1 : ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 21:46:58.08 A39YavOz0 1/227

●注意●
・短編形式
・日常系SS
・のあさんのキャラ、口調、クールなイメージが『著しく』崩壊します
・独自解釈している点が多々ありますので、ご了承下さい
・雑談はご自由に

●登場人物●
高峯のあ、他
qZOoGJP


元スレ
高峯のあ「牛丼並……4つでいいかしら?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479041217/

2 : ☆1/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 21:49:17.19 A39YavOz0 2/227


━━━━━━━━━━
【吉野家・テーブル席】








時子「………………」










のあ「……」

「」

泰葉「(な、な、なっ……!)」

泰葉「(何でですか!?)」

泰葉「(なんであの時子さんが相席にいるんですか!! 高峯さん、聞いてませんよ私達!?)」アセアセ

「(メールで急に『奢るから、吉野家に泰葉と二人で来て頂戴』と連絡があったと思ったら……)」

「(い、一体何があったんですか、のあさん? この緊迫した状況は)」

のあ「(………………)」

&泰葉「……」

のあ「(……………………)」

泰葉「(喋って下さい。本当に帰りますよ私達)」スッ

のあ「(ゴ……、ごめんなさい。放心してたわ)」

のあ「(いつも通りに帰りに吉野家に出向こうとしたら……)」

のあ「(吉野家の扉の前で時子が張っていた。果たし状を送りつけ、今か今かと宿敵を待つヤンキーの如く)」

「(な、何故時子ちゃんが吉野家に……)」

のあ「(それで、目が合ったら物凄い剣幕で接近されて……、その……)」




~~~~~~~~~~
時子『……お腹空いてないかしら、貴女』

のあ『ハヒッ……す、空いてまスッ……!!』
~~~~~~~~~~




のあ「(……って)」

「(完全に委縮してる……)」

泰葉「(し、仕方ないですよ。時子さんが相手だったら誰だってそうなります、私だってそうなります)」

泰葉「(しかも、時子さんは事務所での言動からして女王気質というか、唯我独尊、利己的。部類的にはかなり難しい性格の方)」

泰葉「(特に今回のようなケースだと、その真意を測りかねるというか、私達もどう動いて良いのやら)」

時子「………ちょっと」

のあ「ヒッ……!」ビクッ

「ヒッ……!」ビクッ

泰葉「ヒッ……!」ビクッ

3 : ☆2/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 21:50:33.55 A39YavOz0 3/227


「(と、とにかく! 普通に接しましょう!)」

「(彼女の機嫌を損なわせるそれ即ち、全人類に長期戦を覚悟させる事態になります)」

のあ「(……慎重に行きましょう。一つの選択肢のミスが死を招くわ、凄惨な終焉を)」

泰葉「(アナタ達は時子さんをむき出しの核兵器か何かと勘違いしてませんか!?)」

時子「………ねえったら」

泰葉「は……、ハイハイっ。なんですか時子さん?」

時子「………注文は?」

泰葉「ッ! (注文か。良かった、至極当然の要求)」フー

泰葉「(……高峯さん)」チラッ

のあ「(……ええ。任せて)」チラッ

のあ「ス……、すみません。注文を」

店員「あっはい。お伺い致します」

のあ「牛丼並……4つでいいかしら?」

泰葉「あ、ハイ。私も同じ物で」

「私も同じでお願いします」

時子「………私もそれでいいわ」

店員「はい、少々お待ちください」スッ

のあ「………」

泰葉「………」

「………」

時子「………」

のあ「………………」

泰葉「………………」

「………………」

時子「………………」

のあ「(…………)」

のあ「(…………帰りたい)」

「(ヤ、泰葉ちゃん……何か喋って、盛り上げてさしあげて)」

泰葉「(や、やめてください! ………………本当にやめてください)」

時子「(………)」

4 : ☆3/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 21:51:56.13 A39YavOz0 4/227


━━━15分後━━━


泰葉「(……というか、注文すこし遅くないですか?)」

「(緊張で胃袋が口からボロンと出そうです……)」

店員「お待たせいたしましたー」

泰葉「(あっ、来た)」

店員「コチラ、ご注文の───」







店員「牛丼並、16杯になります」

店員B「お待たせいたしましたー」

───ゴトッ!






泰葉「(───ッッ!?)」

店員「ご注文は全てお揃いでしょうか?」

のあ「ハ……はい」

泰葉「!?」

店員B「ごゆっくりどうぞー」スタスタ

のあ「……………………」

時子「……」

のあ「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………やすは………っ」チラッ

泰葉「(な、涙目っ!!)」

時子「………泰葉?」

泰葉「ハ、ハヒッ……!?」ビクゥ!

泰葉「わ……、分りましたっ……私が、何とかしますから」

時子「…………」

泰葉「(な、何故16杯分も頼んだことになっているかは、ほとほと疑問ですが……)」

泰葉「(というか、こういう場合って店員は一度復唱するべきでは? 普通では有り得ないでしょう、4人で16杯なんて。俗な観察番組でもあるまいし)」

泰葉「(まあ、過ぎたことをあれこれ考えても仕方ない。オーダーミスとしてこのまま食べずに返品すれば良いだけの話……そもそも店員の取り違いなんだし。非は向こうに───)」

泰葉「(───えっ!?)」ギクッ

泰葉「と、時子さん!? 何で箸を付けてるんですか!?」ガタッ!

泰葉「しかも4つの器から少しずつ摘まんでる!? いや、牛臭いとか言ってる場合じゃなくて……!!」

泰葉「ッッ!?」

泰葉「ちょ、ちょっと二人とも!! いただきますのポーズ取ってる場合じゃないですよ!! ちょっと!!」

泰葉「いや、いやいやいや!! 私が何とかするっていうのは、『私が全部食べる』とかそういう意味じゃなくて!!」

泰葉「ちょっ……!!」

モグモグモグ
───カチャカチャ、パクッ


泰葉「ア……、アァ…………」

──────
────
──

5 : ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 21:52:42.33 A39YavOz0 5/227

※状況
JOaS9tF

6 : ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 21:53:31.92 A39YavOz0 6/227


ご近所
CBLWiYM

登場人物・前半
C0PkwdN

7 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 21:54:54.75 A39YavOz0 7/227

──
────
──────
【事務所】


のあ「『LIVEバトル』?」

P「ええ、そうです。初耳でしたか?」

のあ「(……)」

P「ソロ、またはユニットが複数単位で競合する形式のライブイベントですね」

P「足並みを揃える一般のライブとは違い、全面的に個性と個性のぶつかり合いです」

のあ「(……)」ボー

P「歌唱や踊りは勿論、演出家と相談して仕掛けや装置などの特殊効果で華を添えてもOKです」

P「とにかく相手より観客を魅了することを目標にして、磨き上げたパフォーマンスを披露します」

のあ「(……)」ボー

P「ですが安心してください。なにも『バトル』といっても、実際に得点や優劣を競ったりするわけではありません」

P「今では他事務所との合同イベントや、同事務所内でのバーターや、真剣勝負と銘打って実はあらかじめ掛け合いやプログラムが組まれてるなんて事も多々あります。3番目が特に多いですね」

P「形だけでも『競い合い』を念頭に置いているので、分かりやすい指標を明確にし努力の方向性も定まりますし、創意工夫のパフォーマンスで新たな一面を発掘できることもあります」

のあ「(……)」ボー

P「……LIVEバトルの相手は同じ事務所の木村夏樹・多田李衣菜のデュオです。ランクは遥かに上の相手……ですが」

P「ですが今回は、貴女の可能性に賭けて挑戦していきたいと思います」

のあ「(……)」ボー

P「……高峯さん? ここまでは良いですか?」

のあ「(───ハッ!?)」ビクッ

のあ「キ……聞いているわ」

のあ「世の縮図……美しく実る花も、剪定の元に成り立つ悲しき宿命」

のあ「弱肉強食……『たたかわなければ生き残れない』、という事ね」

26 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:28:21.47 A39YavOz0 8/227


━━━━夜━━━━
【岡崎家】


「(……♪)」パクッ

泰葉「LIVEバトルですか」

泰葉「へえー。それにまあまあな規模のハコですね」

のあ「……」

泰葉「どの方と一緒に歌うんですか? つまり、お相手は?」

のあ「……言ってなかったわ」

泰葉「(ふつう言わない筈はないと思うんだけど……ううん)」

「(泰葉ちゃん、天つゆ取って下さい)」サクサク

泰葉「(あ、ハイ)」

のあ「……」

泰葉「あのLIVEって、すごいですよね。パフォーマンス」

泰葉「特殊効果と演出が、もう派手なんですよ」

のあ「……そうなの?」

泰葉「はい。例えば……、そうですね」

泰葉「割と無茶な要望も叶っちゃうんです。幸子ちゃんは野外ライブでスカイダイビングを行い上空から登場。小梅ちゃんはスリラーさながらのゾンビダンサーを大勢率いてカオスなライブを」

のあ「(……)」

泰葉「アナスタシアさんはインスタントスノーを使った煌びやかな演出を。あとニューウェーブの3人は泉さんの立案でプロジェクションマッピングを披露したりもしてましたね」

泰葉「美世さんが車をステージ最上部から落下させたときなんて、ただの事故でしたよ」

のあ「……」

泰葉「まあ、無難に演出家さんに任せている人も大勢いますけど。というかそっちが普通です」

「(泰葉ちゃん、ソース取って下さい)」サクサク

泰葉「(あ、ハイ)」

泰葉「のあさんは、何か要望とかはあるんですか?」

のあ「……」

のあ「……今のところは見当も付かない」

のあ「詳しく、他の子の話を聞かせて頂戴。参考にするわ」

泰葉「ええ、いいですよ」

のあ「………蘭子は?」

泰葉「蘭子ちゃん? あー、蘭子ちゃんは……」

泰葉「確か、ワイヤーアクションですね。イントロと同時に会場が暗転して、スポットが当たったと思ったら天から堕天───」

のあ「決まったわ」

泰葉「───えっ?」

のあ「私の、演出が」

泰葉「……!?」

「(泰葉ちゃん、抹茶塩取って下さい)」サクサク


──────
────
──

27 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:29:02.99 A39YavOz0 9/227

──
────
──────
【事務所】


───ガチャ

蘭子「闇に飲まれよっ!」(訳:おつかれさまですっ!)

蘭子「フフ……万代不易の理は環(マワ)り、降臨(キ)たるインフェルノの鉄の火は煉獄の如く、凄烈に我が身を焦がさん」
(●訳:今日はとてもいい天気で、暖かいですね! もうすっかり春の陽気です♪)」

蘭子「桃園の空の下、時代(トキ)の反乱(ウネリ)に御旗を掲げ、奸雄達は夢を馳せん。手に盃を、口に蜜を、腹に剣を、舞う花弁は近き日の戦火の……」
(●訳:お花見の季節ですね! そう言えば大人の皆さんがお花見の計画を……)」

シーン…


蘭子「……むぅ?」

蘭子「我が朋友(トモ)、いずこに……?」(訳:あれ、プロデューサー? いないんですか??)」

蘭子「……」キョロキョロ




のあ「……」ジー



蘭子「(っ!?)」ビクッ

蘭子「ヒッ、ハ………た、高峯サンっ……!」

蘭子「ぃ、いい居たンデスネっ……」プルプル

のあ「(……)」

蘭子「(ハァー、ハァー……)」ガクガク

蘭子「(あ、相変わらず格好良いっ、けど、怖いぃっ! い、意識が……)」ガクガク

のあ「……」

蘭子「…………」プルプル

のあ「……蘭子」

蘭子「ヒッ!」

蘭子「ハヒッ……は、はいッ!!」ビシッ!




のあ「闇に、飲まれよう」(●訳:お疲れさま)」



蘭子「(!!!)」

のあ「(……)」

蘭子「あっ………」

蘭子「ぉぉぉ……、オッ、おおっ、おおおおつかれさ───」





のあ【───花風紊れて花神啼き……】

のあ【天風紊れて天魔嗤う───】

のあ【───花天狂骨───】






蘭子「(───!?)」

29 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:29:48.91 A39YavOz0 10/227


のあ「……」

───スタスタ


蘭子「ヒ、ひっ……」ビクッ!

のあ【───届かぬ牙に 火を灯す───】スタスタ

のあ【───あの星を見ずに済むように この吭を裂いて しまわぬように───】スタスタ


蘭子「ヘ……あ、アェ……?」プルプル


のあ【───黒白の羅 二十二の橋梁 六十六の冠帯 足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ───】スタスタ

蘭子「ナ、ニ、ヲ……イ、言ッテ……???」ガクガク

───スタスタ



のあ【───滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり 否定し 痺れ 瞬き 眠りを妨げる】


のあ【───爬行する鉄の女王 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ───】スタスタ





のあ【───破道の九十 『黒棺』───】





蘭子「」

───スタスタ


のあ【───君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ……】


───ズイッ!


蘭子「ウ、ア……ち、近………」

のあ「……」ジー

蘭子「タ、タカミ……ネ、サ…………」ガクガク

のあ「……」ジー

蘭子「ン」

蘭子「……きゅう」グラッ

───ドサッ!



のあ「っ!!!」

のあ「(ら、蘭子ちゃん!?)」バッ!

のあ「(……!?)」

のあ「(口から泡を吹いて気を失うなんて……な、何故!?)」ユサユサ

のあ「(せ、せっかく……)」

のあ「(せっかく頑張って、通じると思って……)」

のあ「(漫画で……それっぽい漫画で、いっぱい勉強したのに……っ)」グスッ

蘭子「」


──────
────
──

32 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:31:55.36 A39YavOz0 11/227

──
────
──────
【事務所 エントランス】


夏樹「……!」

夏樹「(ん)」

夏樹「(あっちから向かってくるのは、確か……)」



のあ「……」スタスタ



夏樹「……んんっ」

夏樹「お疲れさまです、高峯サン」

のあ「(!!!)」ピタッ

夏樹「っと……。そういえばアタシ、自己紹介してなかったか」

のあ「……」

夏樹「木村夏樹です。ヨロシクおねがいします」

夏樹「相棒と一緒にロックでクールに決めて、最高にアツいステージ目指してやってます」

夏樹「今度のライブも、お手柔らかに」

のあ「……」

夏樹「(……)」

のあ「……」

夏樹「あー……、そうだ、これ要ります? エナジードリンク」

のあ「……」

夏樹「今ウチら、このCMに起用されてて、事務所にノベルティ? 試供品? みたいのが余るほど置いてるんだよね」

夏樹「鞄の中にもさ、ホラ」ガシャッ

のあ「……」

夏樹「(……)」

のあ「………頂くわ」

夏樹「あ、ハイ」スッ

のあ「……ありがとう」

夏樹「……あ、ハイ」

───スタスタ


夏樹「(……)」

夏樹「(クールだなー。無口、無表情、無愛想? ていうか……)」

夏樹「(掴みづりー……)」










のあ「(……)」

のあ「(部外者のチーマーかと思った)」

のあ「(………殺られるかと思った)」ドキドキ

34 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:32:29.85 A39YavOz0 12/227


のあ「(大胆に上げた前髪が特徴的なあの子は、木村夏樹ちゃんかな)」

のあ「(事務所きってのロックアイドルだと涼ちゃんが言ってたわ)」

のあ「(あぁ……初対面にも厭わず挨拶してくるなんて、ロックだわ。伊達にギターは弾いてないってカンジね。是非ともお友達になりたい)」ドキドキ

のあ「(ちょっと怖かったけど。でも根はやさしい子ね、たぶん)」

のあ「……」

のあ「(私のライブバトルのお相手って、夏樹ちゃんとその相棒? だったかしら)」

のあ「(あとで調べとこ。ふふふっ……緊張してきた)」

のあ「……」チラッ

のあ「(ジュース、3本も貰っちゃった。近年稀に見る本当にいい子)」

───カシュ
ゴクゴクゴク


のあ「(あ……美味し)」

のあ「(もう一本)」カシュッ

のあ「(……ふふふっ♪)」ゴクゴク










━━━数十分後━━━
【事務所 トイレ】


のあ「カッ、かはッ!!」プルプル

のあ「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー」ガクガク

のあ「おぇええっ!!」

のあ「うぐっっ、ウッ、う、フゥー、フゥー……!!」プルプル

のあ「ンフッ、ふー、ふー……はぁー、はぁー……っ」

のあ「(ど、動機が!)」ドクンドクン!

のあ「(は、激しくて、気持ち悪いっ! あのジュースを飲んでから、異常にっ)」

のあ「(……ッ!!)」

のあ「(毒!! 毒を盛られたッ……!!)」プルプル

のあ「ハァー、ふぅー、ん……ふー、…………グスッ」

のあ「…………」

のあ「(ロック……ロック過ぎるわ。こんな大胆な先手を取ってくるなんて……)」

のあ「(バトルは……戦いはもう既に始まっているのね)」

のあ「(これが、業界の闇………上下関係というものを、ダイレクトに……っ)」

のあ「(夏樹、ちゃん…………)」グスッ


──────
────
──

37 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:34:49.20 A39YavOz0 13/227

──
────
──────
【事務所 応接室】


卯月「皆さん、LIVEバトルの話でもちきりですね」

「ユニットで掛け合いとか考えるの、楽しいしね。一緒にネタやったり、乱入したり」

未央「基本、何やっても自由だからねぇ。いやー、私達も出たかったなぁ」

「まぁ、今回は割と大きな仕事被ったから……」

「手伝いには参加するけど、そう言えば2人も行くの?」

卯月「はい、私は昼上がりなので、その後すぐ行く予定です」

未央「私達も最初はガッチガチに緊張してたよねー」

未央「『フライド、チキーン↑』なんて掛け声まで考えてさ♪」

「懐かしいね、フライドチキン。今思うと……ちょっと変な掛け声だよね、ふふっ」

未央「しぶりんがソレ言う? 少なくとも『アルティザン・デュ・ショコラ』よりはテンポ良いと思うけど」

「えっ。誰、その案出したの」キョトン

未央「自分だよ!! なんかあと10個くらい蒼魔法の詠唱みたいな案も出してたよ!?」


───ガヤガヤガヤ







のあ「(……)」ジー

のあ「(年度の初めだとお仕事やライブも増えるのね。それにしてもいいなぁ、あの3人)」

のあ「(ニュー……なんだっけ。ジェネ……、…………?)」

のあ「(でも、和気藹々と楽しそう。私もあの子達のようにユニットを組んでみたい)」

のあ「(いいなぁ)」ジー

グゥゥ…


のあ「(……)」スリスリ

のあ「(フライドチキンかぁ。最近そういうの食べてないわ)」

のあ「(ちょうどお昼前だし、お腹もすいたし、ローソンに行こう。ファミチキ買ってこよ)」スッ

のあ「……」スタスタ






「(……)」チラッ

「(高峯さん、ずーっと俯いて何考えてたんだろう?)」

「(哲学的に宇宙の真理を思考してたのかな?)」

「(あるいはサイボーグやアンドロイドみたいに、ずっと待機モードでじっとしてたとか?)」

未央「(いや、案外……ご飯の献立でも考えてたりして)」

卯月「(……?)」

39 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:35:23.47 A39YavOz0 14/227

━━━10分後━━━
【ローソン】




のあ「ふぁ、ファミチキください……っ!」




ローソン店員(以下、店員)「………………」

店員「……は、ハイ?」




のあ「(───ッ!?)」ビクッ!

店員「えーっと……当店に『ファミチキ』は置いてませんが……」

のあ「えっ……、ヘ……ッ!?」

のあ「あっ!! ぁ、アー……アァー」

店員「え、『Lチキ』でしょうか?」

のあ「ア……は、ハィ」モゴモゴ

店員「お一つでよろしいでしょうか?」

のあ「ハ、ヘャい」

店員「……あ」

のあ「(ッ!?)」ビクッ!

店員「も、申し訳ありません。ただいま品切れ中でして、5分ほどお待ちいただければお作り致しますが……」

のあ「ぁ、え……ア……いや、ア、いいデス………そンな、申し訳ナイコト……」モゴモゴ

店員「えっ?」

のあ「エ、えっと……ぁ、じ、じゃあ……」プルプル










━━━10分後━━━
【事務所 応接室】


のあ「……」カサカサ

のあ「(……)」





【つくね棒】





のあ「……」モキュモキュ



未央「(こ、今度は真顔でローソンのつくね棒食べてる……)」

「(両手で丁寧に食べてる……なんか可愛い。ビーバーみたい)」

卯月「(……)」

──────
────
──

63 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:44:02.98 A39YavOz0 15/227

──
────
──────
【事務所 廊下】


───スタスタ

のあ「……♪」テクテク

のあ「(あぁ、楽しい)」

のあ「(『ポケモンGO』、これはいま私の精神の支えと言っても過言ではないわ)」スタスタ

のあ「(こうやってリアルに反映されるなんて、やっぱり世代としては感慨深───)」テクテク



ドンッ!!




のあ「ッ!!!」

*「あっ……ご、ごめんなさいっ…………ふ、フフフっ……♪」ヨロッ

のあ「ァ……いいえ……」

*「……」

*「(ああ………っ! 高峯さんの匂い、感触、体温っ……!)」ドキドキ

タタタタタッ


のあ「(……)」ジー









━━━━夜━━━━
【高峯家】


のあ「んー……」

のあ「歩きスマホ、やっぱり危ないかな」

のあ「事務所があまりにも便利にプレイできる環境なのだけれど………流石に控えるべき?」

のあ「以前、真奈美さんと美優さんに教えてもらって……」

のあ「楓さんと泰葉ちゃんと一緒にスマホを買いに行って……」

のあ「更に、紗南ちゃんと美玲ちゃんが事務所でやっているところを見かけたから……」

のあ「私も便乗して、あわよくばお近づきになろうとしたのだけれど……」

のあ「…………そういえば、最近めっきり見かけない」

のあ「……」

64 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:45:37.97 A39YavOz0 16/227


のあ「歩きスマホ……。これはある種の社会問題でもあるし」

のあ「事務所の子に怪我でもさせちゃったら、大ゴトだわ」

のあ「今日なんて、同じくスマホを弄っていたであろう………あれは確か……」

のあ「紗枝ちゃんに2回、美波ちゃんに5回、奏ちゃんとは23回も偶然ぶつかったり、ぶつかりそうになったりしたし……」

のあ「まさに前後不覚になるほど熱中するというヤツかな。ポケモンに罪はないのに」

のあ「……でもやりたい、ポケモンGO。けどぶつかるのも怖いし」

のあ「………でも、ピカチュウさん欲しいし」

のあ「…………」

のあ「視線が下に向くからダメなんだ。どうにかして、注意を喚起すれば」

のあ「(…………)」

のあ「(……!)」ピーン!

のあ「そう、だっ。アレ、確か、アレを身に付ければ……っ」ガサガサ

のあ「前に、教習所で……!!」ガサガサ








━━━━翌日━━━━
【事務所 エントランス】


のあ「……」テクテク

のあ「…………」スタスタ



李衣菜「……」ジー

夏樹「(…………)」ジー







【E. 初心者マーク】






夏樹「(だりー。なぁだりー)」

夏樹「(アレ、何だか分かるか?)」

李衣菜「(…………)」

李衣菜「(……ちょっと意味がわかんない)」

夏樹「(……アタシもさ)」


──────
────
──
※E(Equipの略)……装備中という意味

67 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:46:28.86 A39YavOz0 17/227

──
────
──────
【続 エントランス】


のあ「……」テクテク

のあ「…………」スタスタ



李衣菜「(……)」ジー

夏樹「(…………)」ジー

李衣菜「(あれは、高峯のあさん? 私たちのLIVEバトルのお相手の)」

夏樹「(ああ、そうだ。この事務所に所属してまだ半年ちょっとの、新人の)」

李衣菜「(エントランスをグルグル歩き回って……何してるんだろ? 何かに没頭してるようだけど)」

夏樹「(ああ。けど見て欲しいのはそこじゃあない)」

夏樹「(彼女の腹と背中。まるで奇抜なデザインシャツのロゴのように我が物顔で張り付いている、2色のステッカーだ)」

李衣菜「(……初心者マーク)」

夏樹「(そう、初心者マーク。正式名称は、初心運転者標識)」

李衣菜「(ど、どういう事……!?)」オロオロ

夏樹「(初心者マーク。あのステッカーやシールは本来自動車に付けるべき標識さ)」

夏樹「(間違っても人体に装備する代物じゃない。ここまではOKかい?)」

李衣菜「(う、うん)」

夏樹「(通常、アレを付ける意味は知ってるか?)」

李衣菜「(そりゃあね。運転初心者だから、周りの車に注意して貰うように分かりやすく───……)」

李衣菜「(───ハッ!!)」

夏樹「(……気付いたか、だりー)」

夏樹「(そう。あの標識を提示する車両を保護するよう、周囲の車両に注意を喚起するための物)」

夏樹「(運転手のプレッシャーになる幅寄せや割り込みを周りから行われないようにな。事故を未然に防ぐためさ)」

夏樹「(端的に、『自分は危険だ。近寄るな』という意味合いだ)」

李衣菜「(つ、つまりッ!!)」

李衣菜「(………ろ、ロック!!!)」

夏樹「(あぁ。しかも生半可じゃねえ)」

夏樹「(スティーヴィー・ニックス、レッド・ツェッペリン、キース・ムーン、ジム・モリソン………)」

夏樹「(エキセントリックでクレイジーにぶっとんだ伝説を残した奴らなら数多くいるが……)」

夏樹「(ロック界広しと言えど、かつて存在したか? あれほどダイレクトに、かつソフトに自らの危険性を誇示する奴は)」

李衣菜「(……っ!!)」

夏樹「(時代が時代なら、スターダムにのし上がり、この天下を5回くらいかるく統一出来ただろうぜ、彼女)」

夏樹「(……アタシ達ひょっとすると、トンデモないロックな人と一緒の事務所にいるのかもしれないぜ、だりー)」

李衣菜「(な、なんということだ……、なんということだ……)」ガクガク





のあ「(……あっ! ぴ、ピカチュウさんっっ!!)」ビクッ

69 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:48:22.61 A39YavOz0 18/227

李衣菜「(私達は、ただ……っ)」プルプル

李衣菜「(ただ、高峯さんがウロウロしてるエントランスの奥のエレベーターに乗りたいだけなのに………どうすればいいの、なつきち?)」

李衣菜「(このまま息を潜めていても、そのうち高峯さんに見つかって追い詰められて……っ)」

李衣菜「(……SATSUGAIされちゃうの?)」

夏樹「(落ち着け、落ち着くんだだりー。SATSUGAIはされない)」

夏樹「(だが、アタシも流石に対抗できないな。言動の予測ができない)」

夏樹「(というか……、フツーに気まずい)」

李衣菜「(ッ!! な、なつきちでも対抗できないの!? パッションなのに!?)」

夏樹「(パッションに過度なコミュ力を要求するもんじゃないぜ、だりー。ホント、損な役回りだ)」

夏樹「(……助っ人が必要だ)」

夏樹「(幸い時刻は早朝。まだ人も少ない。今ならまだ被害は最小限に抑えられる)」

李衣菜「(うん、そうだね。この事務所を血の海にするわけにはいかない)」

李衣菜「(まだ朝だけど、これからどんどん人が出社してくる。当然、小さい子も)」

李衣菜「(……私達が事務所を救わなきゃ。荒ぶるロックの化身から)」

夏樹「(この切迫した状況を打開できる助っ人を呼んでくるんだ。だりー、頼んだぜ)」

李衣菜「(うん!)」スタッ

夏樹「(あ、ちょっと待て)」

李衣菜「??」

夏樹「(アー……そうだな………、ンー…………)」

夏樹「(……出来ればプロデューサー、あるいは、その……、何事もなく自然に諭してくれそうな優しい大人ならグッドだ)」

夏樹「(とにかく、空気が読める人だ。空気が読める人。空気が読める人を連れてくるんだ。空気が読める人だぞ。任せたぜ、相棒)」グッ

李衣菜「(わかった! 待っててなつきち!!)」ダッ!

夏樹「(…………)」ジー

夏樹「(………………………)」ジー

夏樹「(……あの人、一体何なんだ?)」

夏樹「(何者だ? …………ホント何やってんだ、朝っぱらから。宇宙と交信でもしてんのか?)」

夏樹「(……ひょっとして、マジで凄い人なんじゃ───)」

李衣菜「なつきちーー!!」バタバタ

夏樹「(───!)」

夏樹「(思ったより早かったな、だりー)」クルッ





蘭子『フフフ……』

蘭子『我が魂を深淵から解き放つ者よ。血の契約のもと、汝の祈りに応えよう!!』
(●訳:夏樹さん、何かあったんですか? 私でよければ力になりますよっ!)」

李衣菜「とりあえず、近くを歩いてた闇の眷属を連れて来たよっ!!」ドタドタ



夏樹「(!?)」

夏樹「(バッ……!!)」ガタッ!





のあ「(………逃げられた)」シュン

──────
────
──

70 : ☆1/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:49:24.33 A39YavOz0 19/227


──
────
──────
【レッスンルーム】


ベテトレ「今日は基礎のビジュアルレッスンだ」

卯月「はいっ」

のあ「……」

ベテトレ「カメラを意識し、役を演じ、感情を表現する。歌に踊り、撮影に舞台……君達アイドルの根幹を成す技倆とも言える」

ベテトレ「二人でペアを組み、お互いを観察しあい今日は励んで欲しい。私から言う事は以上だ」

のあ「……」

ベテトレ「(……)」

ベテトレ「……島村。ちょっといいかな? 話がある」

卯月「はい、なんでしょう?」






━━━━━━━━━━


ベテトレ「話は手短に済ませたい」

ベテトレ「高峯のことだが……今日はお前が先導して、彼女のビジュアルレッスンを付けて欲しいんだ」

卯月「わ、私が……ですか?」

ベテトレ「クールと言えば耳当たりは良いが……微笑ひとつ浮かべず、凍った仮面のように表情が乏しい高峯を、だ」

ベテトレ「高峯より経歴が長いお前の指導で、変化の兆しを見出して欲しい。今後の活動の為にも」

卯月「たしかに、無表情な人だとは思いますけど……」

ベテトレ「そうだ。お前と高峯はある種、対極の存在とも言える」

卯月「でも……私なんかに、優秀な彼女のような人の指導なんて出来るんでしょうか?」

ベテトレ「……島村。笑顔に定評のある島村」

ベテトレ「うちでは、笑顔No1はお前だ」

卯月「(……!!)」

ベテトレ「高峯を任せていいな?」

卯月「……や、やりますっ。わたし頑張りますっ!」

ベテトレ「そうか。よく言ってくれた」ポン

ベテトレ「じゃあ私はデイトレードで気になる銘柄の値動きを見張っているから、あとはお前に任せるぞ。何かあれば自己の判断で対処してくれ」スタスタ


───ガチャ、バタン

卯月「よ……、よぉし!」

卯月「頑張ろう! 高峯さんを、笑顔に……」

74 : ☆2/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:56:12.27 A39YavOz0 20/227


━━━5分後━━━
【レッスンルーム】


卯月「……と、いうわけで」

卯月「せ、僭越ながら今日は私が高峯さんのお手本になって、笑顔のレッスンをしたいと思います!」ドキドキ

のあ「……」

のあ「(あぁ……島村卯月ちゃん、可愛らしいわ。明るい笑顔がチャーミングで、穢れを知らないってカンジで本当に素敵)」ドキドキ

のあ「(是非ともお友達になりたい。しかも二人でレッスンなんて……っ)」ドキドキ

のあ「(ヤバい、緊張してきた。緊張と興奮で心臓が痛い……)」ドクンドクン!

のあ「ヨ……よろしく頼むわ。卯月」

卯月「は、ハイっ! 頑張りましょうっ!」

卯月「(う、うぅ。緊張します……)」ドキドキ

卯月「じゃあ……えっと、まずは一度、自然な形の笑顔を作ってみてください♪」

のあ「(……)」




のあ「……っ」ググッ

のあ「…………っっ」ギリギリ



卯月「(っ!?)」ビクッ

卯月「お、怒ってます? 何か私、癇に障るようなことでも……」

のあ「……え?」

卯月「(ま、まさか……)」

卯月「(コレが、高峯さんのナチュラルな笑顔ッ!?)」

卯月「(歯をギラつかせて、眉間にしわを寄せて……テンションがハイになったアントニオ猪木みたいな顔してる……)」

卯月「あ、あのっ! 口角を上げるときに───」

のあ「……」ギリッ!

卯月「ヒッ!」ビクッ!

卯月「ソ……、その、口角を上げるときに、目を細めたり眉間にしわを寄せたり首を曲げたりせずに……ですね?」

卯月「もっと柔らかく、朗らかな感じで。リラックスして……」




のあ「……っ」ニタァ

のあ「…………ヘッ」パカッ



卯月「」

卯月「(じ、邪悪な笑みッ!! て、体のいいオモチャという名の弱者を見つけた金持ちのヤンキーみたいな見下す眼光をしてる……っ!)」

卯月「(目をカッと見開いて爛々と輝かせて……正直怖い……こんなの笑顔じゃ───…)」

のあ「……」カチカチカチ!

卯月「フ、ヒッ……!」ビクッ!

卯月「う、うそ……」

75 : ☆3/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:57:34.21 A39YavOz0 21/227


卯月「(わ、私が挫けちゃダメですっ! 笑顔なら……笑顔なら誰にも負けないっ!)」

卯月「よ、よーしっ! じゃあ私の真似をしてみて下さい、一緒にやりますよ!!」

卯月「イエイっ♪」ニコッ

のあ「イ……いえーい」ニヤリ

卯月「ぴ、ピースっ♪」ブイッ

のあ「ぴーす……」ゴゴゴゴゴ…

卯月「にょわーっ☆」ビシッ!

のあ「のあー……」グググッ…

卯月「……」

のあ「……」

卯月「………………」

のあ「………」











━━━1時間後━━━


卯月「はは……、はっ…………っ」ポロポロ

のあ「……」

卯月「た、たかみねさん……うぅっ……、グスッ……」ポロポロ

のあ「……」

卯月「笑顔なんてぇ……!」

卯月「笑うなんてぇっ……!」

卯月「誰でもっ!」

卯月「出来るもんっっ!!」ダッ!

卯月「うわあぁぁーーーーーーーーーーーん!!」ダダダダッ!


ガチャ!
───バタン!!


















のあ「…」

──────
────
──

76 : ☆1/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 22:58:48.51 A39YavOz0 22/227

──
────
──────
【岡崎家】


のあ「……」

「(……♪)」ズルルー

泰葉「……」

のあ「……笑顔とは」

のあ「………なんぞや」ハー

泰葉「な、なんですかいきなり」

「(泰葉ちゃん、わさび取って下さい)」ズズズー

泰葉「(あ、ハイ)」

のあ「……この事務所に所属した当初から、悩んでいる事よ。これは」

のあ「………ハァ」

泰葉「表情、ですか」

泰葉「失礼かもしれないですけど、確かに高峯さんは硬いですものね」

泰葉「でも、プロデューサーさんも言ってましたけど、そこも貴女の魅力だと思いますよ」

のあ「…………」

のあ「……事務所の子達と、友達になりたい」

泰葉「……エッ。あれ、今そんな話でしたっけ?」

「(泰葉ちゃん、辛味大根おろし取って下さい)」ズルズル

泰葉「(あ、ハイ)」

のあ「なりたい……なりたい……」

泰葉「な、なればいいじゃないですか」

のあ「私のような、コミュ───……」

のあ「……ひきこ───……」

のあ「……」

のあ「………とにかく難しいのよ。世代が違うし」

泰葉「いま何を言いかけました?」

のあ「……寡黙の女王は、孤高の運命。馴れ合いをよしとせず、ただ無情に過ぎ行く悠久の刻と歩むだけ」

泰葉「そのキャラを理由にしたらダメですよ。貴女が『寡黙の女王』キャラで通して頑張っているのはなんとなく察して来ましたけど……」

のあ「……………………」

のあ「…………………………………………」

のあ「…………………………………………だって……っ」グスッ

泰葉「ご、ごごごめんなさい!! 言い過ぎました……つらいですよね、ごめんなさい」

「(泰葉ちゃん、自然薯おろし取って下さい)」ズズー

泰葉「(あ、ハイ)」

「……♪」ズズー

78 : ☆2/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:03:56.35 A39YavOz0 23/227


「泰葉ちゃん。ホラ、なにか快刀乱麻を断つアドバイスを」ズズー

泰葉「うぅん、そうですね」

泰葉「月並みですけど、会話から始めましょうよ」

のあ「……私の方から?」

泰葉「難しいのであれば、相手の出方を伺いましょう。むしろ誘うのなんてどうですか?」

泰葉「趣味が合えば一番ですけど……会話のきっかけって、ほんとうに何気ない些細なものなんです」

泰葉「化粧とか、服装とか。年下狙いなら、付けている小物とか。変化を観察するのも大事ですね」

泰葉「ナンパじゃないですけど、そういう部分を褒められると、女の人って結構嬉しいんですよ?」

のあ「……小物」

泰葉「小物でいえば、ブランドの物だとか、版権物だとか、ご当地のゆるキャラだとか」

泰葉「堅い印象の高峯さんだと、そういうギャップで興味が湧く子もいるんじゃないですか?」

のあ「(そういえば……前には伊吹ちゃんとか奈緒ちゃんがそんなカンジだったかしら)」

泰葉「ああ、そうそう。事務所で最近流行っているんですけど、『ぴにゃこら太』っていう───」

のあ「(……小物……アクセサリー……)」

のあ「(版権物……ゆるキャラ……。なにかウチにあったかな……)」

のあ「(年下の興味を引くような……)」

のあ「(…………)」ボー

泰葉「……高峯さん、聞いてました?」

「(泰葉ちゃん、刻みネギ取って下さい)」ズズー

泰葉「(あ、ハイ)」

80 : ☆3/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:09:21.30 A39YavOz0 24/227


━━━━翌日━━━━
【事務所 応接室】


卯月「……」ジー

「……」ジー

未央「……」ジー






のあ「(……)」


NwdhQKV



のあ「(……)」チラッ






未央「ゥッ!!!」ビクッ!

未央「(ちょ、ちょっ……!! なにアレ!? なにアレ!!!)」ヒソヒソ

「(し、知らないよ。何でテーブルに……というか高峯さんの目の前にあんなのが置いてあるの?)」ヒソヒソ

未央「(あれ、明らかに高峯さんの私物だよね?)」

「(なにあのキモチ悪いキャラクターの……フィギュア?)」

「(いやでも、あのサイズでキーホルダーっぽいけど)」

未央「(さっきから横目でチラチラこっちの様子をうかがってるんだけど……。なに、どうすればいいの?)」ヒソヒソ

「(いや……無理。近寄りづらいよ、いつにも増して。私達が部屋から出る以外無いよ選択肢は)」ヒソヒソ

未央「(うーん……でもあのキャラクター、どっかで見たことあるような……)」

未央「(弟がこの前見てた漫画で………あれ、キン肉マン? 違う、バッファローマン?)」

「(なんだ、知ってんじゃん。ほら話しかけてきてよ)」

「(ボーリング一緒に行った時も、前々から高峯さんとゆっくり話してみたいって言ってたじゃん。夢が叶うよやったね未央)」

未央「(無理無理無理だよ!! バッファローマンで話が広げられる気がしないよ!!!)」

「(死ぬ気で行けば大丈夫だって。未央、パッションでしょ)」

未央「(死なす気!? パッションだからって過度なコミュ力を期待しないで!! )」

未央「(ホント無理だって!! ヤクザの会合の余興で“純情Midnight伝説”を歌わせるような暴挙だよ!?)」

「(イケるって未央なら。ちゃんとツーショット撮ってあげるよ。写真のタイトルは“SCPとの邂逅”で良い?」

未央「(ハァ!?)」

卯月「(高峯さん……っ)」グスッ








のあ「……」チラッ

のあ「……」ドキドキ

──────
────
──

81 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:10:36.90 A39YavOz0 25/227

──
────
──────
【高峯家】


のあ「……会話。会話ね」

のあ「思い返せば、自発的に事務所の人達に話しかけるって機会は少なかったかも」

のあ「でも、私みたいに話題の引き出しが少ないと、続かないのよね。会話って」

のあ「あぁ……難しい。でもLIVEバトルする多田李衣菜ちゃんと木村夏樹ちゃんとは仲良くなっておきたい、せめて」

のあ「うーん」ペラッ

のあ「この写真の子が多田李衣菜ちゃんね」

のあ「派手なプリントTシャツ。服装やアクセサリーをカジュアルに合わせて、クールな雰囲気を醸し出して……でも、どこか幼く可愛い印象」

のあ「ああ、彼女もロックなアイドルね。なんか少し前の裏原とかを窪塚洋介と一緒に気取って歩いてそうなカンジ」

のあ「ヘッドホンを肩にかけて更に耳に付けてるけど……なんだろう。これが今の流行りなのかな」

のあ「ロックな話題…………」

のあ「無理だわ。そっち系の音楽はあまり馴染みがないし」

のあ「……!」

のあ「でも、伊吹ちゃんや小梅ちゃん達と関わったように、映画の話題の時みたいに……」

のあ「……『フリ』をすれば……」







━━━翌日・早朝━━━
【事務所 応接室】


李衣菜「~~~……♪」シャカシャカ

李衣菜「~~~~~……♪♪」シャカシャカ



ガチャ!

───バァン!!!



李衣菜「うひゃっ……!?」ビクッ!

李衣菜「な、なにっ!? だ、誰………扉を蹴破って……」

のあ「………………」

李衣菜「あ、アナタは……!!」

李衣菜「ろ、ロックの化身……、高峯のあさん!!」

のあ「(……)」

82 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:11:17.65 A39YavOz0 26/227

李衣菜「っ!?」

李衣菜「そ、その肩に担いだラジカセは!?」

のあ「ヨ……ヨー……チェケラー……」

李衣菜「ら、ラッパー!?」

のあ「リ……李衣菜、ヨー李衣菜……、イイカンジの曲リッスンしてんじゃーん……」

李衣菜「えっ!? この距離で漏れた音聞こえてました!?」

のあ「オ……おぉ、そりゃあもう、ハート震えてビート刻むほどかなりキてたぜ……」

李衣菜「あっ!! そ、そうだ!! サイン……じゃなくて、えっと……!!」

李衣菜「あ、あのっ! どうしたら、高峯さんのようにロックになれますか!?」

のあ「わ、私みたいにロックに……? そ、そりゃ……なん、なんつーか、私はロックで、ロックは私みたいなトコあるし……ソノ……」

のあ「言葉じゃなくて……ソノ……、要は、ノリ?」

李衣菜「ノリ……!!」

のあ「も、もうちょっとロックな格好した方がいいかも……その……ほら、もっとシルバー巻くとか……」

李衣菜「シルバー……!?」

のあ「ホ、ホラ……その、シルバー……鎖? 鎖とか、その……束縛的なイメージで……何にも縛られることない自由へのアンチテーゼ……みたいな……?」

李衣菜「アンチテーゼ……!!」

のあ「ジ、じゃあ……ほら、もう私、そろそろ行くから……ちょ、ちょっとどいてネ……」スタスタ

李衣菜「えっ、いま来たばかりなのに!? ってアレっ!? ちょ、えっ……ど、何処に行くんですか!!」

李衣菜「それ、非常用梯子ですよ!?」

のあ「エッ……イヤ……その……私レベルのロックとなると……その、クセになってんの。非常用梯子から出入りすんの」

のあ「シ、新聞の一面に取り上げられてこそ、その……私の中では、ロックみたいなトコがあるから」

李衣菜「!! そ、そうか、高峯さんは存在そのものが非常事態のような人だから……」

のあ「あ……アディオス李衣菜……私達、もうソウルメイトだから……次からは言葉はいらないから……」

のあ「ぁっ」ツルッ


───ヒュンッ!!


李衣菜「……!!」

───ガチャ


夏樹「おーっす。だりー?」スッ

夏樹「…………………………………………………………だ、だりー?」

李衣菜「ひぐっ……うぅっ………、……な、なつきちぃ……」ポロポロ

李衣菜「ロックだあぁ……、なんっていうか、ロックのよくばりセットみたいな人だぁ……」

夏樹「……?」






━━━━━━━━━━
【吉野家】

のあ「……アー」グスッ

のあ「…足挫いた……なにやってんだろ……私…」

──────
────
──

83 : ☆1/4 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:11:53.89 A39YavOz0 27/227

──
────
──────
【レッスンルーム】


マストレ「……おほんっ」

マストレ「じゃあ今日の予定分を始めようか」

卯月「(……あの青木麗さんが直々に指導してくれるなんて……き、緊張しますっ)」ドキドキ

のあ「(……この人があのトレーナー4姉妹の長女、青木麗さんかぁ……か、格好良いなぁ)」ドキドキ

マストレ「……まず、島村に高峯。先日は妹が申し訳ない事をした」

卯月「え? (青木)聖さんがですか?」

マストレ「ああ。勤務中に抜け出してデイトレードに興じるなど言語道断」

マストレ「私が直に灸を据えて今後はあのような事が無いように絞っておいたから、それで手打ちにして欲しい。本当に済まなかった」ペコッ

卯月「あっ、い、いいえ」

マストレ「だが、妹の言う事も一理ある」

のあ「?」

卯月「笑顔のことですか?」

マストレ「ああ」

マストレ「君達アイドルにとって笑顔をはじめとした表情は必要不可欠な要素だ」

マストレ「高峯。人との関わりにおいて、最も多く視界に入る部分は何処かな?」

のあ「(……)」

のあ「ク……くちびる」

マストレ「そう顔、つまり表情だ」

のあ「……」

マストレ「機微・顔色・面貌。初対面の時、コミュニケーションを図る時、否が応でも目に映る」

マストレ「妹も言っていただろうが、ことアイドルという職業は色々な意味で顔を売る仕事だ」

マストレ「人並み以上に表情を使う場に直面し、そしてそれを自在に操り印象付ける技術が求められる」

85 : ☆2/4 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:12:53.76 A39YavOz0 28/227


マストレ「話は少し逸れるが、それはある種、ライブにおけるパフォーマンスであっても同じことだ」

マストレ「高峯は近いうちに、LIVEバトルを控えているらしいな?」

のあ「……ええ」

マストレ「(……)」

マストレ「高峯。妹達からも評価は聞いているが、君は歌と踊りに関して、必要な基礎は勿論、技術ですら高いレベルで習得している」

マストレ「脱帽だよ。新人にしては上出来……いや、むしろ新人であるのが不思議なくらいだ」

卯月「(さ、流石は高峯さん……!)」

のあ「(ふ、フフ……嬉しい、卯月ちゃんもコッチみてる……♪)」ドキドキ

マストレ「……だが、ハッキリ言わせて貰おう」





マストレ「君の歌も踊りも『感情』が全く無い。表情の変化が乏しい、という意味も当然兼ねてだが」

マストレ「全てが単調。まるで命令されたプログラム通りに動くロボットのように、そこに感情を見出すことは出来なかった」





のあ「(ッ!?)」グサッ!

マストレ「……島村。君達アイドルにとって最も大切なものは何かな?」

卯月「え、え~っと……」

のあ「(ろ、ろぼッ……!?)」プルプル

卯月「……ファンの皆さん、ですか?」

マストレ「そうだ。無論これは『ファンのために身を投げ打ち尽くせ』、という非情な意味ではない」

マストレ「ファンとの意思疎通……。そのために君達は自分の意図・感情を歌や踊りにのせて表現する」

マストレ「躍動感や悲壮感を、仕草や声色や拍子で形作る。謂わば、歌と踊りも全て君達の『感情』なのだ」

マストレ「ファンを想い、感情を籠め、親近感を醸し出し、一体感を生み出し、一個のアイドルとしての完成形に近づいていく」

マストレ「……高峯のあ、君は非凡で稀有な存在だ。しかしそれだけじゃあ足りない、ダメなんだ」

のあ「(ぉ……ぉぉ……っ)」プルプル

卯月「(高峯さん? け、血色が……)」

86 : ☆3/4 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:15:06.98 A39YavOz0 29/227


マストレ「高い技術は当然必要だ。だが、ただ魅せるだけでなく伝わらなければ意味がない」

のあ「(ぁ、あふっ……うくっ……)」プルプル

のあ「(フゥー、ふぅー…………ウッ、ぐっ……!)」プルプル

のあ「(ふぅー、ふぅー……フッ、ふぅー……っ!)」プルプル

マストレ「高みに上れば上るほど、自然と変容し遠退いていくものもある」

マストレ「憧憬の心は畏怖の念に。羨望の眼差しは嫉妬の視線に。孤高の歌姫は……いつしか孤独の存在に」

マストレ「皆は口を揃えて言う。『アイドルとは星が煌めくように美しく眩いが、手の届かない存在』『アイドルとは偶像であり、住む世界が違う』、と」

マストレ「……だがそれらは、『アイドルとファンの心の乖離』を正当化する言葉では断じてない」

マストレ「アイドルとは、常にファンと共に在らなければその存在価値を失ってしまう」

マストレ「ファンとの意思疎通を図る君達の表情は、いつでも重い意味を持つということを心に留めておきなさい」

卯月「は、はいっ!」

卯月「(麗さん、かっこいい……)」

マストレ「それで、だ……。話を戻そうか、表現についてだ」

マストレ「歌や踊りに感情を籠める為には、その起伏を絶妙に表現することだ」

マストレ「振り付けの流れや動き、歌唱法による音程や声量の抑揚、拍節の変化もだが……、それこそ初歩として、『顔の表情』を伴うことが重要になってくる」

マストレ「喜怒哀楽の表情、機微の基礎を習得する。それがビジュアルレッスンだ」

卯月「なるほど……!」

マストレ「最初にも言ったが、君達アイドルにとっては歌と踊り以外にも、ドラマ・CM・モデル撮影・オーディション・スポンサーやクライエントに対しての挨拶……」

マストレ「様々な仕事の場で表情を使い分ける技術が求められる」

マストレ「太陽のように屈託のない笑顔とまで言わずとも、せめて営業スマイルくらいは身に付けておいて損は無いだろう」

マストレ「基本形は笑顔だ」

マストレ「島村は笑顔に関しては満点だな。あとは状況に応じた感情の表出と、欲を言えば歌と踊りの技術も向上させれば、より洗練されたパフォーマンスが出来るだろう」

卯月「は、はいっ!」

卯月「……っ!!」チラッ

マストレ「……?」

マストレ「(なんだ……? 島村が高峯を前のめりで凝視している……)」

87 : ☆4/4 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:19:18.73 A39YavOz0 30/227

━━━2時間後━━━


マストレ「?」

マストレ「どうした高峯。そんなトコロに突っ立って」

マストレ「島村はもう戻ったぞ…………ん?」

マストレ「なんだ? 何か用か?」



「フっ……ク……グスッ……」ポロポロ



マストレ「あぁ。レッスンの続きか」

マストレ「うん。なかなか真に迫ってるぞ、哀哭と垂泣の調子を崩さず、台詞でもつけてみろ」



「カ……っ」グスッ

「ガ……感情移入ぅ、親近感っ……ヒグッ」

「……ゾ、ぞれら、それらはぁっ、ぎ、技術の低さを……ズズッ、ごッ、ごまがじでいるだけに、ズ、ずぎ、すぎな、いィィィっ……」ポロポロ

「ヒッ表情、作りばァーっ、フッ……、じ、じゅ、純然たるデグっ…デクニッグぅ……。じ、自身のっ、ないベッ、内面をっ、ォォォ……!」ポロポロ

「すっ、ストレートに、曝け、出すスタイルも、あ、あァァ、る、ケドぉ……グスン……、ゾ、そーいうのはァ、わ、わだっ、わだじの趣味ではっ、な、無いィィィッ……!」

「……グスッ! ぅ、ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥウウ!!」ズズッ



マストレ「……うん、いいぞ。だいぶ良くなった」

マストレ「少しオーバーすぎる部分も否めないが、そこは追々慣らしてくことにしよう」

マストレ「……いや、なんだ。最初は私も少し言い過ぎたかと思ったよ。別に高峯の人格を否定しようというワケではないんだ」

マストレ「無機質な表情もお前の持ち味の一つだ。それを貫くのも良しだが……」


「ウ゛ウ゛……! ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥ……、ヒグッ、!、グスッ……!」


マストレ「高峯。そろそろ演技はストップだ」

マストレ「2時間ぶっ続けで疲れただろう。今日はそのくらいで……」

マストレ「………………」

マストレ「……高峯? ほら、もういいから。早くしないと…………」

マストレ「…………た、高峯………………?」

マストレ「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

マストレ「ぁっ」

マストレ「ァ……ちょ、ちょっと、ちょっとここで待っていてくれ」

マストレ「い、いま私が島村を連れてくるから……い、いいな? わ、分かったか? 絶対外に出るんじゃないぞ? 絶ッ対外に出るんじゃないぞ??」

マストレ「すす、すぐ戻ってくるから。あ、あと何か飲みたいものとかあるか? ……その、なんか奢るから、ウン……いま島村に助けを請……いや、連れ戻してくるから……、し、島村、ちょ、ちょっと待てッ……」ダッ!

ダダダダッ!!

ガチャ!
───バタァン!!









「…」グスッ

────
──

88 : ※参考画像 - 2016/11/13 23:19:53.19 A39YavOz0 31/227


EszOG1T


91 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:22:10.51 A39YavOz0 32/227

──
────
──────
【事務所 応接室】


夏樹「……で?」

李衣菜「まー、話題に事欠かない人だからねえ。高峯さん」

夏樹「あの容姿と風格だしな。クセの多いこの事務所でも、(色々と)頭一つ飛び抜けてるだろ」

夏樹「デビューも早いし、アタシらもあっという間に追い抜かれるかもなぁ……」

李衣菜「真奈美さんと美優さんは『意外に普通なカンジ』って言ってたかな?」

夏樹「へえ……。理由が気になる」

李衣菜「一緒にゴハン食べて世間話でもしてたりしてね」

夏樹「(あの人何食うんだろーかな………電気で動いてそうな人だけど)」

李衣菜「アーニャちゃんは、『似たものを感じる』ってさ」

夏樹「似たもの、ね。趣味とか?」

李衣菜「高峯さんのシュミって何だろ? 意外にロマンチックな趣味とかだったりして」

夏樹「さあ」

李衣菜「みくはねー。なんか『ノーコメント』だって」

夏樹「なんだソレ……、あの二人って接点あったっけ?」

李衣菜「一緒に地方イベントまわったって」

夏樹「ふぅん。でも聞いた所、そんなに大きな仕事はまだしてない感じだったな。まだ半年弱だから当然か」

李衣菜「恐ろしいほどになんでもカンペキにこなせそうな人なのにね」

李衣菜「案外不器用だったり……なーんて」

夏樹「まさか」

李衣菜「………でさ?」

李衣菜「この間、あの4人も高峯さんのコトを話してたんだけどね?」

夏樹「?」

李衣菜「映画鑑賞部」

夏樹「涼、小梅、あと伊吹に奏か。ああ、たしか一緒に映画鑑賞したんだっけか、高峯さんと」

92 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:24:16.84 A39YavOz0 33/227

李衣菜「高峯さんに対してのコメントが三者三様でオモシロかったよ。あ、四者四様か」

夏樹「へえ。涼はなんて?」


~~~~~~~~~~
 『高峯サン?』
 『んー……噂に聞くほどは堅いカンジはしなかったぜ。取っ付き難い性格かと思ったんだけど』
 『ただやっぱり一緒にワイワイ騒いでつれそうってタイプでもないかな。んんー……年の差もあんのかなぁ』
~~~~~~~~~~


夏樹「あの面倒見が良い涼が、珍しく距離を測りかねてるな」

李衣菜「まあ、私だったら初対面でもフィーリングでバーン! ってイっちゃうけどね」

夏樹「奏は?」


~~~~~~~~~~
 『……高峯さん?』
 『あの人はね………「世界」なの』
 『退屈ではないけれど満たされない、踏み出す勇気は無いけれどもどかしい………晴れ晴れとせず微睡んでいた私のメランコリーな世界を、あの人は一瞬で、見たことのない色に染め上げた……。まるで、雲に抱かれ、朧気な漆黒の夜を切り取るように姿を見せた、眩惑する月のよ───
~~~~~~~~~
夏樹「小梅は?」

李衣菜「んん? 小梅ちゃんは……」


~~~~~~~~~~
 『えっ……? た、高峯、さん??』
 『また映画、一緒に見たいな……♪ あと、あの子も言ってたけど……』
 『色々とすっごく面白い人、だって。見えないはずなのに見られているようなフシギなカンジだって……』
 『ふふふっ、うん……良い人、だと思う。あの子も気に入ってたし……』
~~~~~~~~~~


夏樹「………なんつーか、やっぱあの人、なんか持ってるよな。いろいろ引き寄せるっつーか」

夏樹「カリスマ? いや、なんかそれ以上に人を惹きつける不可抗力の…………重力?」

李衣菜「でさ、でさ? 伊吹さんが言ってたんだけどね?」

夏樹「ん?」


~~~~~~~~~~
 『あー、高峯さん?』
 『そだねー……うーん……』
 『映画の人物で表すと、【T-X】みたいな人だよね!』
~~~~~~~~~~


夏樹「グッ! むふっ……!」プルプル

李衣菜「ねえねえ、そのT-Xって何さ?」

夏樹「ふぅ………あー、T-X? じゃあまず『ターミネーター』って映画知ってるか?」

李衣菜「うん、シュワちゃんのでしょ? それくらい乳児でも知ってるよ」

夏樹「T-Xってのは、その第3作に出てくる、女型の───」






━━━━その頃━━━━
【岡崎家】


のあ「…………」

「ロボットですって、のあさん」

泰葉「(…………)」


──────
────
──

93 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:26:08.01 A39YavOz0 34/227

──
────
──────
【続 岡崎家】


のあ「……」

「ま、まあ落ち着いてくださいのあさん。所詮は噂ですよ」

「みんなも、冗談で言ってるに決まってます」

のあ「……」

泰葉「(完全に消沈してる)」

泰葉「(机に突っ伏して、微動だにしない。死んでるみたい)」

のあ「……」

泰葉「麗さんも言ってたんですか?」

のあ「……」ズリズリ

泰葉「そ、そうですか。でも悪い意味じゃないですよ、多分」

泰葉「その、うーん……」

泰葉「………………」

のあ「……」

泰葉「(か、楓さん。上手いアドバイスが見つからないです、タッチで)」

「(フフフ。安心してください泰葉ちゃん)」

「(ここはこの年上の高垣楓に……高垣楓と書いてデキる大人に任せてください)」

泰葉「(不安しかない)」

「……のあさん」ポン

のあ「……」

泰葉「(……)」

「………………」

「一杯、やりにいきましょう」

泰葉「(やっぱり……)」








━━━30分後━━━
【居酒屋】


泰葉「あの……いいんですか? 私も入って」

「大丈夫ですよ。ホラ、泰葉ちゃんは『未成年』のシール張ってますから」ペタッ

泰葉「(居酒屋……こういう大衆的なところに入るのは、初めてかも)」

のあ「……」

94 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:29:49.46 A39YavOz0 35/227


のあ「……私」

のあ「無機質な目とか、画一的な顔とか幼い頃からよく言われてはいたけど」

のあ「……まさか無機物に例えられるとは、夢にも思わなかった」

のあ「……つらい」

泰葉「…………」

泰葉「(楓さん……。高峯さん、珍しく本当に落ち込んでますよ)」





「すみませーんっ、ビールもういっぱいっ!」





泰葉「って、アレェ!?」

泰葉「ちょっと!! なに普通に飲んでるんですか!!」

「泰葉ちゃん。大人になれば、たくさんの悩みを抱え込んでしまいます。たくさん考え込んで、たくさんストレスを溜め込んでしまいます」

「なら、その悩みを吐き出し、考え込む時間を奪い、ストレスを発散させてあげましょう!」

「これこそ私の知りうる最大限のアドバイス!! デキる大人の処世術というヤツですっ!」

泰葉「ソレ根本的な解決には結びついてないですよね!?」

「さあ、のあさん! ビールをあびーるほど飲んで、明日への活力にしましょう!」

のあ「……ええ」グビッ

泰葉「(ああダメだ! やっぱりこの人に頼ったのが間違いだった!!)」

泰葉「(でも……、でもここはもう大人の独壇場っ、私の出来ることは何も……っ!)」

のあ「……のんだ」ケフッ

「スミマセンっ! ビールもう一杯!!」

泰葉「すみません! ラーメンサラダ下さい!!」














━━━━翌日━━━━
【岡崎家】


泰葉「……」

「……」

泰葉「……高峯さんは?」

「二日酔いで寝込んでます」

泰葉「(大人って、一体……)」


──────
────
──

95 : ☆1/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:30:51.14 A39YavOz0 36/227

──
────
──────
【岡崎家】


「……まあ」

「全てが完璧な人なんていませんよ」

「どこかしら欠点があるからこそ、愛嬌も生まれるというものですよ」

のあ「……」

泰葉「楓さんもあるんですか? なにか苦手なこと」

「アイドルの活動で限らせて言わせていただけば、歌と踊りと人間関係ですね」

泰葉「(それって致命的では……)」

泰葉「……あ」

泰葉「得意不得意と言えば……お二人は確認しましたか? 『成績表』」

のあ「……?」

「成績表?」

泰葉「あれ、ご存じないですか?」

泰葉「麗さんと聖さんの指導を受けているアイドルに半期毎で渡される、いわば習熟度評価のような形で点数とアドバイスを記した紙ですね」

泰葉「以前までは中学生までの子を対象に、通信簿のような形で渡していたんですけど……」

泰葉「一部大人の要望もあり、結局全員に渡されるようになったんですよ。ホラ、こういうの」ピラッ

のあ「……そういえば……この間……」

「……渡された気がしないでも……」

のあ「……探してくるわ」スッ

「同じく」スッ

泰葉「(そういえば私も詳しくは目を通してなかった)」カサッ








━━━━5分後━━━━


「無駄に凝ってますね。ここの装丁とか特に」

泰葉「無駄とか言ったらダメですよ。これを百人分以上も製作してくれているんですよ?」

のあ「……じゃあ、見せあいっこしましょうか」

「何だか、小学生の終業式を思い出しますね♪ HRに渡されて、皆で比べて……」

泰葉「そうですね、ふふふっ」

のあ「フフ……」

「(あっ)」

泰葉「(少し、笑った……)」

96 : ☆2/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:31:30.80 A39YavOz0 37/227

~~~~~~~~~~
★Vo(ヴォーカル)

岡崎:7
高垣:5
高峯:8
~~~~~~~~~~


「の、のあさん良いじゃないですか!!」

泰葉「(わ、私より高い……!)」

のあ「(……)」ニヤ

「む~……、私はやっぱり低めですね。総評にも『声量や音程など、基礎からしっかり』と頂いてます」

泰葉「点数はたしか『3』が最低ですね。小さい子もいるので、1と2は意図的に付けてなかった気がします」

「病院の病室番号に、不吉な4や9を付けないのと同じですね」

泰葉「何故あえて不吉な例えをするんですか」





~~~~~~~~~~
★Da(ダンス)

岡崎:7
高垣:4
高峯:9
~~~~~~~~~~


「のあさん、すごい……!」

のあ「(…………)」ニヤニヤニヤ

泰葉「(ぐ、くっ……)」

泰葉「マ……まあ、全アイドル対象ですから明確な基準は無く曖昧で、あくまであの二人の目線の評価ですから」

泰葉「年齢層によって多少の誤差はありますよね」

「総評……『枯れ枝のような細腕細足は正視に耐えず。最低限筋肉・体力を付けるべし』……んー、太くなりすぎずですよね私の場合……」

のあ「総評……『体力・筋力共に問題なし、あとは柔軟性。技術の習得もめざましく、今後も邁進するように』

泰葉「楓さんは本当に、歌と踊りが苦手なんですね」

「うぅっ……、もう所属して1年……これでも結構頑張ってるつもりですが……」

97 : ☆3/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:32:48.28 A39YavOz0 38/227

~~~~~~~~~~
★Vi(ビジュアル)

岡崎:10
高垣:10
~~~~~~~~~~

「や、泰葉ちゃん!」

泰葉「か、楓さんっ!」


&泰葉「すごいじゃないですかっ!!」

泰葉「やっぱり楓さん、モデル経験者なだけありますね。流石と言いますか」

「いやぁ。ただカメラの映りやすい角度とか表情の出し方とかメリハリとか、付け焼刃の知識がたまたま功を奏しただけですよぉ♪」

「泰葉ちゃんこそ、子役モデルの経歴は伊達じゃないですね」

泰葉「いえいえ。演技力には多少の自信はありますが、それが歌や踊りにも活きるとは思いませんでしたよ」

「またまたぁ♪ 謙遜しちゃって♪」

泰葉「楓さんこそっ。ふ、ふふふっ……♪」


のあ「…………」


「…………のあさん?」

泰葉「ど、どうしたんですか? まんじりともせず固まって」

泰葉「あまり良くなかったですか?」

「最低の3………いいえ、もしくは存在しない2、1……」

泰葉「言い過ぎですよ!? あ、あの……」

泰葉「辛いなら、見せなくても大丈夫ですよ。ご飯の用意し───」

のあ「……」スッ

&泰葉「!」







高峯:○ 】






「」

泰葉「ま、マル……?」

のあ「……これは、なに?」

のあ「空欄? 測定不能?」

のあ「それとも、好評価の意味の○?」

のあ「……総評がないけど」

泰葉「え、ええっとぉ…………」

のあ「もしくは…………」

のあ「………… 0?」

「…」

泰葉「…に、睨まないで下さい」

のあ「……睨んでないけど」

──────
────
──

98 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:35:07.72 A39YavOz0 39/227

──
────
──────
【事務所 応接室】


卯月「あっ!」

卯月「未央ちゃん、そのキーホルダーって『ぴにゃこら太』ですか?」

未央「へへへーっ♪ この前、近くのゲームセンターで見つけちゃってさ?」

未央「弟が欲しいってせがんできたから、まあついでに2個取っちゃって」

卯月「わっ、ブニブニしてます」ブニブニ

卯月「可愛いなぁ……♪ これ、最近色々なグッズでてますよね?」

未央「ねー。正直私にはよくコイツの可愛さが分らないんだけど」

卯月「え、えぇぇっ! 可愛いですよっ!」

卯月「まあ確かに好みは分れるデザインだと思いますけど、綾瀬ちゃんとか、柚ちゃんとかも───」







のあ「(…………)」







━━━━夜━━━━
【岡崎家】



NwdhQKV




のあ「……」

「(……♪)」パクパク

泰葉「な……何ですか、この不気味なオブジェは」

泰葉「バッファローマン……!?」

泰葉「だ、ダメですよコレは………いくら寛容な皆さんでも、流石にドン引きされますよ」

のあ「……良い意味で?」

泰葉「どういう意味ですか!?」

泰葉「どれだけポジティブなんですか貴女は!?」

「(泰葉ちゃん、かつおぶし取って下さい)」

泰葉「(あ、ハイ)」

99 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:35:59.53 A39YavOz0 40/227

のあ「……ゆるキャラ」

泰葉「コレは違いますね、少なくとも」

のあ「……ぴにゃこら太」

泰葉「ええ。それは先日私が言いました」

のあ「……聞いてない」

泰葉「あれ……ご、ごめんなさい。事務所で流行ってるんですよ、俗にいう『ブサカワ系』ってやつですね」

のあ「……持ってない」

泰葉「うーん……こういうグッズってどこに売っているんだろ」

泰葉「キャラクター雑貨のお店を覗いてみたりとか、あとは……」

のあ「……ゲームセンター」

泰葉「(……!)」

「(泰葉ちゃん、おたふくソースとマヨネーズ取って下さい)」モグモグ

泰葉「(あ、ハイ)」






━━━━翌日━━━━
【ゲームセンター in クレーンゲーム】

のあ「……」

カチャコン
ウィィィン…

のあ「……っ」ドキドキ

───スカッ


のあ「…………」

のあ「……」ゴソゴソ

のあ「……」

カチャコン
ウィィィン…

のあ「……♪」

───スカッ


のあ「………………………………」







━━━1時間後━━━

店員「お客様、あの……困ります」

のあ「チ……ちがいまス……、そのっ、ワ、私は何も……っ」ビクビク

店員「ゲーム機の筐体を揺らしたら、先程のように警報が鳴るので」

のあ「アゥ……」

店員「手で押したり、叩いたりするのはお止め下さい。マナー違反ですので」

のあ「…………ハィ」

のあ「……」シュン

────
──

100 : ☆1/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:38:21.69 A39YavOz0 41/227

──
────
──────
━━━━早朝━━━━
【事務所 応接室】

───ガチャ

夏樹「おはようございまーす………ん?」



のあ「……!」



夏樹「あ……おはようございます」

のあ「……」チラッ

夏樹「…………」

のあ「…………」

夏樹「……っしょ、と」ドサッ

のあ「……」

のあ「…………」スススッ

夏樹「(遠ざかった)」

夏樹「(アタシ嫌われてんのかな。まあ、無言でいきなり隣に座るのもアレだったかな……)」

のあ「……」

夏樹「……」ペラッ

のあ「……」

のあ「……夏樹」ボソッ

夏樹「うわッ!!!」ビクッ

のあ「えっ?」

夏樹「あっ!! いや何でも……な、なんすか、高峯さん」

のあ「……この前のジュース、実に美味だったわ。魂を揺るがすほどに」

のあ「これ、お礼」スッ

夏樹「えっ、あ、あぁ……別にそんな…………あ、あざす」

のあ「プリン」

夏樹「(プリン……)」

───ドスン!


夏樹「(…………)」

夏樹「(えっ、デカッ!? これプリンなのか!?)」ズシッ!

夏樹「(お、重ェ……なにコレ……大仏のイラスト? 奈良?)」

のあ「……」

夏樹「……」

のあ「…………」

のあ「………食べないの?」

夏樹「えっ!?」

夏樹「や、その……この大きさだし、帰ってから堪能しようかなぁと」

のあ「……そう」

夏樹「は、はい。ありがとうゴザイマス」

のあ「…………」

夏樹「(……お、落ちこんだ?)」

101 : ☆2/2 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:41:38.03 A39YavOz0 42/227

のあ「……」スッ

夏樹「あれ、どうしたんすか?」

のあ「? もう帰るのだけれど」

夏樹「(まだ早朝なのに!? この人、まさかオフなのか………なんのために!?)」

夏樹「あっ。じゃあ、その……」ゴソゴソ

のあ「??」

夏樹「これ、要ります? ミンティア」

夏樹「今ウチら、このCMに起用されてて、事務所にノベルティ……タダで貰ったソレが余るほど置いてるんだよね」

のあ「……」

夏樹「お礼の、お礼………ってことで」

のあ「お礼のお礼?」

夏樹「うん。お礼のお礼」

のあ「じゃあ私も……今度お礼するわ」

夏樹「ハハハ……期待しないで待ってます」

のあ「……ふふ」

夏樹「!!」

夏樹「(この人の笑う声、初めて聴いたな)」

のあ「………頂くわ」

のあ「……ありがとう。早速賞味するわ」ガチャ

夏樹「はい。お疲れサマです」

───スタスタ


のあ「(夏樹ちゃん……)」

のあ「(……やっぱり、良い子だわ♪)」カサカサカサカサッ

のあ「(……♪)」パクッ

のあ「(………)」バリバリバリッ、ボリボリボリッボリボリッッ!!!












━━━1分後━━━
【事務所 トイレ】


のあ「カッ、かはッ……あっ、ぁ゛っ……、ヴッ! ガフッ、ふっ、ひっ……」ガクガク

のあ「えっ、え、……おぇええっ!!」

のあ「うぐっっ、ウッ、あぅ、う、は、ハウウゥ……!!」プルプル

のあ「(こ、呼吸が、出来ないっ……!)」ヒュー

のあ「(気持ち悪い……、く、口の中に湿布を投げ込まれたかのよう……!!)」ヒューヒュー

のあ「ウ、ウウゥ……っ」

のあ「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥゥゥゥゥゥゥ…………!!」

のあ「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~~~~~~…………っっっっっ(慟哭)」

──────
────
──

102 : ☆① ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:43:33.32 A39YavOz0 43/227

──
────
──────
【楽屋】


夏樹「フー……」

李衣菜「あと30分っ!」

夏樹「さぁ、今日もクールに、アツく盛り上げてこーぜ。だりー」

夏樹「ひっさびさのLIVEバトル。もちろん、初っ端から全開だろ?」

李衣菜「おうっ! 今日の私は一味違うんだから!」

李衣菜「なんたって、LIVEバトルの相手があのロック is ロック……!」

李衣菜「高峯のあさんだからね!」

夏樹「お。気圧されてると思ったら……」

李衣菜「まさかぁ。一回吐いたら緊張も吹っ飛んだよ」

夏樹「(吐いたのかよ……)」

李衣菜「私たちの方が、ランクもキャリアもなにもかも上なんだよ? 確かに、あの人は本当にカッコイイし、すごい人だと思うけど」

夏樹「……」

李衣菜「感情の読み取りにくい美貌と、鮮やかな銀の髪をなびかせる、類まれなる容姿の持ち主。その端麗な容姿を活かして広告媒体・雑誌モデルでの仕事を中心に、いわゆるモデルアイドル方面での活動を行う人物で……」

李衣菜「悠然として、その刺すように冷たい視線はやはり寡黙の女王の通り名に恥じぬ気品と凄味があって、でも時折覗かせる悲しい表情はどこか慈愛を漂わせ私達の心を擽りつつ優しく包むような……」

李衣菜「かと思えばロックの魂もちゃっかり持ち合わせる、才色兼備というか多芸多才というか、ケーパビリティ溢れる人で……」

李衣菜「なんかもう、こっちがバントのサインだしてるのに気付かないであっさりホームラン打っちゃいそうな、予測不能のユーモラスさとロックな行動力がもう堪らなく最っ高に……」ドキドキ

夏樹「だ、だりーさん?」

李衣菜「つまりとてつもないLoooooooooock!!! な、人なんだよなつきちィ!!」

夏樹「(Lock……?)」

夏樹「わ、分かった分かった。分かったから涎拭けよ」スッ

李衣菜「ウン」

104 : ☆② ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/13 23:44:21.85 A39YavOz0 44/227


夏樹「じゃあ、まだ少し時間もあるし」

夏樹「よし。高峯さんの演出の補助の復習でもしとくか」

李衣菜「うん、わかった!」ゴシゴシ

李衣菜「えっと……私達のパフォーマンスが終わったら、一通り繋ぎの口上を言ったあと、会場のスポットが落ちて……」

夏樹「で、その後は私達がステージ後方に下がって────」








━━━━その頃━━━━
【楽屋】


P「───では、確認しておきましょうか」

のあ「……ええ」

P「高峯さんの出番は、『ロック・ザ・ビート』夏樹と李衣菜の直後です」

P「今回のLIVEバトルで、高峯さんはワイヤーアクションでパフォーマンスを行います。フライングとも呼ばれていますね」

P「実はこの事務所でも、最近何度か同じ演出を行ったことがあります。『自称・天使』輿水幸子、『みんなの太陽』上田鈴帆、あと……」

のあ「…………」

P「ああ、そうだ。確か『深黒の堕天使』蘭子もそうでした」

のあ「ええ。早速会話のネタにするわ」

P「えっ?」

のあ「イ……いえ、何でも」

129 : ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 01:07:16.76 HUsxZy8W0 45/227

━━━━━━━━━━

P「会場が暗転したあと、李衣菜の口上の合図で……」

P「闇を切り取る月明かりのように、スポットに照らされた高峯さんが荘厳に歌いだしながら、メインステージにゆっくり降りてくる感じですね」

P「演出としては単調なパターンですが、分かりやすく注目され、盛り上がる」

のあ「……」ボー

P「設備の関係で、今回は2本吊りのワイヤーを使用します」

P「リハーサルで体験したのでご存じだと思いますが、あまり激しい動きはできません」

P「しかし安全面も保証されていますのでご安心を。滞空時間は20秒程ですので。今回は天井もそれほど高くはありませんし」

のあ「……」ボー

P「ですので……、まあ……、万が一にも有り得ませんが」

P「……高強度のポリエチレン繊維のワイヤーがいきなりばつんと切れたり、または高峯さんが空中で逆上がりとかを始めたりしない限り、怪我や事故はまず起こらないでしょう」

P「無論、こちらも万全を期して最終チェックは念入りに行いますので」

のあ「……」ボー

P「上半身をハーネスで固めているので、ロープが空中で絡むということもほぼありません。もし絡んだ場合は、担当責任者の判断で予定より早めに下すかウィンチで引き上げます」

P「さらに、仮にワイヤーが首や体に絡まったとしても、以前説明したように締め付けられない特殊な構造になっています。窒息などの心配はないので、ご安心ください」

のあ「……」ボー

P「ステージには夏樹と李衣菜が後方に下がっています。着地位置はこっそりバミってるので、床に付いたら高峯さんはそのままライブを続けてください」

P「あとはその二人が高峯さんのハーネスを外して、舞台袖にフェードアウトします」

のあ「……」ボー

P「高峯さん、ここまでは大丈夫ですか?」

のあ「……っ! エ、ええ」

P「まあ、リハーサル通りにやれば問題ないです」

のあ「リハーサル通りね」

━━━━━━━━━━

105 : ☆③ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:00:50.39 tN+Mrb0C0 46/227


P「……あっ、そうだ。あとですね?」

P「ステージ上部の吹き抜けでスタッフが待機しているので、直前にそこへ移動して貰います」

P「今回はそこに手伝いとして、事務所の───」









━━━20分後━━━
【上部スペース】


のあ「……!」




「ん……!」

卯月「あっ」

未央「おぉ!」

のあ「手伝い………あの人が言っていたのは、貴女達の事かしら」

未央「お疲れ様です、高峯さんっ!」

卯月「高峯さん、お疲れ様です。いよいよ本番ですねっ!」

未央「はーっ……! なんだか神秘的な衣装ですね、うわーっ……!」キラキラ

「うん、確かに」

「なんか高峯さんがハーネス付けると、SFの戦闘サイボーグみたいな───」

グリッ!


「(───いッ……?!)」

「(………えっ? ちょっと未央、足踏んでるよ、私の)」

未央「(しぶりん、余計なこと言わないでいいから)」

「(あ、うん。分かった)」

のあ「……?」

106 : ※5秒でわかるハーネス講座 - 2016/11/14 00:04:08.56 tN+Mrb0C0 47/227


J9x38WZ


107 : ☆④ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:05:57.98 tN+Mrb0C0 48/227


未央「でも、2回目のライブでいきなりワイヤーアクションって……」

「派手でいいと思う。うん、高峯さんらしい」

のあ「……私、らしい?」

「ん、……うん」

「(……?)」

のあ「……続けて」

「う、うん」

「大胆不敵ってカンジで、似合ってます」

「こういう時って普通はみんな、もっと控えめに行くんだけど……」

「あえて派手な演出で対抗するところが、高峯さんらしいというか」

のあ「……そうかしら」

のあ「……詳しく、聞かせて頂戴」

「あ、う……えっと……」

未央「(ウッ……)」

「高峯さん。お、怒ってますか?」

のあ「? ………いいえ」

未央「(そうなのか……)」

「えーっと……」

「……芸能界とかって、よく段階や場数を踏めとか、序列や順序を弁えろとか言われるでしょ」

のあ「……そうね」

「実際、こういうLIVEバトルも、ランクやレベルがあまりに違いすぎると高い方は勝手に批判されたり、逆に低い方はややこしい変なウワサが流れたりする」

「だから、普通は『新人は控えて、先輩を立てる』ってのが自然の形。暗黙の了解になってる」

のあ「……」

108 : ☆⑤ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:07:33.25 tN+Mrb0C0 49/227


「でも私は……実力がある人には、それ相応の場が用意されて然るべきだと思うんだ。機会に恵まれず大成出来ない子だっているわけだし」

「………言い方が悪かったら、すみません」

「高峯さんって実際、私達三人と比べたらランクが5も6も下なワケだけど」

「でも、みんな噂してる」

卯月「(……)」

「高峯のあは、すごい人だって。歌も踊りも完璧で……容姿も顔立ちも、そこらのモデルなんて安っぽく思えてしまうほどに整ってる」

「これは直感だけど………私も、どれをとっても貴女には勝てる気がしない。正直」

のあ「…………」

「今回のLIVEバトルの相手は夏樹と李衣菜の二人」

「この二人も最近いろんなCMとかに出て、実力は確かだしセンスもある、コンビネーションも抜群。高峯さんよりもランクが上だけど……」

「貴女なら……高峯さんなら、すごい演技で圧倒できそうな気がするよ」

「だから、まだ2回目のライブにしては浮くくらい派手な演出だけど、貴女なら納得できる。それと確信できる」

「無名の新人が、ややこしい序列や暗黙の了解なんて有無を言わさないぐらい鮮烈なパフォーマンスで、会場を一気に貴女の色に染め上げる結果が」

のあ「………」

のあ「…………凛」

のあ「……優劣や数値化は、無意味な詮索よ」

のあ「人間の可能性や価値は、表層の虚飾のみでは測れない」

のあ「………私に掴むことは、まだ到底不可能だわ。感性豊かに煌めき揺れ動く、星のような人々の心を」

「…………」

「(……未央、未央! やっぱり高峯さんってアンドロイドっぽくない? 物言いが!!)」キラキラ

未央「(しぶりん静かに!!!)」バチーン!

卯月「(……)」

109 : ☆⑥ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:09:23.91 tN+Mrb0C0 50/227




スタッフ「10分前でーす、各自周囲のチェックお願いしまーす」



未央「お、そろそろだねぇ」

のあ「……」

「高峯さん。緊張してたりとか………は無用な心配、か」

のあ「してるわ」

未央「えっ」

「えっ」

卯月「えっ」

のあ「……えっ?」

未央「いや、その……高峯さんでも、こういう舞台だと緊張するんですね」

「……もしかして、人間?」

ギュッ!


「(ぁ痛ッ!!)」

未央「じ、じゃあアレですよ! 掛け声っ!」

未央「気合を入れる時って、やっぱり掛け声が基本ですよねっ! 好きな食べ物なんてどうですか?」

のあ「……好きな、食べ物?」

「そ、そうだね。じゃあ私達がよく使ってる『フライド、チキーン↓』なんてどうですか?」

未央「なんで『↓』!? 抑揚は↑に上げようよ!!!」

「いやだって、今回はワイヤーで下に降りるわけだし」

未央「いやそうだけども!! それ運動の方向なの!?」

のあ「……フフッ」

未央&「!?」

のあ「……良いものね。ユニットとは」

卯月「高峯さん……?」

のあ「私も貴女達、ニュージェネレーターズのように同じ目線で感覚を共有できる、信頼に足る『仲間』が欲しかった」

「ジェネ」

グリッ!


「高峯さん……」グリッ!

未央「(痛ァッ!?)」

卯月「……」

110 : ☆⑦ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:10:49.21 tN+Mrb0C0 51/227


のあ「フライドチキン」

のあ「『飛べ、臆病者』………私に相応しい掛け声だわ」

「あ。いや……その」

未央「べ、別に高峯さんが緊張してるから臆病だとか、そういう皮肉じゃ……」

卯月「高峯さん………お、怒ってます?」

のあ「いいえ」

のあ「怒っているように見えるかしら」

卯月「!!」

卯月「い、いえ、そのっ……!」

のあ「……いいわ」

卯月「…………っ」

のあ「……貴女達が羨ましい」

「羨ましい?」

のあ「……私は、笑顔は得意ではないわ」

卯月「(!!)」

のあ「周囲に、明るい笑顔で応じられない。堅い表情で語り掛ける事しか出来ない偶像」

のあ「麗の言うように、歌や踊りに感情を添える技術もない」

のあ「ファンとの距離はもとより……」

のあ「……事務所の皆から『機械』と揶揄されても、それは受け入れるべき評価」

「あっ……」

のあ「畏怖されるのも必然。疎まれ、嘲笑れても仕方ないかもしれない」

のあ「けれど」

のあ「………けれど、私も貴女達と同じ“人間”であり、“アイドル”よ」

のあ「常に葛藤し、自らを問い続ける」

のあ「魂の、心の、意志の生き物なの」

のあ「……」

111 : ☆⑧ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:11:23.31 tN+Mrb0C0 52/227


「…………」

未央「……高峯さん」

のあ「未央」

未央「えっ!? は、ハイ!!」

のあ「貴女の爛漫で元気な振る舞いに、太陽のように眩く輝きを放つ魂に……、いつも惹かれていた」

のあ「羽のように軽やかで鮮やかな踊りは、私の舞には無い自由さが有った」

未央「い、いやぁ……そんなそんな……え、えへへ」

未央「(な、なんだろ。この人に言われると、すごい嬉しい……)」

のあ「凛」

のあ「貴女の真っ直ぐな姿勢に、冷たさの中に熱い意志が灯るその瞳に……、いつも魅了されていた」

のあ「凛として毅然とした歌唱には、私の声には無い心揺さぶる芯が有った」

「……そんな風に、初めて言われたよ」

「(まあ、悪い気はしないけど)」

のあ「卯月」

卯月「……はい」

のあ「……貴女の笑顔に、いつも憧れていた」

のあ「明るくて可愛らしくて、周囲に幸せを分け与えるような……」

のあ「優しい貴女の人柄を余すことなく描いたその微笑みが」

のあ「………本当に、羨ましかった」

卯月「…………」

112 : ☆⑨ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:12:34.82 tN+Mrb0C0 53/227


のあ「凛。貴女は先程、私に勝てないと言っていたけれど」

のあ「……そんなことは断じてないわ」

のあ「貴女達3人は私と違う」

卯月「(……)」

のあ「共に支えあい、笑いあい、協力できる仲間がいる」

のあ「その団結が何者にも勝るかけがえのない力になる。3人が一緒ならば、どこまでも羽ばたける」

のあ「貴女達は既に、私という存在を遥かに凌駕している。ただ自分の可能性に気づいていないだけ」

のあ「自信を持ち、胸を張りなさい。眼に視える事象だけが、この世の全てではないわ」

のあ「…………」

未央「……」

「……」

卯月「………………」

のあ「…………」

のあ「そろそろ、時間よ」



スタッフ「5分前です。高峯さん、確認お願いします」



未央「……あッ!」

「忘れてたっ………、た、高峯さん、ワイヤー絡まってないですか?」

卯月「……っ」




卯月「た、高峯さんっっ!!」




未央「しまむー?」

のあ「……?」

113 : ☆⑩ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:14:19.03 tN+Mrb0C0 54/227


のあ「……なに?」

卯月「あのっ……こ、このライブが終わったら……」

卯月「無事に終わったら……っ!」

のあ「…………」

卯月「……もっと、もっと笑顔の練習をしましょう!」

のあ「(……!)」

卯月「高峯さんっ、私、頑張ります!」

卯月「貴女がにっこりと優しく、自然な笑顔が作れるようになるまで……!」

のあ「…………」

卯月「私……貴女の事を、本気で応援したくなりました。でもまだ、貴女の事を良く知りません」

卯月「完璧と称されて、機械のように無機質な表情だから内心も掴めず……」

卯月「ただただ、遠い存在とばかり思っていました。だから、いつも事務所で見かけても話しかけず、少し距離を置いてしまっていたかもしれません」

未央「(……)」

「(……)」

卯月「他の人だって、きっとそう。貴女の事を、もしかすると勘違いしている人もいるかもしれない」

卯月「……そんな高峯さんが、私たちは同じアイドルだと言ってくれて、私たちの事を褒めてくれた」

卯月「高峯さん………私たち、なにも違いませんよ?」

卯月「私たち、仲間じゃないですか!」

のあ「……」

卯月「楽しいときは幸せな気持ちを一緒に味わうことが出来て、苦しいときは辛い気持ちを分かち合うことも出来る」

卯月「私たち、同じ事務所の仲間じゃないですかっ………だから、その…………っ!」

卯月「これから、一緒に頑張りましょう!!」

のあ「…………」

のあ「……………………」




のあ「……ええ」

のあ「楽しみにしているわ」

のあ「すごく」




卯月「!!」

卯月「は、ハイっ!!」パアァ

114 : ☆⑪ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:15:01.73 tN+Mrb0C0 55/227


未央「あっ、しまむーだけずるい!!」

未央「じゃあ今度またみんなでボウリングに行きましょうよ、高峯さん!」

未央「打ち上げも兼ねて。前の約束、覚えてくれてますか?」

のあ「……当然よ。今度こそパーフェクトを獲って見せる」

のあ「また、楓も共に……」

未央「ハイッ、是非♪ 今度こそ、いろいろお話聞かせてくださいっ♪」

のあ「……」

のあ「……今はまだ私では力が及ばないかもしれない。頂には手が届かないかもしれない」

のあ「でも必ず、いつか貴女達と同じ地平に立って、共に歩み、笑いあえる日を目指して……」

のあ「まず、私に為すべき使命は……、今日というライブを全力で臨む事」

のあ「……応援、任せるわ」

卯月「はいっ!!」

未央「モチロンっ! まずは観客に『高峯のあ、降臨』ってトコ、ばばっと見せてやっちゃって下さいっ!」

卯月「高峯さん、頑張って下さいっ!!」

のあ「ええ」

のあ「…………フフッ」















「だ、だから高峯さんッ!! ワイヤー絡まってないですか、って!?」

「貴女の足元と首に、すっごい絡まってますって!!!」



スタッフ「高峯さん、一端バックしてください!! 安全装置を確認します!!!」










のあ「えっ?」



───ツルッ





のあ「 ぁ゛ っ゛ 」


未央&卯月「!!!?」

115 : ☆⑫ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:16:25.45 tN+Mrb0C0 56/227


───ヨロヨロ…

のあ「ぁっ、ぇっ、ああっ」


ヨロッ…



ヒュン!!






のあ「うわああああぁーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」







卯月「た、高峯さあああぁぁぁんっっ!!!」



「高峯さん、ホラあれっ!!」








のあ「あああぁっ! よ、吉野家ぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!」








「よし、掛け声バッチリ……」フー



未央「バッチリじゃないよ!!! 高峯さーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!」



スタッフ「あ、あぁぁ………お、落ちた……っ」







━━━━その頃━━━━
【メインステージ】


ワアアアァァァァァァ……!!
───パチパチパチパチパチパチ……


夏樹&李衣菜『ありがとうございましたーーーーーーっっ!!』


李衣菜『いやぁー、どうでしたか!? 私たちのこのド派手でロックな演出はぁ!?』

李衣菜『花火がブワーって、パイロがボバーッと、煙がじゃんじゃん出て、もう最ッ高にロックなカンジで……!』

李衣菜『もう圧巻だったよね!!! こりゃあ客席から観てみたいよ』

夏樹『あーもう……余韻もへったくれもねえな、だりー』

夏樹『まあアタシ達は割とホットな演出だったけど、次の人はクールに決めてくれるぜ!』

李衣菜『おおっ! じゃあ早速……!』

116 : ☆⑬ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:19:27.63 tN+Mrb0C0 57/227

夏樹『驚・天・動・地ッ!』

李衣菜『超・絶・冷・凍ッ!!』


夏樹『さあっ、お次は高峯のあのお出ましだっ!!』

李衣菜『噂の新人、その美声と美技に酔いしれろーーっ!!』


ワァァァァァ……!!

……!!

…!?





シーン…





ざわ…



夏樹「(……?)」

李衣菜「(……あれ?)」

李衣菜「(会場真っ暗で、スポットライトが当たってるのに……高峯さん?)」

夏樹「(オカシイな、そろそろ歌い始め…………)」

夏樹「 ぁ っ 」

李衣菜「あ……、あぁぁ………………っ」



ざわ……

 ざわ…… ざわ……

ざわ…… ざわ…… ざわ……











のあ「」









のあ「」プラーン…

のあ「」ギギギギ…




夏樹「」

李衣菜「」

観客1「し、死んでる!?」

観客2「た……、高峯のあがワイヤーで首を吊って死んでいる!!!」

観客3「あ、あぁぁ……!!」

117 : ☆⑭ ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:21:03.88 tN+Mrb0C0 58/227

ザワザワザワザワ…

李衣菜「あ、あぁっ……ひいっ……!」プルプル

李衣菜「こ、コナン君呼んでこなきゃ……」プルプル

夏樹「ま、マズイ!! 下せ!!! 早く下せ!!!!」

夏樹「こ、こりゃあ───」




観客K「待って!! みんな落ち着いて、アレは違うわ!!!」

観客1「!!!」

夏樹「(───!?)」

観客K「あれこそ……神聖すら醸し出す高峯さんの、究極のパフォーマンスに他ならないわ!!」

観客3「な、なにィ……!?」

観客S「……」パシャパシャ

観客M「あぁ、なんて神々しいっ………、さながら、人々の罪を一身に受け入れる、キリストの磔刑のよう……!」

観客M「やめましょう……。彼女は訴えているの、こんな争いは無益だと……怨嗟と悲歎の螺旋は、自分の犠牲を最後に全て断ち切ると……」

観客1「やはり……!」

観客2「そ、そうだったのか……!」

観客3「美しい……美しすぎる!!」

オオオオオオオオォォォ…………!!

───パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……

パチパチパチパチパチパチパチパチパチ……!!


夏樹「ば、馬鹿……! そ、そんなわけ…………!」

李衣菜「うぅぅ……っ、ぐすっ…………」

李衣菜「ろ、ろっく……、首吊って登場とか、し、信じられないくらい、ロックだぁ……っ」

李衣菜「神だよぉなつきちぃぃ……、今まさに、ロックの神が舞い降りようとしているよぉっ……」ポロポロ

夏樹「だ、だりー、そんなワケ…………」


夏樹「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そ、そーなのか……??」








のあ「(た、たすけて…………、こ、こわい………………っ…………)」プラーン








━━━━━━━━━━


スタッフ「そうだったのか……」

「やっぱり、ただものじゃあないね」

未央「……そだね」

卯月「…………」

【ライブは夏樹のフォローで無事成功しました】
────
──

118 : ☆1/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:22:04.26 tN+Mrb0C0 59/227

──
────
──────
【岡崎家】


「(……♪)」モグモグ

泰葉「仕事の誘いを、蹴った?」

のあ「……」

泰葉「高峯さんにしては珍しいですね。どんな仕事ですか?」

のあ「『鋼鉄公演』」

のあ「の、準主役」

泰葉「(今後開催のLIVEツアーかな?)」

のあ「心もたぬ、機械の役を」

泰葉「(あっ)」

泰葉「…………その、あの……」

泰葉「やっぱり、まだ気にしてたんですね」

のあ「……あの人の驚嘆の表情が、まだ焼き付いている」

のあ「……本当に、悪いことをしたわ」

泰葉「……」

「(泰葉ちゃん、福神漬取って下さい)」

泰葉「(あ、ハイ)」

のあ「…………」

泰葉「……」

のあ「……でも」

のあ「最近、感じた。機械と揶揄されても……」

のあ「それは恥ずべきことでも、中傷でもない」

のあ「……個性として、受け入れる宿命ではないのかしら」

泰葉「高峯さん……」

のあ「機械でも、サイボーグでも、ボーカロイドでも……」

のあ「ターミネーターでも、ロボコップでも、モビルスーツでも、人造人間でも、レプリロイドでも、スナッチャーでも、メタルギアでも、可変戦闘機でも、アクエリオンでも、武装神姫でも、グレンラガンでも、アーマードトルーパーでも、霊子甲冑でも、アナライザーでも、キングジョーでも、ドロイドでも、オーラバトラーでも、草薙素子でも、iDOLでも、ゴエモンインパクトでも……」

泰葉「そんなに言われてるんですか!?」

のあ「……盛った。1割」

泰葉「ですよね! ……いっ……!?」

「(泰葉ちゃん、おかわり下さい)」

泰葉「(あ、ハイ)」

119 : ☆2/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:22:51.60 tN+Mrb0C0 60/227


のあ「……囁かれている間は、まだ私にも華があるということ」

泰葉「……!」

のあ「受け入れるわ」

泰葉「でも、嫌なんですよね?」

のあ「いいえ。抵抗はあったけれど……」

のあ「皆が、それは私の魅力というのならば、私も変わるべきだと考える」

のあ「変化を受容していくことも、一つの強さではないかしら」

泰葉「高峯さん。貴女は……」

泰葉「……とても、優しい人なんですね」

のあ「そうかしら」

泰葉「はい。私はそう思います」


pppppp……!!



のあ&泰葉「!!」

「(……!)」モグモグ

泰葉「電話、ですね。こんな時間に珍しい」

のあ「あの人からだわ」

泰葉「プロデューサーさんから?」

泰葉「ひょっとして、その断った仕事に関してじゃないですか?」

のあ「……」

泰葉「出ても良いですよ。聞かれたくないのなら、席を外しましょうか」

「電話が鳴っているなら、電話急げと言いますしね」

泰葉「言いません」

のあ「…………」

pppppppppppppp……!!!


泰葉「あれ、出ないんですか?」

のあ「………………」

のあ「………………泰葉が出て」

泰葉「い、いやいやいや!!」

「(泰葉ちゃん、ラッキョウ取って下さい)」

泰葉「(あ、ハイ)」

のあ「……」ピッ

のあ「……」

P『もしもし、高峯さんですか?』

のあ「……ええ」

120 : ☆3/3 ◆AL0FHjcNlc - 2016/11/14 00:26:21.29 tN+Mrb0C0 61/227

P『遅くにすみません。今大丈夫ですか?』

のあ「……鋼鉄公演の話」

のあ「………悪かったわ」

P『!!』

P『……高峯さん、謝らないで下さい。アイドルがプロデューサーに対して謝ることなんてないですから』

P『むしろ悪いのは俺の方です。LIVEバトルの件も、少し活動を急いでしまって、貴女に負担をかけたかもしれないと』

P『……すみません』

のあ「いいえ。平気よ」

のあ「……でも、少し戸惑った」

P『……』

のあ「誉望の喝采を浴びるのは、無機質な私では不相応」

のあ「光で満ち溢れた舞台の上で、私より強く輝ける適任者がいる………そう思った」

のあ「プロとしての意識が、欠けていたのかもしれない」

P『そんなこと……!』

のあ「そんなことはない、と貴方は考えているのね」

P『……っ!』

のあ「私が知らない答えを貴方が示すというのなら、私が知らない世界に貴方が導くというのなら」

のあ「……信じるわ」

のあ「………だって、貴方の言葉だから」

P『高峯さん……』

泰葉「(……うん)」

「(……)」モグモグ

P『……ありがとうございます。その、俺……』

のあ「切るわ」

P『えっ?』

泰葉「えっ?」

ピッ!



のあ「オエエエエェェェっ……!!」ビチャビチャ




泰葉「何でですか!?」ガタッ!

のあ「イ、いや……、フグッ…、その、オ、男の人から急に電話とか……っ」

のあ「もう、き、緊張して……ウッ」

泰葉「思春期の女子中学生ですか貴女は!? 今何歳ですか!?」

のあ「に、24……」

「オエエエエェェ……」ダバー

泰葉「だから何でですか!!?」

「ソ、その……ゲロ食べてる時にカレーはキツいです……ぅっ」

泰葉「逆ですよ逆!! もぉー……」

のあ&「ご、ゴメンナサイ……」

──────
────
──

☆前半、おわり

121 : ※鋼鉄公演 - 2016/11/14 00:27:01.34 tN+Mrb0C0 62/227


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高峯のあ「牛丼並……4つでいいかしら?」【中編】


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