した後、夕方の新幹線で戻る・・・・」

「はず、だったんだけど・・・・」

6 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:22:14.12 Y92MKskE0 6/99

スタッフ『知ってますか? あの山を登った先に、社とすっごく美味しい水があるんですよ』


「・・・・」

「多分、教えてくれた場所が間違ってたと思う」

「登ってみたら何もなさそうで、戻ろうとすると複雑かつ分岐多し」

「気づけば遭難、圏外ピンチ」

「・・・・」






「藍子・・・・ほんと、ごめん」ズーン

「迂闊だった・・・・」

藍子「お、落ち込まないでください!」

藍子「登ろうと決めたのは、私もですからっ」

藍子「・・・・」

藍子「私も、歩いた道をしっかり覚えるべきでした・・・・」ズーン

7 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:23:01.02 Y92MKskE0 7/99

藍子「・・・・」

「・・・・」

…………

…………

「・・・・過ぎたことは後にしよう」

藍子「・・・・はい」

「この状況を何とかしよう!」

藍子「・・・・はい!」

8 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:24:05.89 Y92MKskE0 8/99

藍子「でも、どうするんですか?」

「・・・・」

藍子「"遭難したときは、じっとしたほうがいい"」

藍子「そう聞いたことが、ありますけど・・・・」

「いや、まだ明るいし天候も悪くないから」

「見晴らしのいいところまで登っていこう」

藍子「・・・・!」

藍子「登るんですね」

「下りたい気持ちになるけど・・・・」

「向かうべき先がわかれば、何とかなると思うんだ」

「それに、電波が通じない場所にじっとするのも危険だからね」

9 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:25:01.47 Y92MKskE0 9/99

「それじゃあ、行こう」

藍子「はいっ」

「緩やかな斜道だけど、足場や滑りには気をつけて」

藍子「わかってます」

ザッザ…

ザッザ…

10 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:25:56.44 Y92MKskE0 10/99

ザッザ…

「・・・・」

ザッザ…

藍子「・・・・♪」

……

…………

11 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:27:28.54 Y92MKskE0 11/99

ザッザ…

藍子「あのっ」

藍子「ちょっとした好奇心ですけど」

「うん?」

藍子「下っていたら、どうだったんでしょう」

12 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:28:06.10 Y92MKskE0 12/99

「うーん。俺もくわしくないから・・・・」

藍子「川っぽいのが流れていましたから、それに沿っていったら・・・・」

「出口に着くなんてことも?」

藍子「はい」

「たしかに着ける気もするんだけど」

藍子「あっ、でも! 登るほうが、正しいと思いますっ」

藍子「もしかしたら山の中の湖に繋がっていて」

藍子「山の真ん中に到着・・・・なんてこともありえますから」

「・・・・!」ハッ

藍子「プロデューサーさん?」

13 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:28:45.49 Y92MKskE0 13/99






「藍子・・・・」





「えらい!」

藍子「ええっ!?」

「そこまで考えが回るなんて、スゴい!」

「さっすが藍子! あっははは!!」アハハハ

藍子「プロデューサーさん・・・・?」キョトン

14 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:29:46.26 Y92MKskE0 14/99

「・・・・」

「いや、まあ・・・・」

「じつは登るのが正しいか半信半疑だったんだ」

「でも、決心がついた」

「見晴らしのいい所まで登って、出られる場所を見つけよう!」

「・・・・湖か、考えもしなかった」ボソッ

「ありがとう、藍子」

藍子「い、いえっ、たいしたことないですっ」

藍子「・・・・」

藍子「私だけだったら、登ろうとするかな・・・・」

藍子「・・・・」

藍子「プロデューサーさんの方が、すごいですっ」

15 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:30:56.47 Y92MKskE0 15/99


ザッザ…

ザッザ…

「それにしても、山がこんなに静かなんて」

藍子「プロデューサーさんは、どのようなのと思ってたんですか?」

「蝉の音がイヤほど鳴り響いて」

藍子「いま、夏じゃないですから」フフッ

藍子「それに、静かですけど・・・・」スッ

チュン……チュン…

チョロチョロチョロ……

―――……-……

16 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:31:48.60 Y92MKskE0 16/99

藍子「鳥さんの鳴き声、聴こえます」

藍子「水の音も、風の音も」

「自然の音、か」

藍子「プロデューサーさんも聴いてみてください」

藍子「ゆったりした気持ちになれますよ」

17 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:32:37.50 Y92MKskE0 17/99

「・・・・そうだね」

「歩いているだけじゃ、気も滅入ってきちゃう」

「道中、気持ちラクにいこう」

藍子「はいっ」

ザッザ…

ザッザ…

18 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:33:53.51 Y92MKskE0 18/99

藍子「プロデューサーさん、後ろ見てくださいっ」

「山というより、森の中って感じだ」

藍子「・・・・」パシャリ

藍子「せっかくですから、撮っておきますっ」

「それじゃ、藍子が映ってるのも撮っていい?」

藍子「プロデューサーさんのも撮らせてくださいね?」スッ



パシャリ

19 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:34:46.49 Y92MKskE0 19/99


ザッザ…

「・・・・♪」

ザッザ…

藍子「・・・・♪」

20 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:36:09.16 Y92MKskE0 20/99

「あっ」ピタッ

藍子「どうかしました?」

「あそこ、足場が崩れてる」

藍子「踏み外したりしたら・・・・」

「急だから、下まで転がり落ちるね」

「念のため、あそこまでも慎重に」

藍子「は、はい」

ススッ

ススッ

…………

藍子「ここから、どうするんですか?」チラッ

「・・・・」

21 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:36:57.98 Y92MKskE0 21/99


「・・・・」





「よっと」ヒョイ

藍子「プロデューサーさん!?」



スタッ

トトッ…

「・・・・よし」グッ

藍子「よし、じゃないです!」

22 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:37:49.41 Y92MKskE0 22/99

藍子「い、い、いきなり『ヒョイ』って飛ばないでください!!」

「足を伸ばすだけじゃ無理かなって思って」

藍子「あぶないですっ」ムッ

「うっ・・・・」

「・・・・ごめん」

藍子「・・・・」

藍子「何事もなくてよかった・・・・」ボソッ

23 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:39:33.24 Y92MKskE0 23/99


スッ

「さ、次は藍子だ」

「手を伸ばして。掴んで、勇気を出して飛んで」

「引っ張って、抱き止めるから」

藍子「わ、わかりましたっ・・・・」

…………

藍子「・・・・」

藍子「すこし・・・・待ってください」

「うん」

藍子「・・・・」スー…ハー…

24 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:40:25.85 Y92MKskE0 24/99


藍子「プロデューサーさん」

藍子「ぜったいに、離さないでください」

「腕がなくなっても、離さない」

藍子「それ、ヘンです」フフッ

「それくらいってこと。安心して」

藍子「・・・・」

藍子「藍子、いきますっ」

25 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:41:33.98 Y92MKskE0 25/99


スッ(Pの手)

「・・・・」

藍子「・・・・」

スッ(藍子の手)

藍子「・・・・」

「・・・・」



ギュッ

26 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:42:14.50 Y92MKskE0 26/99




藍子「・・・・っ!!」ピョンッ



「!!!」グイッ



27 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:43:09.38 Y92MKskE0 27/99

ダキッ!!



「・・・・」



藍子「・・・・」



…………

28 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:43:47.31 Y92MKskE0 28/99


…………

藍子「・・・・ぁ」ハッ

「よかった。何事もなかった」

藍子「は、はい・・・・」

スッ

藍子「あ・・・・ありがとうございます・・・・」

藍子「・・・・」

29 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:44:39.62 Y92MKskE0 29/99


ザッザ…

「藍子、疲れた?」

藍子「大丈夫ですよ」

「疲れたらいつでも言って。危なくない場所なら、背負うから」

藍子「背負う・・・・?」

「? おんぶのことだけど」

藍子「・・・・」

藍子「だ、大丈夫ですっ」

「ダメなときは、遠慮せず言うんだよ」

30 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:45:33.61 Y92MKskE0 30/99


ザッザ…

「・・・・♪」

ザッザ…

藍子「・・・・」

31 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:46:49.24 Y92MKskE0 31/99


ザッザ…

藍子「あっ!」

「道路が見える!」

藍子「あそこから、道路に出れますよね?」

「うん」

「道路があるということは、あの道路に従っていけば・・・・」

藍子「下山できるかもしれないです」

「・・・・よし」

「ちょっと危ないけど、少し下りて真っ直ぐ向かおう」

藍子「はいっ」

32 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:47:24.47 Y92MKskE0 32/99


……

…………

………………

33 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:47:59.63 Y92MKskE0 33/99

スタッ

「アスファルトの感触、なんだか懐かしい」ハハッ

藍子「さっきよりは、安心ですね」

「あ、そうだ」ピッ

「・・・・」

「うん、電波もつながってる。位置情報も・・・・うん」

「それじゃ、この道路を下りていこう」

藍子「はいっ」

34 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:49:26.29 Y92MKskE0 34/99


トテトテ…

藍子「・・・・」

トテトテ…

藍子「・・・・っ」

「・・・・」

35 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:50:16.52 Y92MKskE0 35/99

「藍子」

藍子「な、なんですか・・・・?」





スッ

「はい」しゃがむ

藍子「えっ・・・・」

36 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:52:25.43 Y92MKskE0 36/99

「足、痛いんだろ?」

藍子「・・・・」

「遠慮しない」

藍子「・・・・」

藍子「・・・・すみません、プロデューサーさん」

「気にしないでいいよ。こっちこそ、すぐ気づけなくてゴメン」

37 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:53:40.97 Y92MKskE0 37/99

ヒョイッ

藍子「重い、ですか?」

「翼を得た感じ」

「それより、しっかり捕まって」

藍子「はい」ギュッ

テクテク…

テクテク…

「揺れてない?」

藍子「快適です♪ プロデューサーさん」

38 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:54:58.57 Y92MKskE0 38/99


テクテク…

「・・・・」

テクテク…

藍子「・・・・」

39 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:56:00.91 Y92MKskE0 39/99


テクテク…

「だいぶ暗くなってきた」

藍子「そうですね」

テクテク…

テクテク…

40 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:56:45.18 Y92MKskE0 40/99

テクテク…

テクテク…

藍子「・・・・」

藍子「・・・・アツい・・・・です」ボソッ

「まさか熱!?」ビクッ

藍子「あっ、そうじゃないです。頭も痛くありません」

「ほんとう?」

藍子「ほんとうです」

「ほっ・・・・」テクテク

藍子「・・・・」ギュッ

41 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:57:40.36 Y92MKskE0 41/99


テクテク…

「・・・・」

テクテク…

藍子「・・・・」

42 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 12:59:27.15 Y92MKskE0 42/99

テクテク…

テクテク…

藍子「・・・・」

藍子「あの、プロデューサーさん」

「なに?」

藍子「ヘンなこと・・・・聞いてもいいですか?」

「遠慮なく」

テクテク…

43 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:00:57.11 Y92MKskE0 43/99

藍子「私、お仕事ちゃんとできてますか?」

「今日の仕事は大成功だったよ」

藍子「今日だけじゃなくて・・・・」

藍子「・・・・」

藍子「・・・・ときどき、不安になるんです」

「不安?」

44 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:01:44.52 Y92MKskE0 44/99

テクテク…

藍子「まだアイドルとした始まったばかりですけど・・・・」

藍子「これから、上手くやっていけるかどうか・・・・」

藍子「・・・・私は、プロデューサーさんの・・・・」

藍子「・・・・」

藍子「私、普通の子です・・・・」ギュッ

「・・・・」

テクテク…

45 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:02:32.62 Y92MKskE0 45/99



「・・・・」


「前、スカウトした時にも言ったけど・・・・」


46 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:03:04.80 Y92MKskE0 46/99

「普通、普通じゃない。そういうのは、どうでもいいんだ」

「藍子は、アイドルとしての可能性に満ちている」

「初めて会ったとき、スカウトしたい衝動に駆られるほど」

テクテク…

「確信に満ちた、何かだった」

「お仕事もしっかりできている。藍子は、これからもっともっと輝いていく」

「・・・・確信は続いてるよ」

47 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:04:21.03 Y92MKskE0 47/99

「それに・・・・」ピタッ

「もし、藍子が躓いてしまうことがあっても」

「俺が支える。必要なら、背負って歩いてあげられる」

藍子「・・・・」

「だから・・・・」

48 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:04:56.86 Y92MKskE0 48/99


「一緒に、頑張ろう」テクテク

藍子「・・・・」

藍子「・・・・はいっ」ギュッ

テクテク…

49 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:05:33.32 Y92MKskE0 49/99


テクテク…

「・・・・」

テクテク…

藍子「・・・・」ウトウト

50 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:06:23.51 Y92MKskE0 50/99


テクテク…

テクテク…

…………

「けっこう長いな、この道路・・・・」

「藍子、もうちょっとの辛抱―――」







「―――藍子?」







藍子「・・・・すー・・・・すー・・・・」

「・・・・寝ちゃったか」

51 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:07:07.18 Y92MKskE0 51/99


テクテク…

「いよいよ夜だ・・・・」

テクテク…

52 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:07:44.40 Y92MKskE0 52/99


テクテク…

「・・・・」

テクテク…

藍子「すー・・・・すー・・・・」

53 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:08:30.57 Y92MKskE0 53/99


テクテク…

「・・・ぼーくはー・・・」

「どうしてー・・・おとなにーなるんだろうー・・・♪」

テクテク…

54 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:09:17.87 Y92MKskE0 54/99


「ああ・・・ぼくはー・・・」

「いつごろー・・・」

「おとなにー・・・なるんだろうー・・・♪」

テクテク…









藍子「・・・・」

55 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:09:51.03 Y92MKskE0 55/99


……

…………



「・・・・あ」

「あそこの家、明かりがついてる・・・・!」

56 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:11:04.67 Y92MKskE0 56/99

―――木造の民家―――

コンコン

ガラッ

「失礼します!」

「ん?」

「ああ、よかった」

「あの、じつは山で遭難してしまい・・・・」

「遭難?」

「そうなんです」

「・・・・」ジー

「それは災難だったね」ハハハ

「事情はわかった。ひとまず、お嬢さんを座らせてあげなさい」

「ありがとうございます」

57 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:12:13.67 Y92MKskE0 57/99

「藍子ー」ユサユサ

藍子「起きてますよ、プロデューサーさん」

「あっ、そうだったんだ」

「・・・・降ろすよ?」

藍子「どうぞっ」

スタッ

藍子「おじいちゃん、ありがとうございます」ペコリ

「なんの、なんの」

58 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:13:21.49 Y92MKskE0 58/99

トットットッ…

「アンタ、どうしたんだい?」

「遭難者だと。バーサン、地図どこにやったっけか」

「アンタに預けたじゃない」

「そうだっけ?」

「たしか二階じゃなかった?」

「探してくる」トットットット

59 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:14:30.48 Y92MKskE0 59/99

スタスタ…

「災難だったわねー。お茶淹れてあげる」

藍子「えっ、お、おかまいなくっ」アタフタ

「遠慮しないの。その遠慮は幸せが逃げるよ」

藍子「・・・・」

藍子「いただきますっ」ペコッ

60 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:15:51.02 Y92MKskE0 60/99


…………

「アンタ、どっから来たんだい?」ズズッ

藍子「えっと、山で遭難して・・」

「そうじゃなくて、元々の」

藍子「あっ。それなら・・・・」

…………

「へぇ~アイドル! たしかに可愛いもんねー」

藍子「そんな、私なんて全然」

「まあハッと驚くような感じじゃないね」

藍子「あはは・・・・はい」ズズッ

「驚かないけど、可愛い。可愛いよ、アンタ」

藍子「・・・・!」

藍子「て、照れますっ・・・」ズズッ



「地図あったぞー」トットット

「藍子はそのまま休んでて」スタスタ

藍子「はいっ」

61 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:16:39.37 Y92MKskE0 61/99


…………

「うちは・・・・ここだね・・・・」

「なるほど、わかりました・・・・それじゃあ・・・・」

…………

「サイン頂戴!」

藍子「わ、私のですかっ?」

…………

62 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:17:45.09 Y92MKskE0 62/99


…………

「せっかくだ。ウチの車で送ってあげるよ」

「よろしいのですか?」

「ここに行きたいんだろ? 車で行ったほうがダンゼンいい」

「近くのバスも、今日は終わっているんだ」

…………

藍子「いつか放送されると思うので、よろしくお願いします」

「その番組、予約しなきゃ」メモメモ

…………

63 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:19:16.65 Y92MKskE0 63/99

―――民家・入口―――

「助かります。ありがとうございます!!」ペコリ

「こんな場所にいると退屈なもんでね。こっちとしても、楽しい!」



藍子「おばあちゃん、ありがとうございましたっ」

「いーのよ! とっても楽しかったし、もうファンになっちゃった」

藍子「私も楽しかったですっ」ニコッ

「はぁん、可愛いわ~」ウットリ

「ほれ、乗った乗った」

64 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:20:03.68 Y92MKskE0 64/99


バタンッ

「よーし、行くぞー」

ブロロロロロロロ…





……


…………

65 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:20:37.23 Y92MKskE0 65/99

…………


藍子(こうして・・・・)

藍子(私とプロデューサーさんは、無事に宿へ戻ることができました)

66 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:21:13.07 Y92MKskE0 66/99



…………


…………


…………


―――翌日―――


67 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:22:08.57 Y92MKskE0 67/99

―――民家―――

コンコン

ガラッ

「失礼します」

藍子「失礼しますっ」

「おやおや、昨日の!」

「昨晩は、本当にありがとうございました」ペコリ

「本日は、あらためてお礼に伺いに来ました」

「まあまあ私のキューティーハニー!」ニコニコ

藍子「おばあちゃん、こんにちはっ」ニコッ

…………

68 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:23:07.27 Y92MKskE0 68/99

―――道路―――

テクテク…

テクテク…

「足の方は大丈夫?」

藍子「はいっ、全然、へっちゃらですっ」

「しかし、言われたときは驚いたよ。お礼に行くのは考えていたけど」

「昨日の道路をお散歩したいなんて」

69 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:24:23.39 Y92MKskE0 69/99

藍子「昨日は災難でしたね」

藍子「終わって、無事だったから、もう思い出になってますけど」フフッ

「川沿いに下ると危険って、おじいさんに教えてもらったときは背筋が凍ったよ」

藍子「私もですっ」

「何も知らない人は、焦って下りそうだ」

「山の遭難とは、恐ろしい・・・・」

藍子「お互い、無事でよかったです」

「まったく。もう二度とこんな事にならないよう、肝に銘じます」

70 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:25:29.96 Y92MKskE0 70/99

テクテク…

テクテク…

「足場のときは、正直かなり怖かった」

藍子「私も怖かったです。足なんて、震えてました」

「何か起きるんじゃないかと心配で仕方なかった」

「でも絶対に何事も起こさない。その気持ちだったよ」

藍子「あのときは、思いっきり抱きついちゃって・・・・」

藍子「・・・・」

藍子「い、いま思い出すと、恥ずかしいですね・・・・」

「? そうかな」

「無事に渡れたー! って安心が大きかったけど」

藍子「・・・・あはは」

藍子「そうですね。私も、ほっとしました」

71 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:26:20.65 Y92MKskE0 71/99

「道路が見つかったのは本当によかった。あとは下るだけだったから」

藍子「背負ってくださって、ありがとうございます」

「お礼されることじゃないよ」

「あのまま藍子を歩かせる方が、ツライ」

72 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:27:03.12 Y92MKskE0 72/99


テクテク…

「・・・・」

テクテク…

藍子「・・・・」

73 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:27:45.48 Y92MKskE0 73/99

「あの山の音も、昨日のことなのに恋しくなる」

藍子「また山に登る機会があれば、聴けますよ」

「そうだね。今度は、遭難しない形で」

藍子「そうですね」

74 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:28:25.04 Y92MKskE0 74/99

テクテク…

テクテク…

藍子「あっ、ここから山に入れますね」

「俺たちが出たのは、もっと先だった気がする」

藍子「いろんなところから道路に出られるんですね」

「おかげで、俺たちは助かった」

75 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:29:11.93 Y92MKskE0 75/99


……

…………

………………

76 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:29:48.94 Y92MKskE0 76/99


…………

「よし、そろそろ戻ろうか」

藍子「はいっ」

藍子「・・・・」









藍子「あの、プロデューサーさんっ」

「ん?」

77 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:30:37.10 Y92MKskE0 77/99



藍子「昨日、歌っていたのって・・・・」



藍子「何の、歌ですか?」


78 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:32:37.35 Y92MKskE0 78/99

「起きてたんだ」

藍子「ご、ごめんなさい」

「気にしないで。聴かれてもよかったし」

「・・・・まあ、聴くに堪える歌声じゃないけど」

藍子「ふしぎな歌詞でした」

「昔アニメで主題歌になった曲で、有名だよ」

「・・・・」

79 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:33:15.79 Y92MKskE0 79/99


「・・・~♪」

「ぼーくはー・・・♪」

「どうしてー・・・おとなにーなるんだろうー・・・♪」

80 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:33:53.84 Y92MKskE0 80/99


…………

…………

「子供の頃、同じように山で遭難してことがあってね」

「滑り落ちて、川沿いに下って、真っ暗になる直前に脱出できた」

「いま思えば、奇跡としかいいようがない」

81 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:34:42.84 Y92MKskE0 81/99

「でも・・・・遭難してる間、まったく焦ってなかったんだ」

「それどころか、ワクワクしていた」

「冒険している気分だった」

82 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:35:39.51 Y92MKskE0 82/99

「自分が死ぬかもなんてカケラも思わず、絶対に出られると決めつけて」

「昨日と同じように、歌をうたいながら下っていった」

「歌詞の意味なんて、まったくわかってなかったけど」

「すごく好きだった歌を、うろ覚えで」

83 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:36:38.85 Y92MKskE0 83/99


藍子「・・・・」

「昨日、藍子を背負いながら下りている時、それを思い出してね」

「つい、歌っちゃった」

「でも歌ってるときの気分はまるで違ったよ」

「昔みたいに考えなしの無敵じゃない。大切なものも背負っていたから」

藍子「大切・・・・」

84 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:37:25.75 Y92MKskE0 84/99

「・・・・」

「・・・・ごめん、昔話をベラベラしゃべって」

「つまらなかったよね」

藍子「そんなことないですっ」

藍子「初めて聞きました、プロデューサーさんの過去」

「知ってるの、家族と同級生の親友と藍子だけじゃないかな」

「社長やちひろさんにも、話したことないから」

藍子「私だけ・・・・」

85 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:37:54.50 Y92MKskE0 85/99

藍子「・・・・」

「・・・・藍子、どうかした?」

藍子「・・・・」

藍子「なんでもありませんっ」フフッ

藍子「戻りましょう、プロデューサーさん♪」

86 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:38:56.43 Y92MKskE0 86/99

―――民家―――

「よかったら、また来てね」

「歓迎するぞ!」

藍子「おじいちゃんも、おばあちゃんも、お元気で!」

「お礼は藍子ちゃんのサインで十二分よ」

「大事にするわね」ニコニコ

「おばあさん、そのサインは、いずれ誰にとってもすっごい価値のあるものになりますよ」

「自分が保証します」

87 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:40:01.12 Y92MKskE0 87/99


テクテク…

「・・・・♪」

テクテク…

藍子「・・・・♪」

88 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:41:25.94 Y92MKskE0 88/99


―――バス亭―――

藍子「バス・・・・まだ来てませんね」

「来る時間調べるから、そこで座ってて」

藍子「はいっ」ストン

「・・・・」スタスタスタ…

89 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:42:22.28 Y92MKskE0 89/99


……エート、アトナンプンデ……

藍子「・・・・」











藍子「ああ・・・ぼーくはー・・・」

藍子「いつごろー・・・」

藍子「おとなにー・・・なるんだろうー・・・」





藍子「・・・・」

藍子「ふふっ」

90 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:43:25.46 Y92MKskE0 90/99



……


…………


………………


藍子(・・・・これで、)

藍子(これで、私とプロデューサーさんの二日間はおしまいです)

91 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:43:53.54 Y92MKskE0 91/99


藍子(あの出来事は、きっと、もう二度と体験することはないと思います)

藍子(あったとしても、それは別の出来事で、同じ体験ではないはず)

藍子(だから、とても大切な思い出ですっ)

92 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:45:17.43 Y92MKskE0 92/99


藍子(・・・・)

藍子(あの日の、道路のお散歩は・・・・)

藍子(その大切な思い出を、落し物にしないための時間でした)

藍子(災難の中で感じたモノを、忘れず拾っておくため)

藍子(プロデューサーさんと一緒に、てくてく歩いていって・・・・)

93 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:45:54.38 Y92MKskE0 93/99


藍子(幸せを拾う、冒険の後の冒険・・・・です)

94 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:46:38.16 Y92MKskE0 94/99



……


…………


………………


95 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:47:20.58 Y92MKskE0 95/99


藍子(あっ、そうそう)

96 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:48:39.41 Y92MKskE0 96/99

―――事務所―――

ガチャリ


藍子(あの出来事は忘れませんけど)


「ただいま戻りました!」

藍子「ただいまですっ」

ちひろ「二人とも、おかえりなさい!」

みんな「おかえりー!」



藍子(お土産だって、忘れてませんよっ)



藍子「はい! お土産っ!!」ジャーン

みんな「やったー!!」ワー





藍子(みんな、幸せな気持ちです♪)

97 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 13:53:05.31 Y92MKskE0 97/99

これでおわりです。

読んでくださった方には感謝しかありません。
ありがとうございます!!

100 : 以下、名... - 2016/02/04 19:57:45.37 cnAl5KHwo 98/99

おつおつ
川下っていくと危険ってのはなんでなんだろう

101 : ◆j9PpoLUi2w - 2016/02/04 21:39:29.65 Y92MKskE0 99/99

>>100
場所次第ではありますが、川の先が滝(崖)だったり、出口につながってなくて森の中で迷う危険もあるのが大きいです
行き止まりだったり迷い続けると精神に余裕がなくなって、無理して事故るケースが目立っているみたいです

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